Patrick's Parabox

【ぱとりっくす ぱらぼっくす】

ジャンル パズル
対応機種 Windows(Steam)
Nintendo Switch
プレイステーション4
発売・開発元 Patrick Traynor(Draknek)
発売日 【Steam】2022年3月30日
【Switch/PS4】2023年7月27日
定価 【Steam】2,300円(税込み)
【Switch】2,800円
【PS4】2,860円
プレイ人数 1人
レーティング IARC 3+
判定 良作
ポイント 箱の中に箱があるというユニークな特徴を持つ倉庫番系パズル
非常に親切丁寧な作りになっており、幅広いユーザーが楽しめる

概要

基本ルールは概ね倉庫番に準じる「箱を押して所定の位置へ運ぶ」というだけのシンプルなパズルゲームだが、その箱の内外にプレーヤーや箱が出入りできるギミックを取り入れたユニークな作品。
発売前からIndependent Games Festival2020やIndieCade2019において賞を受けるなど注目を受けており、その注目に見合った完成度でユーザーからの高評価をも獲得した。

本項は筆者がプレイしたプラットフォームに基づき、Switch版での執筆となる。 他プラットフォームに関して特記事項があれば編集されたい。

特徴・システム

概ね倉庫番と同様のゲーム内容だが、若干の独自ルールもある。
「ユニークな再帰的システムを採用」と紹介されているように、この要素が大きなポイントとなっている。
再帰処理とは「自分自身を呼び出す処理」のこと。

基本ルール

  • ステージクリア型のパズルゲーム。
    • 「プレーヤーが押すことができない壁」と「プレーヤーが押すことができる箱」が存在しており、「所定の白枠全てに箱を配置(*1)したうえで、プレーヤーがゴール地点に乗る」ことでステージクリアとなる。
    • 箱は押すのみで引くことはできないというのは倉庫番と同様だが、一般的な倉庫番と異なり2つ以上の箱をまとめて押すことができる。
  • 各ステージはいくつかのセクションに区切られており、セクションによって定められた数のステージをクリアすると次のセクションが解放される。

再帰的システム

本作の最も特徴的な要素。

  • 一部の箱には溝が彫り込まれていることがあり、この箱を壁または移動不能な状態の箱に押し付けると、その溝の中に箱やプレーヤーが侵入する。
    • 箱によっては溝の面積の方が広いものや、「箱全体が溝でできている」というものもある。
    • ちなみに、進入可能な箱どうしを押し当てた場合、「プレーヤーが直接押して動かした箱が、押し当てられた箱の中へ侵入する」という優先順位になる。
    • 箱を配置しなければならない白枠は、これらのような「箱の中」に描かれていることもある。
■■自■■
■■箱■■ 自・・・プレーヤー
■①□□■ ①・・・目標地点の白枠
■■■■■

例えば上のような配置の場合、通常の倉庫番であれば箱を①へ動かすことは不可能である。
しかし本作では、その箱が侵入可能なものであれば、上から箱を1マス押して内部へ侵入し、箱の中を通って右へ抜ければ箱を①まで押すことができる。

  • 上記を踏まえたうえで、少しステージを進行すると今度は今表示されているステージの縮図が描かれた箱が登場する。
    その箱の中には小さなプレーヤーがおり、ステージを歩けば箱の中の小さなプレーヤーも同じ位置へ移動する。
    そして、ステージの右側に開いている穴からステージ外に出るとステージの縮図が描かれた箱の右に、箱からプレーヤーが出てくる
    • 当然、ステージの出口から箱を出せばステージの縮図が描かれた箱の隣から出てくるし、逆にステージの縮図が描かれた箱に押し込まれたものは、同じ方向のステージ外からニュルッと出てくる。
      • つまりこの箱とステージは自己相似の関係であり、ステージによっては無限ループやフラクタル構造になっているものもある。
    • もちろん、ステージの縮図が描かれた箱も箱には違いないため、押して動かすことができる。
      • そして、「箱に表示されているステージ」からその箱自身をステージ外に押し出してしまうと、自己相似が崩壊して宇宙空間のような場所に出てしまう。
        この宇宙空間にプレーヤーも出てしまった場合は詰みとなる(さきほどまで自分が入っていたステージは∞マークがついた箱に置き換わり、再侵入できなくなる)。
  • これ以外にも多くのギミックが用意されているが、特にこのような「箱の中に箱がある」という構造は本作において基本とも言える仕様である。
  • これらの仕様や挙動は文字で説明されてもすぐには分かりにくいかも知れないので、気になったらSteamのページを参照してみると良い。
    プレイ動画が再生され、どういったゲームなのかが30秒で理解できる。

評価点

ルール自体の独創性

  • 箱の中へ出入りできる、箱の内外に箱を出し入れできる、再帰システムにより箱の出入り口とステージの出入り口がループしている、などの仕様は、それ自体はシンプルで分かりやすいにもかかわらず非常に応用性が高く、新しいステージに進むたびに新しい発見が楽しめる。

ライトユーザーへの手厚い配慮

  • このゲームは、難しくしようと思えばいくらでも難しくできるゲームである。
    が、本作は各セクションのチュートリアルが非常に丁寧にできており、各セクションの序盤ステージは行ける場所・動かせる箱が限られているため、「これくらいしかできることがない」ということを試してみると新ギミックの仕様を理解しつつクリアできるようになっている。
    このようなチュートリアルに近い内容のステージが各セクションに1つだけでなく複数配置されているため、このセクションでどのようなことができるのかをしっかり理解したフェアな状態で応用ステージに挑むことができる。
  • 次セクションの開放条件は一定数のステージをクリアすることだが、後半ステージほどその要求数は少なくなっており、半数以下のステージクリアで次へ進めるセクションもある。
    そのため、難関セクションがクリアできず先へ進めないという事態に陥ることが少なく、パズルゲームが苦手であっても難関ステージをどんどん無視してエンディングまでたどり着くことができる。
    • さらに、それでもどうしても先へ進めない人向けに、オプションで「全パズルのアンロック」が利用できる。
      これはゲーム中いつでもオンオフできる(*2)ので、ある程度気軽に使用できる。

上級者への挑戦状

  • 一方、とことん頭を使いたい人向けの難関ステージも豊富に用意されている。
    ステージ総数は350以上あり、コスパ・ボリューム面でも大いに評価できる。
    • ステージ構成やギミックの複雑さで難易度が増しているステージがあるのは当然だが、一風変わったものとして「視覚的な難しさ」を付与してくるステージもある。
      • 一例として、あるステージでは壁やブロック、プレーヤーの色がグラデーション変化する。
        もちろん変わるのは色だけであってステージ構造自体に際立った難しさはないが、さっきまで青だったブロックがオレンジに、ピンクにと次々に変色していくというだけで脳が混乱してくる。
      • 「壁やブロック、プレーヤーなどが全て文字記号(「#」や「1」「2」など)に置き換わる」という変わり種ステージまで存在する。
      • また、上記のようなステージ固有のギミックとは別に、「色のランダム化」「向きのランダム化(ステージや箱の配置が90度ないし180度回転)」、「ビジュアル表現の変更(上述したように、ステージを記号化させられる)」「音楽のランダム化」がオプションとして備わっている。

良質なユーザビリティ

  • ライトユーザー向け・ヘビーユーザー向け双方へのオプション機能が利用できるのは上述の通りだが、その他のオプション機能も充実している。
    グリッド線のオンオフ、箱の出入りのスピード、0.01秒刻みの再入力遅延設定(簡単に言えば移動キーを長押しした時の移動間隔)、プレーヤーについた目の動きのオンオフ設定…等等。
    ユーザーの好みに応じてゲームスピードや邪魔だと感じるエフェクトを調整できるため、ゲームの仕様や演出に関するストレスを感じにくい。
  • 令和時代ともなれば倉庫番系のゲームには「一手戻し」「リセット」は無い方が珍しいが、本作にも当然実装済み。
    一手戻し、リセットのどちらもワンボタンで可能で、一手戻しは長押しにも対応している。
    • また、本作のリセットは「ステージ配置を初期状態に戻す一手」として扱われているため、その後に一手戻しを使えば「リセットする前の進行状態」にまで戻すことが可能。
      攻略に使えるのはもちろん、誤ってリセットしてしまった時でも安心。
  • セーブファイルを4つまで作ることができる。
    令和時代においてはゲームはアカウントと紐づけされセーブデータは1つのみというゲームも珍しくないため、地味だが嬉しい要素。
    • セーブ自体は自動で行われるため、セーブファイルは読み込みと削除のみ可能。

満足感を得られる数々のクリア特典

  • インディーズゲーム、ましてやパズルゲームともなれば、クリア後には簡素なエンディングが流れるのみで終わることは少なくない。
    しかし本作はクリア後の特典が非常に充実している。
+ プレイする予定のある方はクリア後の閲覧を推奨
  • けっこうな数の追加ステージが解禁される。
    上級者向けの高難度ステージだけでなく、これまでのセクションの延長のような新ギミックを取り入れた追加セクションもある。
  • ギャラリーでは開発中に使われた手書きの資料、完成品とはゲームジャンルからして異なる初期の草案、開発中の配信動画のスクリーンショットや開発中に起きた面白いバグの画像など、他ではあまり見られないような画像を閲覧できる。
    • ごく僅かではあるが、ゲーム開発初期バージョンで遊べるステージも用意されている。
      ゲーム内容・ルールは完成品と相違ないが、視点が固定されていた完成品とは異なり初期バージョンでは視点がプレーヤー中心に追従するようになっているなどUI関係での相違点が多く、ゲーム開発において様々な苦労があって徐々に洗練されていったことがうかがえるものとなっている。
  • 他にも、クリア済みのステージがブロックサイズに縮小されて浮かぶ空間を自由に動き回るだけのお遊びモードや、全セクションが一か所にまとまった移動専用部屋なども解禁され、オールクリアした時の満足感が大きい。

賛否両論点

  • 全体的にステージは狭めに作られている。
    これにより、プレーヤーが取れる行動の選択肢も自動的にある程度狭められているため、複雑な構成のステージであっても「これがダメならこうすれば行けそうだ」というふうに試行錯誤を繰り返せばクリアに近づいていくことができ、そうでなかった場合も偶然正解手を見つけた時に「なるほどそういうことだったのか」という閃きが得られてスッキリできることが多い。
    • 一方、複雑なギミックが入り組む終盤ステージでは、偶然正解手にたどり着いた時に「どうしてそうなるのか」が理解できないままとりあえずクリアとなることもある。
      • ブロックが記号に置き換わったステージではそれが顕著で、何をどうしたらどうなるのかが理解しにくく、適当にブロックを動かして詰んだら戻す、ということを繰り返しているうちになんとなくクリアできた、ということになりやすい。
      • この点は消化不良感に繋がる可能性はあるが、理解が難しい複雑なステージでも試行錯誤次第でなんとかクリアできる余地を残しているということでもあり、理解不能イコールクリア不能という実質的な詰み状態を回避することにもつながっていると言える。
  • ポーズメニューに「ヒント」という項目があるが、これはそのステージの解法に関するヒントではなく、
    「解けないと思ったら後回しにして、後からやり直すとうまくいくかもしれません」
    「パズルが解けた時の完成図を想像して、そこから逆算して手順を考えてみましょう」といった、
    このゲーム(倉庫番系パズル全般)に対する心構えのようなものとなっている。
    • これ自体は全くもってその通りなことであり、散々悩みまくったステージが数十分後に試してみたら「なんでこんなことに気が付かなかったのか」と思うほどあっさりクリアできることが少なくない。
      しかし、ヒントというからにはクリアに直接繋がる手順が教えてもらえるに違いないと期待すると裏切られてしまう。

問題点

  • Switchの携帯モードでプレーした際、音量のマスターボリュームが小さめ。
    • 設定でBGM音量・SE音量を個別に調整できるが、双方をMAXにしても他のゲームと比較して音量が控え目。
    • オプションの音量を最大にしたうえでSwitch本体の音量も最大にしても、そこそこの音量にしかならない。

総評

Steam版の評価コメントでは、同じく倉庫番系インディーズゲームの話題作「Baba Is You」と比較するものが多いが、その面白さや独創性、ボリュームはそれと比肩しつつも間口は極限まで広く作られている。
「解ける人だけ頑張ってください」という作風になりがちなステージクリア型パズルゲームというジャンルにありながら徹底的に親切な設計とステージ構成により、パズルゲームが得意ではない人にも閃く快感が味わえる作品となっている。
価格もお手頃でコスパも非常に良く、空き時間で気軽に遊びたいという人から頭を使って悩みまくりたい人まで幅広く満足できるだろう。

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最終更新:2023年12月08日 08:34

*1 箱を全て使うとは限らず、箱が余るステージもある

*2 アンロックを使って先のセクションに進んだ状態でアンロックをオフにすると、正規にクリアしたセクションまで戻される