【ニライカうどん食道紀③ ディープ・スポット ~ムカナラ製麺所~】

たかだか数回の掲載でこんなことを言うのもなんだが、我々も偉くなったもんである。
H島「おっさんどしたんな」
O木「ちょっと色々あって舞い上がっとんですよ」
あれは忘れもしない鉄月に入ったばかりの頃。
H島「忘れ……覚えとるぞ!」
O木「せやから言うたやないですか舞い上がっとるーって」
支局のパソコン宛に送られてきたメールを見て私はひっくり返った。
H島「えらいこっちゃでO木くん、この世の終わりや。遺書書いたほうがえんとちゃうか?」
O木「とうの昔に書いてますわ。下手したらゲート閉じるかもしれません」
お前らー!!他人の原稿にチャチャ入れんなー!!

えー、ともかく。
なんとうちの探訪記を読んでうどんが食いたくなったという理由で
はるかマセバから蟲人がこのニライカに単身訪ねてきたのである。


件のメールが届いたのはゲート祭進行が終わりと恒例のフヌケモードも終わってまたいつも通りの日々が戻ってきた頃の話である。
なんと無しに開いたメールにただ一文、

「うどん、たべたい」

と書いてあった。
軽い気持ちで返信したらあれよあれよと言ううちに食べに行きたい、案内を頼みたい、いつなら空いているか?とどんどん押してくるのだ。
求められれば答えるのが情報産業に携わる者の勤めと自負する私は万象繰り合わせて軽い気持ちでその日を迎えたわけだが…

牛「のーO木ー、この人どこの人やっ けー?」
O木「そこからですか!?」
なんたるちあサンタルチア、あまりに舞い上がりすぎて相手のことを何も聞いてなかったのだ。
O木「それでよく情報産業とか言えますね」
牛「細かいこと気にしよったら大人になれんぞ」
我々はいつも通り、なんとなくその場に合わせる作戦を取って待ち合わせ場所の交易船の船着き場に現れた。

O木「でもほんまどうするんですか」
牛「安心したまえO木くん、まず今まで送られてきたメールを総合すると答えは簡単や」
O木「何ですか」
牛「相手はヒトである」
O木「なるほど、確かにヒトやなかったらメールはできませんからね」
牛「次に指がある」
O木「確かに。指なかったらメールは打てませんね」
牛「そして最後に口がある」
O木「うどんが食いたいと言った以上、飯を食う口があるわけですね」
牛「これらの推理を纏めるとメールの送り主は自然に絞られるな」
O木「つまりその送り主とは?」
牛「この船着き場にいる人全員がその可能性を…」
O木「おっさんおっさん!」

船着き場を見渡せば、まばらにいる人は魚人、鱗人、蟲人……蟲人?
いくら近代化が進んだとはいえニライカは田舎である。
このあたりでミズハの外から来たのはナガモリの大将とO木と自分ぐらい。
となるとあの蟲人がメールの主なのか?
いやいや先入観でモノを言うのは情報産業に携わるもんとしていかがなものか。
牛「とりあえず様子見よ」
O木「あ、手振ってますよ」
牛「こっちに振っとるとも限らんやろ」
O木「なんやうどん食べるジェスチャーしだしましたよ」
牛「そういう宗教かもしれん」
O木「かばん漁って…あ、スケッチブック出てきた」
牛「絵描きかもしれん」
O木「文字書いてますね」
牛「ヒッチハイカーかもしれん」
O木「書き終わったみたいですね」
牛「どれどれ」
次の瞬間、いらん方向で遊んどった予想は一気に現実に引き戻された。
蟲人がこっちに向けたスケッチブックにはデカデカと

『うどんのおっさんですか?』

と書かれとったのである。
牛「ワシの認識はどないなっとんねん!」
O木「そのまんまやと思います」

先方は蟻人であった。
マセバのネットでどういうわけかこのニライカ探訪記が取り上げられて
興味をそそられたので…という理由だったようだ。
しかしわざわざこんな片田舎にまでご苦労さまです、と聞けば
蟻人ことSNHRなんとか氏はしばしためらったあとに
「いやーワテどっちか言うたら情報収集端末ですねん。気になることあったら出向かな気ぃすみませんねん」
と、返してきた。
もうどこからツッコんだらいいのか。
O木「訛りも勉強したんですか?」
SNHR「ええ。門の向こうのサヌキベン語言うのが近いて聞きましてん。だからあっち知り合いに頼んで色々本送ってもらいましてん」
SNHR氏ー、絶対変なもん吹き込まれとるぞー。

さて一見さんとなれば出来るかぎりディープなとこに案内するのが麺通団から脈々と続く我らの礼儀。
そして今回紹介するムカナラ製麺所である。
名前からお分かりいただけるとおり、普通の製麺所型うどん屋だが、まず見た目からしてインパクトがある。
船着き場から行政府のある中心部を抜けジュイチ街道をひたすら西に進んでキト川の手前でハンザ山方面に曲がる。
このあたりまでくるとほとんど田んぼとまばらに住居があるばかりだ。
よもやこんなとこにうどん屋があるとは思うまい。
SNHR氏の反応も然り。だんだんそわそわしている。
だがしかしバッド、ニライカのうどん力をなめてはいけない。
土手沿いの民家に入るだけの袋小路に曲がったあたりでついにSNHR氏がしびれを切らした。
SNHR「あのー、ほんまにうどん屋ありましてん?この先、行き止まりですねん」
牛「ふっふっふ、あなどったらあきませんよー」
我々は竜車を降りてなすがままキュウリがパパ状態のSNHR氏を連れて一番奥のほったて小屋に入った。

SNHR「あのー…ほんまにここでうどん食えますねん?」
牛「おっちゃーん、やってるー?」
おっちゃん「やってるでー」
SNHR「いやそんなことで……い、いーーーーー!?」
O木「おお、新喜劇リアクション」
ほったて小屋の中は普通に製麺所だ。
さすがのSNHR氏もびっくりしたご様子。してやったりである!
O木「なにを勝ち誇っとんですか」
牛「ええやんけ」
おっちゃん「どうすんな?」
牛「大二つと小一つで」
ちなみにここは製麺の脇でうどんを出してるだけなのでメニューはかけしかない。
こういった製麺所型うどん屋はニライカにも香川にも結構あったりする。
さてうどんをもらって外に出て表の椅子に座り、早速いただく。

ここのうどんはいつ来ても安定している。
ほどよいコシとスルスル入るうどんと魚介の透き通ったダシはいち押しだ。
H島のおっさん曰く二日酔いでもここのうどんだけはズルズルいけるとか。
見ればSNHR氏は一口ごとに複眼の色がコロコロ変わっとる。
まぁウロコが落ちんだけマシか。
O木「蟲人ですがな」
よっぽど気にいったのかSNHR氏は小を平らげ次に大をチョイス。
うむ、連れてきてよかったなぁ。
その後にナガモリとカキタに連れてったらこれまた気にいったらしい。
船着き場での別れ際、また来ますねんまた来ますねんと連呼していた。
牛「あーええことしたなー」
O木「ほんでも今日のことどういう風にネットに書かれるんですかねー」
牛「そら次来たときに聞いたらええやんか」

と思とったら…
SNHR「支局長ー、ここの校正なんですけどー」
牛「適当にしといてー…てなんでいてんねん!」
O木「なんかマセバ側から正式に調べてこいって言われたそうです」
もーいい感じにシメたのにー。慣れんことするもんとちゃうなー。

店舗情報
ムカナラ製麺所
営業時間 不定休
値段 かけ 大  120円 小  80円

  • 気がついたらうどん屋をやってたらしい。おっちゃんもいつごろ始めたか忘れている。
  • 基本的に製麺所のついでなので無理を言ってはいけない。
  • 土手の上で開けた景色を眺めながらのうどんは無形文化財に推奨したい。
  • そばの畑にネギが植えてあるが母屋の方のは奥さんの家庭菜園なので取っちゃダメだぞ。

  • 目に見えるコッテコテのやり取りと展開が種族の壁を越えて楽しい雰囲気だ。製麺所付きうどん屋らしいメニューと値段設定に頷きつつもそばの畑に育てているネギをセルフでとって刻んでうどんにどうぞというサービスはどうだろうかと考えてしまった -- (としあき) 2013-08-30 23:07:01
  • 牧歌的だけど空想で終わらずにしっかり経営できそうな形に持っていっているのがすごい。辺鄙な製麺所に蟲人客が押し寄せてくる? -- (とっしー) 2013-09-14 21:34:39
  • 異世界でも上手い料理が作れるのなら生活できるんだなーと。腕に自信があれば地球よりやりがいがあるかも -- (名無しさん) 2014-02-06 23:35:18
  • 雰囲気吉本。特に印象深かったのが蟲人のコミュニケーションに対するどん欲さ。シンプルな製造元直食スタイルに思わず唾をのむ -- (名無しさん) 2014-08-15 03:17:31
  • この清々しいほどの分かりやすさとノリは感心すら覚えるほどです。うどん力とか一言で笑ってしまう語句が散りばめられていてテンポよく読めました。異世界のうどんはでんぷんとかどうなんでしょうか少し甘味だったりとか -- (名無しさん) 2017-03-22 07:30:09
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最終更新:2013年08月30日 03:45