自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

212 外伝36

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tapper

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45 :外伝:2009/04/23(木) 21:27:48 ID:p7nj.31.0
それはかつては森の女神と呼ばれていた存在だった。
緑の髪と緑の肌、この世のものならぬ美貌と完璧なプロポーションを備えた優美な姿は女神と呼
ぶに相応しい。
体から生やした触手がジュルジュルとのたくる様は流石に引くが。
まだ生まれたばかりの人類がひ弱な存在であった頃、人々は彼女を崇め、彼女は自分を敬う者達
に森の恵みを分け与えた。
やがて魔法の力を手に入れた人間達が増長し、その生活圏が彼女の聖域を犯すようになると、彼
女は一転して森の妖物、忌むべきものと見なされるようになった。
自然と彼女も人間との交流を忌避するようになったが、精霊を敬う風習を残す辺境の人々との間
では、辛うじて友好的な関係が保たれていた。
だがそれもシホールアンル帝国が領土拡大に乗り出した時点で破綻する。
北大陸を制圧したシホールアンル帝国が強引な占領政策を押し進め、各地に工場や軍事施設を建
設する過程で、彼女の同族のうちあるものは森ごと焼き払われ、あるものは捕えられ実験材料と
して生きたまま切り刻まれた。
レバントの森に住む彼女は、北大陸ではもう数えるほどしかいない千年以上を生きた個体である。
いま彼女は自分のテリトリーに侵入してきた一人のシホールアンル兵を追っていた。
相手は幻惑系の魔法を使用しているらしくその気配を捉えることは難しいが、森の木々や草花の
全てが自分の目となり耳となる彼女を完全に欺くことは出来ない。
さすがに軍隊が相手では抗しようもないが、一人だけならたとえ高位の魔道士であっても森の中
で戦う限り遅れを取るつもりはなかった。
敵の気配を追って狭い谷底に降り立った彼女は、森の声に耳を澄まそうとして-
右肩から血のように赤い体液と緑の肉片が飛び散り眼前を覆う。
付根から吹き飛んだ右腕が、くるくると回りながら地面に落ちるのを見て、彼女は悲鳴をあげた。
相手が魔道士ならば、魔法を放つ前に魔力の溜めを察知することが出来る。
だが今度の敵は攻撃の予兆が全く読めなかった。
右肩の傷口から水鉄砲のように体液を噴出させ、苦痛に喘ぐ彼女に向って蛍光オレンジの光弾が
飛来する。
光弾は彼女の豊満な胸の谷間に拳大の穴を穿ち、パイナップルをフライパンで炒めるような、甘
く香ばしい匂いが谷底に立ち込める。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!」
彼女は絶叫した。
体内に収納していた触手を全て出し、周囲の藪にむかって闇雲に紫色の光線を撃ち込む。
光線を浴びた地面は黒く変色し、異臭を放つ煙が立ち上る。
煙の向こうから続けざまに飛来した光弾は彼女の左足首を撃ち抜き、右膝を砕き、脇腹を抉り、
左目を貫通した。
彼女は為す術もなく撃ちまくられ、被弾の衝撃で死の舞踏を踊る。

46 :外伝:2009/04/23(木) 21:28:32 ID:p7nj.31.0
シホールアンル軍少尉コシラ・シバルデは標的が倒れたのを見て、針葉樹の生い茂った南斜面の
隠れ場所から這い出すと谷底に降りていった。
少尉の手には実用化されたばかりの魔道小銃が握られていた。
細長い銃身の中ほどまでを被う木製の握り。
金属製の機関部の下側には魔法石を納めた箱型の弾倉が突き出し、ピストルグリップと一体化し
た銃床には重量軽減のための肉抜き穴があけられている。
どう見てもドラグノフです本当にありがとうございました。
これは主任設計技師の名をとってイガルヘマンⅠ型と呼ばれている銃で、この銃を装備している
兵士はまだ僅かしかいない。
イガルヘマンⅠ型は歩兵が携行できるサイズの魔道銃という要求を満たしはしているものの、そ
の構造は複雑で大量生産には不向きだった。
さらに良好な作動状態を保つためには頻繁に分解整備をせねばならず、扱う兵士に高い熟練が求
められた。
こうした事情からシホールアンル軍はより生産性と実用性を高めた主力魔道銃の開発を継続する
一方、イガルヘマンⅠ型を限定正式兵器とし、専門の訓練を積んだ兵士を魔道小銃射手として各
歩兵小隊に数人ずつ配備して急場を凌ぐこととした。
そして軍団直轄の特殊作戦部隊に所属するシバルデは新兵器の実戦テストを兼ね敵戦線後方での
遊撃戦を行うためにレバントの森に分け入ったのだった。
シバルデはカモフラージュネットに小枝を挟み込んだ森林用偽装服のフードを外すと、足元に倒
れ伏した獲物を見下ろした。
美しい女性の姿をした植物は、グラマラスな肢体のいたるところに弾痕を穿たれた無残な姿で地
面に横たわっている。
「キ…サマ……」
彼女は左半分に柘榴のような傷口を晒す、それでも美しい顔に悪鬼の表情を浮かべ、唯一無傷で
残った左腕を伸ばしてシバルデの身体に爪を立てようとする。
シバルデは彼女を蹴り飛ばし、切り替えスイッチをフルオートにセットすると魔道小銃を腰溜め
に構える。
一切の感情を排したガラス玉のような瞳で獲物を見据え、人間の皮を被った戦闘機械の几帳面さ
でシバルデは人外の美女をバラバラに引き裂いた。
人間より遥かに長い寿命と死ににくい体を持つ彼女も不死ではない。
彼女が完全に絶命したことを確認したシバルデは、フードを被りなおすと踵を返して斜面を上が
っていく。
その輪郭はたちまちのうちに周囲の風景に溶け込み、シバルデの姿は霧か霞のように森の中に消
えた。
その後シバルデはモンタナ出身の狙撃兵トーマス・ベケット上級曹長に倒されるまでに83人の
アメリカ兵を射殺し、「レバントの森の悪魔」と呼ばれることになる。
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