自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

075 第66話 新鋭艦の主

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第66話 新鋭艦の主

1483年(1943年)5月31日 午後8時 シホールアンル帝国首都ウェルバンル

リリスティ・モルクンレル中将は、29日昼頃に艦隊を帰還させた後、1時間後に海軍総司令部に呼ばれ、
作戦の経過報告や、説明を行った。
30日も海軍総司令部に出頭して、昨日に引き続いて海軍上層部と話し合いを行った。
だが、この30日の話し合いは、リリスティにとって不快な物であった。
そして31日。リリスティは、皇帝のオールフェスに呼び付けられた。

リリスティは、宮殿内にある応接室で、オールフェスが来るのを待っていた。
彼女は、オールフェスが来るまで貰った広報紙に見入っていた。

「・・・・・・ふぅ。」

彼女はため息を吐いた。その表情には、少し呆れたといった思いが滲んでいる。
その時、応接室のドアが開かれた。

「リリスティ姉、待たせてすまねえな。」

オールフェスが、苦笑しながら入室してきた。

「いや、いいのよ。待つのは当然よ。あなたはこの国の王で、あたしは王に仕える、ただの一提督だもの。」

リリスティのジョークにオールフェスは更に苦笑しつつ、リリスティの反対側のソファーに座った。

「オールフェス、この広報紙なんだけど。」

彼女は、持っていた広報紙をオールフェスに渡した。

彼はそれを手に取りながら、

「なんだ、これの事か。」

と事も無げに言う。だが、リリスティの口調がいきなりきついものになった。

「これの事か、で片付けていいの?あたし達が体験した事と、違う内容が書かれている。これは、あんたの指示?」

彼女はいつになく、厳しい口調でオールフェスに聞いた。

「いや、俺の指示じゃねえよ。俺はとりあえず、結果は伝えとけと言ったんだが、どうも国内省の奴らが
途中であれこれ指示したんだろう。」

と、彼はリリスティが渡した広報紙を、ぼんやりとした目付きで見ていた。
広報紙に書かれていた内容は、一連のアリューシャン作戦の内容がほとんどであった。
その最初の見出しには、

「我が精鋭艦隊、アメリカ軍根拠地を殲滅!!」

と言った言葉大きく掲げられ、ワイバーンの爆撃で爆沈するアメリカ戦艦の絵が描かれていた。
最初の部分は、ウラナスカ島のダッチハーバー攻撃に関する部分で、この部分は事実、その通りであったからまだいい。
だが、リリスティが気に入らないのは後半部分である。
後半部分は、これまた激しい海戦模様の絵が書かれており、絵には燃えるアメリカ軍空母と飛び抜けるワイバーンが
勇ましく描かれていた。
その絵の上には、

「追撃せるアメリカ機動部隊及び、敵航空部隊を撃退!」

と威勢の良い文字が書かれている。

内容は、撤退中の味方艦隊が、待ち伏せていた敵空母機動部隊並びに航空部隊の空襲を受けたが、逆に艦隊は
耐え抜き、反撃で敵の新型正規空母並びに小型空母を大破させ、敵艦隊や航空部隊を蹴散らした、とあった。
しかし、アリューシャンで実際に見て来たリリスティは、この広報紙の内容が現実と違っていると思った。

「ねえオールフェス。あたしをここに呼んだのは、あんたもアリューシャンで起こった出来事を、あたしから
直に聞きたいからでしょう?」
「そうだよ。」

彼は即答した。

「実際に聞いたほうが、俺も勉強になる。なあリリスティ姉。あのアリューシャンの戦いは、リリスティ姉から
見たらどう思った?」
「・・・・言いにくいんだけど・・・・」

リリスティは表情を引き締め、頭の中で話を整理してから、オールフェスに言い始める。

「最初のほうはあたし達の勝ち。後半はあたし達の負け、というとこかも。」
「どうして後半は負けなんだ?」
「正直言って、事前情報と実際の現状が違いすぎた事ね。まず1つめ、小規模ながらも存在した、敵の機動部隊ね。」

リリスティは右手の人差し指を立てた。

「レンフェラルからの情報では、アリューシャン方面には小型の空母しかいなかったとあった。でも、攻撃直前に
入手した情報では、アメリカはアリューシャン方面に駐留する艦隊とは、全く別の艦隊を派遣していた。その艦隊
こそ、後半戦であたし達に挑んできた敵の機動部隊ね。」
「敵の空母部隊には、新型空母がいたようだな?」
「いたね。噂のエセックス級が。」

リリスティは大きく頷く。彼女の顔にやや赤みが増した。

「今思えば、惜しい事をしたと思う。目の前には、敵の新鋭空母が、僅かな護衛しか付けていない。対するあたし達は
何隻もの竜母で固める大艦隊。せめて、あと一撃加えられる時間があれば、エセックス級や小型空母を沈める事が
出来たんだけど、あの時の状況からして無理だったね。」

そう言ってから、リリスティは中指を立てる。

「2つめの違いは、アメリカ軍がアムチトカにも飛行場を建設していた事。アメリカ軍は機動部隊とキスカ、
アムチトカから攻撃隊を出してきた。第1波がキスカ、第2波がアムチトカ、空母機動部隊の混同編隊だったけど、
それだけでも300機は下らなかったと思う。」
「艦隊は、竜母に大分被害が集中してたな。幸いにも、大破相当の被害を受けた艦が、沈没した駆逐艦を除いて無かった事だな。」
「ええ、それぞれの艦の被害は思いのほか少なかった。だけど、キスカ、アムチトカの航空部隊が、正確に何機の
飛空挺を有しているか判然としなかった。あたしはあの時考えた。敵航空基地の航空部隊は少ないか、それとも多いか。」
「リリスティ姉は、どう考えたんだ?」
「あの時は、敵航空基地の飛空挺は、まだ多いと考えたね。カレアントやミスリアルに展開するアメリカ軍機は、
各航空基地に300機前後の飛空挺を常駐させているわ。アメリカと言う国は、全ての事をぬかりなくやろうとしている。
そんな国が、キスカやアムチトカにも、ほぼ同数の飛空挺を配備していた事は、間違いないわね。」
「そうなると、あそこで無理していたら危なかった訳か。」
「恐らくそうね。たった半日で、ワイバーンが100騎近くも無くなる戦いよ?あの状態で敵の更なる空襲に耐え切れた
筈は無い。貴重な竜母を何隻か失っていたかもしれない。」
「そうだったのか。リリスティ姉、良い判断だぜ。」

オールフェスは微笑みながら、リリスティにそう言った。

「ありがとう、と言いたい所だけど、昨日はお偉方に色々言われちゃって、少し困ったわ。」

彼女は紫色の長髪を手でいじりながら、不満げな口調でぼやく。

「どんな事言われたんだ?」
「今回の作戦は消極的だったんじゃないか?作戦を立案しといて、さっさと逃げ出すのは何事かとか、色々批判されたよ。」

リリスティの顔つきが少し怖くなって来た。オールフェスは彼女が怒っているなと、この時確信した。

「まあ、あたしは貴重な竜母を失わなかったからそれで充分。作戦は成功したって、何度も言ったんだけど、
あの石頭連中ときたら、不充分、不充分と繰り返すだけで何も分かりやしない!」

最後に、リリスティはテーブルを叩いて叫んだ。一瞬、オールフェスはびっくりした。

「あ・・・ごめんね、驚かすつもりは無かったんだけど。」
「ああ、まあいいよ。それにしても、リリスティ姉の口ぶりからすると、しつこく言われたんだな?」
「ええ。それも、ネチネチとね。あいつら、あたしが若いから作戦上の批判から、あたしに対する不満まで言ってやがった。
表に引きずり出してぶっ飛ばしてやろうかと思ったわ!」
「やらないで良かったじゃねえか。我慢するだけ、得はするもんさ。」

オールフェスは声を上げて笑った。
リリスティは、中尉時代に評判の酷かった中佐を表に引きずり出してぶちのめしてしまった事がある。
原因は、その中年の中佐が、彼女に肉体関係を迫ったからだそうだが、激怒した彼女が外でその少佐を叩きのめし、
挙句の果てには池に放り込んでしまった。
その後、リリスティの行動を巡って賛否両論が沸き起こった。
結局はその少佐を一時停職処分及び、2年減給する事で片が付いている。(リリスティ本人は投獄を望んでいた)
ちなみに、その少佐とは、レアルタ島沖海戦で戦死したウルバ・ポンクレル中将である。
このように、彼女にはこういう前科がある事から、軍内部ではやや恐れられている存在でもある。
元々、喧嘩っ早い性格なのだが、長い間軍に勤めていたお陰で彼女は心身共に成長し、今ではそれも影を潜めている。
しかし、昨日の会議では、言いたい放題の上官達に、危うく爆発寸前になったようだ。
「私も忍耐強くなったのよ。まあ、お偉方が言いたいのも分かるわ。自分でこうしようと言っておいて、実際には
損失を恐れて逃げ出したんだもの。」
「まあ、そう言うなよ。作戦自体は中途半端だったとしても、アリューシャン方面の根拠地は壊滅し、シホールアンル海軍の
力を示してやった。僻地とはいえ、自国そのものを攻撃されたアメリカは、兵力をアリューシャンに回さないといけなくなる。
その分、アメリカの増援兵力は減ってくれる。作戦は成功と言ってもいいよ。」
「成功・・・・ね。」

リリスティは、乾いた笑みを浮かべながら、そう呟いた。

「そうかもしれれないね。少なくとも、ダッチハーバーの回復には最低でも4ヶ月か、半年近くはかかるかもね。
それに、傷付けた空母も、1、2ヶ月程度は前線に出て来られないから、全体的な勝ち点はあたし達が上ね。」
「そうだよ。今後は、帰還した竜母部隊の戦力補充、それに、新戦力も加えてから訓練に励んでもらうよ。
アメリカの空母部隊を打ち破るには、これから登場する新兵器を用いた、新しい戦法に熟知しないといけない。」
「分かってるわ。きっちりしごき上げてやるから。」

リリスティは爽やかな笑顔でオールフェスに返事する。

「頼りにしてるぜ、リリスティ姉。」

オールフェスも笑顔で返し、互いに握手を交わす。

「とりあえず、海軍上層部の連中が言う事は、なるべく気にするな。大事な部分だけ聞いておけばいいよ。」
「ええ、分かったわ。」

リリスティはそう返したが、笑顔の中に、陰りが見えた。

「・・・・・せめて、竜母があと2隻いれば・・・・・」

彼女の小さい声が、オールフェスの耳に入って来たが、彼はその事を聞かなかった事にして、次の話題に移っていった。

1483年(1943年)6月2日 午後6時 アメリカ合衆国ニューヨーク州

この日、リューエンリ・アイツベルン大佐はニューヨークの海軍基地内にある海軍病院を訪れていた。
服装はカーキ色の軍服を着ており、手元には果物を携えている。
彼は、病院に行く途中、近くの商店で見舞い用の果物を購入し、それをベッドで悶々としているであろう親友に渡そうと思っていた。

「全く、ドジな奴だな。猫を追い回した末に、階段から落ちて足を折るとは。」

リューエンリはぶつぶつ言いながら、病院に入った。
やがて、教えられた病室に辿り着いた。彼は、コンコンと、2度ノックした。

「はい!」

中から聞き覚えのある声が聞こえた。リューエンリはドアを開けて、室内に入った。

「よお、リュー!久しぶりじゃないか!」
「ブルース。意外に元気そうだな。」

ベッドで、左足を吊りながら本を読んでいたブルース・メイヤー大佐は、リューエンリに顔を向けてからそう言う。
2人は満面の笑みを浮かべながら、久方ぶりの再会に喜んでいた。
ブルース・メイヤー大佐は、開戦時は重巡洋艦ウィチタの艦長としてリューエンリと共に第23任務部隊に所属していた。
開戦のきっかけとなった11月12日の海戦では、リューエンリのセント・ルイスと共に敵艦隊と交戦している。
リューエンリが、太平洋に派遣される第5戦艦戦隊の参謀長に引っ張られた後も、ブルースはウィチタの艦長を務め続け、
第2次バゼット半島沖海戦やその後の支援作戦に参加していた。
今年の4月に、ブルースは6月下旬に竣工予定の巡洋戦艦アラスカの艦長に任ぜられた。
竣工までカウントダウンに入った新鋭艦の艦長に任ぜられた事で、ブルースは飛び上がらんばかりに喜んだ。
その矢先に、今回の珍事が起きたのである。

「10ヶ月ぶりだな。君と出会うのは。知らせを聞いた時は正直驚いたぞ。ちなみに、これは土産だ。」

リューエンリは、ベッドの側にある小さなテーブルに、バスケットに入った果物を置いた。

「わざわざ済まんな。こんな物まで買わしてしまって。」
「なあに、気にするな。親友の見舞いに、手ぶらじゃ申し訳ないからな。」
「ああ、君の心遣いに感謝するよ。まあ立ったままでも何だし、そこに座れよ。」

ブルースはベッドの左側にある椅子を指差した。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。」

リューエンリはそう言って、椅子に座った。

「しかし、君も災難だな。いきなり大怪我して、病院送りになるとは。」
「ははは、面目ないよ。猫ごときを追い回すのに、階段を転げ落ちるとは思わんかったよ。お陰で、左足骨折で全治3ヶ月だ。」

ブルースは苦笑しながら、吊った左足を右手でさすった。
左足はギプスで固められており、巻かれた包帯が、左足をより痛々しく見せた。

「階段から落ちなければ、6月24日のアラスカ竣工式に出られたんだがなあ・・・・全く、情けない限りさ。」
「まさか、君がアラスカの艦長だとは思わなかったよ。その君が事故で負傷して、俺に艦長の椅子が巡ってくるとはなぁ・・・・」

リューエンリは、どこか申し訳なさそうな表情で言った。

「どうも、親友の座る椅子を蹴飛ばしたような気がするよ。」
「まあリュー。そう暗くなるなよ。君の実績があったからこそ、アラスカの艦長に選ばれたんじゃねえか。
そこはそこで喜ぶべきだ。それにな、アラスカの艦長に、おまえを是非にと、頼み込んだ奴がいるんだぜ?」
「何ぃ?そいつは誰だい?」

リューエンリは怪訝な表情を浮かべて、ブルースに問う。そのブルースが、親指を自分の顔に向けた。

「俺だよ。」
「君か。俺を是非にと言った奴は。」
「この病院に入った時、もしアラスカを他の艦長に任せるとしたら、真っ先にお前が浮かび上がったんだ。お前は俺より
上手いからな。船の扱い方も、部下の扱い方も。だから俺はお前を是非にと、強く推したんだ。」

リューエンリは2週間前、戦艦ワシントン艦上で突然、巡洋戦艦アラスカ艦長就任の辞令を受け取った。
この事で、リューエンリは正式に第5戦艦戦隊参謀長から、アラスカ艦長に任命されたのだが、突然の事態に彼は戸惑った。
とりあえず、リューエンリはリー少将を始めとする戦隊司令部のスタッフに見送られつつ、戦艦ワシントンから退艦し、
まずはワシントンDCにある海軍省を訪ねて詳しい事情を聞いた。
その後、リューエンリは休暇を与えられ、彼は久しぶりにノーフォークの家族と再会して一時の平和を楽しんだ。
そして今日、カムデンのニューヨーク造船所で建造中のアラスカを視察した後、病院に足を運んだのである。

「なるほど。海軍省の奴らは、俺が推された理由をあまり話さなかったが。」
「そうなのか。全く、事務屋共は面倒な事はすぐに省きやがる。とにかく、アラスカをよろしく頼むぞ。お前のアラスカだ。
存分に暴れてくれ。」
「ああ、期待に沿うよう、こっちも頑張るさ。」
「ところで、家族には会って来たか?」
「会ったよ。この間、休暇をもらったから久しぶりに里帰りしたよ。父と母、それに兄貴も相変わらず元気だったな。
妹3人のうち、1人はアムチトカに出張中でいなかったが、残る2人に色々手柄話を話させられたよ。あいつら、帰ってきた
俺を見るなり、なんと言ったと思う?もう可愛い服は着られなくなったね、と抜かしやがった。」
「そういえば、お前、少年時代はよく、妹連中に女装させられたと言ってたな。」
「昔は海軍という組織の存在すら知らん、気弱な子供だったからな。頼み事されたら断り切れん俺の癖を悪用して、色々
着せられて写真に取られまくったよ。で、この間、久しぶりにアルバムを見せられたから、鳥肌が立ちまくったぞ。」

リューエンリはそう言いながら、身を震わせる。どうやら、昔の嫌な思い出が頭の中に浮かんだらしい。

「栄えある巡洋戦艦の艦長が、昔は女装していたなんて、あまり知られたくないものだね。」
「そんな女の子もどきの奴でも、気が付けば戦隊参謀を務め、新鋭艦の艦長になったものだから、家族は驚いて
いたんじゃないか?」

「驚いていたなあ。特に妹共が驚いていた。今度乗せてちょうだいとまで言われたよ。」
「いいじゃないか。機会を作って乗せてやれよ。」

そう言ってから、ブルースはリューエンリの肩を叩いた。

「アラスカはいい船だ。生産性を重視したにもかかわらず、良いのは内面ばかりじゃなく、いつの間にか外見も
良くなってるからな。その美しさに家族も目を奪われるだろうよ。」
「機会が出来たら、考えとくさ。」

そう言って、2人は微笑んだ。

「しかし、アリューシャン方面はこの間、シホット共にきつい一撃を食らわされてしまったな。」

ブルースは、話題を切り替えた。

「まさか、いきなりダッチハーバーが空襲されるとは、意外だったよ。」

リューエンリも頷く。

「ダッチハーバーの軍港機能は維持できるようだけど、2波の空襲で180機以上の航空機がやられて、戦艦のネヴァダや
護衛空母等を失っている。2波の空襲のみでこれだから、第3、第4波の空襲があったら、文字通り潰滅していただろう。」
「後半のアムチトカ島沖海戦も危なかっただろう。現状でさえ、フランクリンやプリンストンが中破しているのに、敵の竜母に
余裕があれば、機動部隊が壊滅する所か、アリューシャンの各基地は虱潰しにやられていた。去年のうちに敵の竜母を多く沈め
ていたお陰で、敵は余裕が無くて撤退したから良かったが・・・・」

ダッチハーバー空襲と、アムチトカ島沖海戦の一部始終はアメリカ本国でも大きく取り上げられ、国民は初めて自国の領土が
攻撃を受けた事にショックを受けた。
ルーズベルト大統領は、アリューシャンでの一連の戦闘が、国民の厭戦気分を生むのではないかと危惧した。
確かに、この一連の戦闘が国民にショックを与えた事は事実だが、逆にアメリカ国民は一層猛り上がり、一部の州では
兵器増産運動と称して、海軍工廠や軍需工場への出稼ぎ人が爆発的に増えた。

もちろん、アリューシャン方面に対する戦力の回復や、兵力の転用など、頭の痛い事は残っているが、国民の士気は
衰えるどころか、ますます旺盛となっている。
シホールアンル側が目論んだアメリカ国民に対する心理的効果はあった。だが、その効果はシホールアンルが有利となる物
ではなく、一層不利な状況になるという悪影響(アメリカにとっては好影響)をもたらしたのである。
しかし、現場では、アメリカ側は綱渡りに等しい行動を取っていた。
特に第36任務部隊の行動は、敵を追い返すきっかけとはなったが、運が悪ければ参加空母全滅という凶事を招きかねなかった。
アメリカ側、特にTF36は、前年の成果と、敵将の判断によって救われたのである。

「とにもかくも、アリューシャン方面に関しては、今しばらく警戒が必要になるだろう。まずはダッチハーバーの戦力回復、
設備復旧が先になるな。」
「太平洋戦線、波高し、って奴だな。リュー。」
「ああ。」

2人は真剣な表情で、頷き合った。

「太平洋はこのように、敵さんが元気なお陰でピリピリしてる訳だが。ちなみに、アラスカが配備されるのはどこなのだろうか?」
「さあな。リューのアラスカがどこに持っていかれるかは見当が付かんなぁ。」
「もしかして、大西洋艦隊かな?」
「大西洋艦隊か。どうしてそう思う?」
「大西洋艦隊には、機動部隊に随伴できる艦が第26任務部隊のプリンス・オブ・ウェールズとレナウンしかない。それに、この
2艦自体もイラストリアスとハーミズを護衛しないといけない。高速戦艦が不足している大西洋艦隊の機動部隊は戦艦を欲しがって
いる筈なんだ。戦艦の保有する対空火力は、空母を守る護衛艦としては最適だ。現に太平洋戦線では、俺の乗っていたワシントンも
両用砲や機銃をガンガン撃ちまくって、空母の上空を守っていたよ。」
「なるほどな。アラスカも、5インチ砲16門に40ミリ機銃76丁、20ミリ機銃42丁を持っているから、空母の護衛には
持って来いだろう。」

リューエンリの言葉に、ブルースは納得する。

「大西洋に配備されるとなると、敵はマオンドか。マオンドのワイバーンは、シホットのワイバーンと比べて、性能は落ちるようだが、
いずれにしろ存分に働けるかも知れん。」
「場合によっては、水上戦闘でも活躍できるかもしれない。アラスカは巡洋戦艦だが、性能的には新鋭戦艦に次ぐ攻撃力と防御力を
持っている。万が一、TF26がリンクショック作戦で遭遇したような事態に陥っても、自慢の主砲で敵を引き止める事が出来るぞ。」
「その通りだ。旧式戦艦と相対しても、1対1なら負けぬ戦いをしないと工廠長が太鼓判を押しているほどだからな。ワンランク上の
新鋭艦が出た場合は不利になるだろうが。」

彼はそう言った後、吊っている左足に視線を向ける。

「畜生。あそこで、猫にペンダントを掻っ攫われなければ、アラスカを率いることが出来たかも知れんのに、つくづく、運の無さを痛感するよ。」

ブルースは心底残念そうな口調で言い放った。

「リューエンリ。偶然にも、俺はアラスカをお前に譲る事になったが。」

彼は右手を差し出して、リューエンリに握手を求めた。
「俺のやるべき事は、さっさと怪我を治す事。そして、お前はアラスカに乗る事だ。あの巡洋戦艦には、乗員の6割ほどが、実戦を
経験していない新米が占める事になっている。お前は、その新米を早い期間で使えるようにしてくれ。頼んだぞ。」

リューエンリは深く頷きながら、親友の手を力強く握った。

「分かった。アラスカの事は任せてくれ。お前も早く怪我を治せよ。そうすれば、他の新鋭艦の艦長、例えば、アイオワ級戦艦の艦長に
なれるかもしれない。とにかく、俺はお前の分まで戦うよ。」

リューエンリは親友に決意のこもった笑みを見せながら言った。

「また、近いうちに海で会おうぜ。」
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