『スピード×体重×握力=破壊力』
――という公式がこの世には存在する。
要するに、思いっきり“速くて”“重くて”“固い”モノをぶつけるのが強大なダメージになるって事なんだが……

さてここで問題だ……え?質問してばっかり?まぁそう言うなよ。俺だって君らの意見聞きたいのさ。じゃあ改めて聞こう。
『この公式に更に掛け算を追加して破壊力を上げるには何を掛ければよいか』?
まぁ、正解はないと思うよ。鋭さでも良いし、火力でも電力でも良いし。

……ん?なに『命をかける』?上手いこと言うね。確かにそれもアリだ。
しかし、それは最後の最後、文字通り一撃必殺で一発限りの大技だ。そうそう使えないだろうね。
それに、今回の話ではそこまで“かける”やつは出てこないよ。それじゃあ、始めようか――


●●●

ドンッ!ドンッ!ドンッ!


日の出前の閑散とした路地に乾いた音が響く。
ほんの数刻前に起きた地鳴りのような音に比べればその音は小鳥の囀り程度にしか聞こえない。しかしそれを目の当たりにした人間にはとてもそうは思えないだろう。
まるで何匹もの小さな猛獣たちが、爪を光らせ牙をむいて襲いかかってくるかのように映るはずだ。
着弾まであと数メートル、きっと二秒とかからない内にそれは相手の身体にいくつもの風穴を開けるだろう。
今にも攻撃を食らいそうなその男は恐怖のせいで顔も身体も強張っている。

「……何ビビってんだッ!俺が“守ってやる”っつってんだからテメェは思いっきり走って距離詰めてりゃあイイんだよッ」

しかし、そんな男を叱咤する者がいた。声の主もまた男なのだが……不思議な事に、地面に這い蹲るような姿勢のまま怒鳴り声を上げている。
着弾までのわずか数秒。されど数秒。この激昂が立ちつくす男を突き動かす。
もっとも、気合が入ったとかいう意味でなく、恐怖の衝動に駆られるまま動き出したと言う感じなのだが。
ヒッと悲鳴を上げながら一歩、二歩……三歩目で足をもつれさせた。当然、前につんのめる。

が――この“つんのめった姿勢”が結果として男を弾丸から守った。
頭が下を向いたから、その上を弾が掠めていったのだ。
とは言え、男は現在進行形で転倒している。足はもつれ、肩にはバッグをかけ、利き手は震えながらも拳銃を握り締めている。
……となれば受け身も取れないまま地面に激突する。これも当然。

が――この“地面との激突”が結果として男の状況を防御から攻撃にシフトさせた。
緊張しきった手を握り締めたらその勢いで銃弾が発射されたのだ。
とは言え、男は転倒した姿勢で発砲した――という表現もおかしいが、とにかく銃を撃った。肘も固定されておらず銃口は明後日の方向を向いているが。
おそらく、撃った当人には『ガァン!』という音が拳銃から発せられたものなのか、あるいは地面と自分の頭蓋骨から発せられたものなのか分からなかったことだろう。

が――この“妙な弾道”が結果として先に攻撃した側に大きな動揺を与えた。
弾丸は近くのマンション、そのベランダに飛び込んで行ったと思ったらそこから割れた植木鉢がシャワーのように相手に襲いかかったのだ。


ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!


相手――先に攻撃を仕掛けた男であるジョニィ・ジョースターは、思いもしない方向からの奇襲に対処しきれない。
指先から無数の弾丸を放ち降り注ぐ破片を弾き飛ばすも、防ぎきれなかった何発かはその身体に浴びてしまう。
「なんなんだ!?さっきからッ!あいつはッ!」
そんな悪態も今ので四度目になる。そう、四度目。今回の攻防が初めてではないのだ。
そもそも“最初に”攻撃を仕掛けたのはジョニィではない。彼は家を出たと同時に襲撃を受け、路地を走りながら応戦していた側なのだ。

「ホラァッ!あのガキにダメージあんぜ!とっととトドメさせよ!オラッ!」

痺れを切らし、先程声を張り上げた男がまたも怒鳴る。

怒鳴られた方はと言うと……立ち上がり、そして、ついに自分の意思で拳銃を握り締める。
人間を死なせる、そう言う事も出来る『銃』に一発だけ弾を込め――決意を持って、狙いを定めた。


●●●

――コイツぁいい~ぃ“ネタ”が出来たぜ。

人が寝てるとこをデケぇ音たてて叩き起こしたと思ったら(後で二階の窓から見たらコンテナが空から降ってきたらしい)、今度は銃撃戦だァ?

どいつもこいつも……殺る気マンマンで良いんじゃねぇの?
でもな……このゲームで優勝する気ならただただ殺して回っても仕方ねぇ。もっと賢く立ち回ってやらねぇとな。

あのホームレスみたいな、とってもラッキーマンなスタンド。相棒に欲しかったぜ……勿体ねぇ事しやがって。
だがまぁ、いい勉強にもなった。タロットの暗示だけじゃあない、ああいうスタンドも世の中にはあるってこった。
それから“指銃”とでも言うかね?あのガキの。アレも参考にさせてもらうか。俺の『節制』ならラクショーで再現可能だからな。

と、大方の状況は把握できた訳だ。あいつらが呑気に同じ路地で追いかけっこしててくれたおかげってヤツだ。
――さて、ここで俺がとる行動はどうなる?

マル1、戦闘の直後で疲労してるガキを背後から不意打ちで食う
マル2、力のない一般人に偽装してとり言った後隙を見て食う
マル3、“相手を自殺にまで追い込んだ”ガキをゆすって奴隷扱いにする

――ってところか。あまり考え過ぎて頭でっかちになるのもマズいが行き当たりばったり過ぎってのも良くねぇ。
まず、マル1は却下だ。賢く立ち回るって言ったばっかりだからなァ。
すると答えはマル2かマル3だ。正直言ってどっちにも魅力はある。だが同時にリスクもある。
マル2は相手が疑り深い奴ならそれだけで危険だし、マル3は相手の精神が強ければそのまま返り討ちにあっちまう。

だが……どっちかを却下するのもおしいな。

……

よし、決定だ。

いうなれば、マル4、だな――

●●●

「ハァッ、ハァッ……何だったんだ、あいつはッ!?
 まるでポコロコ――そう言えばレース後に尋ねたら彼もやっぱりスタンド使いだったな……
 それとまるっきり同じタイプ!完全に幸運という力に守られていた。相手の“自殺”がなければ倒せない相手だった……」

大きく肩で息をし、民家の壁にもたれかかった僕は先の戦いを思い出す。
ジャイロに会う決意をして家を出た、なんてレベルじゃあない。ただ単にというか、目的地もハッキリさせないまま外に出ただけで襲われるとは。

結局のところ、自分のことを“トウモロコシ会社幹部の召使い”と名乗った相手の男。
自殺した彼が『私の戦う相手は君でも、まして主催者の老人でもない』と言い残して消えていったことで決着がついた。
改めてこの『殺し合い』、いつ、どこで、誰が、どのように襲ってくるか分かったもんじゃあない。

身体の負傷個所を確認する。銃弾は一発も撃ち込まれなかった。石やら棒やらで怪我しただけだ。しかし……

「しかし……“この状況”これがまずい」

呟いて能力を発現する。
タスク――爪を超え『牙』となったそれは、確かに強力だが、明らかに“弱くなっている”。

「なぜ……なぜ“Act1”なんだ」

疑問を口に出すも、答えはもう分かってる。自分でそれを認めるために敢えて声にして確認したんだ。

――この世界には“本物”が無い。
住宅のドアに窓。舗装された道路の幅。街灯のランプの大きさ、それらの間隔。エトセトラ。エトセトラ。
どれも『本物の黄金長方形』ではない。ゆえにそれを見て強くなるタスクはただの“爪弾”になってしまった……

ここで浮かび上がるもう一つの疑問。
『最初にアナスイと出会った時、何故簡単にAct2が発現出来たのか?』
これもすぐに分かった。ちょっと語弊のある表現になるけれども。

……アナスイは“美しかった”。

勘違いしないでほしいが、別に、肉体がどうとかフェロモンがどうとかいう意味じゃあない。
彼のジョリーンという子に対する愛、その『姿勢』が間違いなく“自然体”で、つまり“美しかった”からだろう。
ゆえに彼の姿は腰の角度も手首のひねりも、鼻の形も、風に流れる髪の毛一本一本にいたるまで『黄金の形』になっていた。だからAct2が発現出来たんだ。
逆に言うならばさっき戦った相手の“幸運”や動きは明らかに偽物。絶対に“美しさ”とは縁のない話だった、ということになる。

「だとするなら……必要なのは“出会い”ってことか、ジャイロだけじゃあなく……さっきの地震?あったところ見に行ってみようかな。
 本当は馬がいれば良いんだけど、贅沢は言ってられないか……」

ざっ、と立ち上がり荷物を拾い上げる。『彼』の分も拾っていこう。戦利品だ。
そして地震の発生源と思しき所に視線を移し――

「まっ!ま待ってくれ!おお俺は怪しいもんじゃあないッ!」

視界に映り込んだ帽子の男。反射的に『タスク』を発現させ狙いを定めるが、その声に遮られてしまう。

「……僕にそれを信じろって言うのか?大体あんたは」

「そ、そそそうだ俺は一番最初にいたあの場所で“確かに死んだ”筈だッ!
 じゃあ今生きてる俺は誰なんだ?おお俺はこんな所で何をしている?
 さっきチラと見たがお前は……そこの男のゆ、『幽霊』じゃあないのか?それと話をしていたように見えた!
 お前……いや君は私のことを何か知っているんじゃあないのかッ!?」


見ていた……だと……?どこから見ていたんだ?
まさか僕のことを“彼を自殺に追い込んだ殺人者”とでも思ってるんじゃあないのか……?
だとするならヤバい。さっきの地震やら何やらと話を結びつけられたら今の僕に言い逃れする手段はない。

そして――あぁ、なんてこった……

この男も……『偽物』だッ!


●●●

『ったくよォ、テメェが自分のこめかみに銃突き付けた時はマジで狂っちまったかと思ったぜェ?』

「それは君が私の話を聞こうとしなかったからだろう?
 『俺がついてるからサッサと全員殺して元の世界に戻って、改めて“決着”つけんぞ』
 なんて言いだして、そこから私の話など一切聞こうとしなかったじゃあないか。
 だいたい、狂ってるのは君の方じゃあないのか?」

『ワリーワリー、って――オマエ今最後酷いこと言わなかったかッ!……まあ聞かなかったことにしてやる。
 しかしお前が散々撃ちたくないとか喚いてたのはビビってたとかじゃあなくて、最初から“戦う相手を間違えてるから”って意味だった訳だ。
 つーか途中から黙りこくったから分かんなかったんだぜ?』

「そう言うこと。黙ったのは……あまりに話が通じないから諦めたんだ。君だけを直接撃って殺す事も出来なかったようだし」

『だからワリーって言ってるだろ。
 しかしなんだ、あのガキには悪いことしちまったなァ。だがまぁお前が大して撃たなかったせいで怪我もしてねぇだろ。
 ま、そんなことで“逆恨み”しちまったらこの世に未練が残るぜ?なぁ?ウェヒヒヒッ』

「君は人のことを言えないじゃあないか。無論、私もだが……」

『だな……良し。そうと決まりゃあ、早速“向かう”としようじゃあねぇか。俺を無理に労働させた揚句に殺し――』

「そして私に整形手術を促して影武者に仕立て上げたあの“旦那様”を――」

「『幸福の絶頂の時から絶望に叩き落としに“迎え”に行こうじゃあないか……』」


●●●

さて……今回の話。何も端折って話した訳じゃあないんだが随分と短い話になってしまったな――あ、いつものことか。まあとにかく。
しかし、不思議な関係だよな。スタンドが見えるから幽霊も見えて。幸運のスタンドを知り合いに持っていて。
死んだ相手に化けられて。そんな連中が三人も集まったら……まあ一人――二人?はもう逝っちゃったけど。

……で、だ。最初に話した『破壊力の公式』の話題だ。
ジョニィはあの公式に、さらに“回転”という力をかけていた。だが今回、それに加えて持っていた“黄金比”という力を失い、代わりに“数”という力を取り戻した。
召使いの方は“幸運”という力で守られてきた訳だが、結局のところ“筋違い”で力を失ったと。
ん、ラバーソールは?知らないよ、今回直接戦ってる訳じゃないから。強いて言うなら“情報”かね?
いずれにせよ、出てこなかったろ?『命をかける』なんて大それたことをした奴は。

――さて、ラバーソールは完全にジョニィを騙せた気でいる。
ジョニィもジョニィで、相手が“偽物”だとは分かるがどこからどこまでが偽物なのかまでは分からない。
それを知ってるのは、あるいは既に空に昇った召使いと浮浪者だけかもしれないな。
まぁその辺に深く突っ込んだ話は“別の話題”になるから今度にしよう。それじゃあ――


【E-8 路上 / 一日目 黎明】


【ラバーソール】
【スタンド】:『イエローインパランス』
【時間軸】:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
【状態】:疲労(中)、『空条承太郎(3部)』の外見
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式×3、不明支給品3~6(確認済)、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
【思考・状況】
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.さて、まずは“幽霊と話せる男(ジョニィ)”に取り入るぜ(いうなればマル2かーらーのマル4ってやつだ)
2.次に“相手を自殺に追い込んだ男(ジョニィ)”を脅してやろうか(これが方針マル3だな)
3.空条承太郎…恐ろしい男…! しかし二人とは…どういうこった?
4.川尻しのぶ…せっかく会えたってのに残念だぜ
5.承太郎一行の誰かに出会ったら、なるべく優先的に殺してやろうかな…?


【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(小)、打撲(数か所、行動に問題はない)、軽い困惑
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1~3(確認済)、拳銃(もとは召使いの支給品。残弾数不明)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
0.ジャイロを探す。
1.この“偽物”の男を……どう対処する!?
2.スタンドが“退化”してしまった。どうしよう……
3.謎の震源(コンテナが落ちたところ)に向かってみるか?

【支給品情報】拳銃@SBR:JC22~23巻に登場。ヴァレンタイン大統領が持っていたもので、ジャイロに「とどめを刺した」そういう事も出来る「銃」
これが回りまわってジョニィの手に渡ったのは何の因果か。弾丸のストックは不明だが、拳銃自体には5~6発装填可能のリボルバータイプの拳銃。


【召使い@岸辺露伴は動かない 死亡】
【残り 87人】

※召使いの参戦時期は「ポップコーン投げ勝負の開始直前」でした。
※行動の方針・経緯としては、浮浪者の幽霊が『幸運で守ってやるからさっさと優勝して改めて決着をつけるぞ』と言い召使いを行動させていた、という感じです。
具体的には「浮浪者が召使いを脅迫気味に説得」→「ジョニィ襲撃(ラバソに目撃される」→「召使いの意思で自殺」→「旦那様に復讐しに旅立つ」というイメージです。


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前話 登場キャラクター 次話
058:Via Dolorosa ラバーソール 101:大統領、Dio、そして……
042:名もなき君にささぐ唄 ジョニィ・ジョースター 101:大統領、Dio、そして……
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最終更新:2012年12月09日 02:27