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家族のように

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 その子は、私にとって家族で
 昔から、一緒にいることが当たり前で
 これからも一緒にいるんだろうなって思っていて……

 私が『姉』で、彼女が『妹』。
 世話のかかる『妹』に苦労しながらも、なんだかその状況を楽しんでしまっていたり。
 ……でも、よくよく考えると、救われてるのは私だったり。
 彼女には私が必要で、私には彼女が必要なの。


 そんな関係って……なんだか素敵だよね?






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『家族のように』

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「あやの―――!! 誕生日おめでと―――!!」
「わ!!」
 秋深く肥ゆるころ。
 木々の衣替え。赤や黄色、茶色の散り行く落ち葉がアスファルトを隠す。
 物思いに耽っていた私に、元気な彼女がじゃれついてきた。
「みさちゃん、私の誕生日日曜だよ?」
「知ってるけど」
「え」
「別におめでとーは何回言ってもいいだろ? 減るもんじゃないし」
「それはそうだけど……」
 今日はいつも以上にテンションの高いみさちゃん。
 腰に手を当てて、とても上機嫌だ。
「そうだあやの!! 何かほしいものとかあるか!?」
「ほしいもの? えっと、そろそろ寒くなってくるから、膝掛けとかかなぁ」
「膝掛けだな!? 任せろ!! ちょーすごい膝掛けプレゼントしてあげるからな!!」
「ちょーすごいって……具体的にどういうの?」
「え゛? ん~……そう!! なんかキラキラしてるやつ!!」
「キラキラは、私には合わないかも」
「贅沢いうな!!」
 なんで怒るんだろう……
「でもみさちゃん、このまえ金欠だぁ~とか言ってなかった?」
「あ……」
 根本的なところを思い出したのか、突然財布を取り出すと机の上にお金を広げ始めた。
 お札なし、500円玉なし、100円玉3枚、50円玉1枚、10円玉7枚、5円玉1枚、1円玉3枚……
 計428円なり。とてもじゃないけど、何か買うには少なすぎる金額。
「きゅ~~~~~~……」
「よしよし」
 妙に凹んでいるみさちゃんの頭に手を置いて、優しく撫でてあげる。
 みさちゃんは計画性がないので、結構こういう時がいままでにもあった。
「大丈夫よみさちゃん。私、祝ってもらえるだけでも嬉しいから」
「でも、あやのぉ~……は!! ぴこ~ん!!」
 突然、何か閃いたように立ち上がり、バンザイをしながらそんなことを言うみさちゃん。
 ぴこ~んって……電球?
「いいこと思いついた!! これならお金なくてもできるぞ、あやの!!」
 テンションがMAXになったらしいみさちゃんは、手足をばたばたさせて頭から湯気を噴き出している。
 ……湯気?
「待ってろあやの!! 最高の誕生日にしてやるからな!!」
 そう言い残すと、全速力で廊下へと飛び出してく。
 B組から戻ってきた柊ちゃんが吹き飛ばされて、『ん? 日下ぶふぉあ!!』って言いながらB組に戻っていった。なんだか可愛そう……

 そういえばみさちゃん、今から何するつもりだったんだろう。
 もう授業始まるのに……







 2人で並ぶ帰り道。
 私達の影は長く伸びて、1つに重なる。
 真っ赤に染まる空と、オレンジに染まる町。
 雲の隙間から伸びる幾筋もの光の柱が、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

「きゅ~~~~~~……」
「よしよし」
 どうやら、みさちゃんが教室を飛び出したのは、ただ単にテンションが上がったからというだけで、特に意味はなかったみたい。
 授業開始20分後にニコニコ顔で教室に戻ってきたみさちゃん(と、ぐったりした柊ちゃん)は
 授業中(黒井先生の授業)ずっと廊下で、水入りバケツを両手に持って立たされていた。かなり古いと思うんだけど……
 一緒に立たされた柊ちゃんは『理不尽だわ』とぼやいていたけど、しっかり従うあたり流石だと思う。

「なぁあやの、誕生日、うち来ないか?」
 授業が終わってからずっと落ち込んでいたみさちゃんが、いきなり話しかけてきた。

「みさちゃん家? いいよ」
「おし、決まりだな!!」
 嬉しそうに拳を突き出し親指をビッと空に向けて立てるみさちゃんは、妙にご機嫌で
 一緒にいるこっちまで楽しくさせてくれる。
 こういうところが、一緒にいたくなるみさちゃんの魅力でもある。
「ずぇ―――――――ったいあやのを驚かせてやるかんな!!」
 みさちゃんの甲高い声を聞きながら、私たちはそれぞれの家に帰宅した。
 日曜日がすごく楽しみ♪










 日が落ち始めた頃、歩きなれた道を行く。
 みさちゃんの家は、すぐ隣なので行き来には時間がかからない。
 みさちゃんが『6時くらいに来てくれよ』と言っていたので、この時間になった。
 扉の前に備え付けられた呼び鈴を鳴らすと、玄関に向かってくる足音が聞こえた。
「あ、いらっしゃい、あやの」
「あれ? お兄さん?」
 てっきりみさちゃんが待機してるかと思ったのだけれど、出迎えてくれたのは私の彼氏でみさちゃんのお兄さんだった。
「お兄さん、みさちゃんは?」
「……え~っと」
 なんだか気まずそうに頬をぽりぽり掻くお兄さん。
 どうかしたのだろうか?
「普段やり慣れないことを無理してやったからかな……」
「みさちゃん、どうかしたの?」
「いや、実はさ……」





 手の甲で扉を2回叩くと、乾いた音が廊下に響く。中から力ない声が聞こえたことを確認すると、私はドアノブに手を掛けた。
 ゆっくり、できるだけ音がしないように開けると、中は薄暗かった。ベッド付近にある小さな明かりが、オレンジ色に光る。
 ベッドに横たわる親友が、少し苦しそうに首だけ上げて私を迎えた。
「あやの……いらっしゃい」
「みさちゃん、大丈夫なの?」
「あはは……なんか慣れないことしたからか、熱でちゃって」
 おでこに乗せられたタオルに触れると、既にほんのりと暖かかったので
 横にある水の溜まった洗面器に入れ、タオルを絞りながらみさちゃんと話す。
「……ごめんな? 折角の誕生日なのに……」
「別にいいよ。みさちゃんが私の誕生日を祝ってくれてる。それだけで嬉しいから」
「……」
「ね?」
「うん……ありがと」
「ふふ、それは私の台詞だよ、みさちゃん」
 おでこを人差し指でつんと突くと、やっとみさちゃんは笑顔を見せてくれた。
 やっぱりみさちゃんは笑顔が一番可愛い。
「そういえば、慣れないことって……何?」
「え? いやぁ、その……笑わないで聞いてくれるか?」
 頬を少しだけ赤くし、布団を口のところまで引き上げて上目遣いで言うみさちゃんは
 なんだかいつもと違う可愛さがあった。
「うん、笑わないよ」
「……」
 みさちゃんは多少躊躇した後、小さくぼそぼそと言った。


「ケーキ……ケホッ、作ろうと思って……」


「……え?」
 みさちゃんが……お菓子作り?
「ほら、ケーキならさ、材料費とかは親が払ってくれるし、気持ちも込められるからさ。
あやのには、ぜったい喜んでほしかったから……」
「そう……だったんだ」

 ――うれしかった。


 ――ケーキが好きだからとかじゃなくて、ちゃんと私のことを考えてくれてることが


 ――普段みさちゃんはあんなだから、ただ頼ってくれてるというだけで


 ――それほど深い感情を私に抱いてくれてるとは思っていなかったから


 ――たぶん『友達』くらいにしか思ってはいないんだろうって


「一応さ……できてるにはできてるんだ」

 ――だから

「テーブルの上に置いてある箱……開けてみてくれるか?」

 ――あまりにも心の詰まったプレゼントに

「ちょっと変な形してるけどさ」

 ――私は

「どう、かな?」

「……っ……っく」
「!? な、なんで泣くんだあやの!? も、もしかして、下手すぎて私に呆れてるのか!?」
「……っく……うぅ……違う……」

 箱を開けた中に入っていたのは、あまりにもぶきっちょなケーキ。
 スポンジは崩れているし、クリームは塗れてない場所があるうえに、掻き混ぜすぎたのか発泡スチロールみたいになっている。
 板チョコを逆さにした上に書いた文字は、「たんじょーび『あ』めでとー 『お』やの」と
 普通の人が見たら何が書いてあるのかすら分からなかっただろう。ケーキ屋さんに言わせたら『ひどいでき』だと思う。

 だけど、それはきっと、世界一甘くて、世界一美味しくて……世界一心のこもったケーキ。
 ただ純粋に湧き出る喜びが、雫となって瞳から溢れた。







「ありがとう……みさちゃん……私、すごくうれしい」
「あやの……へへ♪」
 あたふたしていたみさちゃんも、私の涙の意味を知ったのか、照れくさそうに頭を掻いた。

「でもさ、あやのは笑っていた方がいいよ」
「うん……」
「ほら、涙拭いてあげるからさ」
 そう言ってティッシュを取り出して私のほうに乗り出すみさちゃん。
 でもそこは、不安定なベッドの上。
 しかもみさちゃんは熱でふらふら。
 案の定、支えていた手がガクンとズレ落ち、バランスを崩したみさちゃんは、そのままこっちに倒れてくる形となる。
「「あ」」



 私の上にみさちゃんが覆いかぶさっている状態。
 下がカーペットだったからか、頭は打たなかった。
 でも……
「「……」」
 言葉が物理的に発せない状態になっていた。
 なんでかは、言わなくても分かると思う。
 2人とも、なぜか離れなかった。なんでだろう、離れようと思わなかった。
 みさちゃんの顔が真っ赤なのは熱のせいじゃないだろうし、たぶん私も同じ顔をしているんだろう。
 不意に、扉の開く音がした。

「TYO☆TYO☆TYO、調子はどうだみさお?」
「「!!」」




 ケーキの上で燃える蝋燭の炎が、ゆらりと揺れる。
 2人でテーブルの前に腰かけ、その炎を見つめた。

「ハッピバーッ、ゴホッゴホッ!!」
「み、みさちゃん、無理しなくていいよ」
 何の前触れもなく歌を歌い始め、咳き込むみさちゃんの背中をさすった。
「くっそー、歌歌わないと誕生日始まんねーのにぃ~……ケホッ」
「あ、あはは……」
 別にそんなことないと思うんだけど……
「そういやあやの、兄貴涙流して下降りてったけど、誤解解きに行かなくていいのか?」
「……うん、それは……後でね」
 そう言ってみさちゃんの頭を撫でる。
 今はみさちゃんと一緒にいてあげたいって、思うから。
 誤解を解くのは、後でも大丈夫だよね……
「でも、ごめんなあやの。こんなできの悪いケーキで……」
「ううん。みさちゃんが私のために作ってくれたってことが、嬉しいから」
「うん……ありがと」
「だから、それは私の台詞だと思うよみさちゃん」
「そうかな?」
「そうだよ」
「ふーん……」
 私の頭にコツンと頭をつけるみさちゃん。
 私は、長年言おうと思っていた言葉を、ゆっくりと紡いだ。

「みさちゃん……あれ?」
「すぅー、すぅー」
 いつの間にか寝息をたて始めたみさちゃん。
 早いよ、もぉ……
「疲れてたんだね……」
 私は、みさちゃんの腰に手を回して、こちらに引き寄せた。
 『言う』のは……また今度でいいよね。
「がんばったもんね……みさちゃん」
 私もゆっくりと目を閉じる。
 その間際、みさちゃんが笑っているように見えた。


 ――光が差し込まない、真っ暗な部屋


 ――蝋燭の朧気なオレンジの光と、確かに伝わるみさちゃんの体温を感じながら呟いた私の言葉に


 ――少しだけ目を覚ましたみさちゃんの声が、重なった



                『ずっと一緒だよ』




【 fin 】













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  • なんだろうこれ・・・すごく暖かい(´;ω;`) -- 名無しさん (2008-06-06 17:15:29)
  • このあと……………………って考えが出る私は汚れきってる……m(_ _)m
    -- 名無しさん (2008-05-08 00:45:36)
  • いいねぇ・・こういう展開は -- ウルトラマンA (2008-01-27 23:39:53)

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