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想いの強さ 第4話

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hakureikehihi

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 私とつかさの18回目の誕生日を明日に控えた、今は金曜日の朝。
「お、お姉ちゃん。こなちゃん待ってなくて良いの?」
「うん」
「でも、今日は来ると思うから・・・って、待ってよお姉ちゃん」
昨日とは正反対に少しでも早く学校に行こうとする私。
別にこなたが嫌いになった訳では無いわよ。原因は昨日の深夜か、今日の早朝に見た夢。
思い出しただけで体が震えてしまうほどの恐い夢。
その夢には、こなたも出てきた。
変な感じ。辺りが真っ暗で自分の場所だけ明かりが照らされてる。
例えばスポットライトみたいに・・・そっか。これは夢ね。なら納得だわ。
でも、何でこんな夢を見ているのかしら・・・なんて考えても仕方ないわね、夢だもの。
『かがみ』
不意にこなたの声が聞こえたと思った次の瞬間。今まで真っ暗だった目の前に光が差し込み、そこに無表情のこなたが居た。
夢の中ぐらい愛想良くしなさいよ。
『もう、かがみに迷惑かけない』
何言ってるのよ。
『もう、かがみを怒らせない』
だから、何言ってるのよ。
『もう、かがみの事を考えない』
      • それ、どういう意味よ。
私の疑問なんて無視して、無表情のこなたは言葉を繋げてくる。
『だって、私とかがみは他人だから。他人なら、お互いに喧嘩することもない』
ちょっと待ってよ。
『だから、私に話しかけないで』
納得出来るわけ無いじゃない。
『それだけ』
それだけって・・・
目の前のこなたは表情を崩すことなく、私に背中を向けて遠ざかって行く。
待ちなさいよ、こなた!
こなたの前に立ち塞がった瞬間、心の奥から湧いてきた恐怖心。
覚えているのはそこまで。
あの恐怖心が何だったのか、そもそも恐怖だったのかさえ分からない。
分からないけど、こなたの事を考えると、あの夢を思い出してしまい恐怖で自分を見失いそうになる。
こんな状態で、こなたに会う事なんて出来ないわよ。
「私、何やってるのかしら」
こなたに会わないようにする為、休み時間毎に校庭へ足を運んでいる自分に自嘲してみたが、現状が変わるわけでもないわよね。
「次の授業が終われば、帰りのHR。あと少し・・・」
こなたから離れたい。
自分でも信じられないけど、そんな事ばかり考えていた。
どうして、あんな夢を見ちゃったのよ。
ふと気付けば、エアコンが治った自分の部屋のベッドに寝転がっていた。
「あれ?どうやって帰ってきたんだっけ・・・というか今日の授業、受けた?」
やばい、重症だわ。
空が茜色に変わり始めた頃、自己嫌悪に陥っていると机の上に置いていた携帯がバイブレーション機能をフルに発揮し始めた。
「電話?」
ディスプレイを見ると峰岸からだが、今は人と話す気分じゃない。
だけど無視する訳にもいかないわよね。



「もしもし?」
『あ、柊ちゃん?今どこにいるの?』
「自分の部屋だけど。どうかしたの?」
『えっと・・・今から会えないかなと思って』
何の用だろ?
「別に良いわよ」
『よかった。それじゃ一旦、電話切るね』
電話が切れたと同時に玄関のチャイムが鳴ったけど・・・まさかね。
「急にごめんね、柊ちゃん」
その『まさか』だった。
携帯を机の上に置いたのと同時に、ノックも無しに部屋のドアが開き、廊下には峰岸と日下部が居た。
「どこから電話したのよ」
「玄関の前から」
笑顔を崩さずに部屋に入ってくる峰岸を見ていると、深く考えたら駄目な気がしてきたわ。
「どうしたのよ、日下部?」
いつもボーイッシュで元気だけが取り柄の日下部が、俯き加減で元気がない。
お腹が痛いのかな?
「なあ、柊。ちびっ子と喧嘩したんだって?」
第一声がそれですか。
「うん、まあ。でも、どうして知ってるのよ」
「放課後。妹ちゃんが教室に来て、泉ちゃんと柊ちゃんの事を話してくれたの」
日下部に代わって、峰岸が説明してきた。
「それで、喧嘩の原因って・・・」
笑顔だった峰岸が、日下部に負けず劣らずの俯き加減になってしまったのを見て、何を話そうとしているのか理解できた。
「あやの・・・私が言うよ」
峰岸が俯いたのとは逆に、日下部が顔を挙げて真っ直ぐな視線を私に向けてくる。
何だろう、この胸騒ぎは。
「私・・・柊の事が好き」
な・・・なんですとー!
いや、ちょっと待て。それはつまり、そういう事なの? って言うか、喧嘩の話はどうしたのよ。
傍から見たら、相当間抜けな顔をしているに違いない私を直視する日下部。そんなに見られても困るんだけど。
「えっと・・・いつから?」
何聞いてるのよ、もっと他に聞くべき事はあるでしょ。
「2年位前だと思う。柊が楽しそうにちびっ子と話しているのを見ていたら、心の中に霧みたいのが広がって。
その正体が何なのか考えたら直ぐに気づいたよ」


2年前って、こなたと知り合った時だ。
確かに、その時から日下部達よりこなた達と過ごす時間が多くなったような気がする。
「柊とちびっ子が喧嘩して、私達と話す時間が増えて嬉しいとか思ったり。最悪だよ私」
そんな事、無いわよ。
「でも、喧嘩して落ち込んでる柊を見るのが辛くて。柊には笑顔で居て欲しくて・・・」
少しずつ涙目になってくる日下部の手に、峰岸の両手が優しく包むように触れている。
「だから!ちびっ子と仲直りして、いつもの柊に戻ってよ!」
私だって戻りたいわよ。でも
「こなたが許してくれるかな」
私の呟きを聞いた峰岸が、軽く微笑んだ。
「大丈夫だよ。泉ちゃんはいつも、柊ちゃんの事を考えているから」
こなたが?
「火曜日の放課後。覚えてる?」
それって、ゲマズに行こうって約束した日だ。
「柊ちゃんが教室を出て行った後、泉ちゃんが来てね。40分くらい一緒に待ってたんだよ」
「え・・・でも、こなたは約束を忘れたみたいな感じだったけど」
「気を使ったじゃないかな。泉ちゃんの事だから」
そんな・・・
「柊ちゃんが鞄を持って出て行ったから、もう戻ってこないかと思って。それで泉ちゃんと帰る事になったんだけど。泉ちゃんから何か聞いてる?」
「何も聞いてないし、話してくれなかったわ」
『そっか』と、峰岸が呟いた気がした。
「泉ちゃんと一緒に、柊ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行ったんだよ」
「こなたが・・・私のプレゼントを?」
「うん。泉ちゃんがね
『高校生活最後の誕生日だから、かがみが喜んでくれそうなのを選びたいんだけど。私はイマイチ分らないから一緒に選んで』って言って。
それと『かがみには内緒にして』と言われてて。今まで黙っててごめんね」
話を聞き終えた私の脳裏に走馬灯の如く、こなたの色んな表情が浮かんでくる。
笑っているこなた。真剣なこなた。惚けたこなた。悩んだこなた。そして最後には悲しんでいるこなた。悲しませたのは・・・私。
「こなた・・・グス・・・こなたぁ」
涙を零しながら、私は強く想った。
『こなたに会いたい』と。
会って、何がしたいのか分らない。
謝って許して貰いたい?他愛もない世間話をしたい?
どれも違う気がする。今はただ、こなたに会いたいだけ。
「柊ちゃん、行ってあげて。泉ちゃんが待ってるから」
「待ってる?」
「うん。泉ちゃんと柊ちゃんが最初に出会った場所で待ってるから」
財布と携帯電話を持って、自分の部屋を出ようとした時に大切な事を思い出した。
「日下部・・・ごめん!私、日下部の気持ちには答えられない」
日下部への返事を忘れていた。そして
「ありがとう」
それだけ言って、私は走った。茜色から群青色に変わり始めている空の下、こなたと最初に出会った場所へ向かうために。













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