kairakunoza @ ウィキ

残し物-3

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匿名ユーザー

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窓の外はすっかり闇となり、世間一般では食事を遠に済ませた時刻だ。
今頃になって今朝から何も食べていない事に気付き、私はカップ麺に湯を注いでいる。
この私の数少ない楽しみを忘れてしまっていた辺り、既にそれだけ興味をひかれる存在である事の証明になるだろう。
内心でそんな私を珍しく思いつつ
湯の張ったカップを2つ、部屋へと運ぶのだった。



「おまたせ、こんな物で悪いけど…。」

私用の小さなテーブルの前にかしこまって座る少女は、似合わない会釈をしてその到着を待った。
名を『泉こなた』と自称する彼女。ただそれだけで、やはり住所等は語ろうとしない。
元々深く詮索出来るとは思っていなかったので、私もそれだけで満足している。
ただ敢えて欲を言えば、事情を聞き出し干渉にまで踏み込みたいのが事実だった。

─────

向かい合って麺を啜る。
が、かといって互いを見つめている訳ではない。
私はともかく、泉こなたは猫舌のようで
熱々の麺と静かに格闘しているらしく、当分にそんな余裕は無いのだろう。





『泉こなた…ね。
じゃあ”こなた”でいいかな。』

私がそう尋ねると、少女はこくと頷いた。
その顔は見た目と反して明るさを見せず、一向に無表情を崩していない。
それが何かを、触れざるべき事情を暗示しているかのようで。
聞きたい事はこれと言うほどある筈なのに、後に彼女の持つ雰囲気に阻まれる形になった。

家出少女であることは認め、私の想定がおおよそ間違いない事が分かった。
だが家出の理由となると、泉こなたは首を縦に振らない。
親とのケンカ、世間社会への不満、自分探しの旅でもないという。
ではそのワケはと尋ねると、ただ、だんまりをしてしまうだけだった。


結局そこまでとなり、もう追究しようとはしなかった。
深い詮索は嫌われかねないと、私の紹介などに切り替えたのだ。
だが今でもなお、知りたいと思う気持ちは変わらない。
幼い少女が、雨にうたれて眠らなければならない理由を。


目の前の少女は、依然として熱々の麺を受け渋っており
やっと口に運んだかと思うと、目尻に涙を浮かべる様だ。
客観的に見たその和やかな空気を追い風に、捨てきれない望みを伺ってみた。

「…家出の理由、やっぱり聞かせてはくれないのかな。」

少女はゆっくりと麺を啜り上げると、やがて首を横に振る。
その顔が煙を嫌う表情に変わらぬうちに、これを機として今度こそこの話しはやめにする事にした。

その後に、もし食べていく宛がないのなら、私の所居てもいいとだけ伝え
僅かな望みに託す結果となった。

ところで、望みとは何の事だろう。
暫く考えて、やはり、私は泉こなたに固執していると思った。




~~~~~

『こなた、その荷物は…』

『…散歩だよ』

『………』

『…散歩、行ってくる。』

『………そうか』

『帰り、遅くなると思うから』

『……そう、か…』

『晩ごはん…、ちゃんと自分で作って食べてね』

『…ああ。』

『…んじゃ、いってきます』



『こなた…。』

『……ん?』


『…………。』



『……いってきます』


~~~~~

はたと目を覚まし、ベッドから身体を起こす。
部屋は月明かりを頼りとしてほの暗く、まだ夜中である事を理解させた。
泉こなたは、そのまま暫くぼうっと座っていたが
不意に自身が咳き込んだ事により、否応なしに現実を見た。

「………。」

隣の、少しだけ間を開けて眠る柊かがみを見下ろしてみる。
姿勢よく仰向けに寝る彼女ながらも、規則正しい呼吸は生きている事を証明している。
それを知って、泉こなたの考える事は至極極端で
きっと、幾年前と変わらない結果に至るだろう。




─────

携帯電話のアラームに起こされたのが1時間前で、私は今新聞に目を通しつつ、そろそろ訪れる出勤時間を気にかけている。
それでも政治家の不祥事を記した記事はしっかりと頭に入ってくるのだから、我ながら器用だと感心する。

と、泉こなたはようやくお目覚めになり、新聞を読む私をベッドの上から見下ろしている。
おはよ。と片手間に挨拶をかけると、彼女は早々に告げてきた。

「…私、やっぱりここには居られないよ。」

予想はしていたが、一晩でその答えが帰ってくるとは思わなかった。
私の下を離れるとして、草や木を寝床に構える現状は変わっておらず
彼女の基盤となる生活状況について、互いに何も改善策を見い出せていないからだ。
何より私の、もとい泉こなたの揺るぐ点……

「あんた、これからご飯どうするつもりよ」

この一言で、ぐうの音も出ないまでに押し黙ってしまうのだ。

「別に…家に帰れとは言わないけど、この先食べる宛もない子をおいそれと送り出すのは気が進まないわね」

「むぅぅ……で、でも」

泉こなたは必死な様子で、ただ居られないとだけ口にする。
その様子が何か別の、明確な理由を抱えている事を示唆しているようで。
私は行き着くべき推理結果に至ったわけだ。

「ねぇ、もしかして迷惑になるとか考えてない?」

はたと泉こなたの手振りが止まる。
今までと反応が違う辺り、図星だったと捉えていいのだろうか。
やがて口ごもったようすで、「ええと、その…」と呟き始めた。




「あんたねぇ…、迷惑なら初めから家に連れ込んだりしないわよ」

やれやれとため息混じりに新聞を畳む。

「で、でも…お金かかるし、ベッドの場所とるし…!」

「私はそれなりにお給料もらってるし、だからベッドも少し大きいの買ったんだけど」

事実シングルでありながら、今、泉こなたの座るベッドは大きめであり
昨夜二人で入った際に、窮屈だとは微塵にも感じない程だ。
経済的に余裕がある事は彼女も察知しているだろう。
それでも迷惑だと考える最たる所を避けて、色々な理由を挙げてくるあたり
私は彼女の気を使う唯一の点がおのずと把握出来た気がした。

「それに、それに──」

あなたにどんな事情があるかは知らない。
どんな考えで家を出たのかも知らない。
けれど何も知らないあなたを、私は支えたいと思ったのだから。
それはきっと──


「私としては居て欲しいのよねー。
アンタの事、好きだし。」

「……ふぇ…?」



彼女の最も気を使わんとする所は、彼女自信の存在だ。
自分がいる事で、私に精神的な迷惑を被りかねないと考えた。
そう過程すると、それをうまく否定してやる事で納得させる事が出来ると思ったのだけど……


「………」

泉こなたは反応を示さない。

だが呆気に取られた様子のまま、それでいて私を見る目はどこか雰囲気が変わり、若干頬に血色が伺える。
私の世界で彼女の顔に表情がうまれたのは、実感できるだけでもこれが最初で

とても嬉しかったのを覚えている。




─────

夜─激務を無事終えて、今日も同じ帰路につく。
途中でコンビニに寄り、カップ麺を買って。
思う事と言えば、泉こなた。
彼女がまだ私の部屋に居てくれているだろうか。
それだけが心配事となって、私の脳内を支配していた。

私の借りる部屋、鉄の扉の前辺りまで来ると、ふと夕御飯のいい匂いがした。
おそらくはご近所様から漂ってくるのだろう。
こんな時間に珍しいとは思ったけれど、同時に羨ましいとも感じる。
一人暮らしを始めて数年、手料理など数える程しか口にしていなかったのだ。
たまには何か作ってみるか。
そう考えながら、ぎっ…ドアを開く。



煮物。
唐揚げ。
そして白米。
それらが見慣れたテーブルに並び、奥には泉こなたがちょこんと座る。

「えと……つ、作ったんだけど。」

おずおずと見上げる彼女に、私はたまらず抱き付いていた。













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  • この時点ではまだこの二人がなぜ友人じゃないのかが
    よく分からないww
    先が楽しみです -- taihoo (2008-10-13 16:07:43)
  • 続きが読みたい!!
    ががみ、こなたのこと忘れてないか…? -- 名無しさん (2008-05-31 16:24:37)
  • う〜ん。先が読みたくなる展開だなぁ。 -- 名無しさん (2008-04-13 16:21:00)
  • 先に言っておくけど、このシリーズはパラレルもの、社会人になってから二人が出会ったという設定だよ。シリーズ物なので最初から読んでみることをお勧めする。 -- 名無しさん (2008-04-01 18:07:57)
  • かがみはこなたの事、忘れてんのかな‥‥? -- フウリ (2008-04-01 16:24:08)
  • うわぁ〜///イイ!!
    つづきが早く読みたい -- 名無しさん (2007-11-15 00:38:23)

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