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人として袖が触れている 18話

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  • 18.生命よ、永遠に


 空に暗雲が立ち込め、突風が吹き荒れます。
 鳴動するのは大地と雷。
 今、世界は終わろうとしています。
 彼女は奇跡を起こしました。
 神にも起こせない奇跡、それは世界を繋げる奇跡。
 そしてとうとう見つけました。
 自ら失くしたものを。自ら捨ててきたものを。
 その全てを見守り、神が言葉を漏らします。
―私は知った。
―生きるという事の素晴らしさ。
―愛するという事の素晴らしさ。
―これが彼女の力。
―神をも超える、繋がる力。
―世界を超える、絆の力。
 彼女は少女を救いました。
 悲しみの運命から、憎しみの渦から。
 そして今もなお、世界さえ救おうというのです。
―ならば私も尽くそう。
―世界を共に、救おう。
―最後の奇跡を、共に起こそう。


「あっ……」
 こなたが声を漏らした。
 私もそうだ。目の前の光景に、不意をつかれた。
「蛍?」
 まぁ、私にもそう見える。
 フラフラと忙しなく点滅しながら、私の周りを飛び回る。
 でもこの感じは覚えてるわよ。
 暖かい優しさに包まれるこの感触は……この野郎、今更出てきやがった!
「よく、見つけましたね……かがみ」
「蛍が喋った!」
 ほら、捕まえようとしないの。
 一応敬わなきゃいけないんだから。
「ええ、おかげさまで。ね?」
 池の中の私を覗き込む。
 その中の私も、笑顔を返してくれた。
「ええと。それよりこの子を! し、締まるぅっ!」
「わーかがみ見て見てー、喋る蛍ー」
 何時の間にかこなたに捕まってるし。
 うんうん、珍しいわね。籠にでも入れといて。
 ……って言いたいところだけど、今はそんな場合じゃないか。
「放してあげて、こなた。一応偉い人らしいから」
「らしいって何ですか!」
 こなたの手から抜け出し、また私の周りを飛び回る。なんか蝿みたい。
 まぁ今はそんなんどうでもいいわ。
「出てきたなら教えてくれるのよね……どうしたらいいの?」
 空の様子も、さっきから何処かおかしい。
 雨が降るわけでもないのに雲が広がり、今にも雷が落ちそう。
 地面に下ろした足からは、大地の鳴動すらも微かに感じる。
「今、世界は不安定な状態です……私もこの姿で干渉するのが限界です」
 虫でギリギリってわけね。
 つーか結局今まで何してやがったんだ!
「世界を救うためにはもう一度、世界を繋ぎ止めなくてはいけなせん」
「繋ぎ止めるって……出来るわけ? そんなこと」
「……私だけでは、無理です」
 何よそれ!
 あんたに出来なくて誰が一体……。
「かがみ、貴方の力が必要です」
「わっ、私!?」
 私の目の前で、私を見る。
 その言葉は、池に映る私にじゃない。
 私に……向けられてる、らしい。
「貴方は私や彼女より、尊くかけがえのない力を持っています」
「そ、そうなの? よく分かんないけど」
 なんか照れるじゃない、そんな言い方されたら。
 そりゃ、救おうって言い出したのは私だけどさ。
「ですがこれは賭け……かがみ、私と共に世界を背負う覚悟はありますか?」
「えっ……」
 思わず唾を飲む。
 少し汗が落ち、胃に棘が刺さるような感覚に襲われる。
「全ては貴方にかかっています。世界を救えなければ貴方は、この世界とともに消滅するでしょう」
 心が、跳ねる。
 私の肩には今、世界が乗ろうとしている。失敗は許されるはずもない。
 その時私は、消えるんだ。
 この世界と……共に。
「わ、分かってるわよ……あるわ。世界は救ってみせる!」
 そう、決めたの。
 救うんだ、この世界を。
 帰るんだ、私自身の世界に。
 そしてまた、いつもの日常を迎えてみせる。
 それが私の最初の望み。
 一番最初に、願った気持ち。
「やはり……そうですか」
 ここは私の世界じゃない。
 でも自分のものじゃなかったら、どうなってもいい?
 そんなの、いいはずない!
 そう割り切るには、私は関わりすぎてしまった。
 この世界に。
 この世界の……皆に。
『失敗したらもう……会えないのよ?』
 池に映った私が、言葉を投げる。
 誰に? 何てのは愚問よ。
 そうよね……そうなるのかしら。
 悲しんでくれるかな、皆。
 悲しんでくれるかな……あいつ。
「いいの、私が世界を壊した……それは私の責任だもの」
 あんたも言ってたじゃない、世界も人と同じ……世界も、生きてるんだ。
 だから見捨てない、見捨てられない。
「それに、あんたも居るしね」
『……そうね』
 そう、私は一人じゃない。
 大丈夫、きっと成功させてみせる。
 それが私と繋がってくれたみんなへの、お礼。
 世界への、お礼。
「やるわよ、どうすればいいの?」
「分かりました、では……」
 辺りを包むように淡い光が虫から漏れ、私を包み込む。
 まるでVFX……ふふっ、二回目ねそんな事言うの。
「……見えますか? かがみ」
「ええ、やるじゃない」
 いつしか私の目に入るのは、黒い情景だけだった。
 その黒の世界に、点々とした光が見える。
 その中に小さく一つある、綺麗な青。
 ラプチュラスブルーを放つその球体から溢れる光を感じ、心が和らぐ。
「これが貴方が救う世界……その全て。世界を賭けるその前にどうかもう一度、世界を感じてください」
 遥か広がる銀河に散らばる無数の星。
 その星からも、生命の息吹を感じる。
 そうよね……私が知る世界なんてのは、世界の中のほんの少し。
 無限に広がる銀河に比べれば、私なんてのはあるのかどうかすら分からないような存在。
 それでも……。
「それでも、貴方が救うんです……この世界、この銀河を」
「まったく、気が遠くなる話ね」
 自嘲の笑いを含めて、鼻で笑ってやった。
 それは誰にも分かることはない、誰も知ることはない戦い。
 それでも私はやってみせる、そして世界はまたいつものように回るんだ。
 またいつものように、ずっと。
「ではかがみ……始めましょうか」
「ええ」
 視界が元に戻る。
 暗雲はまだ空に広がり、篝火が乱暴に目を照らす。
 そこにはこなたも、池に映った私もそのまま居た。
 これが最後。
 私がしくじれば、世界は終わる。私も消える。
 ……。
 う、しまった。
 直前になって意識してしまった。
「どうか……心を静かに」
「……うん、分かってる」
 一度深呼吸をしたのに、まだ心の中が暴れている。
 ああ、何を慌ててるんだろう私。
 でも駄目だ。
 心臓の鼓動が耳を劈くように暴れだし、手が震える。
 情けないなぁ……私がやらなきゃいけないのに。
「かがみっ」
「あ……」
 震える手が、暖かさに包まれる。
 その手をこなたの柔らかい手が掴んだからだ。
「大丈夫だよっ、かがみなら絶対っ!」
 満面の笑顔を見せ、私の手を強く握る。
 その手から伝わる暖かさと柔らかさに、不思議と心が落ち着く。
「うん、ありがと」
 それを強く握り返し、覚悟を決める。
 もう手に震えはない。
 そうよね……帰って伝えるんだ。
 それが私の、今の願い。
 この世界で望む……最後の願い。
「貴方の誰かを想い、想われ……繋がる力、それは世界を繋げる絆の力」
 神の言葉に、胸の奥で熱い何かが溢れるのを感じる。
 あはは、自分の体じゃないみたい。
 人の体でやってくれるわね、この虫野郎。
「その力で世界を繋ぎ止めます。思い描いてください、この世界の有り様を」
 世界の有り様。
 そこには私が居て、こなたが居て……他の皆だって居て。
 その誰もが繋がっていて、支えあっていて……お互いの歯車を回している。
 それはどの世界でも変わらない。
 どんな世界でも私たちは……繋がっていられる。
 世界の重さ。
 生命(いのち)の重さ。
 私はそれを受け止める。
 全部を受け止めて……世界を、救うんだ。
「それでは……どうか、心折れぬように」
「あ……」
 最初に出たのは、間抜けな声だった。
 そこから耳を劈いたのは、私の慟哭。
 空に響き渡る声と共に襲う激痛は私の体と心を引き裂いていく。
 血管をまるで針が流れ、体の中で痛みを迎合する。
 身を裂く痛みに耐え切れず、体が地面に崩れる。
「か、かがみっ!」
 それに慌てて寄り添うこなたに体を預けると、その手が優しく包んでくれた。
 その暖かさに少し、痛みが治まる。
「だ……大丈夫」
 今にも崩れそうな体を必死に保とうとする。
 これが……世界の重さ、生命の重さ。
「それに耐えなければ……世界は救えません」
 こなたの力を借りもう一度立ち上がる。
 でも体は今の衝撃で、上手く動いてくれない。
 あはは、やっぱそう簡単にはいかないか。
 これが最後の試練……ってわけね。
「もう一度よ、今度は途中で止めたりしないでね」
「……はい」


―どうか、耐えてください。
 神が垂らした頭から、涙が零れます。
 神には何も出来ません。
 少女にも、何も出来はしません。
 二人に出来るのはただ、祈る事だけなのです。
 それでも彼女の体を、激痛が駆け巡ります。
 その姿を見て、少女はただ心を痛めます。
―悔しい。
―悔しい……悔しい。
―世界を壊したのは、私なのに。
―その私には、何も出来ない。
 人を超えた力の、何と無力な事でしょう。
 世界を渡る力の、何と無意味な事でしょう。
 見守る少女の瞳からも、涙が零れます。
 辺りを劈き続ける彼女の慟哭に、ただ唇を噛むしか出来ません。
―彼女を助けたい。
―彼女を救いたい。
―私を救ってくれた彼女を。
―私と繋がってくれた彼女を。
 その時でした。
 少女の耳に、『声』が聞こえたのです。


「みさちゃん、まだお酒飲んでるの?」
「別にいいだろー、水だよ水」
 夜中に月を見ながら一杯、ああいい感じに酔いが回ってきた。
 これで本当に月でも出てたら最高なんだけどなぁ、何であんなに曇ってんだろ。
 ……とか勢い良く飲んでたらぶっ倒れた。
 今はあやのの膝の上、あぁー柔らかい。
「んもぅ、弱いのにそんなに飲むから」
「あはははー、いー気分だぁー」
 んー柔らかい、ぷにぷに。
「きゃっ! もうみさちゃん、変なとこ触らないでっ」
「いーじゃんいーじゃん、幼馴染の特権ー……みぎゃっ!」
 頭に衝撃。くぅぅ、枕叩きつけられた。
「もう、譲位もそろそろなんだからいい加減落ち着かないと」
「わぁーってるわぁーってるってぇー」
 こうやって夜な夜な遊びに来るのも出来なくなるかな。
 あーあ、つまんなくなるなぁ。
「結婚したらすぐだってさ、来年とかって言ってたのに詐欺だよなー」
「そっか、みさちゃんももう結婚しちゃうんだね。おっきくなっちゃって」
 あやのが頭を撫でてくれる。
 むぅ、馬鹿にされてる気分。
「でも、相手ぐらいもっと選べば良かったのに」
「いーだろ、ちびっ子で」
「フラれた腹いせ、でしょ?」
「うっ……」
 い、痛いところを……。
「大事な事なんだから、もっと考えて決めないと」
 めっ、と怒られる。
 だからってもう恋文出しちゃったわけだし。
 それにさー、あいつちびっ子ばっかにかまってこっちかまってくんないし。
「男の人の嫉妬は、かっこ悪いって言ってたよ」
 誰がだよ! 嫉妬? 嫉妬かこれ!?
 ……いや、そうだよな。
 はぁ、どうしてっかな……かがみ。
『……から、……だってば!』
 うああ、まただよ。また。
 夜になれば治まると思ってたのに余計酷くなってきた。
 五月蠅いんだよ、人の頭の中でギャーギャー。
 そんな意味不明な事グダグダ言われても、頭痛くなるだけだって。
『だからぁ、柊が大変なんだってばぁー!』
「あーもう、うっさいなー!」
 何処のどいつだそのヒイラギってのは。
 そんな人は知りません! むーしむーし! お疲れ様でしたー!
「みさちゃん、どうかしたの?」
「……」
 何を馬鹿な事を、って笑われっかな。
 あはは、まぁあやのなら適当に聞き流してくれっか。
「いやー昼ぐらいから幻聴が酷くてさー、ヒイラギヒイラギって。誰だっつー話よ」
「へっ?」
 と、意外と普通の反応をされた。
 もぅ、何言ってるの。
 と一発ぐらい覚悟してたんだけどな。
「……みさちゃんも?」


「ハーイヒヨリー、今日の茶菓子ハ実にThe Grateful Deadデスヨー」
「やー、気が利くッスねパティ」
 パティの出してくれた茶菓子を口に頬張ると、甘い幸せが口に広がる。
 これはまた高級そうな茶菓子かも。か、菓子を食ってるぅううう。
「あれ、そういえばゆたかは?」
 そういやさっきから姿が見えない。
 さっきまでそこであの無愛想なのと話してたはずだけど。
「……」
「? パティ?」
「ヒッヨーリ↓、心を強くモチマショー。明けない夜もあるんデス」
 ど、どういう意味ッスかそれ!
 はぅあっ! よくみたらあの無愛想変態男装まで居ないし!
 さてはあの野郎抜け駆けしやがった!
「ヒヨリが間誤付いてるから先超されるんデスヨー、カガミンにまた怒られますヨー」
 そ、それは怖い。
 そろそろ耳とれそう。
「先輩かー、そういやさっきから変な幻聴がするんスよねー」
「Oh、キグウですネー。私もデース」
 パティのはただの妄想じゃ……っとと、口を挟まないでおこっと。
「先輩を助けてーって言うんスよね、しかも自分の声で」
「Wonderful! 私も同じデスヨ」
 ……へ?
「Miracleデス、Misteryデース。それで何かしろって言ってマシタ」
「た、確かに同じッスね」
 はて、そんな偶然なんてあるものか。でも確かに言ってたなそんなこと。
「ええと、何しろって言ってましたっけ」
「Umm、確か……」


「じゃあ……ゆたかも?」
「うん、私にも聞こえたよっ」
 夜道を私の手の松明が照らす。
 少しくらい月が出ていれば松明もいらないのに、という考えもあった。
 でもその所為で今、手が繋がっている……ゆたかと。
 松明の火をあまり顔に近づけないようにしよう。
「素敵だよねっ、好きな人の事考えろって」
 頭の中で響いた声。
 その声が私に懇願する。
 それは不思議な頼みごと……大切な人の事を、ただ考えろという。
「あ、あのっ」
「?」
 声に気がつき、振り向くと目が合った。
 繋いだ手が強く握られた気がした。
「だ、誰の事……考えたりするのかなって、えと」
 顔を真っ赤にして慌てるゆたかの姿に心が暴れだす。
 言いたい。伝えたい……でも、それは少し卑怯。
 だって私はまだ、本当の事を話していないから。
『自分に……嘘をつく必要なんてない』
 頭の中で私の声が反響する。
 私が考えたものじゃない、勝手に頭の中で暴れる……不思議な私の声。
 それはつい最近、同じ事を言われた気がする。
 ゆたかと向き合わせてくれた女性がくれた言葉。
 会ったばかりで、名前も知らないおせっかいな女性。
「……ゆたか」
「は、はいっ?」
 強く手を握り返し、視線の高さを合わせる。
 嘘はもう、つかない。
 伝えようこの気持ちを。
 伝えよう、隠してきた事を。もう、逃げない。
「私……」


―これは、何?
 神が目を見開きます。
 その瞳に映るのは、光の線。
 その光が、世界を走っていきます。
 彼女の起こした奇跡は、まだ続いているのです。
―でもこれは……。
 しかし神は肩を落とします。
 世界に満ちていくのは、淡い光。
 でもそれは、一方通行の想いの力。
 彼女の繋がる力の前では、霞んでしまいそうな脆い力。
 世界を包む光は今にも消えそうなほどに、うっすらと光っています。
―そんなもの、今更……意味はない。
 神の耳を劈くのは、彼女の叫び声。
 世界は神が思い描いていたより、崩れてしまっていたのです。
 その全てを繋ぐ痛みには、彼女の体は耐えられません。
 そうでなくても、彼女の心は今にも擦り切れそうなのです。
―間に合わなかった。
―私には何も出来なかった。
―だからせめて、共に。
―共に……消えましょう。
―それが私に出来る償い。
―この悲劇を招いた、私の贖罪。
 敬意と謝罪の意味をこめ、もう一度神が頭を垂れます。
 その頭から、涙が落ちていきます。
 神が諦めかけたその時でした。
 世界に光が、溢れたのです。


「うん……おや、こなた?」
 冷たい風が顔を打ちつけ、少し酔いが冷める。
 それのおかげでさっきまで居たはずのこなたの姿がないのにようやく気がつく。
 また勝手に抜け出したのか……まぁいいか、今日くらい。
 どうせ皆酔ってるだろうし気がつかないよな。
 はぁ……酔いが覚めてきたらまた頭痛がしてきた。。
 こなたが春宮の北の方(正妻)?
 ああ、何所をどう間違っちまったんだか。
「旦那様、お水です」
「うん、ありがとうつかさ」
 受け取った水を飲み干すと、元気も出てくる。
 そろそろ私も公達の相手をしなくてはね、ええと今は何をやってるんだったか。
「皆さん、歌を読んでいます」
 もうそんな頃合か。
 座興にでもじゃあ、連書でもやろうか。
 じゃあ題を決めないとな。
 観月の宴なんだ、やっぱり『月』で……。
『……君』
 うああ、まただまた。
 なんなんだ一体、頭が痛くてならんよ。
 頭の奥から聞こえてくるんだよな俺の声が。気味悪くてしかたな……。
 ん? ちょっと待て。
 待てよ俺……今のは俺の声だったか?
『そう君』
「な……」
 思わず呆けた声が漏れた。
 それは、聞き覚えのある声。
 いつの日かもう聞くことの出来なくなった……大切な誰かの声。
 誰か? 忘れるはずがない!
 遠い記憶の中の、『彼女』の声。
 ……ずっと最近まで聞いていたような気もするが、そんなはずないよな。
『そう君、……を助……ね』
 それは微かで、ほとんど耳には届かない。
 でも、伝わった。
 いや伝わらないはずない!
 だってそうだろ!? かなたの事で、俺に分からないことなんかない!
「つかさ!」
「は、はいっ?」
 声をあげ、食事を下げようとしていたつかさを呼び止める。
「紙を大量に用意しなさい、全員分に渡る様に!」
「え、あ……は、はいっ」
 最初は間の抜けた声をだしていたつかさもようやく事態を飲み込み、慌てだす。
「全員だ、お前も他の女房にも、雑色たちにも!」
「わ、私もですか?」
「ああ、全員で歌を書こう……大切な人への、恋の歌を!」
 確かに聞こえたよ、かなた。
 助けよう。
 俺達の……宝物を。


『では……信じてくれるんですね』
 ええ、もちろんです。
 と頭に響く声に返答します。
 信じないわけがないじゃないですか。
 かがみさんは大切な友達ですから。
 彼女だけじゃありません。
 他の誰もが、私の大切な人ですから。
『じゃあ、よろしくお願いします』
 すぅ、と息を吸い込んでから少し咳払い。
 喉の調子を整えないといけませんから。
「では少し、肩慣らしに……まずかがみさん!
 何故に……何故にツインテールではないのか! 小説だから見えない? 愚民が!
 いいですか、ツインテールには夢と希望……あと希望が詰まってるんです!
 それを蔑ろにするとはなんたる愚行! 低俗! 野蛮! 粉砕☆玉砕☆大喝采!
 世界を蔑ろにしてもそいつだけぁしちゃいけねぇ!
 失くしたもの? 違うもの? ツインテールに決まってるじゃないですか! イラストで気づけよ!!
 ツインテールさえあればツインテールのないかがみさんなんかフルボッコ! ツインテールは世界を救う! ジーク・ツイン・テール!
 それに峰岸さん!
 なぜっ、なぜ前髪を下ろしたぁああああ!
 カチューシャがない? 気合で止めんだよ! ネコ耳メガネと一緒だろーが!
 あのデコを愛でずして何処を愛でろと!? 舐めたい頬擦りしたいめ○っさに○ろ○ょろしたい!
 そして……そして田村さん!
 いわずもがなメ・ガ・ネ! メ・ガ・ネ! メガネのない彼女なんて肉とご飯のない牛丼! ただの玉ねぎ炒め!
 月とスッポン! サファイアと尿管結石ぃいいいいいい!
 あ、でも泉さんはグッジョブ! まさかいつも下着姿だなんて!」
『マジですか!?』
 そこに反応するとはさすが私、ナイスシンクロニシティ!
 今までのはそう、ちょっとした準備運動……クライマックスはここからです!
 往生際が悪い? 最後までクライマックスってことですよ!!
 そう、こなフェチは世界を超える!!!
 オール・ハイル・こなフェチイイイイイイイイイイイ!!!!
「その小袖の隙間から見える肌はまさに絶対領域固有結界閉鎖空間っっっ! しかも甘えん坊だなんてらららいらららいらららい!」
『あ、ああああああ甘えん坊将軍サ☆ン☆ぶぼふぅー(鼻血)』
「ハァハァハァハァ千年と二、三百年前から愛してるうううううううううううううううううううううううううううう」
『てゆーか私の出番これだけってどーゆー事ですか!?』
「え? 出番は続編で? 危ないっ、2ものは危ない! でもどうせなら大奥みたく!」
『そうですよ知ってますか? 平安時代は同性愛の始まりの年代なんですよ!』
「秘められた女の園で繰り広げられる酒池肉林の日々!!」
『え? じゃあ次回作こそは私メインで? 大奥編?』
「わーいやったやったー……だが断るっっっ!」
『目先のこなかがより、いつかくる粉雪ぃいいいいいねぇえええええ!』
「そう、私はやる!」
『道はその手で掴んでみせる!!」
「私をっ!!!」
『私達をっ!!!!』
「『誰だと思っていやがるううううううううううううう!!!!!』」


―こ、これは何?
 もう一度神が目を見開きます。
 そんなはずがない、と言葉を漏らします。
 微かだったはずの光が爆発的に溢れ、世界を覆っていきます。
 崩れかけていた世界が、形を戻していきます。
 誰かを想う心が、崩壊する世界を繋ぎとめているのです。
―これが人の、人間の戦おうという意思。
―誰かを愛するということの、覚悟。
―彼女の起こすのはもう、奇跡でも何でもない。
―いまや奇跡という言葉すらおこがましい。
 誰かをただ、強く思う力。
 それが例え一方通行だとしても、確かな人を超える力。
 その輝きもまた、尊く儚いのです。


「ねぇ、聞こえる?」
「えっ……?」
 声に気がつき、視線を上げる。
 体に走る激痛が、和らいでいくのを感じる。
 気がつけば私の視界には、また黒い銀河が広がっていた。
 そこに居たのは、私。
 向かい合うように立つ彼女の周りには、光が見える。
 その暖かな光が、私に触れるたびに痛みが引いていくのを感じる。
「あんたが言ったわよね? 私はあんた。あんたは私……私たちだって、繋がってるって」
 最後に目の前の私の手が私に触れる。
 もう、痛みは完全に消えていた。
「な、何なの……? これ」
『これ、って酷いわよね』
『そうよねー、わざわざ来てあげたってのに』
『まぁいいじゃない、そんなもんよ』
 騒々しい声が次々と耳に届く。
 どれも不思議な感じがするのは、きっと耳から入ったからだ。
 だってその声はいつも私が発してる声だから。
「数多の世界の中にも……人を超えた貴方もまた、存在するんです」
 私の前に、神が現れる。
 じゃあそのどれもが、『私』?
 そうか……無限に世界はあるんだ。
 どんな形でさえ人の力を超えた私も、存在する可能性だってある。
「どうにか間に合ってくれたみたいです……言ったじゃないですか、期待しておいてくださいって」
 ……そっか。言ってたわねそういやそんなこと。
 じゃあ連れてきてくれたわけね、あんたが。
 この虫、消えて何処に行ってるかと思えば……やってくれるじゃない。
『ったく、いきなり現れて騒ぐんだもん。変な虫が』
『あ、もしかしてこいつじゃない?』
『そーみたい、偉そうだし』
『やっちゃえやっちゃえ』
「えっ、ちょ、おまぁあああ」
 光の群集にフルボッコにされてる姿は見なかったことにしよう。
 そして私の目の前に、私が。
 そのまま、笑顔を見せる。
「あんたが言ったのよ。一緒に罪を償いましょう……痛みも、分かち合いましょう」
「……うんっ!」
 それに私は、憎らしい笑顔を返してやろう。
 例え世界が壊れようとしていても、私たちはこうやって繋がっていられる。
 それは、私たちが心で繋がっているから。
 その繋がりは、決して解けない。
 どんなに険しい道だって、支えあえば立ち上がれる。
 だから大丈夫、私にはこんなに沢山……支えてくれる人たちが居る。繋がってる人たちが居る。
「うぅ……誰も敬ってくれない」
「ほら、いつまでいじけてんのよ……やるわよ!」
「と、とれますっ。乱暴に掴まないでぇっ」
 ったく、もうちょっと毅然としてればいいのに。
 これでも一応……敬ってるんだからね。
 まぁ、態度では見せてやらないけどね。
「オ、オホン……ではかがみ、やりましょう」
 今更威厳を見せても後の祭りなんだけど……口を挟まないでおこう。
「世界……再生です」
 胸の奥から熱い何かが溢れ、世界を包んでいく。
 もう痛みは感じない。
 世界が変わっていくのが、今は体から伝わってくる。
 でもこれは私だけの力じゃない。
 皆が皆……私のために、世界のために今その生命の灯を燃やしている。
 それが、絆。
 世界は繋がり……絆という生命が結ぶ、奇跡。
 ふふっ、奇跡なんて言葉は失礼よね……だってそれは、誰にだって起こせるんだから。
 私にだって『貴方』にだって。
 絆を結ぼう。
 世界を……結ぼう。
『お疲れ様、かがみっ』
「あ……」
 最後にもう一つ声が、聞こえた。
 その言葉が私に届くと、視界が滲んだ。
『ほらっ』
 私の前に、声の主が手を差し伸べる。
 その手から漏れる優しさは……私がよく知っているもの。
 この世界の誰もが知らない、私だけが知る……かけがえのない、大切な人。
 違う世界まで、私を迎えに来てくれたんだもんね。
 貴方だけじゃない、他の皆だって。
 感じるよ……皆が居るのを。
 皆の手が私に伸びてる。
 つかさに、日下部に、ゆたかちゃんに、みなみちゃんに、おじさんに、かなたさんに……みゆきに!
 そして……。
 うん、大丈夫。
 見えるよ……涙で滲んだ瞳にだって、それぐらい見える。
 花に手が届かない?
 想いが伝えられない?
 元の世界に帰れない?
 なら簡単よ……向こうにも手を、伸ばしてもらえばいい。
 そしたら後は、手を掴むだけ。
 ほら、それだけで……繋がるんだ。
『おかえり、かがみっ』
「うん、ただいま……こなたっ」
 その手にただ私の手を、重ねた。


 晴れた暗雲から漏れた朝日が、心地よく平安の大地を照らしていく。
 月はもう、全て沈んだ。
 世界は……救われた。
 彼女によって、神によって。
「……あいつは?」
「もう、帰りました……彼女の世界に」
 近くを飛んでいた虫に問いかける。
 何だ、一人で帰れたのね。
 他の私ももう存在を感じない。
 皆戻ったんだ……それぞれの、あるべき場所に。あるべき世界に。
「……ありがと。私の事、見捨てないでくれて」
 下げる頭も私にはないのかもしれない。
 自分の持論を振りかざし、奢り、嘲り、罵り……世界を壊そうとした。
 それでも、救おうとしてくれたんだ。
 こんな馬鹿な……私を。
「それが、私の役目ですから」
 そう言うと、淡い光がその虫を包んでいく。
 それと共に感じる……私の中でも、全てが元に戻っていくのが。
「少しずつ、ゆっくりと世界は元に戻ります……それは貴方も、彼女も同じ」
 そう……だったわね。
 貴方は本来は、人の前に姿を現さないはずの存在。
 それでも私のために、その身を賭けてくれた。
「じゃあ、忘れちゃうのね……あんたのことも、あいつのことも」
「ええ……でも、心は覚えています」
「……そっか。そうよね」
 心に刻み付けよう。
 この日のことを。
 私のしてしまった事を。
 私の犯した罪を。
 魂に刻み付けよう。
 貴方のことを……そして、彼女のことを。
 それならほら、覚えてるのと同じでしょ?
「ずっと、見守っていますよ」
 淡い光が消える。
 最後にあの優しい笑顔が、見えた気がした。
「かがみ、かがみーっ!」
 こなたの声が空から落ちて辺りを劈く。
 見上げると、そこにはこなたがいた。
 何時の間にか彼女の姿は、いつものあの梅の木の上に。
「朝日が見えるよ! ほら、かがみもっ!」
「あ……」
 こなたの手が、私に伸びる。
 この手を掴むことは容易く……難しい。
 そう自分に言い聞かせて、私は逃げてきた。
 でももう……決めたんだ。
 世界を受け入れよう。
 世界と……繋がろう。
 ゆっくりと伸ばした手で、彼女と繋がる。
 重ねた手は、暖かかった。
 寄せ合った肩は、恥ずかしくて何処かくすぐったかった。
 照らす朝日が、眩しかった。
 それは、明日に……未来に続く朝日。
 陽はまたいつものように繰り返し、時を刻んでいく。
 これから私たちには、どんな運命が待っているんだろう。
 きっとそれは、辛い道……茨の道。
 だけど大丈夫。
 いくら辛い運命に挫けても。
 どんなに悲しい運命に心折られても。
 私たちはまた、立ち上がれる。立ち向かえる。
 何でかって?
 ふふっ、私も同じ事を……私に聞いたわね。
 そういう時は何て言えばいいかなんて、愚問よね?
 憎たらしいぐらいの笑顔で言ってやりましょう。
 繋がってるから、ってね。

 私たちは繋がってる。
 心で、絆で……『世界』で。

 世界とは繋がり。
 人が紡いでいく、生命という名前の輪。
 人はいつか消える運命にあるのかもしれない。
 いつかは大切な誰かと、別れる運命にあるのかもしれない。
 でもその魂だけは受け継がれる。
 その子に、その孫に……その、大切な誰かに。
 それが、生命という有限。


 それでも私たちは繋がっている。
 それだから、私たちは繋がっていられる。


 もう私は目をそらさない。

 立ち向かおう、辛い宿命に。
 戦おう、私を取り囲む運命に。

 生きよう……この、世界で。
 この……『私』の世界で。
 こなたと、皆と、まだ名前も知らない誰かと一緒に。


 それが私たちの紡いでいく『永遠』。
 かけがえのない……生命の、永遠なのだから。


ED:

ttp://www7b.biglobe.ne.jp/~administrator/upload10000271395.wmv













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  • だ、だれか!
    これをノベルゲームにするんだ! -- 名無しさん (2008-03-31 14:33:35)
  • 訂正
    4-243氏に提供してもらったのは下記でした
    ttp://www.geocities.jp/extream_noise/rakisutaep/bu-wa_san/hitosode_ed.wmv

    場所提供に感謝してます! -- ぶーわ (2007-12-06 02:24:33)
  • 4-243氏にEDの場所を提供してもらいました。 -- ぶーわ (2007-12-02 11:06:24)

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