kairakunoza @ ウィキ

幸せの記録

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匿名ユーザー

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泉そうじろうは、一台のデジタルカメラを持っている。
仕事用に購入したもので、今も作品を書き上げるのに欠かせない相棒だ。
そのメモリの中には、仕事用に撮った資料写真で一杯になっている。

だが、それに負けないくらいの数の「とある写真」がもう一つのメモリーカードに収められている。
そのカードは無くさないように毎回所定の場所にしまってあり、かつ丁寧に保存されている。

そのカードの中身に収められているものは…
彼の娘、こなたの写真だ。


「…おとーさんっ、暑いからひっつかないでくれる?」

このデジカメを初めて使ったとき、娘であるこなたに言われた言葉。
だが、何だかんだ言って最後まで付き合ってくれたのは、ある意味流石というべきか。
途中で心霊写真騒動もあったが、結構良い写真が撮れたようだ。

(良い感じに撮れたな…また今度印刷してくるか。)

メモリ画面を見ながら考えるそうじろう。
その表情は、普段とは違う笑顔だった。

彼の書斎にある本棚には、資料の他にアルバムが本棚の一角を占領している。
それには、実に20年以上に渡っての写真が詰め込まれていた。
そうじろうとかなたの思い出の写真。
こなたの成長記録。

…そして、そうじろう・かなた・こなたの三人の思い出。

しかし「三人の思い出」のアルバムは、一冊しかない。
かなたが早く逝去してしまった事もあるが、一冊しかないのはもう一つの理由があった。
それは、かなたの通夜・本葬が終わった後に、かなたの実家からあった一つの申し出だった。

『かなたの笑顔の記録を譲ってほしい』

この申し出に、そうじろうは断る理由が無かった。
これから始まるはずだった、両親と子供の希望に満ちた暖かい生活。
当然その生活を見たいと望んでいたのは、かなたの両親も例外ではない。
せめて、自分の子が通ってきたその「断片」を…
いや、そんな言葉では片付けられない様々な思いを重ねて、そうじろうに頼みに来たのだ。

そうじろうは、すぐに写真の選定に取り掛かった。
かなたにとって、そして自分にとっても一番幸せだった時。

「…やっぱり、この時しかないよな。」

…それは、こなたが生まれて家族が増えたときだ。

写真はアルバムに換算して二冊半程撮り貯めていたが、そのうち約半分を譲ることにしたのだった。
さらにその後、こなたに少しだけ三人集合の写真を含めたアルバムを譲ったため、
現在彼の書斎には一冊だけ三人の記録が残っている、という事になった。


そしてこなたがある程度成長してきた時、そうじろうにある種の不安が脳裏をよぎるようになった。

(…こなたは、俺より先に死んだりはしないよな…)

人というものは、いつ、どんな状況に陥るかわからない。
当然、明日いきなり死んでしまうこともありうる。
そうじろうもこなたも例外ではない。

…だが、そうじろうは『娘が先に死んでしまう』という事が何よりも不安であり、そして怖さを感じるようになった。
成長するにつれて、亡き妻であるかなたに似てきた事も追い討ちをかけたのかもしれない。
同時に、家族というものの大切さを今まで以上に強く実感し始めたのも事実だった。

それからだった。
そうじろうは、積極的に『家族としての』記録を残すようにし始めたのだ。
こなたの姿が収められているデジカメのメモリーには、半分近くそうじろう自身も写っている。

ある時、毎回セルフタイマーを使って自分も写ろうとするそうじろうに、こなたが聞いたことがあった。

「お父さん、何で毎回セルフタイマーで自分も写ろうとするのさ?
 撮る度にそうするから、いっつも時間かかってばっかじゃん。
 お父さん自身も、私が撮ってあげてるでしょー?」

これに対し、そうじろうはいつものおどけた調子で返した。

「ん?そりゃーやっぱり、大事なこなたと一緒に写りたいからかなー」
「…何だか危ないヨ、その発言…」

多少あきれ気味に返すこなた。
だが、その後にそうじろうが真面目な顔をして続けた。

「まあ、今はまだわからないかもしれないが…そのうちこなたにも意味がわかるよ。
 …少なくとも俺が死んだ時か、こなたが結婚した時には、はっきりとな。」
「ちょ、ちょっ!?
 何いきなり死ぬとか重い話題出してんの!?」
「はは…悪い悪い、気にしないでくれな。
 よし、もう一枚撮るぞ!」
「ええぇぇ、まだ撮るのー?勘弁してよー!」

笑いながら、そうじろうはある事を考えていた。
このまま何事も無ければ、自分が先に死ぬだろうと。
その時に、こなたはどうなっているだろうか。
主婦として家族を持ち、幸せに暮らしているかもしれない。
独身を貫き、仕事を持ってバリバリと働いているかもしれない。
しかし、どちらにしても『その時』が来たら、こなたは家族の一人を失うことになる。

まだこなたが非常に小さいときに、かなたは死んだ。
当然、当時のこなたには「母が死んだ」という意味はわかっていなかった。
理解したのは数年経ってからだったが、その時には時間経過も手伝ったのか冷静に受け止めていた。

だが、次が来るときは違う。
あの頃とは違って、こなたはもう一人前になっている。
全てを理解できる状態で、家族の死という現場に居合わせなければならないのだ。
その時、こなたはどうするのだろうか…と。

そんな時の為に、そうじろうは自分に最大限出来るだけのことをしていた。
多少迷惑がられてはいるが、こなたへの惜しみない愛情。
そして、家族としての記録を残していく努力。
気がつけば、それがそうじろうのライフワークの一つとなっていた。
ある意味行きすぎとも言える愛情のかけ方は、『家族をこれ以上早くなくしたくない』という気持ちの表れもあったのかもしれない。


楽しそうに過ごすこなたを見て、そうじろうは今日も安心と幸せを感じていた。
そして、居間に飾っている『三人の写真』を見て、心の中でかなたに語りかける。

(かなた、見ているか?
 今日もこなたは幸せそうに過ごしているよ。
 俺の願いとかなたの願い、それにこなたはしっかりと応えてくれている。
 こなたが『人生で一番の幸せ』を掴む日まで、俺は頑張っていく。
 その日が来たら、俺は今まで撮り貯めた写真をこなたに渡すつもりだ。
 それを見返したとき、こなたは気付いてくれるだろう。
 そして俺がかなたの元へ行ったとき、『もう一つの意味』にも気付いてくれるだろう。
 言葉では伝えづらい、しかし俺が本当に一番伝えたかった事を…な。)

改めてゲームで遊んでいるこなたを見るそうじろう。

(まあ、まだ彼氏とかは出来てほしくないけどな。
 悲しいけど男親としては、何となくそう思っちゃうんだよ。
 …まあ、こんな考えも程々にしておかなきゃいけないんだろうけどなー)

少し笑いながら、心の会話を終わらせたそうじろう。
そんな時、こなたが急に振り向いた。

「どうしたのお父さん、何笑ってんの?」

ちょっと笑い声が出てたか。
そう思いながら、そうじろうはこなたに返事をした。

「いや、何でもない。
 それよりこなた、敵が目の前に来てるぞー」
「へ……ぬあぁっ!まずいまずいまずい、ボム回避ーっ!」
「STGをやる時、余所見とかする時はポーズかけるの基本だぞ?」
「うう…STGは久しぶりだったから、ついうっかりやっちゃった…」

たまにやる小さな失敗。
そうじろうの目には、そんな姿にかなたの面影がだぶって見えた。

(やっぱり俺達の子だな…改めてそう思っちまうよ。)

そんな事を思った後、そうじろうはこなたの傍へと座った。

「なあ、後で2Pで入ってもいいか?
 お父さんもやりたくなったよ。」
「ん、いいよー
 それじゃあ、次のステージから乱入でお願い。」
「よしわかった、一丁頑張っていくかー」
「足引っ張んないでよ?」
「お、言ったな?よし、見てろよー」

いつもと変わらない、でも暖かい風景。
そうじろうは、確かな幸せを噛み締めていた。


幸せという名の記録。
その数は、まだまだ増えていきそうだ。













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コメント:
  • そうじろう見直しました! -- チャムチロ (2012-08-29 12:50:33)
  • ええ話です…そうじろうの父親の愛情が伝わって来る -- 本楯 (2010-04-10 16:34:33)
  • 暖かい家族愛です。 -- 空我 (2010-02-24 22:49:31)
  • 親心が暖かいっす。
    そうじろうはダメな所も有るけど、
    やはりこういう役回りになると凄い人だって思う。 -- 名無しさん (2007-12-01 14:39:53)

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