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みなみべりー・ぱにっく! ~乙女はゆたかに恋してる~

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 ゆたかが、好き。
 そう気付いただけで、ゆたかとの時間がますます幸せになれる。
 目を合わせたり、言葉を交わしたり、そんな些細な出来事にも、切なくなって、嬉しくなって。

 でも、幸せになればなるほど、ひとりに戻った時に凍えそうになる。
 冷え切った私は、夏が来ても溶けることのない雪野原で。
 ゆたかのくれる温もりも……私の本当の願いには、決して届いてくれないのだから。


       みなみべりー・ぱにっく! ~乙女はゆたかに恋してる~


「みなみちゃんっ」
 駅前の人混みをかき分けて、ゆたかがこちらに駆けてくる。
 これまでだって、見るだけで嬉しくなっていた仕草だけど、今朝は昨日以上に胸が高鳴る。
 もっと見つめていたい?それとも目を逸らしたい?
 変な葛藤を堪えて目を合わせると、ゆたかの笑顔がますます明るくなって、それに比例する
 ように私の体温も更に上がっていく。

「おはようっ、最近よく一緒になるよね」
 火照りを強引に落ち着けて、そうだね、と曖昧に答える。
「……大丈夫?何だか疲れてるみたいだけど、悩み事、とか?」
「え……」

 どうして分かるのだろう?口ごもる私の目を、不安げに見つめてくる。
 確かに最近寝不足だけど、体力には自信があるし、顔だって念入りに洗っているのに。
 でも、まさか原因はゆたかだなんて言えないけれど、こんな風にゆたかが見てくれるのは……。

「やふー、みなみちゃんおはよー」
 大丈夫だよ、の返事も忘れて、思わずぼうっとしていた私を、まったりした声が引き戻す。
 青空色のロングヘアに、ゆたかと同じ翠色の澄んだ瞳。ゆたかのお姉さん代わりの、泉先輩だ。
 一緒に来た柊先輩達のもとを離れて、こちらにてけてけやってくる。

「わざわざ悪いねぇ、結構前から待ってたでしょ?」
「いっ、いえ、」
「ふふーん、その反応……やっぱりゆーちゃんを待っててくれたんだ?」
 思わず表に出た動揺を、見事に捕まえられた。しまった!と気付いた時にはもう遅い。
 顔を火照らせあたふたするゆたかの隣から、泉先輩がずずいっ!と顔を寄せてくる。

「いやー、まさか二人がこんなにラブラブだったとは、お姉ちゃんびっくりだよ♪これは帰ったら
 お赤飯だね。なあに心配には及ばんよ、キミ達の結婚式は全力でプロデュースしてしんぜよう」
「お、お姉ちゃんっ、みみみなみちゃんはそんなんじゃ……」
「ったく何後輩で遊んでんのよ?あ、ゆたかちゃんにみなみちゃんは気にしなくていいからね」
「い、いえ、……」

 真っ赤になりながら必死に弁明するゆたか。
 その横ではかがみ先輩が慌ててフォローを入れたり、つかさ先輩が一すじの汗を流しながら、
 困った笑顔で『ドンダケー』と見守っている。

「けど思い出すねー。告白した次の日、誰かさんもこんな風に家の前まで迎えに来て……」
「ちょ、おまっ!?」
「『かがみ?来てくれたの!?』『だって、こなたの側にいないと、私、寂しくて……ぎゅっ』」
「人前でばらすなっ、とゆーか勝手に変な脚色しまくるなっ!!」
「んふふ~、からかわれてると分かっていてもやっぱり突っ込まずにいられないかがみ萌え♪」
「こらっ、あんた朝っぱらから、もうさっさと離れ、っ~~~~~~!!」

 仔猫のようにかがみ先輩にじゃれつく泉先輩と、言葉では怒っていても、口調と仕草は甘々の
 かがみ先輩。それは見ているだけで、楽しくなれるやり取りの筈なのに。

 私の心は、薄曇りのままだった。



 はぁ……。
 チョークと解説の声を、ため息が遠くする。
 普段なら口頭での注意まで書き込んでいるノートも、殆ど埋まっていない。
 いつの間にか斜め前の後ろ姿を見つめていて、それに気付くたびに無理矢理ノートに向かって、
 なのにどうしても集中できなくて……そんなループを繰り返す。

 始めはただの友達だと思っていた。
 ゆたかが笑うと嬉しくなるのも、お礼を言われてどきどきするのも、私が照れ屋さんで、そういう
 ことに慣れていなかったからだと信じてた。
 日を追うごとにどきどきが強くなるのも、仲良しが深まっているから。
 ゆたかが他の人と仲良しにしていると落ち着かないのも、ゆたかが心配だからだって。
 それなのに。

 『いやー、まさか二人がこんなにラブラブだったとは、お姉ちゃんびっくりだよ♪』

 ゆたかの側にいる、二人の先輩を思い出す。
 アキバ系で悪戯好きの泉先輩と、泉先輩のお姉さんのようなかがみ先輩。
 いつも漫才みたいに賑やかで、時々口喧嘩もしているけど、何故かお互いを本当に好き合って
 いるのが伝わってきて、見ているこっちまで幸せになってしまう。
 昔話題になった『おたく青年と美人OL』以上の、誰もが認める陵桜最高のカップル。

 『かがみ先輩って普段はああでしょ?でも、こなた先輩と一緒だと~』
 『そうそう、あたしはレズ苦手なんだけどあのカプはガチ!もう見ててスッゴイ可愛い!!』

 前にクラスメイトが話していたフレーズが浮かんでくる。この学校には、女性同士のカップルも
 結構いるけど、それも間違いなく先輩達の影響だと思う。
 そんな二人のいる学校なら、ゆたかに伝えられる?
 そんな二人をいつもすぐ傍で見ているゆたかなら、私の気持ちも受け入れてくれる?

 ……何、考えてるんだろう。

 打ち明けてしまったら、きっとゆたかを困らせる。
 突然の告白に戸惑って、私の気持ちに応え切れなくて迷って、それでも精一杯笑顔を作って
 私に付き合ってくれたり、今まで通りの関係を続けようとする――そんなゆたかは見たくない。
 それとも、同性趣味の私を気持ち悪く思うだろうか?
 ゆたかを失くして、ゆたかが引き寄せてくれていた田村さんたちとも遠のいた毎日を想像する。
 中学までは慣れていた孤独だけど……今戻されたら、多分自分を支えられない。

 『お、お姉ちゃんっ、みみみなみちゃんはそんなんじゃ……』

 反芻される言葉から逃げるように、ぎゅっと目を閉じる。
 ゆたかを見るだけでドキドキして、ゆたかと話すだけで嬉しくて、ゆたかに触れるだけで幸せで
 ……でも、そうやって鼓動が高鳴るたび、心に見えない針が刺さる。

 こんなに切ない、叶わない夢なんていらない。
 なのに何度吹っ切ろうとしても、またゆたかを追いかけてしまう。
 むしろ、感情を抑えれば抑えるほど、忘れようとすればするほど、秘めた気持ちは増していく。
 そして――。

「どうして……」

 神様は意地悪だ。
 こんなに『起きないで』と……いや、『起きて欲しい』と願っていた事件を、こんなに切ない時に
 起こしてくれる。

 さっきまで何ともなかったゆたかが、俯いて荒い息をしていた。


 一見顔を教科書に近付けて、難しい構文と格闘しているように見える。最近はゆたかも、周りに
 迷惑をかけたくなくて、多少調子が悪くても、平気なふりをしてしまう。
 だから余計不安になる。
 私だってずっとゆたかを見てきたから、ゆたかがどんなに『空元気』を演じても、本当は必死に
 我慢してるのがすぐわかるんだよ?

 板書を続ける先生やノートを取るのに忙しい生徒は、ゆたかの隠れたサインに気付けない。
 パトリシアさんは席が遠いし、田村さんは……手の動きからして、文字ではない別のものを
 描くのに夢中だ。
 気付いているのは自分だけ。でも……。

 昼休みまで、あと20分強。
 具合悪いゆたかの面倒を見るなら、今手を挙げて授業を抜けても何も言われない。
 しかも、保健室までゆたかに触れていられるし、ベッドに寝かせた後は1時間以上二人きり。
 そうすれば……。

「……っ!!」
 頬を叩いて、汚れた思考をリセットする。
 ゆたかが辛いのに、どうしてそんなことを考えるの?

 ゆたかに視線を戻す。相変わらず必死に我慢しているけれど、その姿勢はもう、俯くというより
 倒れかかっていると言った方がいい。
 髪の間から覗く肌も蒼白で、頭痛や悪心を堪えているのか、肩でつく息も苦しげだ。
 ――これは、すぐに休ませた方がいい。

「先生、」
「ん、岩崎どうしたん……」
 先生の返事も待たずに、つかつかとゆたかのもとに向かう。
 半分は、ゆたかが心配だから。もう半分は……。

「ゆたか、保健室に行こう」
「ううん、別にどうってことないから……」
「駄目」

 頑張って笑おうとするゆたか。でも、どんなに取り繕ったって、こんなに青ざめて、嫌な汗を
 浮かべた顔では、こっちは不安になるばかり。
 ざわめく生徒も気にせずに、シャーペンを持ったままのゆたかの手を取ると、ゆたかも観念して、
 「ごめん」と呟きながら、言うことを聞いてくれた。

「大丈夫、ちゃんと立てる、から……あ、あれ……?」
 立ち上がろうとして、目眩で動けなくなる小さな背中を、慌てて抱き止めながら。
「先生、ゆたかの具合が悪いので、保健室に連れて行きます」
「岩崎さんだけで大丈夫?付き添いとかは?」
「私だけ……」
「ううん平気、みなみちゃんが支えてくれれば、ちゃんと歩けるから」
「そう?それなら、いいんだけど……」

 黄色い声や冷やかしの視線の中、私は『いつものように』ゆたかを保健室に連れて行った。
 助っ人を申し出た田村さんに、小さな苛立ちを感じながら。
 それをやんわり断るゆたかの返事に、心の中で安堵しながら。


「ごめんね、みなみちゃんに心配かけたくないのに、いつも助けてもらってばかりで……」
「そんなことない。むしろ、こういう時は素直に甘えた方がいい」
「うぅ~……」

 ベッドで力なく笑うゆたかを、本音を伏せて看病する。
 額に浮かんだ汗をお気に入りのハンカチで拭うと、自分でやるよともぞもぞする。
 でも、そんな遠慮を無視して続けると、すぐに私に身を委ねて、くすぐったそうに目を閉じてくる。
 ゆたかは一挙一動がずるい。
 私なんかと違って、純粋で、頑張り屋さんで、こんなに可愛らしくて。

「みなみちゃん……」
 不意に、ゆたかの声が自己嫌悪に割り込んでくる。
「どうしたの?どこか、痛いの?」
「ううん、みなみちゃんが元気ないから……やっぱり、なにか悩んでることとかあるの?」
「それは……」
「良かったら、話してくれないかな。 私なんかに力になれるか、分からないけど……」

 不安げに見つめてくるゆたかに、胸が熱くなる。
 歩くのも辛いくらい調子が悪い時でも、私のことをこんなに気遣ってくれる。
 ……やっぱり、ずるい。
 あんなに自分に言い聞かせていたのに、こんなに優しいから、傍にいてくれるから。

「ゆたかは、……私のこと、どう思う?」
 つい、呟いてしまっていた。どうにでも誤魔化せるように、言葉を選びながら。
「みなみちゃんのこと?」

 凍った感情から、少しずつ秘密を零していく。
 やっと築いた友達関係を、ボロ一つで崩してしまう……そんな危険と隣り合わせなのに。

「恥ずかしいんだけど、今、す……その、好きなひとがいて……」

 すぐ目の前で横になっている『好きなひと』の前で、『好き』と口にする。
 ぼかしを入れていても、遠回しに告白しているようで、緊張で言葉が途切れ途切れになる。
 顔も真っ赤で、胸が甘く締め付けられて苦しくて、とても、ゆたかと目なんて合わせられない。
 ……それなのに、ゆたかはじっと、私の話を聞いてくれる。
 頬を赤らめながら、まるで、自分のことのように。

「でも、その人には、どうしても好きなんて言えない」
「どうして?」
「だって、私のことを好きになってくれる筈がないから。それに、その人と違って、私は」
「だめだよ」

 真摯な瞳で、台詞を中断する。

「みなみちゃん、今『無表情で冷たくて……』とか続けようとしたでしょ?」
「う、うん……」
「そんなこと言っちゃだめだよ。みなみちゃん、こんなに優しくてかっこいいんだから」

 可愛く膨れながら反論する。それなのに決して嫌な気持ちにはならない。
 まるで、疲れて愚痴を漏らした所を、子供に『そんなこと言っちゃダメです!』なんて注意された
 親の気分。嗜められているのに、心がほっこりする。

 ……でも、それは同時に毒だった。
 ゆたかは優しすぎるから。緊張と幸福でカムフラージュしながら、それまで辛うじてバランスを
 保ってきた理性を、少しずつ蝕んで……
 誰も知らない場所で、最後のトリガーを引いてしまう。


「……じゃあ、もし私みたいな人が、好き……って言ったら、ゆたかなら付き合う?」
「えっ、み、みなみちゃんに?」
 軋みが亀裂になって、全体に拡がっていく。

「私なんかを好きになってもらうなんて、悪い気もしちゃうけど、みなみちゃんみたいな人だったら
 間違いなく付き合うよ」
 都合のいい解釈だよと、理性が必死に警告している。
 でも、もう届かない。

「本当に?ゆたかはそれでいいの?私なんかを好きでいてくれるの?」
「当たり前だよ。私、みなみちゃんのこと……」

 その言葉が届いた瞬間、最後のタガが弾けた気がした。
 ゆたかと自分の温もりを吸い込んだハンカチが、指先から抜け落ちる。
 冷たい床から、はさっ、と小さな音が聞こえたのを合図に、私はゆたかに覆い被さって……

「え、みなみ……あ、んっ!?」

 自分が自分ではない誰かにすり変わったように、目を閉じて、ゆたかと唇を触れ合わせていた。
 直接伝わってくる、柔らかな感触。
 ほんの少しだけ口を開けると、ゆたかの息が忍び入ってくる。味なんてない筈なのに、ゆたかと
 キスしている事実だけで、頭の中が惚けていく。
 ゆたかの体温、ゆたかの感触、味……もっと、欲しい。

「ふぁっ、ん……っ」
 刺激が更に興奮を呼び、愛撫が濃密になっていく。
 触れるだけでは足りなくて、可愛らしい唇を啄み、微かに開いた隙間から舌先を挿し入れる。
 歯茎を這い、その先のゆたかの舌を撫でると、気のせいかゆたかも舌を絡ませてくる。
 それは、どれくらいの時間だったろう。
 ゆたかが酸素を求めて身をよじるまで、私はゆたかに溺れて……。

「ぷはっ……」
 名残惜しみながら、ゆたかを開放する。
 唇を離して目を開けた時には、それまで荒れ狂っていた感情が嘘のように引いていた。
 更に時間差を置いて、理性が戻ってくる。
 だが、堕ちた天使が、永遠の氷雪の中に叩き落されたように。夢から突き落とされて、理性と
 感覚が繋がった瞬間、それまでの熱情が反転して、私の何もかもが蒼褪めた。

「あ……あ……!」
 それまでの行為を突きつける、私とゆたかを結ぶ銀の糸。
 愛し合う恋人同士を繋ぐ筈のそれが、今、目の前で重力に引かれ落ちていく。

「みなみ、ちゃん……どうして、……?」
 こちらを呆然と見つめるゆたか。
 もう表情は読み取れない。読み取る余裕も、読み取る資格も、私にはない。

「ごめん、私、ゆたかのこと……酷いよね、こんなことして、ごめ、本当に、っ……」

 たった一人の友達を、欲望のままに求めて、唇を重ねて、舌を絡めて……。
 まるでフィルムをブチ撒けたように、頭の中に無数の映像が溢れ出して、錯乱状態の良心を
 責め立てる。ゆたかを裏切った私。私に裏切られたゆたか。
 涙が、後から後から溢れていく。でも、そんなもの、何の許しにもならない。
 わたしは、わたしは……。

「みなみちゃ……」
「駄目っ、もう、私なんかに近寄らないでッ!!」

 縋るゆたかの声を振り捨てて、私は保健室を逃げ出した。
 止められない嗚咽を、リノリウムを蹴りつける音で誤魔化しながら。










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  • ゆたかぁーっ -- 名無しさん (2010-04-11 03:27:27)

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