この空間に集う多くの人々の心の中で、その数と同じだけの『こなたという少女』が一人一人の思う愛しい姿で存在するに違いないから…
『このSSで語られる、一人の少女こなた』は、全く趣味のための物欲にまみれていた…と始めることでお許しいただきたい。
『このSSで語られる、一人の少女こなた』は、全く趣味のための物欲にまみれていた…と始めることでお許しいただきたい。
イブのこの日も、こなたはコスプレ喫茶のアルバイトを終えた。すでに家々の明かりの中ではイブの晩餐が始まり、まだ街角にいる人々は足早に家族や恋人のもとに向かう時刻になっていた。この日ばかりは贈り物を探す人のためにも営業時間を延長しているその手のショップも少なくなかったので、こなたはこの時期に集中発売されるグッズの自分の買い物を楽しむことができた。
それが楽しみで、この日はそんな彼女にも声を掛けてくれる友人や家族からのパーティーの誘いすら断っていた。
帰り道で教会の前でシスターに寄付を求められたが、目前の冬コミに少しでも資金を回したいこなたは黙って通り過ぎた。
両手に一杯の今日の戦利品の紙袋を抱えて遠ざかるその後ろ姿が消えるまで見守っていたシスターは、悲しそうにため息を漏らすと光に包まれた白い衣装姿になって天に昇っていった。青い長い髪をしたその小柄な姿はどことなくこなたに似ていた。
わずかな寄付でもしていたら、慈悲深い神がお与え下さるクリスマスの奇跡にめぐり逢えていたのだが、もちろん神ならぬこなたはそれを知る由もなかった。
それが楽しみで、この日はそんな彼女にも声を掛けてくれる友人や家族からのパーティーの誘いすら断っていた。
帰り道で教会の前でシスターに寄付を求められたが、目前の冬コミに少しでも資金を回したいこなたは黙って通り過ぎた。
両手に一杯の今日の戦利品の紙袋を抱えて遠ざかるその後ろ姿が消えるまで見守っていたシスターは、悲しそうにため息を漏らすと光に包まれた白い衣装姿になって天に昇っていった。青い長い髪をしたその小柄な姿はどことなくこなたに似ていた。
わずかな寄付でもしていたら、慈悲深い神がお与え下さるクリスマスの奇跡にめぐり逢えていたのだが、もちろん神ならぬこなたはそれを知る由もなかった。
…………
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「こなたぁ、昨日のイブもすごい荷物だったし、冬コミも、趣味全開の『大人買い』もいいけど、こんな娘にだけにはならないでくれよ。」
「むう、おとーさん、物書きらしくSSでお説教なんて…… それに、おかあさんを出すなんてヒキョウだよ」
「ま、『このSSのこなた』は、スクルージをイメージしたんだがな。わかんないかな?こなたが読みそうにないジャンルの小説の……」
「イエイエおとーさん、クリスマス・キャロルくらいは」
「ふーん、意外だな、いつ読んだんだ?」
「えっと、なっ夏休みに英語の課題でネ、うん、自分で訳すの大変だったんだから」
「そうか、ふーん……」
(口が三角だぞ、こなた。さては、かがみちゃんのお世話になったな)
こなたを見ながらそうじろうは苦笑いを隠して言った。
「ところで、クリスマスの今日もこのあとバイトだろ?かがみちゃんとか、友達とクリスマスのプレゼント交換とかはしないのかい?」
「うん、みゆきさんは家族で海外だけど、つかさとかがみとはバイトの後ちょっとだけ会う約束してるから。大丈夫だよ、おとーさん、私もう一人ぼっちじゃないよ」
「むう、おとーさん、物書きらしくSSでお説教なんて…… それに、おかあさんを出すなんてヒキョウだよ」
「ま、『このSSのこなた』は、スクルージをイメージしたんだがな。わかんないかな?こなたが読みそうにないジャンルの小説の……」
「イエイエおとーさん、クリスマス・キャロルくらいは」
「ふーん、意外だな、いつ読んだんだ?」
「えっと、なっ夏休みに英語の課題でネ、うん、自分で訳すの大変だったんだから」
「そうか、ふーん……」
(口が三角だぞ、こなた。さては、かがみちゃんのお世話になったな)
こなたを見ながらそうじろうは苦笑いを隠して言った。
「ところで、クリスマスの今日もこのあとバイトだろ?かがみちゃんとか、友達とクリスマスのプレゼント交換とかはしないのかい?」
「うん、みゆきさんは家族で海外だけど、つかさとかがみとはバイトの後ちょっとだけ会う約束してるから。大丈夫だよ、おとーさん、私もう一人ぼっちじゃないよ」
実は、夏休みの英語の課題はありきたりだが、O・ヘンリーのいくつかの短編だった。
いくらなんでもクリスマス・キャロルは夏休みには季節外れだし、課題には長すぎる。
いくらなんでもクリスマス・キャロルは夏休みには季節外れだし、課題には長すぎる。
こなたが言葉を濁したのは、こなたの部屋に、いま『三冊』のクリスマス・キャロルがあるからだ。
一冊は、ごく普通の文庫本。冬休みに入る前にかがみからもらったもの。コミケに付き合うかわりに、クリスマスまでに読むようにと渡された本。だからこなたは小説の内容を読み知っていたのだ。
もちろん、こなたに小説などを読むことに少しでも馴染んでほしいと願ってだが、かがみがこなたの父と同じ思いを幾か込めてこの本を選んだ事にこなたは気付いている。
もちろん、こなたに小説などを読むことに少しでも馴染んでほしいと願ってだが、かがみがこなたの父と同じ思いを幾か込めてこの本を選んだ事にこなたは気付いている。
別の一冊は、厚手の豪華本。クリスマスに会えないからと事前にプレゼントとしてみゆきからもらったもの。
みゆきは、「私のお気に入りで恐縮ですが」と言っていた。数編のクリスマス傑作撰で、同小説が含まれている。
数本のうちの一本という形がみゆきらしい心遣いだが、やはりクリスマス・キャロルから感じとってほしい何かの思いを込めたのだろう。
みゆきは、「私のお気に入りで恐縮ですが」と言っていた。数編のクリスマス傑作撰で、同小説が含まれている。
数本のうちの一本という形がみゆきらしい心遣いだが、やはりクリスマス・キャロルから感じとってほしい何かの思いを込めたのだろう。
二人から同じ小説をもらった事を、さらにこれをネタにした話で諭された父に知られるのは恥ずかしい。
最後の一冊は、今朝起きると枕元に置かれていたもの。父からのプレゼントは机の上に置かれていたので、父からではないようだ。
ごく普通の装丁だが、奥付からこなたの生まれた日よりもさらに10年余り昔の本だと分かった。しかし、ずっと大切に扱われていたことが分かる綺麗な本だった。
そして、メッセージカードの代わりにか、青いリボンのついた白い栞が挟まれていた。
それには『 ───なこなたに 』と一言、やさしい文字で書かれていた。
ごく普通の装丁だが、奥付からこなたの生まれた日よりもさらに10年余り昔の本だと分かった。しかし、ずっと大切に扱われていたことが分かる綺麗な本だった。
そして、メッセージカードの代わりにか、青いリボンのついた白い栞が挟まれていた。
それには『 ───なこなたに 』と一言、やさしい文字で書かれていた。
この本については別の想いで言えなかった。
こなたは、自分だけの秘密にしておきたかったから。
こなたは、自分だけの秘密にしておきたかったから。
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