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守りたいもの!第一回嫁決定戦・続

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匿名ユーザー

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 この流れをどうしたものかと自分に問うてみる。
 しかし答えが出るわけもなく現実には理想的な逆転劇が必ず用意されるわけでもない。
 ただ私に出来る事は己の力を信じて闘う事だけだ。





 守りたいもの!第一回嫁決定戦・続





 さて、冒頭三行で格好良い台詞を連ねてみたものの現実の私はガクブル状態。武者震いでもなければ絶頂に達する寸前の痙攣でもない、単にビビっているだけだ。
 緊張度が際限なく上昇していく。マイクを持った震える手。次第に高鳴っていく胸の鼓動。荒くなる息遣い。
 人前で歌うことなんて殆ど経験した事がないのに、それが大事な決戦の舞台へと使われるなんてまさに絶体絶命だった。
「えー、では柊選手お願いしまッス」
 田村さんが言い終わるのとほぼ同時に音楽が流れ始めた。私が一番得意としている曲だが今は敗北への前奏曲と聞こえる。
 運命の序曲は緩やかな曲調から始まった。私は一つ深呼吸、そして歌い出す。
 光の三原色、それぞれのスポットライトが私を照らし旋律が風に乗って私の凛とした歌声が室内を満たしていく。
 それでも……足りない。皆も分かっているだろうが歌っている本人の私にも分かる。
 このまま最後まで今の最高潮の調子を保ってもこなたの点数には届かないだろう。遠く離れた所で必死に頑張る私をもう一人の冷静な自分が冷ややかな目で嘲笑しているのが見える。
 それでも時は残酷なほどの速さと冷たさで過ぎ行く。私の周りの全てが自分を笑っているような感覚に陥る。
 私を照らす照明の光は希望を示しはしないのだろうか。
「諦めないで……」
 青色が極寒の荒涼、転じて終焉を連想させたその時、私の頭の中に聞き覚えのない声が響いた。
「もう一度良く考えてみて、これは何の闘いなのか……」
 それっきり私の脳内は再び静寂を取り戻した。何の事だろうか。今私がやっているのは嫁決定戦―――
「…………!……そういう事だったのね……」
 曲が終わると同時に呟いた。拍手で誰にも聞かれたりはしなかっただろう。
「さーて、注目の採点結果は……」
 全員分の視線が採点中の機械の画面に集まった。急かすような目線に、しかし機械は動じる事なく自分の仕事を自分のペースでやり続ける。
 そしてそれが終わった。
「七十九点!惜しくも八十点に届かなかったー!」
 届かなかったが惜しくもなんともない。これで良かったのだ。
「ふふ、またしても私の勝ちだね、かがみんや」
 勝利の笑みの仮面を顔に張り付けて私に歩み寄るこなた。
「……何勘違いしているんだ」
 少し野太い声で言ってやるとその面に亀裂が生じる。
「な……かがみ、似てないよ」
 それはどうでも良い。私は今から狂戦士の魂を使って魔物札を引きまくって追加攻撃を繰り出すつもりなどさらさらない。
「柊選手の言う通りッスよ、泉選手……」
 こなたの背後には眼鏡を光らせた田村さんがいつのまにか立っていた。
「今までの競技は全て嫁ポイント、略してYPTを争うものだったんです!」
 それ、略せてるのか?平仮名にすると文字数増えてるぞ。
「よ、嫁ポイント!?」
 こなたの顔に驚愕の色が滲み出す。
「そう、この嫁決定戦には嫁ポイントと更にもう一種類、略したらMPTの婿ポイントが存在するッス」
 だから略せてないっての。まぁそんな事はさておき常識的に考えて欲しい。私も勝負に勝てば良いものと思ってしまって気付けなかった当たり前の真実について。
 普通は料理や歌が上手な方が嫁に適しているのではないだろうか。
「この闘いはいかに自分が婿ポイントを稼ぎいかに相手に嫁ポイントを稼がせるかが勝負の分れ目なんです。最終的な結果は婿ポイントから嫁ポイントを差し引いた得点数で勝敗を決めるッス」
 自分で略称を呈しておきながら使わないとはこれ如何に。
「迂闊だったわね、こなた。自ら泥沼に嵌っていくなんて」
 こなたの仮面が剥がれていく。明日にはあんたの衣服も剥ぎ取ってやるから覚悟しておきなさいよ。

 競技場が再び泉家へと戻ったところで現状の整理をしよう。
 もう会場を移動させる事はないからだろうか、リビングには丁寧に各選手の総得点表が張り出されている。それに目をやるとこなたのYPTの欄には『132』、私のYPTの欄には『97』とある。お互いのMPTは変化なし。
 田村さんの言葉から推測するなら次からの競技は両方のポイントを変動させる要素が盛り込まれているのだろう。もしかすると削減する手段も用意されているのかもしれない。
 この闘い実はかなりの戦略性を秘めていたりするのではないだろうか。自分のポイントを増やすか相手のポイントを減らすか、はたまたその逆のポイントを操作するか。
 考えた結果、私は自分の婿ポイントを増やすのを優先するという結論に至った。死のノートを拾って新世界の神になろうとした天才高校生も言った通り、勝つには攻める事が大事なのだ。そう、責める事が……大事!
 そして最後に気になったのが私に語りかけてきたあの声。一体全体何者なのだろうか。候補に挙がるのは神様か熱烈なかがこな派か……後者の気がどんどんしてきた。
 少し前必死に電卓を弄っていた馬鹿ではありませんようにと願って話は進む。つーかこんぐらい自力で計算しろよと。
「三戦目は客観!これはお二人にして頂く事は特にないッス」
 そう説明をする田村さんは途中で話を中断し束ねられた数枚の紙を取り出す。
「予めお二人を知っている方々からアンケートを取っておいたッスよ。質問内容は二人の普段の様子についてッス。それを私とパティが判定して、嫁に見えるというような事が書かれてあれば嫁ポイントに十点加算、逆なら婿ポイントに十点加算します」
 これは皆を信じるしかないだろう。
 普段のこなたはしょっちゅう私をからかってくる。つまり私の前だけで見せるあの女々しい姿は誰も知らないというわけだ。
 それはそれで非常に喜ばしい事限りないのだが、日常のイメージにこなたの女の子らしさというのはあまりない。
 だがかといって私が女の子らしいという印象を皆が受けていると思えない。これは完全に天に任せるしかなさそうだ。
「まず一人目は……柊つかささんッスね。『普段はこなちゃんがお姉ちゃんをからかっている感じ』」
 つ、つかさー!あんた家にこなたが欲しくないのかっ!?これからの時代は一家に一人は必要……じゃなかった、落ち着け私、私専用に一人いれば十分じゃないか。
「これは泉選手のMPTに加点ですね。パティお願い」
「ハーイ」
 こなたの記録が塗り替えられる。そして田村さん、その間に何ネタ帳らしきものを取り出してペンを走らせている。
「続いて高良みゆきさん。『かがみさんは泉さんの保護者といった印象を受けますね』」
 やっぱり頼りになるのはみゆきよね!
「パティ、柊選手のMPT変えて」
「了解デース」
 パトリシアさんは判定の係もするのではないのでしょうか。良いように扱き使われている感じしかしない。つーか嫁と婿の判断の基準が分からん。そしてメモ帳仕舞えよ。
「次は……黒井先生ッスね」
 そこまで手が伸びてたのか。良く答えてくれたわね。
「『泉、ネトゲ仲間の嫁はどないしたんや?』との事ですが……」
「Ohこなた!Japanは一夫多妻制ではアリマセンよー」
「あー、もう普通の関係に戻ったから大丈夫だよー」
 私の為に本気でもない繋がりなのに別れてくれたなんて……思わず涙が出てきそうになってしまう。
「これは泉選手婿の経験があるって事ッスねー。泉選手のMPTプラス!」
 悔し涙がね。
「次は小早川ゆたかさん。『家にいる時のお姉ちゃんはいつも柊先輩の話を楽しそうにします』と……これは泉選手のYPTに加点ッスね」
 ここに来てようやくYPTに変化があったか。
 それにしてもこなた、あんたって子は……!横目で表情を窺うと凄い赤くなって俯いている。この可愛さは罪だ。極刑レベルだ。
 いや、こなたに死なれてしまっては困る。代わりに私の危なっかしい思考を断裁処刑して現実へと復帰、次の回答へと集中。
「岩崎みなみさんは『柊先輩の方が胸が大きいから』……柊選手のYPT追加」
 判断基準そこっすか。
「お次は……蜂屋せいいちさんッスね」
 ちょっと待て待て待て。何をしていらっしゃるんだあんたって人は。
 ここでこんな奴知らねーとお思いのお方も多いかと思う。しかし私にとっては忘れるはずもなき悪夢を思い出させる忌まわしき存在。
 そう、こいつは修学旅行の夜紛らわしい手紙を私に送りつけ、キーホルダー欲しさに私の可憐で純粋な乙女心を侮辱していったろくでなしの名前だ!ふつふつと怒りの感情が込みあがってくる。
 某アニメの本名不明の主人公ではないが、あー忌々しい。まだ反省が足りてないのか私が奴の名前を書いた藁人形に五寸釘を打ち込んだ回数が足りなかったのか。これでこなたの勝利に貢献でもしやがったらどうしてくれようか。
「えーっと……『良く分からん』と書いてるッスね」
 当然だろうが。そんな奴と私もこなたも殆ど接点ないわよ。少し考えりゃ分かる事でしょ円周率を整数でやってる今の小学生でも分かるわよ。
「無効票で良いッスね。次いきましょう」
 とんだ時間の無駄遣いだったわ。今の間があれば自分の世界に入ってこなたと色々な事が出来たのに。
「次は……映画館のケーキバイキングの店員さんッス」
 だから誰に聞いてんだ誰に!
「『G』」
 いい加減指摘しようとしたら田村さんの口からアルファベット一文字らしきものが聞こえてきた。席を立ったついでに紙を覗き込むと、確かにそこには七番目のアルファベットの大文字しか書かれていない。しかも無駄に丁寧だ。
「柊選手のMPT加算ですね」
 田村さん、あなたはそれから一体どれほどの書き手の思惑を汲み取ったのかしら。不満があるんじゃないかとこなたの方を見てみたら、仕方がないと言うような感じで唸っていた。だから何であれだけで会話経験皆無な相手との意思疎通が可能なんだよ。
 まぁ私に得だから何も言わずに席に戻る。
「峰岸あやのさんは『柊ちゃんはリーダーシップとかある頼れる感じの人』との事で柊選手のMPTの加点要素ッスね」
 しんじていたわよみねぎし。あんたならそういってくれるとおもっていたわ。
 音声が流れないのを良い事に棒読みを隠しているわけではない。わたしのこころからのおもいだから。
「最後に日下部みさおさんで『柊の嫁はあたし』」
 おいこら日下部。何どさくさに紛れてんのよ。
「これは無効ですかねー。泉選手と柊選手の競争には直結しませんから」
 こういうところは律儀ね。不服な者はおらず最後のアンカーなのに何の変動も起こさず第三戦目は終了してしまった。
 現在の総得点はこなたのYPTが『142』MPTが『20』、私のYPTが『107』MPTが『30』。

「第四戦目は想像!お二人の想像力を試させて貰うッスよ!」
 昼休憩を挟んだ後、バトルは終盤へと差し掛かる。
「まずお二人にはこれを記入して貰います」
 そして配られたのが縦横共に三つずつのマス目が書かれた紙。真ん中は既に塗り潰されておりこれから何が始まるのかを物語っているようだった。
「実は他にもアンケートを取っておいたんです。事前に調査したのは嫁に必要な要素、婿に必要な要素の二種類ッス」
 今更だが本当に良く答えてくれたと思う。
「マスの中にこれだと思うものをカキコして下さい。そして一致したら塗り潰します。一列揃ったらビンゴ!得点、ゲットだぜ!」
 後ろで電気鼠の擬似的な鳴き声が聞こえるのはあえて触れないでおこう。
「得点はその列に含まれている要素と三十の積で求めます。例えば嫁に関する要素が一つ、婿に関する要素が二つの場合嫁ポイントに三十、婿ポイントに六十の加点となります」
 これはまた戦略的な競技となりそうだ。つーか想像力競ってるかこれ?
「基本は嫁要素と婿要素は均等に書き分けて貰いますがどちらかを偏らせる事も出来るッスよ。その場合超過した数と五の積の数だけビンゴ時に超過した側に掛けられる数字が小さくなります」
 つまり嫁要素二個婿要素六個としたら揃ってもMPTの計算時は二十が掛け加えられ、その逆もまた然りと言う事か。当たりの時に含まれる婿要素の割合は高くなるが得られる得点は低くなってしまう。
 何て頭使うゲームだよ……想像力ほんのちょっとしか干渉してないじゃない。
「ちなみに最初から塗られている真ん中は婿ポイントとして扱うッス。ではカキコ願います」
 パトリシアさんからシャーペンを受け取って二回ほどノック、芯を出す。
 ここはMPTを稼ぎたいところだ。YPTの方が圧倒的に優っているのだからこなたもそれは考えるだろう。
 問題は地道に稼ぐか一発逆転を狙うか、だ。ローリスクローリターン、オア、ハイリスクハイリターンアンドスーパーエクスタシー。
 馬鹿な事を考えながら出来上がった紙を眺める。これで大丈夫だろう。
 一番上の段の左から紹介していく。料理、明るさ、頼もしさ。次の段は心の強さ、気配り。最後に強さ、優しさ、温かさ。特に変哲はないので詳しい描写は省略。
「嫁要素を言ってから婿要素を言うッスよ。では再び柊つかささんから。えーと……料理と笑顔。王道ッスねー」
 料理は絶対出ると思っていた。予想的中気分良くマス目を塗り潰していく。こなたもどちらか、或いは両方当てたのだろう、シャーペンを紙の上で動かしていた。
「次は高良みゆきさん。気遣いと頼りがい」
 これはどうだろう。近いものは気配りと頼もしさがあるのだが田村さんは一致したら塗り潰すと言った。しょうがなく私はその二つを見送った。
「黒井先生は……両方とも優しさッス」
 私が書いている優しさは婿に求める方だ。これ見よがしとペンを走らせる。
「小早川ゆたかさん、和やかさと楽しさ。続く岩崎みなみさんは……優しさと包容力」
 意外と当たらないものね。こなたはどうなってんのかしら。
「蜂屋せいいちさんで儚さと強さ」
 おまっ!何神聖で高貴で気高き私のフィールドを汚してくれる!
 しかし埋まっただけ有り難く思うべきか、いや思えない。いそいそとチェックはするけど思えない喜べない。
「ケーキバイキングの人は料理と温かさ」
 またしても有り難う御座います名も知らぬ一期一会の店員さん。こなたの宣誓の意味はこういう事だったのかしらと今更ながら考える。
「峰岸あやのさんは温もりと責任感。そして日下部みさおさんが両方明るさで終わりッス」
 纏められた二人の意見を聞きながら当て嵌まった項目を調べていく。そして終了次第パトリシアさんが回収しに来た。これも一応補佐の仕事か。私にはどう考えても雑用としか思えない。
「えーと……柊選手は三列揃ってるッスねー……得点は嫁ポイントが六十点、婿ポイントが百八十点」
 これが良いのか悪いのかはこなたの結果を聞かなければ分からない。
「泉選手は四列で……嫁ポイントが六十点、婿ポイントが二百点」
 聞こえてきた数字に即座に反応しこなたを振り返った。
「私は賭けに勝ったよ」
「泉選手は嫁要素を従来のものより二つほど減らしてるッスね」
 どうやら真ん中と少ない嫁要素を上手く利用したらしい。
 こなたは減らした嫁要素二つをそれぞれの右隅に配置していた。その位置なら三列に掛かる事が出来て、更に残りは全て婿要素となる。
 一列にある嫁要素が婿要素より多くならなければ良いのだから右端の縦列が当たらなければ後はどの列が揃ってもこなたは得する仕組みが出来上がっていた。
 良く分からないって人はこなたSUGEEEEE!!とだけ思ってくれれば万事解決。
「これで勝負は最後まで分からなくなったね」
「上等よ。最後の最後で負けを認めさせてあげるわ」
 私の闘志の炎は更なる火力上昇を見せる。風に吹かれて私達の点数表が揺れていた。
 こなたのYPTは『202』MPTは『220』、私のYPTは『167』MPTは『210』。
 いよいよ闘いは最終決戦へと駒を進める。















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  • ルールややこしくて難しいw(^^;)b -- 名無しさん (2023-04-28 13:49:37)

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