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彼女は遷移状態で恋をする-かがみside-(5)

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  • 彼女は遷移状態で恋をする かがみSide(5)


「やぁ、こんにちわ。脳みそ甘露煮太郎君」
「……」
 昼休み。
 いつもの教室を訪れると、いつもの調子で変態メガネの皮肉が飛ぶ。
 でも今は、この皮肉も投げ返す元気もない。
 くぅ、この笑顔が憎らしい。
「……こなた、は?」
 いつも皆の集まる席に、あいつの姿はない。
 そいつの名前を出しただけで、俺の前に居た二人の顔が強張る。
 とくに、メガネのほう。ずれてもないのにメガネの位置を直しやがった。
「どの面下げて会う気でしょうか? 正気の沙汰ではありませんね」
「や、やめなよ……ゆき」
 つかさが俺と険悪なみゆきの間に入る。
 こなたと喧嘩したのは、昨日のことだ。
 あの後、一人になった俺の部屋に二人が戻ってきて……まぁ、フクロにされた。
「こなちゃんは今日は、違う友達と食べるって」
「……そっか」
 空虚な心のまま、席に座り弁当を置く。
 何を気にしてるんだろ、俺。
 喧嘩なんて、今までだってあっただろ?
 だから何でこんなにヘコんでるんだよ、俺。
「まったく、しょうがありませんね……」
 すると、みゆきが溜息をついて机をゴソゴソと漁りだす。
 皮肉が返ってこないのに不満なのか、ちょっと頬が膨れてら。
 んで、何だよ一体。
 何出されても生憎、皮肉の相手もする気はないぞ?
「これをどうぞ」
「? 何それ、ゆき」
 本当だよ、何だこの紙切れは。
「今日の新聞に折り込んでありまして」
 それは所謂チラシ……何々、花火大会?
 ああ、河川敷でやるあれな。
 今日ぐらい母さんが何か言ってた気がする。
「これがどうかしたのかよ」
「……はぁ」
 さらに溜息つかれた。
 んだよ、訳が分からんぞこんなの見せられても。
「あっ、これで仲直りってわけだね! さすがゆき!」
 どの辺がさすがなのか教えてくれ、弟よ。
 仲直り?
 一緒に騒いで、忘れろって事か?
「仲直りもクソも、向こうが来るわけないだろ……俺が来るなんて言ったら」
 来るわけない。
 そうだ、だって……。
『大嫌いッッ!』
 ああくそ、また思い出しちまったよ。
 面と向かって言われると、結構きついもんがあるよな。
 多分ヘコんでる原因はそれだよ、それ。
 うん、そうに決まってる!
「まぁその辺りは、私に任せてくれれば」
 こ、こいつに任せるのか? 凄く……心配です。
 こういうのは結構難しい問題だから、少し時間を置いてだなぁ……。
「僕も、いいと思うな」
 ぬおっ、つかさまで!
 だから何で皆こんな皮肉メガネを信頼しまくってるんだ?
 俺はいつもろくな目にあっていないんだが……。
「丁度いい機会じゃないかな、いつまでも喧嘩は嫌でしょ?」
「機会……ねぇ」
 確かに、今回悪いのは俺だ。
 あの後だって思いっきり自己嫌悪した。
 それを謝ろうにも……携帯にも出てくれやしない。
 こうやって会いに来ても、避けられてるわけで。
 はぁ……仕方ないのか。
「では決まりですね、では早速泉さんの所に行ってきますね」
「じゃあ僕も。お兄ちゃんはまた何かしでかしそうだからいいよ」
「お、おい飯はどうすんだよ!」
 そそくさと席を立つ二人。
「なかなかどうして、辛気臭い顔を前だと食欲も進みませんので」
「ゆきに、同じ~」
 何だよそりゃ! 人の顔に文句つけてんじゃねえよ!
 辛気臭い?
 ……ああくそ、そうだよ悪いかよ!
 とか怒鳴ったけど、とっとと教室から出て行きやがった。
 はぁ……俺も、自分の教室にでも戻るか。
 違うクラスで一人で飯食ってるって、どんだけ浮いてるんだよ!
 でも、こなた……か。
 どうせ来ないって言うにきまってる。 
 それなら男三人で花火大会か? むさ苦しいったらないね!
 もしそうなったら変態メガネと弟を置いて逃げるね、そりゃもう光速で。
「あれ、柊君一人なの?」
 ん?
 席に戻ったところで俺を呼ぶ声が聞こえた。
 聞き覚えのある声だ。
「まぁな、追い出されちまってさ」
 隣の席の女子だ。
 峰岸あやの……隣りの席の、お節介な女子。
 美人だし成績もいいし、憧れるよなぁ。
 まぁ、俺なんぞ眼中にないんだろーなー……くすん。
 隣りの席の特権で、仲がいいのは俺の人徳さ。ふふんっ。
「なんだひぃーらぎぃ、とうとう友達にまで怖がられたかぁー?」
 その峰岸の席に椅子をつけ、弁当を食べている女子が俺を笑う。
 この無駄に元気な笑い声……お前まで居たのか。
 日下部みさお、無駄に元気なクラスメイト。峰岸とは幼馴染らしい。
 この二人は何故か、俺をあまり怖がらないんだよなぁ……うんうん、人徳人徳。
「良かったら柊君も一緒にどう? 一人じゃ寂しいでしょ」
「あはは、柊は寂しがりやだかんなぁー」
「誰がだ!」
「おっ? いいの? 折角の美女とのランチがパーだぜぇ~?」
「……すいませんでした」
 ひっひっひ、と笑う日下部の隣りに席を設ける。
 そう、これだよこれ。
 あんなむさ苦しい男どもに囲まれるよりこうやって女子との青春を楽しみたいわけですよ。
 あんな弟とか変態メガネとか、あと……むぅ。
「そうそう。柊君は、土曜のお祭り行く?」
「ふぇ?」
 ぼーっとしてたら俺に話が飛んだ。
「お祭りだよ、お祭りー。ほら、今度の河川敷の花火大会」
「あ、ああ。お祭りなお祭り」
 そうそう、花火大会があるんだっけな。
 土曜日なのか、それは聞いてなかったぞ。
 そう何度もないだろうから、みゆきが言ってたやつと一緒だよな。
「それでね」
 すると峰岸が一度日下部を見てから、俺を見る。
 何だ? 今の間は。
「良かったら柊君、一緒に行かない?」
「へっ?」
 頭のネジが、一度飛んだ。
 ……。
 今、なんて?
「みさちゃんと一緒に行こうかと思ったんだけど、女の子二人じゃ危険かなって思って」
 ……まだ上手く、その言葉を租借できない。
 ええと、話を整理しよう。
 つまりなんだ。
 一緒にお祭り行かない?
 ……ってさ。
 それって、つまり……。
「な、なな何言ってんだよあやの!!」
 そこで、日下部が奇声を上げる。
 いやいや、上げたいのはこっちだぞ?
 今俺は……で、ででデートに誘われたんだぜ? あの才色兼備峰岸様に。
 いやまぁ、今の口ぶりからだと日下部もおまけで付いてくるわけなんだが一向に構わん!
 良薬口に苦し!! うおおお顔が緩んでるううう!!!
「ね、どうかな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 い、いかん落ち着け俺。クールだぞ俺。
 こういう時は焦って返事をしたらいけない。
 がっついてると思われるからな……ふぅ、深呼吸深呼吸。
「ん。そ、そうだなぁ……暇と言えば暇だし、暇じゃないと言えばそうでもないような」
 うああ何だよそりゃ、余裕ぶってるつもりか! キモッ!
 いかん、テンパってる! 人! 人! 人!
「そ、そうだぜあやの~。どうせならもっと愛想のいいやつにしたほうがいいんじゃねーの?」
「そう? 柊君なら素でガン飛ばしてるから皆怖がるかなって」
 笑顔で言う台詞じゃないが今は置いておこう。
 え、ええと。返事だよな返事。
 気取ってなく、仕方なくって感じで。
「ま、まぁそうだな……確かに女二人じゃ危険かもな」
「わっ、いいってさ。みさちゃん」
「どっどうせ、あやのとお近づきになりたいとか下心があるんだって!」
 ぐおお、図星!
 ってだから日下部はなんでそんなに慌ててるんだよ!
「じゃあ折角だから携帯の番号交換しよっか、メールアドレスも」
「あっ、ああ。仕方ないな」
 そう仕方ないよな。
 携帯がなければ待ち合わせも出来ないし、そうだよな!
 うおお、緩んでる顔よ強張れ!
 頑張れ俺! クールだぞ俺! 冷静だぞ俺ぇぇ!
「ほら、みさちゃんも」
「わ、分かってるって」
 日下部も携帯を取り出す。
 まぁ、お前も峰岸のついでにじゃあ。
 今日で一気に携帯に二人も女子が増えたー、わーいわーい。
 やばいぞ俺、今なら空も飛べるはず!
 ……。
 はて……なんだろう。
 浮かれてる所為かな?
 ものすごく。
 もの凄く何か……忘れてる気がする。

















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