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みゆき×つかさ・前編

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
一度知りたいと思ったら、気が済むまで何度でも調べて見るのが私の性格でした。
でも今はどうしても知りたいのに、どれだけ調べてもわからない事があるのです。
いえ、調べる前に調べる事自体難しいことなんですけれど……。
あまりにも難しいその謎は、どこかに答えが書いてあるわけでも、誰かに聞いてもわかるわけでもなく
もしかすると、誰にも永遠に答えが出せないままなのかもしれません。
私が知りたい謎。それは……お恥ずかしながら私の想い人の、柊つかささんのすべてなんです。


「私達、付き合うことになったんだ」
顔を真っ赤にして私達から目をそらすかがみさんの横で、少し含みを持ったような笑顔の泉さんが
その言葉を口にしたとき、私達のいつもの楽しい昼食はわずかな間だけ時間を止めました。
「えと……その……え?」
小さなお口に運びかけた箸を止めたまま、つかささんは頭の上にクエスチョンマークを浮かべています。
私もまた、かがみさんと泉さんの顔を見比べるように視線を運びました。
「泉さんと、かがみさんがですか……?」
「そうだよ~。実際は一月ぐらい前から付き合ってたんだけどね。だからこれからそういうことで、よろしくね!」
「ちょ、ちょっとこなた! そういうことはもっとデリケートなんだから……」
「どうして?」
「だっ、だって、私達は女の子同士なんだから、つかさやみゆきに、その……」
「変だと思われるのが怖い?」
「だって、ほら、ね……?」
かがみさんが不安そうな顔でつかささんと私を見ています。
いわゆる世間とは違う、道ならぬ恋に走る事への否定、嫌悪、私達からそういった言葉や感情を
ぶつけられることへの恐怖がそうさせたのでしょう。泉さんはそんなところを微塵も感じさせませんが。
確かにいきなりの発表で驚きはしましたけれど、私は二人の関係を否定しようだなんて全く思いません。
それに、かがみさんの不安は私にも理解できているつもり……なのですから。
身体を震えさせて、私とつかささんの反応を待つかがみさん。私は最適な言葉を捜すために頭を働かせました。
早く優しい言葉をかけて、二人の新しい関係を祝福したい。そして不安を取り除いてあげたい。
泉さんは笑顔を消し、凛とした表情でこちらを見ています。きっとその手はかがみさんの手を握って……。
「お……」
「お姉ちゃん、こなちゃん、おめでとうっ!!」
『お二人とも、おめでとうございます』ととびきりの笑顔で口にしようとしたのですが、
そんな私の言葉を遮るように、つかささんは満面の笑みで答えました。
ああ……なんていい表情。
「つ、つかさ? 私達のこと、認めてくれるの? だって、女同士だよ? 気持ち悪いとか思ったりしないの?」
「もちろんだよ。たしかにちょっとびっくりしちゃったけど、お姉ちゃんとこなちゃんは好きあってるんでしょ?
それなら私は嬉しいよ。私は二人とも大好きだし、そんな二人が幸せなんだから……認めないなんてことないよ!」
「つかさ……つかさ、ありがとう」
涙目になっているかがみさんです。泉さんはうんうんと納得したような表情でいます。
ね、ゆきちゃん?と次はつかささんがこちらの反応を伺い出しました。私はもちろん心からの笑みで
「ええ、もちろんです。お二人ともおめでとうございます。 心から応援させていただきますね」
そう言うと、かがみさんは涙を一粒、ぽろりと零しました。
泉さんが意地悪そうな顔でかがみさんを泣き顔を覗くと、かがみさんは恥ずかしそうに涙を拭います。
お二人とも、本当にお幸せに……その感情に全くの嘘はありません。ただ、私が本当に嬉しいと思ったのは
つかささんが女の子同士の恋愛に否定的でなかったという事実を知る事ができたからなのです。
するほうになるとまた違うのかもしれませんが、私の中でまたひとつ、新たなつかささんの知識が増えました。
それは私に一筋の希望を見出させる、とても価値のある情報でした。
「やっぱり二人とも認めてくれると思ってたよ」
泉さんは得意げな顔をして、再びチョココロネを口にしはじめました。
「つかさはもう、当然のように認めてくれると踏んでいたし、みゆきさんは……ねぇ?」
そういうと、泉さんは不審な表情を私に向けました。その意味がわからずに私が首を傾けると、
「(……みゆきさんも頑張るんだよ? つかさの今の言葉を聞くと、大丈夫みたいだからさ)」
耳打ちで私だけに聞こえるように、そっと囁きました。
「えっ! ……あ……!」
心臓が早鐘を打ち、私は顔を真っ赤にして頭からぼんと煙を出し……たような気持ちにになりました。
泉さんはふっふっふっと笑い、つかささんとかがみさんは不思議そうに私を見ています。
つかささん、そんなつぶらな瞳で今の私を見ないでください。心が見抜かれちゃいそうで……。
しかし泉さん、いつの間に私の気持ちを……ひょうひょうとしていながら、鋭いお方なんですね。
「ゆきちゃん、お顔真っ赤だよ?」
ああ、そんなこと言わないでください……あなたのことを考えたから、そうなってしまったんですよ?
「……お二人の熱気にあてられちゃったみたいですね」
私がそう返すと、かがみさんは頭からぼんと煙を出しました。さっきの私もそうだったのでしょうか……。
私の気持ち、まだ悟られてませんよね? 小さくて純粋な私の想い人には、重すぎるかもしれない気持ち……。


自室のPCでネットの検索に「ひ」と入力するだけで、予測変換に現われる『柊つかさ』の文字。
検索しても彼女の情報が載っているわけでもありません。そもそも珍しい名前なのでたいしてヒットしません。
邪な知識欲、これは重症です……。勉強中もノートの端に、『つかささん』と書いては消すのを繰り返し……。
机の引出しを開けると、一番上にあるのは『つかささん情報』と書いてあるメモ張。
こんなのを持っているだなんて知ると、つかささんは引いちゃうでしょうか。ストーカーと思われたり……。
でも、それでも私はつかささんの新しい情報が手に入ると、こうして書き溜めずにはいられないのです。
知りたい、知りたい、知りたい。つかささんの知識が足りない。誰も教えられない、裏の裏まで知りたい。
つかささんの好きなこと、嫌いなこと、好きな人、嫌いな人、好きな動物、苦手な動物、過去から未来まで、
恋をするとどんな顔をするのか、キスをするとどういう反応をするのか、身体を重ねると……。
つかささんに関することで、無駄な情報などひとつもありません。全てが100へぇの知識。
できれば自分の手で、それらを知っていきたい。つかささんの全てを、私の全てで理解していきたい。
つかささんがそばにいれば、こんなメモ張はいらないのに。気持ちを受け入れてもらえなかったら、潔く捨てられるのに。
お母さん、ごめんなさい。私は女の子に恋をしています。いつもの笑顔で許してくれるでしょうか……。
「みゆき、お友達からお電話よ~」
「は、はいっっっっっ!!!」
我ながら間抜けな声を出したものです。赤面を悟られない様に階段を降りると、お母さんから受話器を受け取りました。
「はい、変わりました私です」
『あ、ゆきちゃん? 夜遅くにごめんね』
「つか……! つかささんですか? こんばんわ。今夜も寒いですね」
電話なんて初めてなわけでも、一度や二度だけなわけでもないのに、どうしてこんなに胸が高鳴るのでしょう。
心音が受話器を通して、つかささんに聞こえてしまいそうです……。
「あのね、お姉ちゃんとこなちゃんについてなんだけど……」
「はい、お二人がどうかされましたか?」
「お姉ちゃんがこなちゃんと電話で話していたのを聞いちゃったんだけど……あ、盗み聞きしたんじゃないよ!!」
「はい、わかっていますよ。(必死に否定するつかささん可愛い……)それで、どうされたんですか?」
「こなちゃん家、ゆたかちゃん家になにかあったらしくて、こなちゃんのお父さんも行かなきゃならないってことで、
こなちゃんひとりになるらしくて。私達がお泊りに行くことになるのかなって思って喜んでたんだけど……」
「ですけど?」
「お姉ちゃん、ひとりで泊まりに行くみたいなんだぁ」
思わず何かを吹き出しそうになりました。かがみさんが泉さんのおうちに、二人きりでお泊まり……。
しかも二人は恋人同士です。これはもう、な、何かあってもおかしくは……。
「そそそ、そうなんですか? まあ、お二人も恋人ですからたまに二人きりになるのもよろしいかと……」
「んー、そうなんだけどね。私はちょっと寂しいかな? やっぱり付き合ってるとそういうものなのかな?」
「まあ、その、はい。ええ、そうですね……好きな人と二人きりというのは誰も願っている事ですし」
つかささんはかがみさんのお泊まりに対し、単なるお友達同士のお泊まりの延長くらいにしか考えてないみたいです。
その純粋さに、申し訳がありません。私の頭の中ではあのお二人が口に出せないようなことをしている姿が……。
「それでさ……私もお姉ちゃんがいないと寂しいし、なんか羨ましいし、だからね? ゆきちゃん」
「はい、なんでしょう」
「お姉ちゃんが泊まるのは明日なんだけど……ゆきちゃんさえ良かったらうちに泊まりにきてほしいなって……」
「え……あwせdrftgyふじこlp! あ、お、お泊まりですか!?」
「うん。お姉ちゃんだとが二人でお泊まりするなら、私達もしちゃえってことで……」
「ふ、二人きりなのでしょうか?」
「いや、いのりお姉ちゃんもまつりお姉ちゃんもお父さんもお母さんもいるんだけど……」
「そ、そうですね。すみません……」
「それにね? 恥ずかしいケド、お姉ちゃんが羨ましい反面寂しくて……ゆきちゃん、だめ……かな?」
完全にノックアウトされました。受話器の向こうには憂いを秘めた目をした寂しげなつかささんがいるのでしょう。
「では、喜んで窺わせてもらいます。でも、よろしいんですか?」
「本当に? もちろんだよっ! ありがとう、ゆきちゃん」
「いえいえ、こちらこそ。お世話になります」
「じゃあお母さんとお父さんに話しておくね! 何時ぐらいに……」
かがみさん、泉さん、お泊まりしてくれてありがとうございます。たくさん楽しんできてください。
そんな感謝の言葉を陶酔状態で思っている私の耳に、つかささんの言葉は届いていませんでした……。


柊家の門構え、靴箱の形、庭の色。すべてが新しい情報。ここは、つかささんの全てを見てきた知識の箱。
そこに一晩も呼吸できるなんて……私にとっては図書館よりも有難い場所なのです。
夕方6時。柊家に明るく迎え入れられた私。すでにかがみさんの姿はなく、もうお泊りに向かった模様ですね。
「いらっしゃい、ゆきちゃん! あがってあがってー♪」
満面の笑みで私を招き入れるつかささん。つかささんが私を求めている……!
部屋着のつかささん。別に初めて見る訳でもないのに、新鮮で愛らしいです。
私がくるということで、この日の晩御飯はつかささんが腕によりをかけて作るそうです。
手伝いを申し入れたのですが、お客さんだからとつかささんのお部屋に通され……。
つまり私は今……禁断の場所に立っているのです。つかささんを良く知る家の、つかささんをよく知る部屋。
ここにはつかささんの日常の、生活の全てが詰まっています。無限の知識欲が更なる高みへと……。
本棚に手を伸ばします。これがつかささんの好きな漫画でしょうか。ケロロ軍曹。初めて聞く名前です。
小説は置いていないみたいです。活字は苦手なようですね。参考書の類も見つかりません。
「これは……!!」
私の身体に衝撃が走りました。色とりどりのカラフルな棚。どこからどうみても衣類棚です。
しかもご丁寧に、どの段に何が収納されているのかわかりやすいように、名前が書いてあります。
一番上はシャツですね。二段目がズボン、三段目はスカートですね。小棚にはハンカチ、と。
一番下は……下着、下着です。大丈夫です。まだ、まだ中は覗いてはいません。
知りたい……! 知識欲のスペースシャトルははすでに成層圏を超えて宇宙に到達しようとしています。
「つ、つかっ、つかささんの、したしたしたっ、下着っはぁ……!」
私は首をぶんぶんと振り、ポケットの中の『つかささん情報』を取り出すとおでこをペシペシと叩きました。
おさまれ私の好奇心、まだ、まだ大丈夫です。デンジャラスゾーンは未知の領域のままです。
壁に掛かっているセーラー服を凝視したあとで、荒くなった息を整えると私は再び部屋を見まわしました。
ファンシーなぬいぐるみがベッドに横たわっています。つかささんは寂しがりやだと聞きました。
いつもこのぬいぐるみを抱いて寝ているのでしょうか。あの小さな身体をぎゅっと押しつけて……。
「はぁ……つかさ……さん……」
私は申し訳無いと思いながらも、そのぬいぐるみを拾い上げると、力強く抱き締め、その香りを味わいました。
気のせいなのかもしれませんが、癖のないフローラルな香り。鼻腔で感じ、身体に電流となって流れます。
「好きです、つかささん……」
つかささん、つかささん、つかささん。幸せなはずなのに、つかささんの温もりを感じると、泣きそうになります。
知りたいことはなんでも知ってきたつもりでした。後で後悔する事になっても、知らないよりはマシなつもりでいました。
私にとって知らないままでいることは、何より悲しい事です。なのにつかささんには私の知らないことが多すぎます。
私が一番知りたいことなのに、もしかすると私は永遠に知らないままなのかもしれません。
色んな事を知ってきたつもりでも、知識だけではどうにもならないこともあるということはわかっていました。
恋心なんていうものも、私もいつかは経験して、そして知っていくものだと。そして今、私は知ってしまっています。
しかし……まさかこんな形で知ってしまうことになるなんて。よりによって相手が女の子なんて。
つかささんは女の子同士の恋愛に寛容ではあっても、当事者になれば違うかもしれない。私は拒絶されるかもしれません。
知りたくてたまらなかったはずなのに、こんなに悩むなら、こんなに苦しいなら、こんな気持ち知らなければよかった。
知りたがりの私が、何を知っても後悔はしなかった私が、『知らなければよかった』と考える日が来るなんて。
「つかささん、つかささん……!」
つかささんが愛くるしくて、愛しすぎて、だからこそ私はこの気持ちを打ち明けられなくて、それがまた悲しくて、
今のように涙が出る理由は知っています。それはきっと、知らないことが悲しいからだけではないからです……。
涙が染み込んではまずいと思い、ぬいぐるみをベッドに戻します。それにしても丸くて柔らかいぬいぐるみですね……。
窓から外を見ると太陽はすでに沈みきっていて、私は思っていたより長い事ぬいぐるみを抱いていたようです。
「ゆきちゃーん」
急にドアが開かれたので、私はびっくりしてしまいました。涙で腫れた目を見せまいと、振りかえらずに答えました。
「は、はい!」
「ご飯できたよー。みんなで食べよ?」
「あ、はい。そうですね! ではいただきますね」
できるだけ目を見せないように前髪をおろして隠すと、つかささんとリビングへ降りました。
つかささんの作ったグラタンはとても美味しく、暗闇が掛かっていた私の気持ちは少しづつほぐれていきます。
自分でも意外と単純なもので、少し恥ずかしいですね……つかささんが作ったと思えば、フォークまで美味しいですね。


「ゆきちゃん、お風呂あがったよー」
身体がから湯気を出して、パジャマ姿のつかささんが現われました。上気してるお顔がまた可愛くて……。
私はつかささんの部屋の構造から配置配色を、克明に『つかささん情報』に書き記していたところです。
ペンとメモ帳を素早く隠すと、「では私もいただきますね」とだけ告げ、着替えを持って部屋を出ました。
あれ……ということはつかささんの全身が浸かった残り湯……。一糸纏わぬつかささんを包んだ残り湯……。
「あ、お湯は変えておいたから安心してね」
そうですか……。
ああ、リボンを外して濡れた髪のつかささんも素晴らしいです。柊家のお風呂の構造、記憶しておきましょう。
あら? これは洗濯機ですね。まさかこの中には……。


しばらくしてお風呂からあがると、私は居間でテレビを見ているつかささんのお父様とお母様に軽く会釈をして、
「お風呂いただきましたー」と言いながらつかささんの部屋にドアをノックし、ゆっくりと開きました。
「あっ、ゆ、ゆきちゃんもうあがっちゃったんだ? は、早いねー」
わかりやすいもので、つかささんは明らかに動揺していて、何かを隠すような笑みを見せていました。
ああ、そんな笑みもやっぱり可愛いです……とかではなくてですね、なにかあったのでしょうか。
つかささんにも知られたくないことはあるでしょう。私は気にしないフリをして、クッションに座りました。
それから二人で他愛の無い話をして、ふと、話題はかがみさんと泉さんのことになりました。
「今ごろ二人ともなにしてるんだろうねー。メールしてみようかな?」
「いえ、せっかく水入らずですので……そっとしておいてあげましょう」
「そうだね。でもなにやってるんだろう。やっぱりゲームしてたりして」
時刻は10時半……私もいつもなら寝ている時間帯です。あの二人はきっと……。
堪えれなくなり、クッションに顔を埋めると、つかささんは不思議そうな顔で私を見つめています。
「きっと……すごく。すごく仲良くしているところですよ」
「やっぱりねー。ああいうのってよくわかんないけど、ちょっと憧れちゃうナー」
悲しいですけれど、つかささんにも想う人がいるのでしょうか。私でよければいつでも……口には出せませんけれど。
泉さん達カップルはどのように、どちらから告白したのでしょう。経験者からヒントを得るのもいいですね。
「ねぇ、ゆきちゃん……」
「はい、なんですか?」
「ゆきちゃんってさ、お姉ちゃんやこなちゃんのことについて、自分はどれくらい知っていると思う?」
「どれくらい、ですか……? そうですね。誕生日、家族構成、住所に電話番号。趣味や人格……。
人格に関しては、誰に対してもそうですが、私も全てを知っているつもりはありません。
それでもあの二人は、一番のお友達ですし、素晴らしい人間だという事は知っているつもりですね」
つかささんはそれを聞き、うんうんと頷いていましたが、何かを思うような顔をした後、
「じゃあ、私については……?」
「つ、つかささんについてですか? 前述の通り誕生日、家族構成、住所……はかがみさんと同じで、
趣味はお菓子作りで、好きな漫画がクッキーで、得意料理はケロロ軍曹で、その……あっ、えっと……」
私は決断を迫られていました。本当はこんな基本的な情報より、もっとたくさんの知識があったはずです。
しかし、正直にそれらを口にして、つかささんに気味悪がられたりでもしたなら……。
「ありがとう、ゆきちゃん。変な事聞いちゃってごめんね」
つかささんはいつもの笑顔でそう言ってくれました。ああ、助かりました……。


夜11時。消灯の時間です。つかささんはベッドに、私は布団に。
横でつかささんが寝ていると思うと、私の目はぱっちりと開いたままです。
しばらくするとつかささんは、寂しくなったのか寝るときの習慣なのか、あのぬいぐるみに抱きつき始めました。
(ぬいぐるみがうらやましいです……)
そんな邪な考えを持つ自分が恥ずかしくて、私は目を閉じ無理にでも眠りに入ろうとしました。
「……ふっ……んっ……」
静寂が包んでいた真っ暗な部屋に、突然くぐもった声が響きました。しゅるしゅると、衣擦れの音も混じっています。
(つかささん、寝苦しいのでしょうか……?)
寝返りのふりをして、つかささんの方へと身体を向けました。私の背を向けてぬいぐるみに抱きついたまま、
つかささんは身体を動かし、なにやらごそごそとしています。私はその動きから目を離せませんんでした。
「んんっ……きゅぅ……」
つかささんの声には甘い音色が含まれており、それはまるで淫靡な心地良さをを享受しているかのような……。
(……まさか、つかささん?)
「ふぅっ……あっ……んんっ……はふぅ……」
そんなことがあるわけ……そう思ったのですが、ぬいぐるみの形が潰れるほど強く抱きしめながら腰を動かして、
甘美な声を漏らすつかささんは誰がどう見ても、その、ひ、ひとりでなさっておりまして……。
(つ、つかささん。私が横にいるんですけど……!)
突然の出来事にパニックになりながらも、狸寝入りのままつかささんの痴態を眺める私です。
「ああっ、あっ、あっ、ふぅ……んん……」
(つかささんがこんなお声を出すなんて……こういうことは知らないとばかり思っていたんですけれど……)
言い方は悪いのですが、つかささんには子供のような純粋さをイメージとして抱いていたので……。
そんないつものつかささんと、目の前の快楽を貪るつかささんとがどうしても私の中で重ならなくて、
しかしそのギャップといいますか……それが一層この状況を艶めきたったものにしていっていまして……。
(あ、つかささんはそんなお声で感じるんですね……)
つかささんは私が横にいるというのに、我慢が効かなかったのでしょうか。それとも気にしない性格……。
もしかして私がいるからこそ……などとも考えましたが、そんなわけはないと考えを振りきりました。
「ああっ、みゅ……ひぅぅ……」
世界で一番愛している人の、そんな淫らな声を聞いて、私自身なんの反応もないわけではなく、
嫌悪はもちろんありませんが、困惑や状況整理よりも……もっと正直な反応を身体がしてしまって……。
もじもじと足を擦り合わせていた私は、気がつけば自分のパジャマの中に手を差し伸べて……胸を……。
「ひあっ、あっ、あっ、ああっ……!」
バレないと思ってきたのか、制限ができなくなったのか、つかささんの声はさらに大きくなります。
下着の中から胸を揉みしだいていた私も、声を漏らしそうになりましたが、毛布を噛んで耐えていました。
(つかささん、つかささん……!)
「あっ、いいよぅ……んみゅ……あっ、ふぁ……!」
(つかささん、ごめんなさい! つかささんでこんなことして、ごめんなさい……!)
暗い部屋に二人、大声を出して快楽を貪るつかささんと、それを見て声を殺しながら感じている私。
その状況はとても不自然で、しかしとても背徳感に満ちており、私の官能をさらに高めてしまい……。
「んっ、すき、すきぃ……ああっ、ふぅっ……!」
(つかささん……好きな方を想って……どなたが、どなたが好きなんですか?)
それはとても悲しい言葉のはずでした。それなのに私は胸を触る手を止める事が出来ません。
今はつかささんと一緒に、快感に身を委ねる事しか出来ませんでした。悲しみが少しは紛れるので……。
「すきっ、あっ、あっ、ひぁぁ……」
つかささんの荒いときは徐々に早くなり、快感の波が強くなっていることを表していました。
声色は、強く抑揚をつけ、腰の動きはこれ以上にないほど早くなっており……。
その華奢でいたいけな身体で、精一杯気持ち良くなろうと頑張っていて、その姿がまた愛しくて堪らなくて……。
(つかささん、もう、限界なんですね?)
「ひあっ、あっ、あっ、あっ、もう、あっ……」
(大丈夫ですよ。感じてください、つかささん……)
「すきっ、すきっ、もう、あっ」
(つかささん、つかささん……!)
「ゆきちゃんっ、すきっ、あっ、ひあぁっ……!!」
(私も好きです、つかささん……って、えっ!?)
私の目がかっと開かれ、目の前のつかささんは身体をびくびくと大きく揺らすと、身体を震わせ、
最後には疲れ切ったようにぐったりとしはじめました。潰れたぬいぐるみの形が戻っていきます。
私はの頭の中はつかささんがひとりでしはじめていることを確認したときよりも混乱しており、
そのまま何も考えられずに自身の心臓の早鐘を聞いていると、やがて小さな寝息が聞こえてきました。
(つかささん、寝たようですね……いえ、そんなことよりも……)
私はゆっくりと身体を起こすと、つかささんに近付いて寝顔を確認しました。
汚れた事など何も知らない、純粋無垢な愛らしい寝顔。私が知りたかった、誰よりも愛しい寝顔。
(つかささんは、私のことが好きなんですか? 私、本気にしていいんですか?)
せっかく眠りについているのですから、起こして確認するわけにもいきません。
どれだけ知識欲を刺激されても、どれだけ知りたい知りたいと願っていても、それだけはしてはいけません。
(お願いですから、これが冗談でありませんように。夢なんかじゃありませんように……)
私は今日2度目の涙をポロリとこぼすと、つかささんの髪を軽く撫でて、自分の布団に潜り、眠りにつきました。





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  • 凄いエロいけど文章がキレイで
    読みやすくて面白いです! -- チャムチロ (2012-09-17 15:46:38)

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