kairakunoza @ ウィキ

37th lucky! 8話

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匿名ユーザー

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「ん……」

朝の太陽の光が、瞼の裏に映る。

「もう朝か……」

いつもより少し早いけどいいだろう。
今日からはもう一人分手間がかかるからな。
横にある目覚まし時計がその役目を果たす前に止めを刺すべく手を伸ばす――と。

ふに。

「……?」

何だこの感触は。
目を閉じたままもう一度その『何か』を触ってみる。

ふにふに。

……柔らかいな。
その謎の感触を確かめる為に閉じていた目を開け、横を見る。
すると日下部がものすごく気持ちよさそうな顔で寝ていた。
なるほど、さっき触ったのは日下部の胸だったのか。
何だ、心配して損した……。

「のわっ!?」

脳が今自分が置かれている状況を理解した瞬間、体が勝手に思いきり日下部との距離を離した。

「んー……なんだよ、朝から騒がしいな……」

今の動作で起きてしまった日下部が眠たそうな目を擦って俺のほうを向く。

「いや、ごめん。柔らかかった」
「んあ?」
「はっ!いやいや、今のは忘れてくれ!」
「うぃー、分かった……。ふあぁぁ……」

あくびをしながら生返事をする日下部。
まだ眠ってたのに起こして悪いことしたな――って、いやそうじゃないぞ俺。



「何で俺の布団の中で一緒に寝てるんだ!」
「お前が布団出さないのが悪いんだぞー」
「だからって俺の布団に潜り込むなよ!」
「だって寒いじゃんかよ」

理由になってねぇ!
そんな俺の気持ちを全く気にしないで、日下部はいきなり挨拶をしてきた。

「おはよ、みのる」
「あ、ああ。おはよう」

と、何か微妙な違和感を感じる。
そしてすぐにそれに気がついた。

「……お前、俺の名前呼んだか?」
「ん?ああ、昨日小神が言ってたじゃんか。お互いに名前で呼んだほうがいいだろ?」
「いや、そうじゃなくてだな」

なんていうか……恥ずかしい。

「なんだよー。私たち、長い付き合いだろ?」
「一ヶ月ぐらいしか経ってないけどな」
「駄目か?」
「駄目って訳じゃないんだが……お前まだかがみのこと名前で呼んでないだろ?」
「それ言ったらお前だってあやののこと名字で呼んでるじゃねーかよ」
「だったら……」

と、その先の台詞を言うのを止める。
忙しい朝にこの話題だけで時間を浪費するのは流石にまずい。

「分かったよ。これからは名前で呼べばいいんだろ?」

えーと。確かこいつの名前は……。

「みさお?」
「ん、オッケーオッケー」



満足そうな表情を浮かべる日下部――いや、みさお。

「あー……」

やっぱり何か名前を呼んだだけで恥ずかしくなってきた。
赤くなった顔をからかわれないように、逃げるように台所へと向かう。

「と、とにかく。朝何食べるんだ?」
「ミートボール~」

やっぱりか。
……まあ仕方ない。

「ちなみに昼は?」
「ミートボール~」
「……夜は?」
「ミートボール~」
「ミートボールしか言えないのかお前は!」
「えー、いいじゃんか別にー」
「偏食は良くないだろうが!」
「何をー!偏食のどこがいけないって」

ガリッ。

「~~~~~っ!」

急に顔を抑えてうずくまるみさお。

「どうしたみさお!?」

みさおのところに駆け寄る。

「こ、口内炎噛んじまった……」

口内炎……?

「何だ、心配して損したな」

そう台詞を吐き捨てて、そのままを台所へと引き返す。

「で、飯は何にするんだ?」
「ううう……。みのるがツンデレぐらい冷たい……」
「ツンデレじゃねえよ」
「あれ、違った?おっかしーなー。もしかすっと、ちびっこが言ったことと私の覚えてることが頭の中でごっちゃに……」



その後、『ヤンデレ』やら『天テレ』やらみさおの口から別の単語は出るが、答えから段々と遠回りになっていったので仕方なく答えを教えてやった。

「さて、始めるか」

すっかり時間食ったな。
俺は台所で朝と昼の飯の用意を始めた。と、後ろで。

ガリッ。

「あ゛~~~!」

みさおはまた口内炎を噛んで悶絶していた。
「自業自得だな」
「ううう……。みのるー、口内炎治す方法知らないかー?」

まずお前のその偏食を『直せ』よ。
と言いたいが、どうせ言ったところで無駄だろうだからやめておくことにする。

「ドラッグストアか何かに売って無かったっけか?」

前に行ったときにそういう物を売ってた覚えがある。

「じゃあ買ってきてくれよー。ついでに宝くじも」
「何で宝くじもなんだ。自分の金で買えよ。っていうかそもそもお前が買いに行けばいいだろ」
「いちいち注文多いなー。そんなんだとモテないぞ?」
「出ていくか?」
「……ゴメンナサイ」

玄関まで誘導しようとしたところをみさおに止められる。
……相変わらず単純な奴だな、こいつ。



「それじゃあ次は俺からの注文だ。弁当に入れて欲しくないものは?」
「うーんとなー……。あ、野菜!」
「却下」

とりあえず即答する俺。

「野菜は食え。でなけりゃ肉も入れないぞ」

それを聞いたみさおは5分ぐらい頭を抱え、

「分かった……でも出来ればこんにゃくは入れないでくれ……」
「安心しろ。こんにゃくは野菜じゃない」

……はずだ。
それにそもそもこんにゃくを弁当のおかずにしたことはない。
と、喋りながら作っていた朝食が出来た。
とりあえず先にみさおのほうに置く。

「おー!スゲーなみのる!」
「そんなに喜ばれる程じゃないけどな」

自分の分の朝食を反対側に置いて、机に向かい合って座る。

「……なんか違和感あるな……」
「ま、慣れていけばいいんじゃね?」
「お前は順応しすぎだけどな」
「はっはっはっ。そんな褒めるなよー」

みさおは本当に恥ずかしそうに頭を掻いた。
いや、褒めてないから。

「さ、とにかくさっさと食べようぜ」
「現金な奴だな……」

まあいいか。いちいち付き合ってたらこっちの身が保たない。
俺は向かい側に居るみさおと同じ様に両手を合わせる。

「いただきます」
「いただきまーす!」





―――



放課後。
少し面倒だったが、みさおを迎えに隣の教室へと向かった。

「おーい。みさお」
「ん?どうしたーみのるー」

みさおと俺のそのたった二言だけで、みさおの後ろに居たかがみと峰岸の表情が固まった。

「……みさちゃんをよろしくね、白石君」
「いきなり勘違いしてんじゃねえよ!っていうか顔恐い!」
「あんたたちいつの間にそんな関係に……」「お前もか!」
「だって名前で呼びあってるじゃないのよ」
「友達だったら普通だろ」
「そうだぞー。全く、柊は分かってないなー」
「あんたがそれを言うのか!それにいい加減、もう5年の付き合いなんだから同じクラスなんだし名前で呼びなさいよ!」

みさおと峰岸が『お前もな』みたいな表情でかがみを見ている。多分俺も同じ表情をしてるだろう。
直後、俺たちは見計らったように顔を見合わせる。

「そりゃ……なあ?」
「……だよね?」
「な、何よ」

かがみの質問に、みさおが止めの一撃を加える。

「柊は恐いからな。仕方ないんだよ」
「それだけの理由!?」
「……ごめんね柊ちゃん」

さらに峰岸が追い打ちをかける。
するとかがみは、



「まあいいわ。私は一生この十字架を背負い続けていくのよ……」

フフフフ……、と不気味な笑いを続けていた。
背中からは何か黒いオーラのような物が出ている。
それを見かねた峰岸が代わりに質問してきた。

「そ、それで白石君。どうしてみさちゃんと一緒に帰るの?」
「ああ、それは」

と、俺が言いかけたときに、

「あれ、言って無かったっけ?私しばらくみのるのところに住むことにしたんだよ」

空気が死んだ。

「はあ……」

こいつ、昨日の説教聞いて無かったのか?
頼むから、言うにしてももう少し遠回しにしてくれ……。

「すまん、詳しいことは明日話す。行くぞみさお!」
「うおっ!?」

みさおの手を掴み、逃げるように走り出す。

「んじゃ二人ともまたなー!」

みさおは空いているほうの手を鞄と一緒にブンブンと降っていた。
かがみと峰岸は石のように固まったままで、もちろん返事は返って来なかった。
そしてそのまま下駄箱へと向かう途中、みさおが話しかけてくる。

「なーみのる?」
「ん?何だ?」
「私たち、今カップルに見えてんのかなー?」

はあ?

「そんなの知らねーよ!」
「何だよー。正直に答えろよー」



真後ろからブーイングを放つみさお。
……本当に反省してないな。
こいつには今日から一週間弁当に肉類を入れるのを禁止しよう。
それぐらいしないと聞かなそうだしな。

「はあ……」

走りながら深いため息をつく。
なんだか、また明日も色々と疲れそうだ――









  • おまけ



「ただいまー」

ドアを開け、みのるが言ったほうがいい台詞を先に言う。

「いやー、なんか悪いな。宝くじまで買って貰っちまって」
「ったく、今日だけだぞ?あと、さっきの台詞は本気だからな」
「……マジで?」
「マジで」

さっきの話っていうのは、一週間弁当に肉類禁止って話だ。
……ヤバい。明日辺り死ぬかもしれない……。
私は肉が無いと生きていけないんだよ!

「……と言いたいんだけどな」

その言葉を聞いて思いきり顔をあげる。

「こっちも今日だけ許してやる。た・だ・し、本当に今日だけだからな」
「みのる……。お前いい奴だな……」
「……お前、本当に反省してるか?」

『今すぐ実行するぞ』みたいな顔をみのるがしたので、反射的に顔をブンブンと縦に振る。

「はあ……。仕方ないか、元々こいつはそういう奴だしな」

こっちに聞こえるようにぶつぶつと文句をつぶやきながら鞄の中の整理をするみのる。
性格悪いぞ、それ。

「……でも」

学校から下駄箱までの短い間に繋いでた手の感触を思い出す。

「あったかかったな……」



気がついたら自然とそのとんでもない台詞が口から出ていた。
キョロキョロと辺りを見渡す。
今の聞こえてないよな?な?

「どうした?」

私の様子がよっぽど変だったのか、みのるが心配そうに声をかけてきた。

「い、いや、ナンデモナイデスヨ!?」

ううう、駄目だ。
こんなんじゃ誰だって心配しちまう。

「そうか?顔が真っ赤だぞ?」

みのるはそう言うと自分の額を私の額にコツン、と軽く当てた。

「――っ」

私の顔がさらに真っ赤になる。

「少し熱いな」
「そ、それは……お前が、そういう事やってる、せいだってば……」

全身から火が噴き出てるみたいに暑い。
だから、口から出る言葉も途切れ途切れになってた。

「……?ってうわ!!」

ようやく自分のした行動に気がついたみのるが、思いっきりバックステップした。

「ごめん。お前が女っぽくないからつい……」
「……ひでー」

でもそれってまだまだ私の努力が必要だってことだよな……。
そう考えてるのを知ってか知らずか、みのるは私に励ましの言葉をかける。

「ま、時間はあるし。大丈夫だろ」
「時間、どんくらいあるんだよ」
「あー……。高校卒業するぐらいまでか?」


「……それ短くね?」
「気にするなって。それに個性は無くさないほうがいいと思うぞ?」

無責任だろ、今の発言は。
一体私はどうすりゃいいんだよ。

「さて。んじゃすっかり買い物で遅くなったし、夕飯作るな」

しかも逃げやがった。
……ま、いっか。腹減ったし。

「肉は多めで頼むー。野菜は無しで」
「はいはい。でも偏食は矯正してやるから覚悟しろよ」

仕方なさそうに返事をして制服のまま台所へと向かうみのる。
でもなんだかんだで作ってくれそうな気がするんだよな。野菜無しのおかず。

「さてと……」

私は制服を着替えなきゃな。
あいつにはこっち見ないように言ってあるし、大丈夫だよな。
そう思って制服に手をかけた瞬間に、一気にいろんな疑問が頭の中に浮かんだ。
何で、さっきみたいな事を聞いたんだろ?
何で、さっきあんなに赤くなったんだろ?
もう一度台所の方に目を向ける。
あいつはこっちを全く気にしないで、難しい顔をして今日の夜メシを考えていた。

「何で……」

あいつのことなんか気にしてなかったはずなのに、

『白石のこと……好きなの?』

小神のあの台詞が、今も私の頭の中をぐるぐると回っていた。












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  • みさお萌え -- 小林 (2009-05-10 22:19:18)
  • こういうジャンルがあるのか。 -- 名無しさん (2008-06-09 23:34:35)
  • 面白いです。
    続きを楽しみに待たせていただきます。 -- 名無しさん (2008-01-26 00:59:27)
  • このシリーズ?は好きなので続き楽しみにしてまーす
    -- 名無しさん (2008-01-21 21:34:55)
  • GJス!!
    続き、楽しみに待ってマス!! -- 名無しさん (2008-01-10 01:20:33)

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