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IFから始まるStory 第3章 別れへのカウントダウン【前編】

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匿名ユーザー

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 木枯らしが吹くと、視界一面に枯れ葉の絨毯が広がり
寒空の中で揺れ動く枝先には春の到来を急かしているような桜色の蕾があった。
それは何十回も繰り返されてきた自然の摂理に他ならないが
樹木の大群に囲まれるように、1本の樹だけが寒々しい焦げ茶色をしていたのを
私は良く覚えている。
そんな桜達が一斉に花開き、狂うように咲き誇っている情景は
恋に焦がれた私の心を投影しているみたいで、なんだか不思議な気分にさせてくれる。

「こなたも見たかな・・・この桜を」

恋は盲目なんて言われているけど、だからこそ見えるものだって有る。
同じ笑顔でも微妙に変化しているし、
気丈に振る舞っていても憂いを帯びた雰囲気は伝わってくる。
でも、私が手を差し伸べる事は出来ない。
頭上に広がる桜の花弁に触れられないのと同じように。

その桜の木も段々と深い緑色に包まれ始め
季節は春から初夏へと移り始めた休日の昼下がり、
つかさの喚き声を発端に私達の物語は加速度的に終幕へと近づいていった。


「うわぁぁぁぁん!!」
「ねえ、つかさ。泣いてばかりじゃ分らないわよ。何があったの?」
「グス、グス・・・こなちゃ、に・・・うわぁぁぁん!」
我が家に響き渡るつかさの泣き声は、既に半時を経過していて
それでも無尽蔵に零れ落ちる涙と、枯れる事の無い声で
これは唯事では無いと直ぐに分かった。
そして、その泣き声に邪魔されながらも
懸命に会話を繋げようとするつかさの口から発せられた単語は
私の思考能力を急激に低下させ、理性と本能の均衡を徐々に崩壊させていった。

「つかさ・・・悪いけど、もう一度言ってくれる」

つかさが話した内容は容易に理解できた筈なのに
それを聞き直している私は、酷い姉だと自分でも思う。



「今日、こなちゃんから・・・」

永い区切りの後に発せられる言葉は既に知っているが
それでも聴覚を研ぎ澄まして、つかさの一言を聞き漏らすまいとしている私は
何を考えていたのか自分でも分らなかった。

「・・・別れようって言われた」

再び耳にする事となったつかさの言葉は
まるで麻薬のように私の肢体に溶け込み、理性を蝕み続けていく。

これ以上、つかさと話をするのは危険すぎる!

残りわずかな理性が懸命に警告音を鳴らし続けていたが
垂れ目な瞳から零れ落ちた涙の跡が、痛々しく残っているつかさを目前にすると
私の足や腕や口までもが機能しなかった。

「私・・・こなちゃんに嫌われるような事、しちゃったのかな?」
「・・・そんな事無いわよ」

それでも、絞り出すような声でつかさに語り返したけれど
こんな言葉は戯言にしかならず、言えば言うほど私の胸を圧迫してくる。

「つかさはこなたの事が好きなんでしょ? だったら、そんな風に考えちゃ駄目よ」

言葉を繋ぐ度に、苦しくて噎せ返るような想いが私を押し潰してくるのに
歯止めの利かない口は、本来の目的を忘れて彷徨う様に動き続ける。

止まってよ、私の口。
もう苦しい想いはしたく無いのに。
どんなにこなたを想い続けても決して実らない想いなんか、さっさと捨てたい。
でも、この想いは私を優しい気持にさせてくれる大切な宝物。
だから捨てる事が出来なかった。


「ねえ、つかさ・・・こなたと縁りを戻したくないの?」
「・・・ウン、戻したい」

そうよね。
つかさはこなたの事を愛している。
こんなに泣きじゃくる位、とても愛している。
そして・・・私も愛している。
ずっと、ずっと愛してきたし、これからも愛し続ける。
それなのに実らなかった想いは哀れ過ぎて、
行き先の無い気持ちは何所まで彷徨い続けるの?

もう、辿り着きたい・・・こなたのところへ

思考にならない考えが、脳内のシナプスを活性化し
電気信号と化した情報が、体内の神経を介して全身に行きわたった。
それはまるで雷に打たれたような電流が全身を駆け巡り
もはやコントロールが利かなくなった私は、つかさの部屋を飛び出し
玄関に停めてある自転車に跨るとペダルに全体重を掛けた。

「お、お姉ちゃん。待って。何処に行くの?」

私を呼止るつかさの声が聞こえている今なら、まだ引き返せたかもしれない。
だけど私は、戻るべき現実を放棄して向かいたい理想へと進み続けた。

「ごめんね、つかさ・・・酷いお姉ちゃんで」

何度も呟き続けた妹の名前が、本人に届く事は無いのに
それでも謝り続けたのは唯の自己満足かもしれない。


衣服が肌に張り付く位の汗が噴きだし始めた頃
私は半年ぶりとなる泉家の玄関先でチャイムを鳴らしていたが
インターホンから返答が全く無い。
だけど、鍵が掛かっていない玄関の戸を開けた時に感じた温もりから
こなたは居る、と確信した私は何度も呼び掛けた。

「こなたー、居るんでしょ? 入るわよ」


返事の無い玄関に足を踏み入れ、物音の無い廊下を歩み続けると見えてくるこなたの部屋。
その扉を開けると青髪の少女が椅子に座ってキーボードを弄っていた。

「休日の昼間からパソコン? 少しは外に出たら?」
取り付くつもりでは無かったが、自然と発せられた第一声は他愛もない世間話で
そんな私に返事をしてくれないこなたに、一歩ずつ近づきながら部屋を見渡してみると
やたらファンシーな小物が増えているのに気付いた。

そっか・・・つかさがプレゼントしたのね。

その小物を見るたびに、つかさの泣き顔が脳裏に浮かびあがり
失っていた理性が急速に私を支配し始めた。
そして、こなたの背後で立ち止まった私が語りかけた言葉は
己の理想とは遠く掛け離れていた。

「つかさ・・・泣いてたわよ」
「・・・」
「どうして別れるなんて言い出したの?」
「・・・」
頭で考えて選んだセリフは空虚すぎて、こなたへ届かないかもしれないけれど
私は話を止める訳にはいかなかった。

「こなたは・・・つかさの事が好きなんでしょ?」
「・・・」
「好きなら・・・縁りを戻してよ」

此処で“ウン”と言って欲しい。
決して首を横に振らないで・・・お願いだから。

そんな私の本心では無い期待を裏切って
こなたは首を横に振りながら、揺らぎ無い決心だけを伝えてきた。

「私は、つかさと縁りを戻す事は出来ないよ」


こなたの声が私の鼓膜を振動した次の瞬間、
さっきまで見えていたファンシーな小物が一瞬で視界から消え去り
今は後ろ姿の少女しか映っていなかった。
そして、その少女を見る度に何度も捨て去ろうとして
何度も大事に抱え込んだこなたへの想いが、私の内側から溢れ返り
私を簡単に壊してしまった。

「別れるなんて言わないでよ」
「・・・かがみ?」

声のトーンが変わった私を不思議に思ったのか
振り返る事の無かったこなたが、椅子を半回転させて
その半目な瞳には動揺が見え隠れし、目尻は若干赤くなっており
何より私だけを見てくれている“こなた”という存在が愛おしかった。

もう、良いよね
我慢したよね・・・わたし
だから・・・言っちゃうね

「別れられたら・・・今まで我慢してきた私は何だったの!」
「かがみ、どうしたのさ」
「どうもして無いわよ! 私は・・・こなたの事が好きなの!」

こなたの色と、つかさの色が入り混じったこの部屋で
私という異色が入り込んでしまった。
それはタブーだったのか、私には理解する術は無いけれど
明確に誇示していた事実は、こなたの驚いた表情の中に見える拒絶の反応だった。

「・・・ごめん。かがみ」
「そっか」

元々は諦めていた恋に、淡い期待を込めただけの衝動だった筈。
それなのに、私の瞳から溢れてくる滴は一体何を意味しているのだろうか。

こなたに振られたから?
つかさを裏切ったから?
私が愚か過ぎたから?


考えれば考える程、静かに流れ落ちる涙の量は増えていくばかりで、
輪郭すら分からないこなたの姿は、過ぎ去った理想の残骸だった。

「泣くつもりは無かったのに・・・ごめんね、こなた。嫌な姿を見せちゃって」
私の勝手な独り言に“ブンブン”と擬音が聞こえてきそうな勢いで
首を左右に振るこなたの心遣いが、私の弱い部分を締め付けてくる。

「謝らないでよ、かがみ・・・つかさを傷つけて、かがみを傷つけて・・・悪いのは私なんだから」

それでも、こなたは傷つけた相手以上に傷ついている。
不器用で鈍感で愛くるしくて、素直になれないところが私と似ているのに
いつも私ばかり茶化してくる。
そんなこなたに私は惹かれて、理想と現実の区別がつかなく無くなった。
だから知りたい。
こんなにも私を狂わせたこなたが、つかさと別れるなんて言い出した理由を。

「ねえ、こなた・・・どうしてつかさと別れたの? まさか、つかさの事が嫌いになったとか」
「私ね・・・つかさの事は今でも好きだよ」
「え?」
「好きで好きで、堪らなく好きで・・・だから別れようと思ったんだ」

こなたは雲を掴むような事を言っていて、私が理解できる次元を遙かに超えていた。
それでも、涙を拭った私の瞳に映ったこなたの顔は
悲しみでも無ければ満ち足りた笑顔でも無く、無表情とは違った面持ちをしていて、
始めて見る表情なのに、ずっと前から見ていた既視感を覚えた。


「つかさと別れる事が出来たから・・・これで、全てを終わらせられる」
「こなた?」
「私ね・・・余命、半年って宣告されたんだ」


物語には必ず始まりがあり、そして終りが訪れる。
その間に幾つもの喜怒哀楽を繰り返して、時には急ぎながら時には緩やかに
終着点を迎える事となる。

そんな事は分かっていた。
分かっていたのに、目の前のこなたの言葉を
一生懸命排除しようとしている自分は、何一つ理解しようとしなかった。


春には満開だった桜達も、今は深い緑の帽子を被っていて
その大群に囲まれるように、1本の樹だけが痛々しい焦げ茶色をしていたのを
私は決して忘れない。













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  • なんとしても、続きを読みたいです! -- チャムチロ (2012-09-29 16:32:18)
  • 続き!続き! -- 名無しさん (2008-10-26 01:51:14)
  • 続きがすっごい気になる -- 名無しさん (2008-04-14 01:18:22)
  • なんという急展開
    続きが待ち遠しい
    -- 名無しさん (2008-03-21 15:29:46)

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