危険な関係に戻る
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2.
晩秋の長い夜はようやく終わりを迎え、東の空は次第に明度を増している。
私は、温かい布団から身を起こして目を擦り、隣ですやすやと寝息を立てている
少女を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「ゆーちゃん」
反応するように、従姉妹の小さな唇が動く。
「お…… ねえちゃん」
雀の鳴くような声を漏らし、小さい身体を捩ってから、再び寝息を立て始める。
「はあ…… 」
私はため息をついて、眠る少女の寝顔を眺めている。
私は、温かい布団から身を起こして目を擦り、隣ですやすやと寝息を立てている
少女を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「ゆーちゃん」
反応するように、従姉妹の小さな唇が動く。
「お…… ねえちゃん」
雀の鳴くような声を漏らし、小さい身体を捩ってから、再び寝息を立て始める。
「はあ…… 」
私はため息をついて、眠る少女の寝顔を眺めている。
ゆーちゃんとの曖昧な関係は、ずっと続いている。
キスはするけどそれ以上は進めない。
従姉妹という血縁関係であるにしては親密にすぎるし、かといって、
面と向かって恋人かと尋ねられれば、首を捻ってしまう。
ゆーちゃんは何度か、キス以上を求める『そぶり』を見せていたけれど、
私はずっとはぐらかしていた。
キスはするけどそれ以上は進めない。
従姉妹という血縁関係であるにしては親密にすぎるし、かといって、
面と向かって恋人かと尋ねられれば、首を捻ってしまう。
ゆーちゃんは何度か、キス以上を求める『そぶり』を見せていたけれど、
私はずっとはぐらかしていた。
「ううん…… ごめんね。おねえちゃん」
勇気を振り絞っての誘いを断られた時にみせる、苦しさを無理矢理
押し殺した微笑を目の当たりにする度に、酷く胸が痛んでしまう。
私は、ゆーちゃんの辛そうな笑顔を見る度に、はっきりしない関係をいつまでも
続けることはできないと、強く思うようになっていた。
勇気を振り絞っての誘いを断られた時にみせる、苦しさを無理矢理
押し殺した微笑を目の当たりにする度に、酷く胸が痛んでしまう。
私は、ゆーちゃんの辛そうな笑顔を見る度に、はっきりしない関係をいつまでも
続けることはできないと、強く思うようになっていた。
「ごめんね。ゆーちゃん」
心の中だけで呟き、時計の針がまだ6時半を指し示していることを確認した後、
ゆっくりと瞼を閉じた。
心の中だけで呟き、時計の針がまだ6時半を指し示していることを確認した後、
ゆっくりと瞼を閉じた。
今年の春、ゆーちゃんが入学してからは、一緒に登校している。
彼女が泉家の住人となる前は、遅刻をすることが多かったけれど、
流石に『姉』としてのプライドみたいなものが出てきて、朝寝坊で始業時刻に
間に合わないということはなくなっていた。
彼女が泉家の住人となる前は、遅刻をすることが多かったけれど、
流石に『姉』としてのプライドみたいなものが出てきて、朝寝坊で始業時刻に
間に合わないということはなくなっていた。
電車で数十分揺られた後、陵桜学園の最寄駅で降りる。
学校へ向かう生徒達の群れに溶け込みながら、鮮やかな黄色に変わっている
銀杏並木の下を歩いていき、正門のすぐ手前でかがみとつかさと顔を合わせる。
学校へ向かう生徒達の群れに溶け込みながら、鮮やかな黄色に変わっている
銀杏並木の下を歩いていき、正門のすぐ手前でかがみとつかさと顔を合わせる。
「おはよう。こなちゃん。ゆたかちゃん」
つかさは、夏の向日葵のような笑顔をみせる。
「おっす。こなた」
一方のかがみは、不機嫌とまではいかないけれど、いま一つ気分が乗らない感じだ。
「おはようございます。柊先輩」
ゆーちゃんは緊張しながら挨拶する。
かがみに対して、隔意があるように見えるのは、おそらく気のせいではない。
つかさは、夏の向日葵のような笑顔をみせる。
「おっす。こなた」
一方のかがみは、不機嫌とまではいかないけれど、いま一つ気分が乗らない感じだ。
「おはようございます。柊先輩」
ゆーちゃんは緊張しながら挨拶する。
かがみに対して、隔意があるように見えるのは、おそらく気のせいではない。
小柄な下級生を見下ろしながら、かがみは、ややそっけなく挨拶を返す。
「おはよ」
校門からは一緒に歩くことになるが、誰も話題を振ることはなく、沈黙に包まれている。
つい最近までは、こんなに張り詰めた空気はなかったのだけど。
「おはよ」
校門からは一緒に歩くことになるが、誰も話題を振ることはなく、沈黙に包まれている。
つい最近までは、こんなに張り詰めた空気はなかったのだけど。
そろそろ頃合だろう。
昇降口に近づいた時、私は、用意しておいた爆弾を落とすことに決めた。
「今度の連休に、みんなで旅行に行こうよ」
昇降口に近づいた時、私は、用意しておいた爆弾を落とすことに決めた。
「今度の連休に、みんなで旅行に行こうよ」
「えっ? 」
3人が同時に声をあげて、私の顔をまじまじと見つめてくる。
「こなちゃん。ここにいる4人ってこと? 」
「うん。そうだよ。つかさは駄目なのかな 」
「ううん。こなちゃんの誘いを断ることなんてありえないよ」
つかさの返事は何気に際どい。天然なのか本気なのかは分からないけど。
3人が同時に声をあげて、私の顔をまじまじと見つめてくる。
「こなちゃん。ここにいる4人ってこと? 」
「うん。そうだよ。つかさは駄目なのかな 」
「ううん。こなちゃんの誘いを断ることなんてありえないよ」
つかさの返事は何気に際どい。天然なのか本気なのかは分からないけど。
「つかさが行くのなら、いってもいいわよ」
かがみは、早速ツンデレモードを発動している。
どうして素直になれないのかな、なんて思うけれど、素直じゃないところがかがみの萌えポイントだ。
かがみは、早速ツンデレモードを発動している。
どうして素直になれないのかな、なんて思うけれど、素直じゃないところがかがみの萌えポイントだ。
「ゆーちゃんはどうかな? 」
誘いを向けると、戸惑った声をあげた。
「あの、お邪魔じゃないですか? 」
「そんなことないよ。ゆたかちゃん」
つかさは、女神のように優しい微笑を2年下の後輩にむけている。
誘いを向けると、戸惑った声をあげた。
「あの、お邪魔じゃないですか? 」
「そんなことないよ。ゆたかちゃん」
つかさは、女神のように優しい微笑を2年下の後輩にむけている。
一方、かがみは腕を組んで眉を潜めている。
「こなた。みゆきは誘わないの? 」
幾分か迷った末、ゆーちゃんの問いかけを、間接的に無視する形で尋ねてくる。
「みゆきさんには、昨日、電話で話したんだけど。ちょっと用事があってね」
「ふうん、そう」
かがみは、幾分かの不審を残したまま頷いた。
どうして、みゆきさんにだけ、先に旅行の話を持っていったのかを訝しんでいるようだ。
「で、ゆーちゃん。どうかな」
再び、ゆーちゃんの顔を覗き込む。
「あ、あの。ご迷惑でなければ…… 参加させてください」
彼女は小さく頷いてから、かがみとつかさに向き直り、ぺこりと頭をさげた。
「こなた。みゆきは誘わないの? 」
幾分か迷った末、ゆーちゃんの問いかけを、間接的に無視する形で尋ねてくる。
「みゆきさんには、昨日、電話で話したんだけど。ちょっと用事があってね」
「ふうん、そう」
かがみは、幾分かの不審を残したまま頷いた。
どうして、みゆきさんにだけ、先に旅行の話を持っていったのかを訝しんでいるようだ。
「で、ゆーちゃん。どうかな」
再び、ゆーちゃんの顔を覗き込む。
「あ、あの。ご迷惑でなければ…… 参加させてください」
彼女は小さく頷いてから、かがみとつかさに向き直り、ぺこりと頭をさげた。
ゆーちゃん、かがみの順で別れた後に、つかさと一緒に教室に入る。
しかし、席に着いて荷物を置いてからすぐに、つかさが再び近寄ってきて話しかけてくる。
「こなちゃん。何をするつもりなの? 」
「どういうことかな? 」
私はとぼけたけど、黄色いリボンをつけた少女は、はぐらかされてはくれなかった。
「お姉ちゃんと、ゆたかちゃんを旅行に誘ったことだよ」
「かがみは親友で、ゆーちゃんは大好きな従姉妹だし、ふたりは何度も会っているから、
別におかしくないと思うな」
しかし、席に着いて荷物を置いてからすぐに、つかさが再び近寄ってきて話しかけてくる。
「こなちゃん。何をするつもりなの? 」
「どういうことかな? 」
私はとぼけたけど、黄色いリボンをつけた少女は、はぐらかされてはくれなかった。
「お姉ちゃんと、ゆたかちゃんを旅行に誘ったことだよ」
「かがみは親友で、ゆーちゃんは大好きな従姉妹だし、ふたりは何度も会っているから、
別におかしくないと思うな」
「ごまかさないで」
つかさは、形の良い眉をしかめながら続ける。
「こなちゃんは、お姉ちゃんとゆたかちゃんの気持ちに、気がついているよね」
「さすが巫女さんだねえ」
「えっ? 」
首をかしげているつかさに、説明をすることにする。
「つかさって、天然なところあるけど、妙なところで鋭いから。
本当に神意を受けたりすることもあるかも…… なんて思ったよ 」
つかさは、形の良い眉をしかめながら続ける。
「こなちゃんは、お姉ちゃんとゆたかちゃんの気持ちに、気がついているよね」
「さすが巫女さんだねえ」
「えっ? 」
首をかしげているつかさに、説明をすることにする。
「つかさって、天然なところあるけど、妙なところで鋭いから。
本当に神意を受けたりすることもあるかも…… なんて思ったよ 」
「じゃあ、どうして二人を? 」
当然の疑問に、肩を竦めながら答えた。
「決着をつける必要があると思うから」
「こなちゃん…… 」
つかさは、私の名を呟いたきり、何も言えずに教室の天井をみあげていた。
当然の疑問に、肩を竦めながら答えた。
「決着をつける必要があると思うから」
「こなちゃん…… 」
つかさは、私の名を呟いたきり、何も言えずに教室の天井をみあげていた。
かがみとは高校からの付き合いとはいえ、毎日のように話をしているから、
おおよその気持ちは分かってしまう。
ツンデレの代表選手のように振舞いながらも、ふとした瞬間に向けられる好意には、
気づかざるを得ない。
もっとも、ツンデレという言葉を、私が唇に乗せた途端に、機嫌が悪くなってしまう為、
かがみが見せてくれる気持ちは、陽が昇った後の霧のように、消えてしまうのが常だった。
おおよその気持ちは分かってしまう。
ツンデレの代表選手のように振舞いながらも、ふとした瞬間に向けられる好意には、
気づかざるを得ない。
もっとも、ツンデレという言葉を、私が唇に乗せた途端に、機嫌が悪くなってしまう為、
かがみが見せてくれる気持ちは、陽が昇った後の霧のように、消えてしまうのが常だった。
「ねえ、つかさ」
長い髪の一部を触りながら、つかさを見上げる。
「私、分身できたら良かったのに」
ため息混じりの言葉に、つかさは笑顔を見せて言った。
「もし良かったら、3つに増やしてくれないかな」
彼女にしては珍しい冗談に、私は口元を綻ばせた。
長い髪の一部を触りながら、つかさを見上げる。
「私、分身できたら良かったのに」
ため息混じりの言葉に、つかさは笑顔を見せて言った。
「もし良かったら、3つに増やしてくれないかな」
彼女にしては珍しい冗談に、私は口元を綻ばせた。
4時間目の授業は、黒井先生が教える世界史だ。
「世界史なんて、受験を考えるんやったら、参考書を丸暗記しとけばええ。そやけど
そんな意味ない授業をする気は、毛頭あらへんで」
多くの高校で世界史の授業を受けてないことが、マスコミに騒がれて以来、
世界史の履修についてはやかましく言われているけど、黒井先生にとっては、
不本意なことだったのかもしれない。
「世界史なんて、受験を考えるんやったら、参考書を丸暗記しとけばええ。そやけど
そんな意味ない授業をする気は、毛頭あらへんで」
多くの高校で世界史の授業を受けてないことが、マスコミに騒がれて以来、
世界史の履修についてはやかましく言われているけど、黒井先生にとっては、
不本意なことだったのかもしれない。
「歴史を覚えるのは人生における愉しみや。ウチが教えるのは、楽しむ為に必要となる
ベースの部分やで」
板書をしながら黒井先生が伝えた言葉は、今でも脳裏の片隅に残っている。
ベースの部分やで」
板書をしながら黒井先生が伝えた言葉は、今でも脳裏の片隅に残っている。
4限の終わりを告げるベルを耳にすると、昼休みとなる。
つかさとみゆきさんが席をくっつけてきて、間もなく隣の教室から来たかがみも加わる。
しばらくの間、雑談と、昼食を胃袋に入れる作業を交互に続けた後、
口火をきったのはかがみだった。
「みゆきは今度の連休、旅行に行かないの? 」
「ええ。申し訳ありません。遠地にある親戚の法事に行くことになっておりまして」
みゆきさんは、いつもと変わらぬ穏やかな表情のまま謝った。
「ですから、お気になさらずに楽しんでくださいね」
「そう…… 」
うなずいてから、かがみはミートボールを口にほうりこんだ。
つかさとみゆきさんが席をくっつけてきて、間もなく隣の教室から来たかがみも加わる。
しばらくの間、雑談と、昼食を胃袋に入れる作業を交互に続けた後、
口火をきったのはかがみだった。
「みゆきは今度の連休、旅行に行かないの? 」
「ええ。申し訳ありません。遠地にある親戚の法事に行くことになっておりまして」
みゆきさんは、いつもと変わらぬ穏やかな表情のまま謝った。
「ですから、お気になさらずに楽しんでくださいね」
「そう…… 」
うなずいてから、かがみはミートボールを口にほうりこんだ。
「こなちゃん。旅行はどこに行こうと思っているの? 」
つかさは興味津々といった様子で尋ねてくる。
私は、チョココロネの最後の一切れを、お茶と一緒に喉に流し込んでから、
重大な何かを宣言するように口を開いた。
つかさは興味津々といった様子で尋ねてくる。
私は、チョココロネの最後の一切れを、お茶と一緒に喉に流し込んでから、
重大な何かを宣言するように口を開いた。
「京都に、行くつもりだよ」
みゆきさんは小春日和のような微笑を変えなかったが、つかさは首を傾げており、かがみは……
どこか思いつめたような顔をして、私を見つめていた。
みゆきさんは小春日和のような微笑を変えなかったが、つかさは首を傾げており、かがみは……
どこか思いつめたような顔をして、私を見つめていた。
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危険な関係 第3話へ続く
危険な関係 第3話へ続く
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- 女同士の戦いは恐いですねぇ
-- 九重龍太 (2008-03-14 22:34:34)