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Welcome Back(おかえりなさい)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
使い慣れないファウンデーションで、泣きぼくろを塗りつぶす。
ドライヤーとヘアブラシを駆使して、頑固なアホ毛をなんとかなだめすかせる。
タンスの奥から引っ張り出した、形見のサマードレス。
鏡に向かって表情の確認。目尻と口元には気をつけないとね。

……おしっ、完璧。

さて、そろそろお父さんが帰ってくる時間。
いくらなんでも不謹慎すぎるかなぁ……という後ろめたさと、どういう反応返してくるかな?という好奇心。
前々から悶々としてたけど、ついに好奇心のほうが勝っちゃったョ、という次第で。

……あ~、でも、変装してはみたけど、うーん、やっぱり……

でも、そんな葛藤は、目標(カモ)の帰宅と同時に吹っ飛んでしまった。

「ただいま~」

……キタっ!帰って来ましたよ。
ともすると噴き出しそうになるのをこらえながら、静々と階段を下りる。
マジ声に大人補正を掛けながら、緊張の第一声。


「お帰りなさい、そう君」


お父さんは、大仰に驚くでも、笑うでも怒るでも泣くでもなく、
「(゚Д゚)ポカーン」
という表現がぴったりの表情で、じっと私を見てる。

――あ、あれ?ひょっとしてスベった?

予想外の反応に、私の「ワクテカ感」まで予想外割引。
テンションの急降下に伴って、急に恥ずかしくなってくる。

「あ、あー……えーと……」

さすがにいたたまれなくなって、身を翻して階段を駆け上ろうとしたその時。

「……"おかえり"、かなた」

お父さんは、今までに見たことのない、とても優しい顔で言った。


―――――――――――――――――
『Welcome Back(お帰りなさい)』
―――――――――――――――――


 ×  ×  ×  ×  ×  × 


お父さんと向かい合って座る、居間のテーブル。
掛け時計の音がやけに大きく聞こえる、沈黙のひと時。

「……なあ、かなた」

お父さんは、お母さんの名前で私を呼んだ。
……ええい、ままよ。こうなったら、最後までお母さんを演じ切ってみせますョ。
ロールプレイは伊達じゃない!

「なあに?そう君」
「『あちらの世界』は、どんな感じなんだ?いいところか?」

脳細胞をフル回転させて、『あちらの世界』を想像する。

「ええ、とてもいいところよ。ちょっと刺激が少なすぎて、退屈しちゃうけれど」
「辛い事とかはないか?」
「大丈夫よ。お友達もいるし、それに……寂しくなったらあなた達を見に来ることもできるし」
「うげっ」
動揺が顔に出るお父さん。ちょっと追い討ち掛けてみよ。

「こなたは元気に育ってるみたいね。……見事にあなた色に染まっちゃったみたいだけど」
「いや、面目ない……」
しょげ返るお父さん。くすっと笑ってフォローする私。
「ううん、責めてるわけじゃないわ。……ちょっとズレてるけど、しっかりした子よ、あの子は……」


お母さんになりきって、私の噂話をする、不思議なシチュエーション。
でも、それを変だと感じてない私がいる。

……私は『泉かなた』。十何年ぶりに、愛する夫(ひと)と向かい合って、愛娘のことを話してるの……

『役になりきる』、っていうのは、こういう感覚なのかな?


「……再婚とか、考えたことはないの?」
「そういえば、結局今まで男やもめだなぁ」
「機会はあったのにね。あの編集さん、そう君に気があったわよ……気づいてた?」

……え、編集さん?……誰のことだろ……?

「まあ、薄々は。……うーん、オレの趣味にも理解があったし、なかなかの美人だったけど」
「……けど?」
「一緒になりたい、って気は起こらなかったなぁ」
「私みたいに、小さい子じゃなかったから?」


私の意志を無視して、言葉がすらすらと口をついて出る。
いたずらっぽく笑うお母さんを、一歩離れて見てる私……

……あ、あれ?あれれ???


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、かなた。オレはロリコンじゃないんだからさ~」
「え?違うの?」
「オレは普通の女性にも人並みに興味はあるからな、ロリコン『でもある』が正しいんだよ」
「自慢げに言う事じゃないと思うわ、それ……」

ふうっ、と苦笑交じりのため息。

「……まあ、大体、そんな気分じゃなかったしなぁ」
「?」
「お前が逝っちまってから、丸々一年は魂が抜けたみたいだったよ。
 こなたを育てる以外、何もする気が起きなくて、青木川賞の賞金とデビュー作の印税で食いつないでた。
 そっち方面の趣味が急加速したのも、半分ぐらいは現実逃避だったからなあ……」
「それが、今じゃ生き甲斐になっちゃったわけね」
「わーぉ、相変わらずきっついなー」

そう君が、爽やかに笑う。

……そう、この人はそういう人。
趣味はちょっと変かもしれないけれど、本当に自分に正直で、純粋(ピュア)な人。

そんなそう君の純粋さに、私は惹かれて……

「……まあ、趣味は趣味として、さ」
「え?」
「一時はマジで、再婚も考えたよ。こなたのこともあるしな」
「……」
「でも、駄目だったなぁ。あの編集さんにしても、どうしても恋愛対象までは進めなかった」
「ふうん……どうして?」

「やっぱりその……『愛する妻』はお前だけなんだなぁって、再確認するだけだったよ」
そう君は真っ赤になって、頭を掻きながらそう言った。

胸の奥が、きゅっと締め付けられるような感覚。
そう君の笑顔が、滲んだ涙の中で揺れている。

「……寂しく、なかった?」
「いや……こうして本当に逢うのは久しぶりだけどさ、」
そう君は一息ついて、また頭を掻きながら言った。

「……どこかでお前が見守ってくれてるんだな、って、妙な確信があったからなぁ」

「……そう……よかった…………気づいてて……くれた……のね…………」
「うぉ?ちょ、かなた、泣くなよ、な?」


……そう君……こなた……
……ごめんね……一緒に居てあげられなくて。


 ×  ×  ×  ×  ×  × 


気がつけば、居間の掛け時計の針は午前三時を回っていた。
そう君と結婚した時、最初に買った家財道具。
あれから十八年。私がいなくなったこの家の時間を、ずっと刻んできた時計……

「もうこんな時間…………そろそろ、帰るわね……」
名残惜しさを隠して、席を立とうとした私に、

「……なあ、かなた?」
「なあに?」

そう君は、私の手を取って言った。
「その、なんだ。……今夜一晩だけ……一緒にいてくれないか?」
言い慣れない台詞のせいか、耳まで赤くなっているのがわかる。

「……いいけど、手を出しちゃダメよ?この身体はこなたの……」
「わかってるよ。……一緒にいてくれるだけで、それだけでいいからさ」

「……はい」

本当に久しぶりに。私は、そう君の胸に頬を埋める。
そう君の作務衣は、陽だまりの匂いがした。


 ×  ×  ×  ×  ×  × 


「……うぉ!?寝過ごしたっ!?」

がばっと跳ね起きる私。壁の時計は午前九時。
カレンダーは……あ、今日は休日だっけ。

左の頬にむず痒さを感じて、手の甲でぐいっとこする。
涙で溶いた肌色のファウンデーションが、べったりとくっつく。

「…………むー」
しばらくぼんやりした後、周囲をぐるりと見渡す。
愛用のPCも、積み上げた漫画本も、ビデオやゲーム機が繋がったTVもない部屋。
私のより一回り大きなPC、積みあがった小説本、原稿用紙の束、隠すでもなく整然と並べられたギャルゲー、カメラや交換レンズの砲列……

……こ、ここはもしかして……!?

「……んが……」
妙な声とともに、私のすぐ横で何かが動いた。

「?……誰?……おっほぅわ!?」
自分でも驚くほどの間抜けな悲鳴を上げて、跳び退る私。

私のすぐ右横……同じ布団の中に、お父さんが寝ていた。

「お、お父さん!?……え、え?な、何で?」

ダラダラと流れる冷や汗。ノロノロと昨日の記憶を辿り始める私。
……えーと、お母さんに変装してお父さんを驚かせようと思ったら、そのままあっさりと受け入れられちゃって、
一生懸命話を合わせてたら……


……あ、あれ?そこから先、どうなったんだっけ??


ぽっかりと抜け落ちた記憶。何ひとつ思い出せない混乱の中、
『年頃の娘が、実の父と一つの布団で朝を迎えた』
というインモラルな現実だけが、いびきを掻きながら転がってる。

おっかなびっくり、自分の身体を撫で回してみる。
……うん、大丈夫。襲われてないな、うん。

「……んむ?……ん~~~~、お早う、こなた」
いつものようにのんびりした調子で、目を覚ましたお父さんが伸びをする。

「……お父さん?」
「んー?何だ?」
「あのー……何ゆえ私は、ここでこうしているのでしょーか?」
「ああ、安心しなさい。手は出してないから」
「……いや、そういう事じゃなくてさ~……」

げんなりした顔で、そう答えるのが精一杯だった。


 ×  ×  ×  ×  ×  × 


「……昨日の夜、かなたに会ったよ」
朝の光が満ち溢れる食卓。夕飯の残りもののチキンカレーをトーストに塗りたくりながら、お父さんが言った。

「昨日の夜……?」
真ん中あたりの記憶がすっぽりと抜けた、一連のシチュエーションを思い返す。

……なんだか急に申し訳なくなって、私はおずおずと切り出した。
「お父さん……ごめん、実はあれ、私の変装……」

お父さんの手がスッと伸びて、私の髪を優しく撫でる。

「いや、かなたは本当に帰ってきてくれたよ」
お父さんは目を閉じて、『あの人』に語りかけるように言った。


……この科学の時代に、常識で考えればあまりにも荒唐無稽な結論。
みんなに話したら、呆れた顔が返ってきそうな答え。

……だけど……


「……そうだね……そうだよね」
私も目を閉じて、かすかな記憶の中にしかない『あの人』を想う。


……お母さん……
寂しくなったら、またちょくちょく遊びに来てよね。
その時は、また私の身体を貸したげるから……

……あ、でも十八禁な展開はダメだよ?
お父さん、歯止めが効かなくなっちゃうからさ。


「わーぉ、信用ないなーオレ」
「うぉ!?私、もしかして口に出してた!?」


――あとは、いつものドタバタ。
――そしてまた、いつもの日常が始まる。


……相変わらずの私たちだけど、呆れたりしないで見守っててよね、お母さん……


― Fin. ―



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  • 10万あげるから挿入してくだちぃ(〃▽〃)♪ http://sns.44m4.net/ -- 里深 (2012-06-19 03:24:33)
  • このスレって、下手なエロに走らないし、ファンのニーズわかってるよねー -- 名無しさん (2011-04-11 16:33:02)
  • かなたさ~ん(/ _ ; )
    作者GJ -- ユウ (2010-04-04 22:56:48)
  • 泣けた…全俺が泣けた… -- こなかがは正義ッ! (2010-01-20 00:56:16)
  • 良い話だよ~ -- 伝説の男 (2010-01-13 16:51:57)
  • イイハナシダナー( ´∀`) -- 名無しさん (2010-01-13 11:11:52)
  • すごく感動した -- アルメニア (2009-11-26 06:20:34)

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