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葬式に行こう 前編 北関東は撒き銭でウハウハ

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 「はわわ、忘れ物~」
 歌うともなしにそんな言葉を漏らしながら、高良みゆきが教室に入ってきたらどう反応すればいいのだろうか?
 「「「……」」」
 片や海苔目三角口で大粒の汗を浮かべ、片やつり気味の目を上下に見開いて身を引き、片や点目で微動だにせず硬直。ごく真っ当な反応だろう。四段評価なら典型的な「良」とすべき反応だ。
 そんな三人の動揺もどこ吹くそよ風。それをもたらした当人はいつもよりずっと大きな荷物を机に置き、近付いてきて朝の挨拶の構えだ。
 なお場所は、違う高校の違うナンバリングを持つ教室なので、まあ「可」としても、時刻は夕闇とは似ても似つかぬ朝日で完全に「不可」。降り注ぐ太陽も爽やかな朝というわけで、英米人ならずともグッドなモーニングと思うだろうし、間違ってグーテンなモルゲンだボンジョールノだなんて抜かしても笑って許してもらえるだろうて。なお、「朝」に過剰に反応する必要はない。
 それでもってもう一つ大切なのは曜日である。爽やかに降り注ぐ太陽となれば日曜を連想したくなるだろうが、学生が日曜の教室にいて爽やかになれるはずもない。ということで、金曜日である。
 「おはようございます、みなさん」
 このような言い回しで元ネタに気付いてもらえるのだろうかという作者の心配を他所に、みゆきは朝の挨拶をかます。一人ひとりの名前を言うなどというまどろっこしさを省略した点を評価して「優」をあげたい挨拶だが、どうにも表情が冴えない。
 「おハロー」
 「おーっす」
 「おはよ~」
 挨拶の応射の三段射撃も決まったところで、早速事情聴取だ。気になることこの上ないではないか。
 「いきなりだけど、みゆきさん。最近セバスチャンと何か接触を持ったかい?」
 「セバスちゃん?」
 「いや、アルマムーンの大臣じゃなくて……」
 「ああ、白石さんですか? いえ、別に……」
 「何か伝染されてない?」
 「取りようによっては、えらく不穏な内容になりうる聞き方だな」
 「いえ、いたって健康そうでしたけど……? 精神面までは分かりかねますが」
 「みゆきもみゆきで、何気に辛辣だし」
 「じゃあ、どったん?」
 「の」が「ん」になる埼玉弁の言い回しで、こなたが尋ねる。
 「実は財布を忘れてしまいまして……」
 「へえ、そいつは一大事」
 「金がないぞ、何とかしろ。ってわけね」
 二時方向から新たな敵が出現したといわんばかりのこなたに、かがみはその後方を預かる人物のように応じる。
 「荷物の多さに気を取られてしまいまして……」
 みゆきの机は、ボストンバッグにまとめられた小山のような荷物に占領されている。
 「そんなことだろうと思った。責任とまでは言わないけど、原因の所在ははっきりしたわね、お二人さん?」
 かがみがやれやれと感じいうと、こなたとつかさは極まり悪そうな顔をした。


 彼女らは目下、提出期限を来週に控えた宿題を多数抱えていた。そこでこなたは昨日、その一掃を企図して、泊り込み勉強会作戦を提唱した。まずつかさが乗った。次にかがみが誘われた。
 「あんたたちで何とかすれば?」
 そう突っぱねるかがみに、
 「いいの? 可愛い妹を、魔性の宮のオタク親子の元にやったりして。食べちゃうかもよ」
 食い下がるこなた。
 「ソードオフ(銃身を切り詰める)したショットガン持たせるから、大丈夫大丈夫。変なマネしたら、親子揃って挽肉にされて壁に磔になるだけよ」
 「またまた、ご冗談を」
 こなたは笑い飛ばす。
 「つかさに銃が撃てるなんて思ってないくせに」
 「笑い飛ばすポイント、そこかよ……」
 こんな感じの応酬の末、結局かがみも了承。だが、こうも釘を刺す。
 「でも、あんまり期待するんじゃないわよ。こっちだって自分の分で手一杯なんだからね」
 「語尾を『だからね』ってすると、無条件にツンデレっぽくなるのはなんでだろうね……あ、おーい、みゆきさーん」
 変なところに感心した舌の根も乾かぬ内に、こなたは即座にみゆきに誘いをかけた。みゆきは即座に了承した。だが都内在住なので泉家が学校より遠いため、金曜は帰宅せず泉家に直行する事にした。


 そのため金曜のみゆきは、その日学校で必要な物、宿題をこなすのに必要な物、泊まりに必要な物などを全てを持って登校する事になってしまったのだ。荷物の多さは、さながら一人修学旅行。同じ学校の生徒たちの視線が痛いったらない。その上財布を忘れてしまったとなれば、歌ともつかぬ歌の三つや六つ出て来ようというものだ。
 「交通機関を定期でやり過ごせたのが良かったというか、良くなかったというか……」
 パスケースに入ったそれらをわざわざ示し、みゆきは申し訳なさそうに言う。
 「どちらにしても困ったことには変わりないわ」
 「それって何てオリオン座、って笑い飛ばせないねえ……」
 「それ以前に、分かり難くて笑えんわ……」
 オリオン座を構成する恒星に、「サイフ」というのがあるというだけの話である。
 ただ泊まって宿題するだけなら、無一文でも何とかなるかもしれない。金曜の昼の分の弁当は持ってきてるし……。
 「余り物をいただければ、それでしのぎますよ」
 「いやー、ウナギを余らせちゃうような家の人の口に合う余り物、ウチにあったかな??」
 「それに、あんたに余り物食べさせておいて、自分たちだけおいしい物を食べておいて、あんたは良くてもこっちが何とも思わないとでも思ったの?」
 「うぅ……その通りです」
 口が悪いとはいえ相手を選ぶかがみに、珍しくこんな事言われたみゆきは、泣きそうな顔で謝る。
 というのもせっかく四人集まるのだからと、材料買ってきて自炊という格好で、つかさを講師にして料理講座を開く事になったのである。毒を食わらばではないが、ついでに料理(または家庭科?)も勉強してしまえという訳だ。
 「いや、みゆきが責任を感じるところじゃないわ。宿題の大波に飲まれて、頭だけベーリング海あたりまで流されそうになってる二人……」
 まずこなたを見る。
 「いやー、給料日直後なら立て替えるのもやぶさかじゃないんだけどねー」
 次につかさを見る。
 「私もいろいろ苦しくて。という訳でお姉ちゃん……」
 二人がかがみを見る。
 「わ、私がお金持ちに見える?」
 「そうだよねえ」
 「分かればよろしい」
 「なけなしのお金が、お菓子に化けてお腹に消えたと思いきや、形を変えて今も残ってるように見えるよ……」
 「……………………うそ」
 「いや、その……か、かか、か、かがみ??」
 心身喪失モードで滝の涙のかがみと、地雷を踏んでしまったこなたの必死でなだめすかしモードの激突。
 「で、どうする?」
 質問者としてのお鉢が回ってきたつかさが尋ねる。
 「やはり一旦帰宅するよりありませんね」
 「そだねー」
 ダイエットメニューを考えながら、つかさが答える。
 「ですのでかがみさん」
 「んにゃ」
 我に帰った声、または音。
 「んー、あー、OK。その間、二人の面倒は見ておくわ」
 「お願いいたします」
 「そのかわり、うんとおいしいダイエットメニュー作ろうね」
 「はい、楽しみにしてます」
 「ほら、あんたも何か言いなさいよ」
 話を振られたこなたは相変わらずの海苔目だったが、その猫口は何かを企んでいた。やおら携帯を取り出し、何かを確認すると口を開いた。
 「実は、手っ取り早く現金を手に入れる方法が―

 ガッ

 かがみがこなたの肩を掴む。鷲掴みといってもいいくらいの力任せだ。顔が近けりゃ、息も荒い。マジな目線に射抜かれて、気がつきゃギャルゲの主役気分。
 うおう、問答無用で告白イベント突入かい? どこでフラグが立ったんだ? あれ? あれ~?
 「巻き込まないでくれ」
 「はい?」
 「そういう話をするだけで犯罪になりかねない時代なんだよ」
 「いやあの、お代官様?」
 「なんだ、褌屋」
 「それ何て越中屋? そうじゃなくて、実は今日近所で……」
 こなたは小声で何か言った。それを聞いてかがみは一気に緊張を解く。
 「なんだ、そういうことか。それならそうと、早く言いなさいよ」
 「聞こうとしなかった自分を棚に上げて、告白イベントと勘違いさせといて、お代官様も悪ですのぉ」
 「まあ、とにかく」
 赤面気味のかがみが振り向いて言う。
 「こなたの言うとおり、手っ取り早く現金が手に入るけど、それで医者になるのを諦めるようなことにはならないから安心して」
 「そうですか」
 「まあ、油断したら、医者の世話になるけどね」
 「ええ~っ!? 一体何をなさるんですか?」
 泣きそうな顔でつかさに尋ねる。
 「え、えーと」
 こなたとかがみが目配せをする。そこにみゆきをからかう算段の存在をを感知しはした。
 ―だが。
 「何をするの?」
 つかさには分かっていなかった。
 「……まあいいわ。放課後を楽しみにしてて」
 二人は何を企んでいるのか?




 放課後。
 四人はこなたの地元へと移動した。
 何かを探すようにとてとて歩くこなた。かがみが見えない手綱を手繰るように続き、つかさは前の二人と後ろのみゆきを気遣わしげにしながら行き、重い荷物を持ったみゆきがふうふう言いながらついて行く。
 「こなちゃん、お姉ちゃん。ちょっと待ってよ~」
 「早く早く。遅れをとったらアウトよ」
 曲がり角でかがみが手招きする。
 「あった、あそこだ」
 目的地なり目標なりを見つけたこなたが、指を指している。
 「一体どこを目指しているのでしょう?」
 みゆきは傍らのつかさに聞く。
 「私、分かっちゃった」
 つかさはハンカチを取り出すと、手術中の看護師のようにみゆきの額を拭いてやる。
 「本当ですか?」
 みゆきは驚きを禁じえない。電車を降りるまでは本当に知らないようだったし、降りてから何の情報を得たというのだろうか?
 「こういうのあったよね」
 つかさは人差し指を立てた手を横向きにして、みゆきに見せる。確かに途中の電柱に「●●家」という張り紙があって、その下の方にそのような絵で目的地のある方向を示していた。葬儀場の所在を知らせる張り紙だ。それも自宅葬のようだ。
 ということは、その葬儀が行われる家を目指していることになるのだろうか。葬式といえば香典だが、それをこっそり……じゃ完全に警察沙汰だ。
 「葬儀に参列するのですか?」
 「うーん、参列といえるかどうかわかんないけど、お寺までついてくんだよ」
 「お寺??」
 寺に慈悲を乞うとも考えにくいし、賽銭を……なわけない。
 「まだまだへばってる場合じゃないよ、みゆきさん。決戦は金曜日。戦いはこれからだよ」
 追いついたみゆきに、こなたは好戦的な表情でそう言った。
 「ドリ●ムか」
 「ジョン・ポール・ジョーンズですか?」
 かがみとみゆきがそれぞれにつっこむ。
 「あ、出るみたいだよ」
 葬儀が行われていた●●家の前では、いわゆる葬式行列、葬列が組まれていた。

 ジャーン

 銅鑼が鳴り、喪服・礼服の列がゆっくりと寺に向けて歩み始める。黒衣の群れの中で、骨壷の入った白い箱だけが不気味なほど白く君臨していた。
 「行こう。先回りしなきゃ」
 こなたが言い、再び先頭に立つ。
 造花の菊と提灯に飾られた●●家の前を過ぎ、なるべく距離を開けて葬列を追い抜く。みゆきはその際、参列者たちを盗み見た。
 若い世代ほどポーカーフェイスで平然としているように見えた。無論、見えただけである。一方、故人の伴侶であろう。老婆が娘と思しき人に支えられて、列の最後尾をよろよろとついて行く。その顔に涙はないが、深い皺の刻まれた顔の表情は暗い。悲しんでいるようでもあり、この日を覚悟していたかのようでもあり、流されまいと必死にしがみついているようでもあり、結局よく分からなかった。

 痛々しいものですね……

 そう思うのは、参列者内の温度差のようなものであり、それ以上にひどく場違いな自分たちを思えばであった。前者はあるいは自然なことなのかもしれないが、自分たちはといえば、まるで、というよりまるっきり野次馬ではないか。
 先を行く三人は、気にしている様子はない。それどころか、同じ腹づもりでいると思われる人たちが、葬列の後ろについていったり、追い抜かしたりしている。

 やはり、ここは異郷なのですね……

 やがて四人は、真の目的地たる寺に着いた。白砂を敷き詰めた境内は、これから始まる何かのために、人々が終結していた。それは夕刻に自宅にいる確率の高い人達、または時間の融通の聞く人たちといったところか。小・中の学生たち(高校生は彼女ら四人だけだった)、主婦、老後の人生を送っている人、それに格好からして農家と思われる人たちだ。

 葬列はきっとこのあたりで……
 あの人数だと、円の直径は……
 飛距離はおそらく……
 じゃあ私が左、かがみは……

 手早く作戦会議を打ち、配置を決めた……ようだ。圧倒され、呆然とし、見入るようでその実何も見てなかったみゆきには、頭に入って来なかった。
 一体何が……。何を……。

 ジャーン……ジャーン……ジャーン

 友人たちの言葉が入ってこないみゆきを嘲笑うように、葬列が境内に入ってくる。

 ジャーン

 銅鑼の音が近い。
 一体何が……何を……。
 野次馬たちが空けていたお堂の扉の前で、参列がとぐろを巻く蛇のように円を作る。
 一体何が……。何を……。

 ジャーン

 銅鑼が鳴る。
 手空きの参列者たちが布袋を手にしている。おもむろに中に手を入れ、何かを取り出し……撒いた。
 鬨の声が上がり、境内に集結した人々がその何かに群がる。まるで鳥の餌付けだ。
 一体何が……。何を……。
 撒かれたものの一つが、みゆきの足元に転がった。
 十円玉だった。




 「みゆきさ~ん、戦意薄いよ、何やってんの?」
 こなたの声で我に帰る。見ると彼女は、低い姿勢でつかんだ硬貨を、スカートのポケットに押し込んでいるところだった。宙を舞い、降り注いだのは青銅製の10円玉だけではない。大粒の雨となり、反射光を残して落ちるは1円玉? 50円玉? 100円玉? それとも500円?
 明晰な頭脳を持つみゆきにしてはらしくもなく、ここにきてやっと合点が行った。これらを拾って当座の活動資金にしようというのだ。
 「はいっ」
 弾かれるように答え、とりあえず足元の10円玉を拾う。そしてすぐさま難題発生。荷物はどうするか。肩にかけたまま拾うのは邪魔だ。それに、10円玉を白砂ごと掴んでしまった。
 えーいままよ、です。
 みゆきは荷を放り出し、10円玉をスカートのポケットに押し込む。ハンカチと携帯が砂まみれになるが、そんなの関係ありません。
 「そうそう、誰も盗みゃしないよ。一部の衣類以外は」
 「親父思考自重!」
 円を挟んで反対から、かがみのツッコミが飛んでくる。地面に散らばる硬貨を拾いながら、である。
 みゆきは前進し、戦線に加わる。10円玉一つでは、少量の駄菓子で明かさなければならなくなる。まず100円玉が二つ目に付いたので、それぞれを左右の手でつまみ、左のを右に移すと同時にポケットへ。その間も空いた左手を50円玉へと伸ばす。初めてにしては手際は悪くない、とこなたは思った。
 「きゃ」
 頭上から新たな硬貨が降ってきた。参列者はまだ撒くべき硬貨を持っているようだ。二、三枚拾ったところで、背中に違和感を感じた。
 「!?」
 上半身を立てて身をよじると、背中から100円玉が出てきた。それも拾う。
 「脱いじゃっても、今なら誰も見てないよ」
 再びこなたの声。
 「あんたが見てるでしょ」
 かがみのツッコミもセットでもれなく、である。ここまで来ると、もやは業が深いとでもいうべきか。こなたの言動に注視しつつも、硬貨を拾う手は止まらない。
 が、こなたはその上を行った。その場の狂熱の為せる業かもしれないが、後に三人が口を揃えて言うところによると、“手が分裂して見えた”そうである。
 その後何回か、硬貨の雨が降り注いだ。そして拾うべき硬貨が目に付かなくなる頃、葬列はいつの間にか消えていた。納骨のために、お堂の裏にある墓地の方へ移動したのだろう。
 一体なんだというのだろう。拾った硬貨で重くなったスカートを引きずるような感覚で歩いて放り出した荷物を拾うと、休息を求めベンチに体を預ける。そこへかがみが、ニコニコしながらやってきた。その顔は、からかいの添加物で味付けされていた。
 「おつかれ。すっかり『おくだりさん』ね」
 初めての都会に戸惑う地方人のことを「おのぼりさん」というが、まさにその反対の構図だ……。
 「って言っても、これから宿題やってもっと疲れるんだけどね」
 「かがみさんこそ、お疲れ様です。一番引っ張り回されているのは、かがみさんだと思いますよ」
 宿題を自力で片付けられない二人と、財布を忘れたみゆきに。
 「それにしても人がお悪い」
 「妹と友人の宿題の面倒を見て、あるいはその面倒を見る役目をあんた一人に押し付けない私が、どうして人が悪い事になるの?」
 「何が起こるか予め知っていれば、あと何枚か拾うことが出来ましたのに……」
 「出遅れてたもんね、みゆき」
 「やはり見ていらしたんですね?」
 「たまにはこなたとグルになって、からかってやろうと思ったのよ。どうせ東京にはないだろうし、これ」
 「人の良い方のなさることではありません」
 「反論の余地ないわね」
 かがみが笑う。つられてみゆきも笑ったが、心からの笑顔ではない。
 「そろそろ教えてください。これは一体何だったのですか?」


 つづく






















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