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創作の衝動 第1話

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「いやー、今回のイベントは新刊の売れ行きも良かったしパティと泉先輩の2人に売り子を
 手伝ってもらって欲しかったサークルさんの新刊もコンプしたし最高だったっス、本当に」
とある同人誌即売会の帰り道。
田村ひよりは自分のサークルの新刊の売れ行きの好調さと欲しいと思っていた同人誌を
漏れなく確保出来た喜びからか、疲労を全く感じさせない軽い足取りで家路についていた。

「さーて、戦利品のチェックと参るっスかね」
誰に言うでもなく、そう呟いてひよりはカバンの中に丁寧に詰め込まれた
同人誌の束を引っ張り出して喜色満面の表情を浮かべながら読み始めた。

「やっぱりどのサークルさんもクオリティ高いなぁ、私ももっと頑張らないと…」
今日手に入れた同人誌のほぼ全てを読み終え、他のサークルへの感心と
自分への奮起を込めた言葉を呟いたひよりの目線に「最後の1冊」が飛び込んだその時…

「…いよいよ、『ラスボス』っスか…」
今までとはまったく違った雰囲気で、ぼそりとそう呟いた。

いや、違っていたのは雰囲気だけではない。
今まで笑顔で同人誌を読んでいたひよりの表情が一変し、
本当に真剣な表情で「最後の1冊」を読んでいた。

数分が経過し、「最後の1冊」を読み終えると…
「はぁ…何とも重いと言うか、リアリティ重視のお話だったっスね…相変わらず」
疲労を感じさせる表情で、溜息をつきながら感想を呟いていた。

ひよりが『ラスボス』と言っていた同人誌。
それはとある日常物の4コママンガの二次創作作品であった。
原作のメインキャラクターはほぼ女性キャラで構成されているため、
自然と百合物の同人誌の割合も多くなり…ひよりも百合物の同人誌を
描いている事もあり、何度かこの作品の百合物の同人誌を購入していた。

原作の雰囲気の緩やかさからか、基本的にはラブラブで幸せな作品が多いのだが…
ひより曰く『ラスボス』なこの同人誌を出したサークルの作品は「主人公とその従妹」の
カップリングを扱っており、同性に加え血縁関係でもある2人の恋愛の困難さを前面に
押し出したものとなっている事が『重い』とも感じられる雰囲気を醸し出していたのである。

「無理矢理2人を引き剥がして『想い人』を手に入れたって、その人が自分に振り向くとは
 限らない…って言うかまず振り向かないだろうに、どうしてあんな事しちゃうんスかねぇ…」
ベッドに横たわり、『ラスボス』の同人誌の内容を振り返りながら一人ごちるひより。

「家族や、得られるはずだった未来を捨てて…犯罪を犯す事も、厭わないだなんて…
 そんな事をした結果、『想い人』にそっぽを向かれたら…本当に、全てを失ってしまうんスよ?
 それでもやるって言うんスか? 本当に、奪い取るって言うんスか…あなたは?」
一度吐き出し始めた思いはとどまる事なく。
全てを吐露するように呟き続けながら、ひよりはそのまま眠りに落ちて行った。

数日後。
田村家にはひよりの友人であるゆたか・みなみ・パティの3人が勉強会の為に集まっていた。

「やっと終わったよ~…」
「…お疲れ様、ゆたか」
「ミナミはホントウに、ユタカが大好きなんデスね♪」
「あうっ、恥ずかしいよパティちゃん…」
「………」
(いやー…見つめ合ってお互いに赤面とはこれまたオツですなぁ)
「田村さん、どうしたの?」
「…大丈夫?」
「モウソウ中ですカ、ヒヨリ♪」
「ふぉぉっ!? あ、ゴメンね疲れてついボーッとなっちゃって…
 クールダウンに飲み物でも持って来るから、ちょっと待っててね」
「あ、ありがとう田村さん」
「…ありがとう」
「Oh、Thank Youヒヨリ♪」

「こんな物しかなかったけど…って、あれ?」
そう言いながらオレンジジュースのペットボトルとコップの乗った
お盆を持って部屋に戻って来たひよりが目にしたものは…
ゆたかが神妙な表情で薄手の本を見ており、両脇にみなみとパティが居るという光景だった。

(こ、これはあの時の悪夢再びーっ!? …いや落ち着け、あのノートは鍵のかけられる
机の引き出しにしまったからそれはありえないはず…もう少し近付いてみるか)
以前にパティに「黒歴史」の詰まったノートを見られた時の光景が脳裏に蘇ったが、
冷静に考えた後に事実確認をしようと3人の元に近付いていった。

(え…これって、あの同人誌じゃないっスかぁぁぁぁっ!? …いやまぁ、一般向けだから
ゆたかちゃんが読んでもあまり問題はないしそんなに慌てる事はないっスね)
ゆたかが読んでいた本が、数日前に手に入れた『ラスボス』の同人誌だった事で
一瞬再び慌てるが…同人誌の内容を思い返し、大きな問題はないなと安堵していたその時。

「田村さん?」
「え? 何スか、ゆたかちゃん?」
「…この同人誌、題名に添えて『第5話』って書かれてるよね?」
「そうっスけど…」
「第1話から第4話までも見たいんだけど…いいかな?」
「いいっスよ…あ、どうせならそこに至るまでのお話が描かれているヤツ全部出すっスね」
ゆたかの言葉に返事を返し、押入れにある同人誌の保管ケースの1つからあの同人誌を出した
サークルの同人誌の中で『ラスボス』の作品に繋がるものを一通り出していった。

…それから数分後。
ひよりが出した同人誌数冊を一通り読み終えたゆたかは、
さすがに疲れた様子を隠せずに俯いていた。

「ゆたか…大丈夫?」
「ううん、ちょっと疲れただけだから心配ないよみなみちゃん」
心配して声をかけるみなみに、両手を振って大丈夫だとアピールするゆたか。
「…はぁ」
しかし、その直後には疲れとはまた違った沈んだ雰囲気で溜息をついていた。

「どうしちゃったんスか、ゆたかちゃん?」
「ドコか悲しそうな雰囲気デスよ、ユタカ?」
ひよりとパティも、心配になって思わず声をかける。

「うん…このお話がとても悲しかったから、ちょっと落ち込んじゃったんだ」
「お話が…?」
「うん…だって、せっかく2人とも好きだって言ってて思いは通じ合ってるのに
 周りの人達が邪魔しちゃう格好になって引き離されて…『駆け落ち』までしてやっと2人で
 幸せになった、って思ったのにまた2人が引き離されようとしているのが…悲しいな、って」
「ユタカ…」

「…もしも周りの人達に話してたなら、みんな認めてくれたのかもしれないのにね」
ゆたかの言った、その一言が。

(! そうっスよ! その手があるっス! 私も曲がりなりにも漫画描きの端くれ!
私流のこのカップリングのハッピーエンドな話を描いてみるっスよぉぉぉぉっ!!)
ひよりの心の片隅で燻り続けていたものに、火をつけた。

「ゆたかちゃんっ!」
「た、田村さん?」
「描いてみせるっス! ゆたかちゃんが望む、この2人の幸せなお話をっ!!」




















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