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らき☆すた SEXCHANGE ~正対編2~

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匿名ユーザー

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「えっと…お茶、飲むかい?」
 鏡を居間に通した宗次郎が、最初に言ったのがそれだった。
 鏡は断る理由も余裕もなく、宗次郎が台所に向かうのを見送った。ゆたかは、二人に不安そうな目を向けながらも、自分の部屋に戻って行った。


らき☆すた SEXCHANGE  ~正対編2~


 見なれた――そう言ってもいい程度に何度も訪れた泉家の居間で一人になって、鏡は宗次郎に声をかけられた瞬間に失った落ち着きを、僅かながら取り戻す。
 落ち付いた頭に浮かんだのは、宗次郎がどう思っているかについてだ。
「殴られる、くらいは覚悟していたけど…」
 あるいはこなたに会わせないといわれるか、何かしら問い詰められるか…。
 少なくとも、茶をすすめられる程に友好的な対応は想定していなかった。
 娘を溺愛する父親としては、考えられない対応だ。
 それこそ、娘の断髪や引きこもりなど、何とも思っていないとでもいう風な。
「いっそ、またアニメかなんかの影響だと思ってスルーしてたりな…」
 あり得ない推論を口にして、鏡は独りで小さく笑う。
 思考に詰まって、鏡は今の中に視線を彷徨わせる。
 接続されっぱなしのゲーム機、カレンダー、カラス戸…やがてその目は、一枚の写真に留る。
 こなたの母、泉かなたの写真。
 何度見てもこなたとそっくりだった。いや、この場合、こなたがかなたに生き写し、というのが正しいが。
 見分けれるポイントは、泣きボクロと、こなたの方が若干色黒なところと、そして頭から飛び出たひと束の癖毛。
 その三点を隠してしまえば、全く見分けがつかない。
 体格も、顔つきも、そして長い髪も…
「あっ…」
 思いかけて、こなたは既に髪を切ってしまっていることを思い出し、少し気が滅入り、そして同時にやはり宗次郎は、こなたの変調について用意ならざる想いを抱えていることを確信する。
 こなたが髪を伸ばす理由を鏡は知らないが、長い髪を維持するのにはそれなりの手間がかかるのは知っている。
 長い髪を切るのは、今までかけた手間も切り捨てるということだ。
「待たせたね」
「あ、いえ…」
 宗次郎が戻ってきて、鏡は思考を中断する。
 宗次郎は鏡と向かい合うように座り、湯呑を鏡と自分の前におく。
 鏡は居心地の悪さを感じながら、湯気を立てる湯のみと宗次郎の顔を見比べるように、視線を往復させる。
「あー、と…」
 宗次郎が口を開いたが、出てきたのはうめき声の様な意味のない声だった。その口元は、どこかひきつったような愛想笑い。
 怒りを抑えている、というわけではなさそうだ。むしろどちらかと言うと、鏡と同じ気まずそうな雰囲気だった。
 指先で頬をかきながら、宗次郎は言葉を探すようにしてから、こう切り出した。
「…驚いたろ?」
「え?」
「いや、こんな風にお茶を出したりするとは思ってなかったんじゃないかなって…」
「あ、え、いや………。―――はい」
 全くの予想外の反射的に否定しようとして、しかし鏡は観念し、結局正直に答えた。
 それを受けた宗次郎の方はと言うと
「そっか、やっぱりなぁ」
 それだけ言って、どこか面白そうな、くすぐったそうな表情をする。しばらく独りで納得して、そうかそうかと頷いていたが、鏡の怪訝そうな表情に気付くと、気恥しげに笑った。
「俺もこなたが髪を切って、しかも仮病使って学校を休み始めたときは、そりゃ原因を作った奴に対して腹も立ったさ。
 それに、鏡君が訪ねて来た時、なんとなく君がその原因だってのは分かったし、その瞬間、一発殴ってやろうかって思ったよ」
「…すみません」
 それは予想通りの言葉だったが、実際に言われると想像以上に気分が沈む。
 だが宗次郎が続けたのは、さらに想像外の言葉だった。
「だけど…なんか玄関先で鏡君の顔を見たとき…なんか、思っちゃったんだよね。
 ―――お義父さんに、かなたを下さい、って言いに行く時の自分も、こんな感じだったのかな、って」
 鏡は目を見開いて、照れくさそうに言う宗次郎の顔を見た。
 宗次郎はまるで思わず惚気話を聞かせてしまったかのような、照れくさそうな顔をしていた。
 もちろん、宗次郎がこなた達を巡る事情を知っているはずもない。鏡自身ですら全容を把握したのはついさっき、三行達と話した時なのだから。

 三行が宗次郎に連絡を入れたのか、という馬鹿な想像までする鏡だったが、すぐに思いなおした。
 たぶん、宗次郎は事実を全く把握していない。夕暮れの教室のことも、あの踊り場のことも、その時々に交わされた会話も…。
 しかし宗次郎は、それでも真実に辿り着いたのだろう。おそらくは、こなたと鏡の様子と表情から―――。
「……責めないん…ですか?」
「何をだい?」
「だって俺は…こなたは…」
 どういうべきか迷う鏡を、宗次郎はそっと押しとどめて、言う。
「俺にその権利はないよ。それに、仕方のないことだと思うからね。
 ―――人を好きになって傷つくのはさ」
 宗次郎は鏡から別の所へと目を向ける。
 その視線の向かった先は、かなたの写真だった。
「俺も、かなたが死んじまった時は、悲しかったから」
「それは誰も悪くないじゃないですか!けど、今は…!」
「同じだよ」
 断言され、鏡には反論するすべを持ち得なかった。
 誰かを愛し、先立たれ、しかしそれでも真っ直ぐと、その人を想い続ける者に対して、今の自分はあまりにも惨めで中途半端な存在にすぎないから。
 俯く鏡。
 宗次郎は言葉を選ぶように間を置く。
 自分で持ってきた湯呑に口を付けてから、
「…まあ、あえて俺と君達の違いを挙げるなら…鏡君やこなたには、まだ出来ること、やらなきゃならいことが、たくさん残っているってところかな?」
 ――お兄ちゃんも、逃げちゃだめだよ。
 宗次郎に司の笑顔が重なった。

「――こなたに、会わせてください」



 学校を休んで、もう三日目――だろうか?
 天井を見上げながら指折り数える。
「えっと――今、朝?昼?」
 時計を見ればいいという当たり前のことを考え実行するまで、時間がかなりかかった。
 頭がぼうっとしているのは、体内時計が狂っているせいかもしれない。
 あの日、鏡に誤解された後、気がついたら家に戻っていた。
 どうしたのかと色をなくして問う宗次郎に、具合が悪くなったと言って部屋に籠った。
 それからちょうど始まっていた生理を理由にして学校を休みはじめた。
 本当なら、すぐにでも鏡に会って誤解を解くべきだったのかもしれない。
 けれどもあの時の鏡の声が頭の中を反響して、最適なはずの行動に移るのを邪魔する。
「ゲームなら、家にこもるなんて選択肢絶対選ばないのにねぇ」
 フラグを逃すだけなのに、と自嘲。
 引き籠っている間、ギャルゲは全くしていない。する気が起きない。
 同じ理由で漫画もアニメもNG。見れるのは純粋なギャグ系ぐらい。どんなものでも、少しでも鬱な展開の影が見えるだけで、すぐに鏡の言葉を思い出す。

「末期だねぇ…」
 寝ても覚めても彼のことを考える。
 恋に落ちた者を表現する定言句。
 煩悩雑念で満載の自分には縁のない言葉と思っていたのに、今ではすっかり言葉その物。
「どうしてだろ?」
 どうしてこんなことになってしまったのか?
 どうして司や三行傷つけてしまうようなことになってしまったのか?
 どうして鏡に誤解されるようなことになり、しかもそのままで放っておくのか?
 どうして鏡のことを好きになり、しかもあんなタイミングで気付いてしまったのか?
 どうして―――
「どうして―――こんな苦しい目にあうんだろ?」
 分からなくて、悔しくて、悲しくて…。
 しかも悪いことに、ただ鏡のことを考えるのが苦しく辛いだけではないのだ。それだけなら嫌いになってしまえば済む。
 鏡の笑顔を思い出すだけで、冷めきった心に灯がともったように暖かくなる。
 鏡との会話を思い出すだけで、想い悩み疲れ擦り切れた心が優しく包まれるような気がする。
 鏡との思い出の全てが甘く、暖かく――

『離れろよ』

――けれどもその行き着く先は、苦く冷たい拒絶の言葉。
 行き着く先が苦しみと分かっていても、摂取がやめられないのはまさに麻薬。その様子は誘蛾灯に群がる蛾。
「何なんだろうねぇ…」
 同年代の少女と比べても小さな胸の内に、感情はただただたまる一方で、僅かなはけ口は独り言と一緒のため息だけ。
 鬱々とベッドの上で寝がえりを打っていると、扉をノックする音がした。
 ゆたかだろうか、宗次郎だろうか?
 2人には心配をかけていると、こなたはすまないという感情を得る。
 ゆたかは、こなたが髪を切ったのも、そして現在の引きこもりも自分が原因と思ってりう節があって、時々来て元気づけようとしてくれている。
 宗次郎も、こちらが仮病と分かっていても、何も言わずに学校を休ませてくれている。
 早く立ち直らないとな。
 そんなことを考えているこなたは、扉の向こうから届いてきた声に、氷付いた。
 その声はこの数日、寝ても起きてもこなたを苦しめ、しかし同時に、思い出すだけでたまらないほどの甘い感覚を、こなたの胸の中に思い起こしてくれる声――

「こなた…入っていいか?」

 鏡の、声だった。




















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  • つ、つづきはないのか・・・ -- 名無しさん (2009-03-01 01:18:19)
  • 待っていました! -- 名無しさん (2008-06-01 22:48:49)

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