kairakunoza @ ウィキ

彼女は遷移状態で恋をする-こなたside-(8)

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
  • 彼女は遷移状態で恋をする こなたSide(8)


『こうすれば、見えないだろ?』
 声が頭に反響する。
 顔が熱い。
 熱が発散出来ずに、脳内で暴れる。
 かがみに……抱きしめられた。
 その光景が頭に入ってきて、心臓が暴れだす。
 そして……もう一つ。
『浴衣、似合ってるな』
 ……。
 私の……私だけの、言葉。
 私だけに向けられた、かがみの言葉。
 それを租借するだけで、心臓の祭囃子が耳に届く。
 何気ない一言。
 それなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
 どうしてこんなに……嬉しいんだろう。
 こんな時に、思い知らされる。
 この胸の奥にある、気持ちの重さを。
「人、出てきたな」
「ふぇ?」
 声がして顔をあげたら、河原に溢れる人々が視界に入った。
 花火がもう終わって、中には帰る人も出てきたはず。
 その流れに逆らって、最初に花火を見た場所に二人で向かう。
 そこで皆と、一応待ち合わせ。
 言い訳はさっき、かがみがしてくれた。
 名目は一応……私が気分が悪くなったのを、かがみが人込みから連れ出してくれたってことに。
 そう、かがみがみゆき君と携帯で喋ってたのを聞いた。
 ……うん、間違ってないよね。
 泣いてたの、見られてたし。
 謝ってくれたし、抱き締めてくれたし。
 ……あはは、泣いてたからあやされちゃった。
 なんか、卑怯だったかな。
 うん、卑怯……だって、逃げれたのに逃げなかった。
 慰めてほしかった……そんな感情が、私の足から根っこを伸ばした。
 ……ほら、卑怯。
 慰めてって、言ってるようなもんだもん。
「はぐれるなよ」
「うん、大丈、夫っ」
 前を歩くかがみの後ろを必死についていく。
 それでも人込みを掻き分けていくと、なかなか歩幅をあわせられない。
「ちょ……か、がみっ。待っ」
「ったく、ほら」
 かがみが足を止めた。
 それと一緒に……私の心臓も、止まりそうだった。
 かがみが私に、手を差し伸べたから。
 さっきみたいに、かがみが無理矢理掴んだのとは違う。
 私が……掴まないといけない。
「えっ、えと……あ、ありがと」
 その差し出された手に、ゆっくり手を伸ばす。
 動悸が耳にいやに響く。
 かがみにも聞こえてるんじゃないかってぐらいに、激しく。
 世界が少しの間だけ、スローモーションだった。
 ううん、実際にそうだった。
 私の手がゆっくりすぎた所為。
 まず人差し指が掌に触れた。
 脳が、爆発するんじゃないかと思った。
 次にかがみの人差し指が、私の指と絡まった。
 心臓が、破裂するんじゃないかと思った。
 その部分だけ、まるで痺れたみたいに感じる。
 そのまま私の手が、包まれる。
 痺れが腕から脳にあがり、弛緩していく。
 ……う、うん。仕方ないよね。
 だってはぐれたら……大変だから。
 そのまま手を引かれて、私とかがみは群集の中に混じっていく。
 喧騒に、心音が紛れてくれた。
 ああ、きっともう手遅れなんだな。
 そう自分に言い聞かせた。
 動悸と心音と、喧騒の音楽に身を任せながら。
 指先に感じる暖かさに、心地よさを覚えながら。


「おーい、こなちゃーん」
 学校の玄関で、私の耳に声が届いた。
 その声に、体が反応する。
 呼び方に声の質。
 どう聞いたって……つかさの声だった。
「あ、おはよーみんな」
 振り返る。
 目が、一人を探す。
 視界に……入ってくる。
「おっす」
 その中の一人の声が、耳を通り抜けた。
 痺れそうな感覚が、脳から始まって体を弛緩していく。
 収まらない動悸が妙に耳障りだった。
 それでも……顔が緩んだ。
 かがみの、前だったから。
「今日だけどさ、帰りゲマズ寄ろうよっ。新刊出るんだー」
「いいですね、私も欲しかった参考書がありまして」
「あ、僕もー。ね? お兄ちゃん」
 二人が視線をかがみに移す。
 私もそれに、習うしかない。
 ……自然に、あくまで自然に。
「んああ、予定もないから別にいいぞ」
「ほ、本当っ?」
 つい、確認してしまった。
 だから、つい……かがみと眼があってしまった。
「ああ、俺も欲しい本あったんだ」
「そ、そう……なんだ」
 かがみが首を縦に振ってくれたのが、嬉しかった。
 交わった視線が、恥ずかしかった。
 揺れる動悸は収まってくれなくて、耳障りで。
 それでどこか……心地よかった。
「かがみの事だからあれ、またラノベでしょ?」
「んああ、まぁな。今度ようやく驚愕が……」
「あれ、発売延期だよ」
「またかよ!!!」
 皆で笑いながら、いつもの様に教室に向う。
 かがみが喋る。
 私がそれをからかう。
 また、皆で笑う。
 でもそんな楽しい時間は……いつものようにすぐに終わる。
「っと、じゃあまたな」
 かがみが一人、私達の輪から外れる。
 自分のクラスに向わないといけないから、それは仕方ないこと。
 だけどやっぱり……寂しいな。
 ……あははっ、そんな馬鹿なこと思ってるのは私だけなんだろうな。
「かがみ」
「?」
 それでも、いいんだ。
 私が思ってるだけでも、いい。
 だってそれぐらいは……いい、よね。
「また後でねっ」


 妙に授業が長く感じた。
 何度も、時計を確認した。
 その度に進まない長針に腹が立った。
 そしてようやくやってきた休み時間のたびに、妙な考えが頭を回る。
 かがみのクラスに行こうかな、って。
 でも今日に限って、忘れものなんかしなかった。
 いつもなら忘れる宿題も、珍しくしてあって言い訳を無くす。
 別に何もなくたって、行けばいい。と自分に言い聞かす。
 今までだってそういうことだってあったし、ただからかいに行った事だってある。
 なのに足が動かないのはきっと……昨日の所為。
 そう、あんな事があったばっかりだから。
 だからちょっと……意識してるだけ。
 多分、明日には大丈夫。
 明日はじゃあこうしよう。
 休み時間のたびに一回ずつ、かがみに会いに行こう。
 理由なんていいよ、きっと何か忘れてるから。
 それを借りるのでもいい、からかうのでもいい。
 ただ会いたいってだけで……理由は、いい。
「こなちゃーん、ご飯食べよー」
「あ……うんっ」
 つかさの言葉に、心音が早くなる。
 机をつけて、皆でお弁当を囲む。
 私と、つかさと、みゆき君で。
「えと……かがみは?」
 それが頭に過ぎって、思わず尋ねる。
 顔の熱が少し上がったけど、首を振って発散する。
「そういや遅いね、今日は向こうで食べるんじゃない?」
 かがみは違うクラス。
 だから、それは別に不思議なことじゃない。
「わ、私さっ」
 そう言い聞かせているはずなのに、私の体が席を立った。
 朝会ってから今まで会えないなんて、普通のことだった。
 それなのに……体が勝手に動いた。
「ジュース買ってくるついでに、誘ってくるね」
 そう言って教室から出て、かがみの教室に向う。
 早足だったのはきっと、気の所為じゃない。
 だって、見つけたから。
 かがみに会いに行く……理由。
 その所為で心音は早くなって、自然と顔が緩んだ。
「かーがみっ」
「うおっ!」
 後ろからこっそり近付いて、背中を勢いよく叩く。
 聞きなれた声が、耳に心地よい。
「お、お前なぁっ!」
「あははっ、背後が隙だらけだねー。駄目だなぁかがみはー」
 もうちょっと力入れてやっても良かったかな、結構頑丈だし。
 まぁいいや、それよりそうっ。
「お弁当食べよーよ、みゆき君とかつかさも待ってるし」
「あ、ああっー。それな……」
 かがみが少し、気まずそうにする。
 そのまま視線を私から外すと、違う誰かを探す。
 その目が、誰かに止まった。
「悪い、えと……今日は先約があるんだ」
「えっ……」
 言葉が止まる。
 少し頭の中が、白で染まる。
 残念がってる自分がそこに居た。
 そんな日だってあるのは分かってた。
 なのに……妙に、期待をしてしまった。
「そ、そっか……そだよね」
「あっ、えと。明日はほら、そっちで食うからさ」
 私の様子が伝わって、かがみが慌てる。
 それが少し、辛かった。
 かがみに気を使わせたことも。
「誰と食べるの?」って、聞けない自分が居ることも。
 さっき、誰を見たんだろうと頭が勝手に考える。
 男子? それとも……。
 また私の中で、嫌な感情が出てくる。
 その自分が、みすぼらしくて嫌だった。
 すぐに言い訳を考える、自分も。
「ジュ、ジュース買うついでに寄っただけなんだっ。気にしないでっ」
 勝手に口が言葉を紡ぐ。
 そんなの、伝える必要もないのに。
 ただ会いに来ただけって、言えばいいのに。
 それを言い捨てて、背を向ける。
「あ、こなたっ」
 かがみの声も、聞こえないふり。
 だって、立ち止まれなかった。。
 振り返ったらきっと、笑顔が出来ないから。
「また、放課後なっ」
「……っ」
 だけど、最後の言葉で足が地面に根を張った。
 頑丈な根っこは、私の未練。
 みっともなくて情けない……私の世界樹の、根っこ。
 それをニードヘッグが食べてくれれば、そこから抜け出せるのかな。
 こんな惨めな気持ちに縋り付かなくて、済むのかな。
 好きってただ、二文字の言葉に。
「……うん、またね」
 小さく言葉を残して、私は教室を去った。
 放課後。
 それにまた期待をしてる自分が居て。
 心を高揚させる自分が居て。
 それがどうしようもなくみっともなくて……嫌だった。


「うぅ、こなちゃぁ~ん」
 長い授業が終わって、放課後になった。
 ホームルームが終わったあとに、つかさが私に泣きついてきた。
「わっ、どったの? つかさ」
「いえいえ、それがそれが」
 隣りに居たみゆき君も、少し困ったような表情をする。
「黒井先生が、今日は残れって……多分、此間のテスト」
 ガクッと肩を落とすつかさ。
 テスト? ああ、前あった世界史のやつか。
 みゆき君は問題あるわけないし、私は徹夜で何とかなった。
 でもつかさはどうやら……駄目だったっぽい。
「だからゴメン、今日は僕行けないや……三人で行ってきて」
 そう言い残すと、教卓でこちらを睨んでいた黒井先生のもとにトボトボと歩いていった。
「どうしよっか……終わるまで待つ?」
「……」
 みゆき君に視線を向ける。
 そしたら何か、いつもの笑顔がちょっと曇っていた。
「どったの? みゆき君」
「ああ、いえ……」
 それで少し腕を組んだあとに、私を見る。
「そう、私も実は用があるんです」
「ふぇ?」
 何処か棒読みな言葉で、みゆき君が言葉を続ける。
「実はさっき急に、生徒会の仕事が入りまして……いやぁ、困った困った」
 そう言ってるわりに、顔はあまり困ってなさそう。
「でも、さっきつかさは三人で行けって……」
「ああ、つかさ君には伝えていませんでしたね」
 よく分かんない言い訳をされ、途惑う。
 ええと、よく言ってる意味が分かんないなぁ。
 用はえっと……。
「なのでどうぞ二人で、行ってきて下さい」
「へっ……」
 二人。
 その言葉に、いやに心臓が反応した。
 相手なんて、一人しか居ない。
 私とみゆきとつかさ。
 それを除けば……最後に残るのは、一人。
「あ、えっ……かがみ、とっ?」
「ええ、彼は新しいラノベが欲しいと言ってましたし、取り止めにするのは可哀想でしょう?」
 そう言ってみゆき君まで、教室から出て行った。
 残されたのは、私。
 他の生徒だって居るのに、まるで私だけみたいな気分。
 そんな中で心臓が、激しく鼓動を刻む。
 だけど、慌ててるんじゃない。
 嫌なんじゃない。
 かがみと、二人。
 その言葉が……私をみっともなく高揚させる。
 どうしよう、と頭が考える。
 答えは決まってる癖に、無駄に心臓が右往左往に暴れていく。
 かがみと二人で、買い物。
 そんなのいままで、何回も行って来たはずなのに。
 何も意識なんかしてなかったあの頃に、何度も……。
「そ、そだ。連絡……しなきゃっ」
 慌てて鞄から携帯を探し出す。
 ずっと突っ込んだままで電源も切ってたから、充電は充分にあった。
 だけど、持ったところで静止。
 なんて言えばいいんだろうと、また心臓が暴れる。
 二人が行けなくなった?
 ……え、えとそうじゃなくて。
 二人が先に行っててって?
 な、なんで嘘つく必要があるんだろ。
 言えばいいじゃん、あったことをありのまま。
 ……うう、分かってるよ。
 多分嫌なんだ……じゃあ辞めよう、とか言われるのが。
 だって、そう。
 かがみと、二人で……行きたい、から。
 ……あははっ、馬鹿だな。
 単純な答えがあるよ……言えばいい、二人で行こうって。
 言えばきっと、言ってくれるよ。
 ああ、そうだなって。
 だってかがみ……優しいから。
「ふぁっ……!」
 携帯のボタンに指をかけるのと同時だった。
 その小さな携帯の振動が、私の手から全体に響いたのは。
 小さな長方形の液晶には、魔法の言葉。
 柊かがみ、そんな……たった四文字の言葉が。
 聞こえもしない、かがみ専用の着メロが耳に聞こえた気がした。
 それを自嘲したあとに、ボタンを押した。

 振動が止まった。
 私の動悸と一緒に。

 ……心臓も一緒に止まってくれれば良かったのに。
 そう考えるのはもう、あと数十秒後のことだった。
























コメントフォーム

名前:
コメント:
  • つ~づ~き~を~(T ^ T) -- 名無しさん (2010-06-07 02:01:38)
  • もう1年以上経ってるのに未だに続きを待ち続けてる俺がいる。 -- 名無しさん (2009-12-30 02:36:44)
  • 次が鬱展開な予感が…!続きに激しく期待。 -- 名無しさん (2008-10-02 00:45:54)
  • 続きめっちゃ気になります! -- 名無しさん (2008-09-10 22:39:25)
  • まってました!こなたホント乙女だなww
    続きに激しく期待! -- 名無しさん (2008-07-18 02:34:14)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー