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朝焼けの女神

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 (ゆたか視点)


 午前7時、私は目が覚めた。
 外は既に明るく、窓からは眩しい光が幾筋か差し込んでいる。
 小鳥のさえずりとともに、通学路を歩く小学生の歓声が微かに耳朶を叩く。

「うーん」
 私は、大きく伸びをして半身を起こした。
 脇におかれた鏡を取りだして覗き込むと、目もとが赤く腫れている。
 指先で瞼の下を掬って舐めてみると、やはり塩辛い味がした。
 すぐ隣には、こなたお姉ちゃんが、規則的な寝息を立てて眠っている。
 お姉ちゃんは私よりも2歳年上なのだけれど、寝顔はとてもあどけなくて、
吸い込まれてしまいそうになってしまう程、魅力的だ。

「こなた…… お姉ちゃん」
 抗いがたい誘惑にかられて、半ば無意識に耳元に近づきながら、ひとりごちる。
 無意識にのばした人さし指の先端で、お姉ちゃんの形の良い耳たぶに触れてみる。
 とても柔らかくて、すべすべしていて心地よい。

「お姉ちゃん…… 朝だよ」
 こなたお姉ちゃんは、とても朝が弱いから、声をかけたくらいでは起きてくれない。
「こなたお姉ちゃん、起きてよう」
 私よりは僅かに大きいけれど、高校生としては華奢な身体を何度も揺すってみる。
「ん…… むにゃ」
 こなたお姉ちゃんのちいさな唇が微かに動いたけれど…… やがて寝息に変わってしまう。
(やっぱり、起きないなあ )
 私は、小さくため息をつきながら、こなたお姉ちゃんのふっくらした頬をつついた。
「こなた…… お姉ちゃん」
 お姉ちゃんの安らかな寝顔を眺めながら、私は過去を振り返ることにした。


 私は昔から引っ込み思案な性格だったし、身体がとても弱かった。
 特に体調を崩すことが多かった中学時代までは、自分のことで精一杯で、
恋心を抱く余裕はどこにもなかった。
 しかし、陵桜に入って暫くすると、体調はだいぶ安定してきて、仲の良い友達もできた。
 同時に、恋をするために必要な余裕もようやく生まれてきた。

 私が恋心を抱いたひとはクラスメイトの男の子ではなくて、学校の先生でもなくて、
とても身近な人だった。
 ところが、彼女は同じ性別だったから、最初は、私の性癖が間違っていると思ってしまい、
人に相談することもできずに、ひとりで悩むことになった。

 しかし、後から振り返ってみると、こなたお姉ちゃんに対して恋慕の情を抱くのは、
ごく自然なことだったように思える。
 私を本当の妹のように、こなたお姉ちゃんは見守ってくれた。
 こなたお姉ちゃんの家と、私の実家はかなり離れているのに、こなたお姉ちゃんは、
嫌な顔一つせずに見舞いに来てくれた。

 私の家族全員が仕事や買い物でおらず、薄暗い天井を眺めながら寂しさに耐えきれなくなって
一人で泣いている時は、どうして分かってしまうのか、必ずと言って良い程、見舞いにきてくれた。
 不思議に思ってこなたお姉ちゃんに尋ねたら、ゆーちゃん向けのセンサーがついているからね、
と笑いながら答えていたけれど。

 寝汗をかいていた私の身体を濡れタオルでふいてくれたり、クレーンゲームで取ってきた
ぬいぐるみを貰ったり、学校の楽しい話をしたり……
 こなたお姉ちゃんは、孤独と不安ですっかりと乾いていた私の心を澄んだ水で潤して、
私が生きることに対して絶望を抱かせないようにしてくれた。

 しかし当時は、こなたお姉ちゃんに対しては感謝の気持ちと、申し訳ないという思いを抱くことはあっても、
明確な恋心は芽生えていなかったように思う。
 想いが募り始めたのは、高校に入って、こなたお姉ちゃんと一緒に住むようになってからだ。
 こなたお姉ちゃんは、いつもとても優しくて、温かくて、かっこよくて……
 私は、日増しにお姉ちゃんのことが好きになっていった。

 もっとも、こなたお姉ちゃんに想いを打ち明けるまでには、
恋心がどうしても抑えきれなくなるまでに育つ、たっぷりとした時間が必要で、
勇気を振り絞って告白をした時は、長袖が必要な季節になっていた。

「こなたお姉ちゃんが大好き。妹としか見てくれないかもしれないけれど…… 
私は、こなたお姉ちゃんの恋人になりたい」

 昨年の秋。私はこなたお姉ちゃんに自分の気持ちを打ち明けた。
「ゆーちゃん…… 」
 こなたお姉ちゃんはとても優しくて、しかし、どこか寂しそうな表情を浮かべて、
それでも私の想いに応えてくれた。


 幸せの絶頂から9か月が経った――
 私とこなたお姉ちゃんは、まるで嵐に遭遇した小舟のように激しく揺られ続けて、
今は故郷とは遠く離れた場所でひっそりと暮らしている。

 こなたお姉ちゃんに、ゆっくりと顔を近づけていく。
「ごめんね…… こなた、お姉ちゃん」
 私は謝罪の言葉を口にしながら、こなたお姉ちゃんの唇を塞いだ。
「ん…… 」
 こなたお姉ちゃんの唇が動き、微かに艶めいた声が漏れる。
 現在、私はお姉ちゃんの一番傍にいる。
 この場所は…… だれにも渡さない。

「ゆ、ゆーちゃん!? 」
 秘かな決意をあらためて胸に抱いた時、こなたお姉ちゃんの大きな瞼が何度か瞬いた。

「おはよう。お姉ちゃん」
 ようやく目覚めた恋人に向けて、満面の笑みを浮かべてみせる。
「ゆーちゃん…… 目覚めのキスは反則だよ」
 こなたお姉ちゃんは、肩を微かにすくめながら、溜息まじりに言った。
「でも、目が覚めたでしょ? 」
 いたずらっぽい表情を浮かべてみせたけれど、こなたお姉ちゃんは不安げな顔つきになっている。

「ゆーちゃん…… 」
「なあに? お姉ちゃん? 」
 鼓動がひどく速まるのを感じながらも、努めて笑顔を浮かべる。
「本当に大丈夫なの? 」
「うん。もう平気だよ」
 私は、おなかに力をこめて元気よく頷いた。


 昨日は泣きじゃくって、こなたお姉ちゃんを心配させるようなことを言ってしまったけれど、
私は既に立ち直っている。もう大丈夫だ。

「本当に? 」
 こなたお姉ちゃんは疑わしげな顔つきのまま、私をじっと見つめている。
 一晩でがらりと変わった私の様子に、不審を覚えているのだろう。

 ぐっすりと寝て、単に疲労が回復したという、生理的な要因は否定できないけれど、
こなたお姉ちゃんがずっと隣にいてくれたことによって、昨日まで私を酷く苛んでいた不安は
拭い去られていた。

「ゆーちゃんが、昨日、ここからも逃げたいって言ったからね」
 お姉ちゃんを心配させてしまった昨日の自分に後悔しながらも、動揺を表には出すことはしない。
「大丈夫だよ。もうそんなこと思ったりしないから。だから心配しないで」
 こなたお姉ちゃんを安心させる為に、腕に力こぶを作る仕草をしてみせる。
「私は、こなたお姉ちゃんさえ傍にいれば、誰にも負けないから」
「ゆーちゃん…… 」
「私、どんなに辛いことがあっても、傍にこなたお姉ちゃんがいれば、耐えることができる。
お姉ちゃんが私の味方でいてくれるなら、世界中が私の敵でも生きていける」

 しばらく、黙って私を見ていたお姉ちゃんが、ふいに私に抱きついた。
「お、おねえちゃん? 」
「ゆーちゃん。ごめんね」
 瞼から涙を溢れ出して、私に抱きつくお姉ちゃんは、とても弱くてすぐにでも折れてしまいそうだ。
「お姉ちゃん…… 大丈夫だよ。私が守ってあげるから」
 思ってもいなかった言葉が、ごく自然に口から飛び出す。
 今までは、お姉ちゃんに頼ってばかりだったけれど、こなたお姉ちゃんが弱気になった時は、
たとえ微力でも励ましてあげなくてはと思う。

「ゆーちゃん」
 しばらくは、私の小さな胸の中で、こなたお姉ちゃんは嗚咽を漏らしていたけれど、
お姉ちゃんはやがて、瞼に零れ落ちた雫を手ですくって苦笑を浮かべた。
「みっともないところを、みせちゃったね」
 泣き笑いの表情で、小さく舌を出したこなたお姉ちゃんはとても綺麗だ。
「ううん。そんなことないよ」
 私はかぶりを振った。
 私は、こなたお姉ちゃんの意外な一面を知って、もっと好きになってしまう。

「こなたお姉ちゃん、大好きだよ」
 私ははっきりと想いを口にしてから、こなたお姉ちゃんの首の後ろに手をまわして、
少し乾いた唇を重ね合わせた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
黄昏の巫女へ続く





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  • 次はどこ来ます?
    岐阜県来るなら全裸待機してるよw
    でもここらへん何にも無いからなぁ・・・。

    宝塚のあたりがオススメ。
    あのへんいい街です。 -- みみなし (2008-08-05 01:33:46)
  • え?少なくともかがみはこれ以上手を出すのは事態を悪化させるだけと認識してると思う。つかさを焚きつけるような奸智に長けてるとも思えないし。つかさの気紛れを除くとむしろみゆきさんの動きが怖い。
    でも自分(=名無しさん (2008-07-20 23:11:10))
    はたとえ不器用でも、この作品世界のこなたとゆたかに二人に幸せになってほしいと思う。 -- 名無しさん (2008-07-22 19:19:26)
  • かがみんはどうするのかな?
    -- 泉こなた(九重龍太) (2008-07-22 11:10:06)
  • 『Escape』の終わりから逃走劇再びと心配したけど、立ち直ってくれて安心しました。
    2人の平穏な生活が永く続きますように…… -- 名無しさん (2008-07-22 01:45:45)
  • この二人に幸あれ -- 名無しさん (2008-07-20 23:11:10)

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