kairakunoza @ ウィキ

ありのままの貴女と

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匿名ユーザー

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※ CAUTION! この話はTS物です。苦手な方はお戻り下さい m(_ _)m ※
※ このSSは本スレに書き込めなかった為に避難所へ投下した物です。 ※


「おかえり~。デートはどうだった?」
 力なく帰宅を告げた私に、そんな能天気な声が居間から掛けられた。
 一瞬だけ殴ってやろうかとも思ったが、そんな事をしても意味はないし、時間が戻る訳でもない。
「別に……まつり姉さんが期待するような事はなかったわよ……」
 とだけ答えると、真っ直ぐ自室に向かう。今は出来るなら誰とも話したくはないから。
「お姉ちゃん、元気ないけど大丈夫? 何かあったの?」
 まつり姉さんと一緒にいたつかさが心配そうな顔でこちらを見るが、それにも手を振るだけで済ませてしまう。

 部屋に戻ると、着替えもしないでそのままベッドに倒れ込む。
 胸の中では後悔が渦巻き、頭の中には帰り際のみゆきの言葉が消える事無く何度もリフレインする……

『先程も言いましたが、こうして誰かとデート、というものに憧れていたんですよ……私も人並に恋愛といったものに興味はありますから。
 今までにも幾度か男子から交際を申し込まれた事はあったのですが、その……皆様の視線というか意識が私の、体にばかり向かっているのが分かってしまって……どうしてもお受けする事が出来ませんでした。
 恋愛に憧れながらもどこか諦めていたのですが、高校に入学してすぐにある方に心を奪われてしまったんです。
 その方は凛とした佇まいで、強い意思を思わせる瞳をしているように私には見えました。
 幸い入学してすぐにその方とお話しする機会に恵まれて、すぐに打ち解けてお喋りするようになりました。
 そしてその方は、これまでの人達と違って、ありのままの私を見てくれたんです。
 高良みゆきという私自身と接してくれた方はおそらく初めてだったと思います。
 その時抱いていた感情が何なのか、すぐに分かりましたが、それを口にするには大きな問題がありました。
 言ってしまう事でその方に迷惑を掛けたり、嫌われてしまうのではないか?
 それならこの想いは胸の内にずっとしまっておこう、そう思ったんです』

『ところがある日、その方の大切な秘密を知ってしまいました。
 その内容はとても衝撃的で、もしかしたら私の想いは叶うのではないか?……私にそう錯覚させるのに十分でした。
 そのまま私の口からは自分でも驚くほど正直な言葉が出てきました。
「私とデートをしていただけませんか?」と。
 自分でもどうかしていた、浮かれていたんだと思います。
 その方が自身の秘密についてどう思っていたのか、という事に全く思い至らなかったんです。
 少なくともそれを歓迎してるようには見えませんでした。にもかかわらず、私は自分の欲望を優先してしまいました』

『結果……私の願いは叶いました。
 ですが、その方にとってはどうだったんでしょう?
 少なくとも喜んでいるはずはないです……むしろ、嫌な思いをさせたんでしょうね。
 最後の、そしてその後の様子を見ればすぐに分かります。
 きっと呆れ果てているでしょう……何故こんな私と友達でいたのか、と』

『長々と話してしまって申し訳ありません。
 かがみさんのお体の事は、かがみさん自身が口にするまでは決して口外いたしませんからご安心下さい。
 それと……今日の事は忘れます。
 かがみさんさえ許していただけるなら……明日からも、今まで通り、お友達として接していただけますか?』

 最後に見たみゆきは触れたら消えてしまう幻のように儚げで頼りなく、頷くしか出来なかった私を見て安堵したような寂しそうな笑みを浮かべていた。
「馬鹿……許してもらうのは私の方じゃない。いくらあんたが望んでいたとしても、好きかどうか分からない……体質のせいかも知れないのにあんな事をした私こそ見捨てられるべきなのよ……」
 自己嫌悪に駆られて布団に顔を埋めたままでいると、ドアをノックする音と共に控え目なつかさの声が部屋に響いた。
「お姉ちゃん……入るよ?」
 私の返事を待たずに静かにドアを開けて入ってくるつかさを一瞥すると、またベッドに顔を伏せる。
「ねぇ。本当は何かあったんでしょ……私でよければ話してもらえないかな?」
 多分話すまでは部屋を出ないだろう、この子は変な所で頑固だから。
 ゆっくり体を起こしてベッドに背を預けてつかさと向き合うように座る。つかさはドアの前で立っていたので、座るように促すとクッションに腰を下ろす。
 それを確認してから、今日起こった事……みゆきにキスをしてしまったことまで全部話した。もっとも、別れ際のみゆきの言葉は伏せておいた。
 私の話の間、つかさはじっとしたまま耳を傾けていた。
「笑っちゃうでしょ。体は男になっても気持ちは女の子のはずなのにね。ううん、そう思ってた……それなのに、みゆきみたいに可愛い子と一緒ってだけで舞い上がっちゃうなんてさ。これじゃまるで男の子よね」
 情けなくて自嘲的な笑いが零れる。
 そんな私を、つかさは、ただ優しく抱きしめてくれた。
 つかさの柔らかな体にどこか気持ちが安らぐのを感じながら、私の口から出る言葉はどこまでもみっともないものだった。
「離しなさいよ。今の私は男なんだから……どうなっても知らないわよ?」
「自分をそんなに責めたらダメだよ、お姉ちゃん」
「じゃあどうすればいいの? こんな変な体で、男だか女だか自分でもわからなくて……ねぇつかさ、どんな顔をしてみゆきに会ったらいいのかな?」
「ゆきちゃんは嫌がってたの?」
「さぁ……みゆきじゃないんだから、私に分かる訳ないでしょ」
「じゃあ、お姉ちゃんはゆきちゃんとキスして嫌だった?」
「それは……『今の私』は、嫌じゃなかった、と思う……少なくとも自分からしちゃったんだし」
「それなら。明日になれば元に戻るでしょ。その時またゆっくり考えようよ。一晩寝れば気持ちも落ち着くと思うし、ね?」
「そう……かな?」
「そうだよ……それとね、多分ゆきちゃんは嫌じゃなかったと思うよ? 『本当の』お姉ちゃんも、ね」
「は? 何を根拠に……」
「ん~……何となく、かな? でも間違ってないと思うんだ」
 私を抱き締めたままにっこりと笑うつかさを見ると、胸にわだかまる嫌な気持ちが少し軽くなった気がした。
 春の陽だまりのようなつかさの匂いに包まれた私はゆっくりとやって来る睡魔の手を取り、意識の扉をそっと閉じた。

 初めてみゆきを見たのは入学式の新入生挨拶で彼女が舞台に上がった時だ。
 緩やかに波打つ髪と穏やかな笑顔に胸が高鳴ったのを今でも覚えている。
 その後、学級委員の集まりで再びみゆきを見た時。
 こんなにも早く出会えた事、話す機会を得た事を心のどこかで嬉しく思ったものだ。
 話せば話すほど、みゆきの人柄、優しさ、知識の深さなど全てに惹かれていき、お互い名前で呼び合うようになるのに大して時間は必要なかった。
 そして自分がみゆきに友情以上の感情を抱くようになったのを自覚すると同時に、自分にはそれを表に出せない事を痛感していた。
 だから私は、その感情を心の奥底に封印した。自分でも思い出さないように。そうすればずっと親友でいられるから……

 目が覚めた時は翌日の朝だった。
 自分の体が元の少女の体に戻っている事に安心すると同時に、心の扉をこじ開けて再び芽を出した感情に戸惑いと懐かしさ、悲しみと嬉しさがごちゃ混ぜの複雑な気持ちだった。
 着替えを済ませて居間へ行くと両親がお茶を飲んでくつろいでいたが、私の顔を見ると心配そうな表情を浮かべる。まぁ無理もないけど。
 挨拶と共に昨夜顔を見せなかった事を詫び、体調は問題ない事をアピールするとすぐに表情を緩める。ついでに空腹を告げると呆れたように苦笑して朝食の支度を始めてくれた。
 ただ待ってるのも落ち着かなくて台所へ手伝いに行くと、驚いた事につかさが楽しげに料理をしていた。
「あ、おはよう。お姉ちゃん。すぐ出来るから座って待っててね」
「今日はつかさが早起きして食事の準備をしていてね。折角だからお願いしちゃっていたのよ」
 どこか嬉しそうにそう言いながらお母さんはつかさの手伝いを始めるので、私も食器の準備をする。
 夏休みにしては珍しい、家族全員揃っての朝食は賑やかで、もやもやした感情が大分楽になった。

 つかさには自分の気持ちを話す事にした。
 話を聞いたつかさは本当に嬉しそうで、自分の事のように喜んでくれた。
 そして翌日の登校日にみゆきに自分の思いを告げる事を決心すると、昨日のもやもやが嘘のように消え、体まで軽くなったように感じる自分に驚いた。
 何と言って切り出そうとか、どんな顔をして会おうとかそんな事ばかり考えるうちに私は眠りの世界に旅立っていた。

 朝、いつも通りに目が覚め、つかさと共にいつも通りに学校へ向かう。
 バス停で一緒になったこなたと他愛のない話をしているうちに学校へ到着すると、靴を履き替えるのがもどかしく思いながら、急いでみゆきの姿を探しに行く。
 B組の教室を見るとみゆきは登校しているようだったが、鞄はあるもののその姿は見えない。
 仕方ないので自分の教室へ鞄を置きに向かうと、峰岸と日下部がこちらへ来た。
 みゆきを探しに行きたかったが2人を無碍にする訳にもいかず、先生が来るまで雑談に興じる事にした。

 HRも済み、今度は2人の誘いを辞退してB組へ向かうと既にみゆきの姿はなかった。
 つかさ達に話を聞くと、用事があると言ってHRが終わるとすぐに教室を出たとの事だった。
 肩透かしを食らって手近にあった椅子に腰を下ろすと、つかさ達がこんな事を言ってきた。
「でもなんか変だったよね~。用事って言うから学校行事関係だと思ってたんだけど、職員室の方じゃなくて上の方に向かってたんだよ?」
「そうそう。それになんだかそわそわしてたし、顔も少し赤かったしさ……これはアレだ。きっとみゆきさんにも春が来たんだよ!」
 2人の言葉を聴いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
 みゆきが誰かと付き合う?
 いや、一昨日の様子からそれはない……本当にそうか?
 みゆきのありのままをちゃんと見れる男子がいたら?
 みゆき自身が言ってたじゃないか、『今まではいなかった』だけだと。
 そう考えたら既に体は動いていた。
 気がつけば、私は屋上へ向かう階段を駆け上がっていた。

 息を切らせながら屋上への扉を押し開けた。
 目の前には想像した通りの光景……みゆきと男子生徒が向き合って話をしている姿があった。
 来訪者に気づいた2人がこちらを振り向くと、その顔にはそれぞれ異なった表情が浮かんでいた。
 みゆきには驚愕、男子生徒には何かを悟ったような笑み。
 そんな2人に近づいて、みゆきの肩を掴むと驚いたような困ったような表情のまま私を見つめてくる。
 息を整えて、はっきりと2人に告げる。
「ごめん、あんたには悪いけどみゆきは渡さない。みゆき、私はあんたが好き。ありのままを受け入れられるなら、私と付き合って」
 あまりに不躾で勝手な言い草だと思う。それなのにこの男子は一歩下がって苦笑をし、みゆきは満面の笑みを浮かべて
「はい!」
 と一言だけ言って私を抱きしめてくれた。
「いや、まさか振られた直後に恋敵が来た上に告白シーンを見せ付けられるなんてね。正直悔しいけど、高良さんのそんな顔はやっぱり俺じゃなくて柊さんじゃなきゃ無理か」
「え?」
「え、じゃないだろ。前から気づいてはいたんだぜ? 高良さんがあんたを見る目が他のとは違うって。ただ、だからって何も言わないままじゃこっちもスッキリしないからさ、ダメ元で告白したんだけどよ。
 はっきり言われたよ、『他に好きな人がいるんです。その人がどう思っていても、私がその人以外を想う事はありません』って。
 片想いでもいいのかって聞いても笑って頷くだけだし、こりゃ完敗だなって思ってたらあんたが来たって訳。
 さて、お邪魔虫は退散するかね。これ以上いたら馬に蹴飛ばされそうだしな。」
 そう言って彼はひらひらと手を振りながらドアへ向かい、手前で振り向くと
「まぁ振られちまったけどさ、気にしないで今まで通りにクラスメイトとしてよろしくな」
 とそれだけ言い残してドアの向こうへ消えていった。
 後には、みゆきと抱きしめられたままの私が残されていた。
「かがみさん、本当によろしいんですか? その、お体の事でお悩みになっていたはずでは?」
「それはこっちのセリフよ。って言うかもう吹っ切ったわよ、そんなの。こんな変な体の私でもいいの?」
「かがみさんがいいと言うなら、私は気にしませんよ。ありのままの貴女が好きなんですから。そのお体も含めて悩みがあるなら一緒に抱えていきたいです」
 嬉し過ぎてみゆきを正面から見れない。真っ赤になって、ほほが緩んだ顔を見られないように俯いていると、両手で上を向かせられて、
「かがみさん、ずっとずっと大好きです」
 と言う言葉と共に、今度はみゆきから唇を重ねてきた。

 後日、お母さんに改めて体の事についてどうしたら普通になるのか聞いてみた。
 曰く、放っておいても20歳になる頃には勝手に消えるらしいが、もっと手っ取り早い方法があるらしい。
 色々と詮索されながらも聞き出したところ、とんでもない答えがお母さんの口から紡がれた。
「誰かを好きになる事。素直にそれを受け入れる事」
 本来ならもっと早く普通の体になっていたはずなのに、他ならぬ自分自身でそれを妨げていたとは思いもしなかった。
 どうやら体が軽くなったのは、体質が改善された証らしい。
 その事をみゆきに告げるとこんな事を言ってきた。
「でしたらもう悩まれる事はないんですね? よかったではありませんか。
 ですが、あの凛々しいかがみさんも素敵でしたのに……もうああしてデートが出来ないのはちょっと残念ですね」
 と、どこか悪戯っぽく笑いながら、それでいて心底残念そうに言うものだから、あのままでも良かったかな? と一瞬でも思ってしまう自分に呆れるしかなかった。
 そう、あの時が来るまでは……



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  • つ、続きが気になる‥‥!! -- 名無しさん (2008-10-26 02:22:20)

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