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Affair 第5話

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 5. ゆたか視点


 目が覚めた。
 首を横に向けるとすぐ隣には可愛らしい少女、とはいっても、2つ年上の先輩が瞼を閉じて、
規則的な寝息をたてている。
 彼女を起こさないように注意しながら、私はゆっくりと半身を起こした。

「うーん」
 天井に向けて大きく伸びをすると、背中の辺りが小さく鳴った。
 頭を数度振って、白い靄のように漂う眠気を払おうとするが、あまり効果はなく、欠伸を連発してしまう。

 それでも見えない何かに導かれるようにベッドから降りて、ふらつきながらも進み、窓ぎわに辿りつく。
 厚手のカーテンを開けると、未だ朝日は昇っていないものの、空は明るさを取り戻しつつあり、
白を基調とした駅周辺に林立するビルの輪郭も、おぼろげながら浮かび上がっている。
 冬至前後の長い夜は、終わりを告げようとしていた。

 小さな手を伸ばして、結露に覆われて白く曇ったガラス窓に触れるとつんと冷たい。
 私は、ガラスの表面に指の腹を滑らせて、微小な水滴を潰して文字を書く。

『泉こなた』

 こなたお姉ちゃんとは1年前に駆け落ちして以来、ずっと二人で暮らしている。
 私の愚痴や我儘を、嫌な顔をせずに聞いてくれるし、病弱な私をいつも守ってくれている。
 私を叱らないし、怒ることもない。
 狭い世界のほとんどを敵に回した私にとって、こなたお姉ちゃんは唯一の味方なのだ。

 しかし、半ば無意識に指が動いた結果。
 こなたお姉ちゃんの名前は消されて、代わりにもう一人の名前が窓ガラスに浮かび上がった。


『柊つかさ』

 つかさ先輩の名前を「自分自身」でたった今、書いたはずなのに、身体の震えが止まらない。

「そ、そんな莫迦なこと」
 自分の深層心理は、こなたお姉ちゃんを拒絶して、つかさ先輩を得ることを望んでいるのかもしれない
という、恐ろしい可能性が頭から離れない。

「そんなはず、絶対ない、ありえないよ」
 頭を何度も振って、悪夢のような可能性を、必死に否定する。
 そもそも、こなたお姉ちゃんを拒絶しても(逆に見捨てられても)、家を捨てた私が行く場所は何処にもないのだ。

 それでも、一度こびり付いた思考を追い出すことができず、暗澹たる気持ちに襲われていた時。 
「もう食べられないよぉ」
 のんき、としか言いようがない声が、部屋中に響いた。

「先輩? 」
 呼びかけても反応はない。どうやら単なる寝言みたいだ。
「ゆたかちゃんも食べてね…… 」
 続けて、私の名前も飛び出してくる。

 少し恥ずかしいけれど、夢に出てくる程、私のことを意識してくれる事については素直に嬉しい。
 それに、先輩の寝言によって、出口の無い迷路での彷徨っていた私は、ひとまずにしろ救われた。

 幸せそうに微笑んでいる先輩の寝顔を暫く眺めていると、ビルの谷間からついに朝日が顔を覗かせた。
 部屋の中が眩い光に包まれると同時に、強烈な眠気が襲ってくる。

「寝よう」
 私は呟くと、一度は開いたカーテンを閉め直して日光を遮り、つかさ先輩によって
十分に温かくなったベッドにもぐりこんだ。


「おはよう。ゆたかちゃん」
「おはようございま…… えっ!? 」
 心地よい二度寝から覚めると、つかさ先輩の顔が至近距離に迫っていた。
 デフォルトとなっている彼女の微笑みは、相変わらず無垢で純粋で、それでいて、何かの拍子で
砕け散ってしまいそうで、危なっかしい。

「ゆたかちゃんって意外とお寝坊さんなんだね」
「ち、違います。一度起きてましたから」
 心外なことを言われて、私は小鼻を膨らませて反論した。
「ふふ。むくれるゆたかちゃんて可愛いね」

 つかさ先輩はずるい。
 そんなに真正面からストレートに「可愛い」なんて言われたら、何も言い返せなくなってしまう。
 すっかり赤くなってしまった頬を膨らませて、悔しそうに睨みつけることしかできない。

「ねえ。ゆたかちゃん。お願いがあるんだけど」
 私の気持ちを知らないつかさ先輩は、自分のペースを保ったまま問いかけてくる。
「何…… ですか? 」

「髪、結んで良い? 」
 私は、意表を突かれた。
 しかし、断る理由を特に見出すことはできない。

「良いですよ」
 私は頷いてから、鏡台の前にある椅子に座った。


「ゆたかちゃんの髪って、とても柔らかいね」
 髪を櫛でとかしながら、つかさ先輩はしきりに感心している。
「そうでしょうか? 」
「うん。お姉ちゃんと比べると、ふわふわとしているよ」
 つかさ先輩の双子の姉―― 柊かがみ先輩は現在、何処で何をしているのだろう?

「つかさ先輩は、かがみ先輩のように髪を伸ばさないんですか? 」
 髪を梳き終わり、リボンを結んでいた先輩の手が、急に止まった。

「どうしました? 」
「あ、ごめん」
 つかさ先輩は、どこかぼんやりとした表情のまま答えはじめる。

「お姉ちゃん達や、お母さんに、髪を伸ばそうかなって言ったことはあるの」
「はい」
「でもね。いつも『つかさは短い方が似合うから』って言われちゃうから」
 ショートにした髪の先端を愛おしそうに撫でながら、不満そうな表情をみせて、肩をすくめた。

「先輩は髪を伸ばしても、素敵だと思いますよ」
 髪を伸ばした先輩は、良家の令嬢みたいな感じになるのではないだろうか。

「ありがとう。ゆたかちゃん」
 つかさ先輩は、とても嬉しそうな声を出した後、私を優しく抱きしめてきた。

「せんぱい? 」
 甘ったるい香りと、毛布にくるみ込まれるような温もりに包まれて、私の理性と警戒心は
春に残った雪のように、着実に溶かされていく。


「つかさ…… 先輩? 」
 絡みつくように回された腕の力はさほど強くないはずなのに、振りほどこうという
気持ちは全く起こらない。
「ゆたかちゃん。好きだよ」
 いつの間にか、つかさ先輩はとても真剣な顔つきに変わっている。

「本気ですか? 」
 私は、乱れた気持ちを整理することができない。

「遊びじゃないよ。だから、私を信じて…… ね」
 鈴のなるような可憐な声が鼓膜に届く。
 まるで、即効性の催眠術をかけられたようで、無性に先輩の言葉に従いたくなってしまう。
弾力性のある唇に触れたくなってしまう。

「…… せんぱい」
「なあに、ゆたかちゃん」

「つかさ先輩。キス…… してください」
「今日は積極的だね。ゆたかちゃん」

 つかさ先輩の囁きは可聴域の下限に近い。
 微かに唇の端が上がったようにも見えるけれど…… たぶん気のせいだろう。
「先輩のこと、大好きですから」
 頭に靄がかかった状態のまま、瞼を閉じて心持ち唇を上向かせる。

 こなたお姉ちゃんに対する裏切りという後ろめたさと、背徳的な悦びを同時に感じながら、
昨夜に続いて唇を重ね合わせる。

 キスといえども、交わせば交わすほど、罪は確実に積み重ねられる。
 こなたお姉ちゃんに、断罪されるのが何時になるのかは、今の私には分からないし、知りたくもない。

 いずれにせよ、自分を愛してくれる人の気持ちを裏切って、一時の快楽に溺れて流される道を
選択してしまった。
 当然ながら、結果は破滅的なものになるのだろう。

 しかし、それでも尚、私はつかさ先輩が挿し入れてきた舌端を、拒むことはできなかった。


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  • うおおぉぉぉぉッ!! -- 名無しさん (2009-06-01 12:38:42)
  • GJと叫びたい。GJっっっっっっっ!!!!w
    wktkして待ってます! -- 名無しさん (2009-05-28 22:17:24)
  • ふおぉぉぉ!待ってましたぁ!これからの展開が全く読めません!wktkが止まりません! -- 名無しさん (2009-05-27 05:52:36)

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