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輝く季節へ 2話

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shien

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だれでも歓迎! 編集
 広い教室。
誰も私に話しかけない、ひとりだけ。
笑い声。それが、自分への嘲笑に聞こえてしまう。
くすくす、くすくす、くすくす、くすくす
一人机に顔を埋め、寝たふりをする。
早く、授業が始まらないかな。
面白くないけれど、誰の視線も、声も気にしなくてすむ授業。
誰か、誰か私を……

オレンジ色に染まる草原。
どこまでも伸びる、緑の海
何もさえぎるものなく続く草原は、オレンジ色の空と接する場所まで続いている。
怖かった。失う事に、一人ぼっちになる事に。
誰だって、いつかは私から離れてしまう。私は一人ぼっちになってしまう。
「いっそ、幸せな瞬間でずっと時が止められたらいいのにね」
そんな事はできない。時間を止める事なんて、できっこない。
「できるよ。ずっとずっと、幸せだけが続いてゆく、そんな時間」

 最初の異変は、ネトゲーだった。
久々にアクセスしようとしてネトゲーを起動するも、私のアカウントが見当たらない。
いくらアカウントとパスワードを入力しても、弾かれる。
あれ? 消されるほど放置はしてなかったと思うんだけれどなぁ……
くそ~、あそこまで育てるのに何十時間費やしたと。
運営への抗議は後にして、とりあえず仕方なしに新規にアカウントを作成し、in。
初期レベルと装備では行けるところも限られている。
う~、どうしよっか。迷っていると、ふと見慣れたアカウントを発見。
あ、この人同じクランの人だ。

konakona:やふ~ 何故かいつものアカウントで入れないんだけれど、どうしてか知ってる?

同じクランの人を見つけられたのは幸運だった。
うまくいけば日ごろのよしみで余ってる強い武器をまわしてくれたりで、このレベルでも少しは遊べるかも。
でも、向こうから帰ってきた返事は予想外だった。

yamanka:あれ、すみません、どなたですか?
konakona:え~、いつも一緒に狩りしてたじゃん。覚えていないの?
yamanka:え、えっと、すみません。別の人と間違えていませんか?

え、ちょっと。どういうこと。
アカウントが完全に消えてるっぽいのもショックだったけれど、この人ってこんな喋り方する人だっけ?
まるで、初めて出会った人に話しかけるみたい。これじゃあ私が空気読めない初心者みたいじゃん。
クラメンとしてまだその域に達していないってことかい、ちょ。

yamanka:すみません、私これから約束があるんで……

そう言っていつも戦いをともにしてきた友は転移魔法の光に包まれる。
レベルが低いこっちは追いかけられる魔法もない。
というよりも、ショックで動けない。なんで? 私のこと、忘れちゃったの?
失意のままに私は、ログアウトをクリックした。

「あ、お姉ちゃん~」
廊下の向こうでぱたぱたと手を振っているゆーちゃん、その隣に立つ岩崎さん。
うん、我がいとこながらそのロリっぷりはすさまじい。
ちょっと背伸びしながらあまり気味の袖をパタパタさせて手を振っているところなんか、
もう今すぐ駆け寄ってぎゅっとしてしまいたいぐらいかわいい。
「ゆーちゃん、どうしたの?」
「あのね、あのね。今日家庭科でクッキー焼いたの。はい、おすそ分け」
「ありがと、ゆーちゃん。後でゆっくりいただくね」
親しげにゆーちゃんと話す私を、いぶかしげな表情で見る岩崎さん。
とくん、胸を強く打った、小さな不安。
「それじゃーね、ゆーちゃん、岩崎さん」
「ばいばーい、お姉ちゃん」
「さよなら……」
私を見る岩崎さんの視線が、不安そうに揺らいでいる。
廊下の角を曲がり、階段を下りて、息をつく。
誰も回りにいないことを確認して、押さえ込んだ不安をため息で押し流そうとする。
ぬぐいきれない不安。
そんな訳ないと思いつつも、小さな不安がいつまでも拭い去れなかった。

小さいころ、出会ってしまった。あのゲームに。
一人ぼっちに飽きて、お父さんのCD-ROMからゲームを引っ張り出して遊んでいた。
そのゲームは、CD-ROMの中に埋もれていた。
何も失わない、ずっと続いていく世界。
母がいなかった私にとって、その世界はひどく魅力的に感じてしまった。
主人公を自分に重ねて、ある登場人物をお母さんに重ねて。
何度も、何度も繰り返した。
そして、願ってしまった。
作品の中の世界を。
何も失わない、ずっと続いていく世界を。

クラスでの私に対する視線も、少しづつ変化していった。
私は社交的なほうではなかったけれど、それでもつかさやみゆきさんの友達ということで好意的には見られていた。
でも、その視線が、徐々に無関心へと変化してゆく。
「おーい、白石~」
廊下で出会ったクラスメイト。
特に友達というほどではないけれど、お互い名前を知っている仲だったのに……
「あ、えーと……」
声をかけられた方は困惑の顔。
『誰だっけ、こいつ』と一生懸命に名前を思い出そうとする、そんな顔。
すっと心によぎった不安を、無理やり押しつぶす。
「先生が呼んでたよ。進路の事で相談があるって。職員室に来いってさ」
「あ、え、ええ。分かりました。行ってきます」
彼の妙によそよそしい態度。
気づかないふりをして席に戻る。
「お帰り~、こなちゃん。どこ行ってたの?」
名前を呼ばれた事に、ほっと安堵する。
大丈夫。私の大切な親友はまだ覚えてくれている。

帰り道。四人で一緒に歩く道。
話すのはクラスのちょっとした出来事だったり、最近出番も減ってきた脇役の動向だったり、
新しくできたクレープ屋さんに遊びに行く予定だったり。
アニメやマンガの中のような、世界を揺るがせることも、人の生き死ににもかかわらない、
ただ、毎日をゆるく生きていくだけの、そんなお喋り。
そんな一瞬のたわいもない話が、とっても名残惜しくて、とっても楽しかった。

中学までは、家に帰るまでの時間なんてできるだけ短いほうがよかった。
ぼやぼやしてると5時からのアニメに出遅れちゃうし、
早く帰ればマンガだっていっぱい読める。
ううん、早く帰りたいのはそんな理由だけじゃなかった。
学校から、あの空間から、一刻も早く逃げ出したかった。
お母さんがいない、そんな些細なことがきっかけで始まったいじめ。
いつの間にか、そんなもともとの原因は忘れ去られてしまって、
クラスの中での自分の立ち位置として、ずっと私は暗い闇の中にいた。
時にはお父さんが学校に来ることもあった。
お父さんが先生に直談判して、先生が頭を下げて、翌朝のホームルームでお話があって、
でも、それでおしまい。
先生がいくら黒板の前でキレイゴトを並べたって、子供達の心は変わらない。
今までと変わらず、ううん、今までよりも激しくなったいじめが、私に降り注いだ。

「それでは、また明日……」
「じゃね、みゆき」
「ばいにー、ゆきちゃん」
糟壁駅、みゆきさんは私たちと反対行きのホームへ降りていく。
ここからみゆきさんの家まで約二時間。
七時までに帰るとなると、学校が終わってすぐ、五時にはこっちを出なくちゃいけない。
みゆきさんと遊びたい、みゆきさんともっとお話したい。
色々言いたいことがあるのに、私は何も言えずにみゆきさんの背中を見送る。
「ほら、こなた。何そんなに寂しそうな顔してるのよ」
かがみの言葉ではっと我に返る。
「今日で永遠の別れってわけじゃないでしょ。ほら、みゆきが待ってるよ」
みゆきさんは心配そうな表情でこっちを見ている。
心配させちゃったね、私。
「みゆきさーん、バイバイ。また明日」
さっきまでの寂しさを吹き飛ばすように大きく手を振った。
みゆきさんは心配そうな表情を崩して、手を振りながら階段を下りていった。
バイバイ、また明日……
「ほーら、こなた。こっちももうすぐ電車来るわよ」
そうだ、つかさとかがみは、まだ時間がある。
別れる糖武動物公園までの、わずかな時間。
つかさとかがみと私、三人で過ごす大切な時間。
乗換駅までのたった五分が、一瞬に感じる。
その時間を精一杯惜しむように、私たちはお喋りに興じる。
他の人から見れば、どうでもいい、他愛もない話。
でもその時間が、この上なく幸せだった。
『まもなく、糖武動物公園、糖武動物公園です。日光線方面はお乗換えです』
別れを告げるアナウンス。
「それじゃ、かがみ、つかさ、また」
ぴょん、とホームに降り立つ。
ここから家までは一人きり。
ここでつかさとかがみともバイバイだ。
「こなた!!」
向こうのホームへと駆け出した足を止める、かがみの声。
振り返る。
「また、明日ね」
ドアが閉まる一瞬前のかがみの声。
ちょっとだけ寂しそうな顔を浮かべたかがみを乗せて、電車は走り去る。
大丈夫、明日会える。
別れ際のかがみの姿を思い出しながら、家へと向かう列車に乗り継いだ。

















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  • えいえんのせかい -- 名無しさん (2009-08-06 23:55:18)
  • なんか不安になる -- 名無しさん (2009-08-06 15:24:22)
  • 続き -- 名無しさん (2009-08-05 00:15:02)

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