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輝く季節へ 3話

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shien

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「おはよー、つかさ、かがみ、みゆきさん」
「あ、え……」
朝の糟壁駅。
みゆきさんに浮かぶ、驚いた表情。
「あ、こなちゃん。おはよう」
つかさが私に返した直後、はっと驚いた表情をして。
「あ、い、泉さん。おはようございます」
つかえながらも返してくれた。
いつもとは違う、動揺したみゆきさん。
まさか……
「ねぇ、みゆきさん。どうかしたの?」
「え、いえ。なんだか一瞬泉さんが知らない人のように見えて……す、すみません」
困ったように頭を下げるみゆきさん。
心臓がきりきりと締め付けられる感触。
なんで、みゆきさんまで私を……
「ねぇ、いつから? ねぇ、どうして?」
みゆきさんの肩をつかむ。
どうして、みゆさきん、友達だと思っていたのに、ねぇ、なんで!!
頭がよく回らない。
怯えるみゆきさん。
それに苛立ち、さらに言葉を続けようとして……
「ちょっと、こなた」
肩をつかまれ、引き離される。
かがみの声。
「ちょっと、いったいどうしちゃったの? あんたらしくないじゃない」
二つ荒い息を吐いて、何とか落ち着きを取り戻す。
何やってるんだろ、私。
「ご、ごめん。みゆきさん。なんか朝から体調悪くって」
「え、いえ。こちらこそ。その、すみません」
微妙な空気の中、二人で謝る。
覚悟していた。
それを望んだのは自分だったし、忘れられるのは仕方ないことだと分かっていた。
でも、何でだろう。
みゆきさんが私を見たときの表情。
それに、あんなにショックを受けるなんて……

あのゲームをプレイしたのは、幼いころ。
あの時はお父さんもスランプに陥っていて、私のことを省みてくれる余裕もなかった。
一人ぼっちの私が目に付けたのは、お父さんのコレクション。
たくさんのマンガ、ゲーム、同人誌。
仕事で忙しく、主が省みなくなったその山をかき回して、
自分の好きなものを拾い出すのが楽しかった。
いろんなゲームを片っ端からやって、いろんなことを覚えていった。
その中で出会ったあのゲーム。
プレイしていく中、私はあのゲームの向こう側の世界に引かれていった。
何も失わない、えいえんのせかい。
その世界なら、私はきっとお母さんと一緒に生きていける。
ゲームの中盤から周りの人に忘れられ始め、次第にあせる主人公。
その姿を見て、私は失望を覚えていた。
どうして、消えたいと思ったのは自分じゃない。
絶望して、失いたくないと思って、それでえいえんのせかいを望んだんじゃない?
それなのに、ちょっと恋人ができたぐらいで消えたくないって、身勝手すぎるよ。
私はお母さんと幸せに過ごしていける世界があれば、他に何もいらない。
こんな世界からなんて、消えてしまいたい。
こんな世界なんて、どうでもいい。
そんな諦めの視点がついてしまったからか、私は私自身を冷めた視線で見るようになっていた。
いつか私は、えいえんのせかいへ行くんだ。
それだったら、こんな世界で起きることなんてどうだっていい。
どれだけ馬鹿にされたって、私は応えなくなった。
反応のないやつを、いじめても仕方がない。
いつの間にか、いじめは散発的なものになっていた。
私も中学三年になり、離れた高校への進学をエサで釣ろうとするお父さんの戦略に乗り、陵桜を受けて、
つかさと、出会った。
「こなちゃん、大丈夫?」
朝から俯いてばかりの私を、つかさが心配そうに覗き込む。
朝あんなことがあったばかりだったから、つかさは私とみゆきさんの間をパタパタと動き回りながら心配してくれている。
あんなことがあったばかりじゃ、みゆきさんには話しかけづらい。
積極的に話しかけてくれるつかさのおかげで、私の心は幾分安らいでいった。
毎日が苦痛だった中学時代の生活から、救い出してくれたつかさ。
今の私があるのは、きっとつかさのお陰。

町で出会ったのは、本当に偶然。
助けに割って入ったのは、ほんの気まぐれ。
でも、そのきっかけから、私の人生は変わった。
出身中学から陵桜に進学したのは私一人で、
中学時代を知っている人間が周囲に誰もいないことも幸いした。
つかさと友達になったお陰で、かがみ、みゆきさんとも友達になれた。
クラスの友達に好かれてるつかさの友達という立ち位置のお陰で、
以前みたいにいじめられる事もなかった。
いじめられていた中学時代とは変わった、楽しい毎日。
でも、それでも。
私はこの世界をどこか冷めた視線で眺めていた。
面白い、楽しいといっても、ゲーセンで100円を入れてやるゲームと同程度の感覚。
終わっちゃえばそれまでだし、100円程度にそこまでむきになることはない。
えいえんのせかいへ行くことばかり考えていた私にとって、
こっちの世界での出来事はちょっとした余興に過ぎなかった。 
楽しければ、それにこしたことはない。
でも、そんなにむきになってやるほどのことでもない。
どうせえいえんのせかいに行ってしまったら、こっちの世界なんて関係なくなるんだから。
そんな冷めた視線で世界を眺めていた。そんなつもりだったのに。

「すみません、泉さん」
今日最後のショートホームルームが終わった後、
みゆきさんはわざわざ私の席の前まで来て、頭を下げる。
「一緒に帰る約束でしたが、今日急に委員会の仕事が入ってしまって……」
みゆきさんは今日一日中、私を忘れかけてしまっていたことを気に病んでいた。
お昼休みも、ずっと私のことを気にしていてくれた。
今日の放課後も、一緒に遊びに行こうと誘ってくれたのはみゆきさんだった
「大丈夫だよ、みゆきさん。かがみも一緒?」
「はい、すみません。せっかく放課後空けておいていただいたのに……」
「いいよ、気にしなくて。それじゃ、代わりに明日、よろしくね」
本当にすみません、と何度も頭を下げながらみゆきさんは教室を出て行った。
「じゃあ、二人っきりになっちゃったけど、帰ろうか。つかさ」
「うん」
つかさと二人っきりで帰るのは、どれぐらいぶりだろう。
帰るときはかがみやみゆきさんが一緒のことが多かったから。
高校に入って、初めてできた友達。
つかさも、いつか私のこと、忘れちゃうのかな。
「どうしたの? こなちゃん」
ぼーっとしてるの、感づかれたのかな。
つかさが心配そうに声をかける。
「あのさ、つかさ……私たち、親友だよね」
その言葉を聞いたつかさは、不満そうにほっぺたを膨らませる。
「あーっ、こなちゃんまえ言ってたじゃない。『私たち親友?』って聞かれるようじゃ、
 親友としてまだまだなんだって」
あれっ、私、そんな事言ったっけ。
そういえば、なんかのセリフでそんなのあったような……
「ご、ごめん。つかさ……」
「ううん、気にしないよ。でもね、こなちゃん。
 私はこなちゃんのこと、親友だと思っているよ。
 ゆきちゃんも、きっと。私とこなちゃん、お姉ちゃんにゆきちゃん。
 四人とも、大切な親友同士」
そういって微笑むつかさを見て、いままでの胸のつかえが取れるようだった。
そうだよね。大切な親友が、私のこと忘れるわけない。
つかさが私のことを覚えていてくれる限り、私はこの世界に残ることができる。
「ねぇ、つかさ。指きりしよ」
「えっ?」
「この先、ずーっとずーっと、お互いのことを忘れないって。
 大人になっても、おばあちゃんになっても、私たちはずっと親友だって」
私の伸ばした小指に、つかさが小指を絡める。
「「指きりげんまん嘘ついたら針千本飲ーます!!」


















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