kairakunoza @ ウィキ

小さなてのひら

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
おかしい、どーもおかしい。
キーとなる選択肢は間違ってはいなかったし、他に間違ったところもなかったはずだ。
ギャルゲーをやるときに最初から攻略サイトを見るって人もいるけれど、
私はとりあえずは自分のセンスで選択肢を選んでプレイする事にしている。
何も前情報なしでやったほうが、なんていうかこうドキドキするし、
自分だったらどういった行動をとるか考えながらプレイするのはなかなか楽しい。でも……
「む~、このエンディングはちょっとないよな~」
一通りのシナリオをクリアしたと思ったら出てきた「AFTER STORY」
今、それを進めているのだけれど、どうしてもトゥルーエンドにたどり着けない。
せっかく京アニでアニメ化されるっていうから、お父さんから借りてきただけなのに……
「しかも、このバットエンド、重いし……」
いや、泣きゲーで有名な鍵だから分かってたんだけれどね。
自分の命と引き換えに子供を産んだヒロイン、でも、主人公はそのショックで育児放棄してしまう。
すれ違う親子。でもそれはとあるきっかけで修復されて、少しづつ本当の親子に近づいてゆく。
でも、その矢先の悲劇。母親と同じ、原因が分からない病に子供も侵されて、そして……
「あ~、最初に戻っちゃったか」
まだ選んでない選択肢も多くあるし、昔のに比べれば大分簡単なんだろうけれど、
でも、失敗するごとにこのエンディングは、私にとってちょっと重過ぎる。
「お母さん……か……」
ゲームを放り出してベッドに寝そべる。
私にもお母さんがいない。
私が見た事のあるお母さんは、写真の中のお母さんだけ。
ゲームに出てくる女の子と一緒、ただ、私のほうはお父さんがしっかりしてたから助かったけれど。
私のお母さんって、どんな人だったんだろう?


夢。夢を見ている……って、あれ?これって何の書き出しだっけ?
まあいいや。
やわらかい、暖かいものに包まれている感触。
やさしい、子守唄。
ぼやける視界、まだ、よく開かない目。
「どうだい、かなた、身体の調子は。起きていて大丈夫かい?」
「あ、そうくん。今日はなんだか身体の具合がいいみたい。ほら、こなた。お父さんですよ」
ぼやけた視界の向こうで何かが私の顔を覗き込んでいる。
でも、どこかで嗅いだ気がする、優しい匂い。
「あ、見てそうくん。こなた、笑ってるよ」
「あ゛~っ、なんてかわいいんだこなたは。お母さん似の美人になるんだぞ」
「ふふふ、変なゲーム好きはお父さんに似ないで欲しいけれど、お父さんみたいに元気な子に育ってくれるといいな」
そこにあったのは、幸せそうな家族。
続いたのは、ほんのちょっとの間だったけれど、ぎゅっと凝縮された幸せの塊。
その幸せに触れたくて、一生懸命、手を伸ばして……


「……っ!!」
ハッ、と目が覚める。
伸ばした手は空をむなしく切り、その向こうにジリリと蛍光灯が音を立てているだけ。
ベッドに寝転んでいるうち、気づかないうちに眠ってたみたい。
ポテン、とベッド手を下ろす。
きゅん、と心臓が締め付けられるような、そんな感触。
ん、ちょっとほっぺたが濡れている。やだな、私、そんなキャラじゃないのに。
もう一度、あのゲームを起動してみる。
ハッピーエンドのフラグは、もう一度二周目を初めのほうから繰り返したらいとも簡単に見つかった。
互いを信頼し合える、夫婦の話。最後の光の玉を集め終える。
ゲーム終盤、いままでゲームに出てきたキャラがもう一度出てくる。
かがみとつかさみたいな双子の姉妹、姉の方がツンデレで妹がおどおどしているところまでそっくりだ。
いままでクリアしてきたキャラ、いろいろな思い出が詰まっている人たち。
最後の方でトゥルーエンドへの分岐が始まる。
そして……
「終わった……」
トゥルーエンドの、今までのエンディングとは違った歌が流れる。
いままでの荘厳な感じの歌とは違って、やわらかい、子守唄のような歌声。
いくつものバットエンドを越えて、やっとたどり着いた幸せの結末。幸せな家族。
エンディングとエピローグか終わり、最初の画面に戻る。
プログラムを閉じて、パソコンをシャットダウンすれば、幸せな夢も終わり。でも……
「おとーさん」
私は部屋を飛び出していた。
居間でテレビを見ていたお父さんの背中に抱きつく。
「うわっ、い、いきなりどうしたんだ、こなた」
「ん、なんとなく……ね」
お父さんの大きな背中に顔をうずめる。
あの夢で嗅いだのと同じ、暖かくて、やさしい匂い。
大切な人を失った気持ち。それは本人にしか分からない。
でも、ゲームの中だけれども、ちょっとだけお父さんの気持ち、分かってあげる事ができたかな?
ゲームのように繰り返せない、私たちの人生は一度だけ。
セーブとロードを何度も繰り返して、ハッピーエンドを目指すことなんてできない。
でも……
「お父さん、ありがと」
私はお父さんと、生きてくよ。


小さな手にもいつの日か僕ら追い越してく強さ
濡れた頬にはどれだけの笑顔が映った



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