存在証明/新たな決意をその胸に◆IVe4KztJwQ



英霊(サーヴァント)佐々木小次郎。

山南敬助と別れた彼は、あらゆる願いを叶える願望機(聖杯)を巡る英霊達の戦い、
現代日本の冬木市において行われた第五次聖杯戦争の事を振り返っていた。

キャスター(魔術師)のクラスを持つ英霊(サーヴァント)の魔女により
ルール違反の召喚を受けた為に本来ならばあり得ない
アサシン(暗殺者)の英霊(サーヴァント)として召喚され、
さらには魔女の居城を守る為にその魔力による支配を受けていた事。

その為に自らの意思で他の英霊達と満足に戦う事ができずにおり、
円卓の騎士団やエクスカリバーの使い手として有名なブリテンの騎士王
であるセイバー(騎士)の英霊と戦いその果てに敗れ、
意識は暗闇に落ちていったはずだった事を。

暗闇に落ちていった彼の意識は白州において”佐々木小次郎”の名と共に
再び呼び覚まされた。

しかし、それは本当の彼の名ではないのだが。
己の名さえ忘却の彼方に忘れた無名の剣客が、途方も無い修練の果てに
本来の小次郎と似たような事ができる、それ故にその名を冠した英霊としてのみ
この世に顕現が許される。その為であった。

彼は山南敬助と別れた後、実は先程の戦いの中でその身に多少の違和感を覚え、
その正体を確かめる為に手にした木刀を振るっていた。

小次郎は自身の独特の構えを取ると、眼前の空間に山南敬助の姿を
思い浮かべその名の冠する由来になった秘剣を振るう。


―― 秘剣 燕返し ――

瞬間。“ほぼ同時”に超高速の斬撃が空を斬る。

その太刀筋は三つ。

一の太刀は、上段から頭上から股下までを断つ縦の軸。

二の太刀は、袈裟懸けにて対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡を描き。

三の太刀は、横薙ぎにて対象の左右への離脱を阻む払い。

三つの斬撃が山南敬助の幻を薙ぐ。

恐るべき技を放ちながら小次郎は構えを解くと一人呻く。

「やはりそういうことか」

その呻きの理由は一つ。小次郎が放った秘剣、燕返しにあった。
それは、本来ならば多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)と呼ばれる
魔法の粋にまで高められた“完全に同時”に三つの斬撃を繰り出す技である筈なのだ。

だが、さきほどの小次郎が放った燕返しの超高速の斬撃は“ほぼ同時”に眼前の
空間を薙いだのみ。その事から今回の召喚において本来の英霊(サーヴァント)としての
力がある程度抑えられている事に気付く。
続けて完全な気配遮断や物質の透過、霊体化等も試してみるが全て失敗に終わる。
どうやってもできなかったのだ。

(成程、どうやら魔法や魔術の域に分類される力が制限されているようだな)

白州で大勢の剣客の前に現れた壇上の男の言葉を思い出す。
この場に集められたるは類稀なる兵法者、一人になるまで殺し合うべし。
ともあれば小次郎の体の異変の正体、恐らくは魔力を持ったサーヴァントの本来の力が
余りに人の身を超え過ぎてしまっている為に他者との力の均衡を
取るべき処置か何かなのだろう。

また、あれ程の人数を白州に同時召喚出来る事を考えると
この場所にも冬木とは違った聖杯があるのかもしれぬ。

様々な憶測を思い浮かべ、英霊からはかけ離れている己の能力値を考えていた。
これではまるで人間の能力。本物の佐々木小次郎のようではないか。そう苦笑する。
しかしその技量は並みの剣客からすれば恐るべきものである事にかわりなく、
小次郎にとっても自身の能力の制限等たいした問題ではなかった。

それは、自由に死合う事ができなかった前回とは違い、
今回の戦いは何者からの束縛も無く、自らの意思で強き剣者と死合う事が出来る。
その事実が小次郎の身を振るい喜ばせていた。

ならば。

此度の戦いにおいてその剣を存分に振るい、再び佐々木小次郎として戦い抜こう。

偽者故に本物を凌駕する技を腕に秘めて、強き剣者と死合おう。

そう決意する。


 ◆ ◆

月が翳る黎明。

徳川吉宗と秋山小兵衛、魂魄妖夢の三人は御前試合について話し合う。、
しかし、その主催の正体や目的が掴めない以上、先にこの島からの脱出手段を
確保するべく舟を求めて仁七村の海岸へとその足を進めていた。

そうして歩く三人の行く先に人影が在る事に妖夢が気付く。

「この先に誰かいるようね」

妖夢の声に顔を引き締める三者。はたしてその者が御前試合に乗っているか否か。
後者であればそれにこした事はないと願い、慎重に歩みを進る。先程の人影と
吉宗達がお互い顔の見える距離に近づいた所で、その男へと小兵衛が声をかける。

「そこの御仁、少しよろしいかな?」
「私に、何か?」

それは長身痩躯に紺色の陣羽織。といった一見派手に見えよう事もないが、
どこかその立ち振る舞いに優雅さを感じさせる男であった。

「失礼する、余らは徳川吉宗。秋山小兵衛に、魂魄妖夢と申す。
お主も、あの白州に呼ばれた剣客と見受けるが。名を、聞いてもよいかな?」

月が翳る中、吉宗の問いに対して陣羽織の男が歩み出る。

「私は、アサシンのサーヴァント。佐々木小次郎」

その名を聞いた吉宗と小兵衛は互いの顔を見合わせ驚嘆する。

「なんと!?」
「あの、佐々木小次郎殿か?」


二人の様子に妖夢だけは名を知らぬ様子で首を傾げるが、佐々木小次郎と言えば
宮本武蔵との巌流島での決闘が余りに有名な至高の剣客の一人。
しかし、その名は吉宗と小兵衛の時代から百年以上もの昔に没した筈の者であった。
またしても過去の人物を名乗る者の登場に、小兵衛は一人内心で呻く。

(先程の妖夢の件といい、やはり主催者は人外の力を操る魔物か?)

驚きの声を上げる二人に小次郎が声をかける。

「ただ、佐々木小次郎とは名乗ってはいるが、私は似た様な紛い物。
そう言ってもおぬし達にはわからぬだろうが」

そう口にした小次郎は妖夢の姿を捕らえると僅かに目を細める。

「しかし、そこの娘からは俺と似た気配を感じるな?」

小次郎に声を掛けられた妖夢がその目を見返しながら口を開く。

「ええ、私は幻想郷から来た半人半霊。貴方は、私とはまた違うようだけれど」

「ところで、小次郎殿。お主はこの御前試合、乗るつもりなのか?
もしそうでなければ、余と共に事の真相を探り、主催者を倒さぬか?」

ここで吉宗は小次郎に最も確認すべき問いを投げかける。
しかし小次郎の答えは吉宗が期待したものではなかった。

「断る。私が望むのは。剣客として、命を賭した死合い故に。」
「つまり、御前試合に乗ると?」
「あの主催共の言いなりになるのは気に喰わぬ。だが、剣者としての本能は止められん」

そう答えながらも小次郎は逡巡すると。

「そうだな。おぬし達の誰かが私を打ち負かすほどの腕を持っているならば、
その話を考えてもみようか?」
「つまり、小次郎殿と立ち合えと?」
「うむ」

それは、あくまで死合を望むが故の小次郎の言葉であった。
その問いに顔を見合わせる思考する三者は。

「どうやら無差別に殺し合いをするという訳でもないようですな。」

とはいえ御前試合に乗る。そう明言したも同然の先程の言葉がありながら
こちらが立ち会いに勝てば考えるとは、どうしたものだろうか。
無差別に斬りかかってこない所を見ると、こちらの人数を見て多勢に無勢という事か?
小次郎に対し、思案しながら目を光らせる小兵衛の前で吉宗が一歩前に出る。

「不本意であるが。ならば、まず余がお相手しよう」

吉宗が刀の柄に手をかけたところで妖夢が前に出る。

「待って下さい。この人からは何か私と似た気配を感じます。私が相手をしましょう」
「しかし、余は女子を先に戦わせ、それを見ている。というわけにはゆかぬ」
「こう見えても私は半霊、そう易々と遅れは取らないわ」
「いや、しかしだな」

どちらが小次郎の相手をするかとお互い引かぬ吉宗と妖夢であったが、
その場を遮るように小兵衛が前に出る。

「ならば上様。二人の間を取って、ここはそれがしがお相手しましょう」

その心中は、相手の力量とその心、この者が真に佐々木小次郎であるのか?
それを小兵衛自身が量る為だった。
一定の技量を持つ剣客同士であれば、その剣が全て語るはず。
そう考えると小兵衛自身が剣を交えるべく前に出る。
また、一見すると齢六十を越える小兵衛であったが、
その腕前は彼の高名な“辻月丹”が起こした無外流の剣術道場を
江戸で営む程の達人である。
二人の間を取った形になる小兵衛の行動に対し吉宗が応える。

「小兵衛。ここは、お主に任せるぞ」
「小兵衛さん、お願いします」

小兵衛が小次郎に向き直る。

「小次郎殿も、それがしがお相手でもよろしいかな?」
「私は誰が相手でも一向に構わぬ」
「しかし小次郎殿、そちらは得物が木刀の用だが」
「案ずるな、見た目は木刀だがこれは特別製であるゆえ」

そう言い放つと自然体のまま木刀を手にする小次郎。
対する小兵衛も刀を鞘から抜き放つと小次郎へ向かい構える。

「さあ、はじめようか」
「では、いきますぞ」

互いににらみ合う二人の周囲に緊張感が走る。
その張り詰めた空気に生唾を呑みながら、二人の対峙を見守る吉宗と妖夢。

暫くにらみ合っていた二人だったがその均衡を小兵衛が破り、
まずは先手必勝と小次郎に向かって一気に間合いを詰める。

小兵衛の放つ鋭い闘気を纏うその太刀筋を小次郎は冷静に見極めると
木刀をほんの少し動かしただけであっさりと受け流す。
だが、わずかな隙をも与えんとばかりに小兵衛は立て続け剣を振るうが
二の太刀も先程と同様に小次郎の巧みな木刀捌きにより流されてしまった。
まるで手応えがない。それ所かまるで柳の枝を相手にしている錯覚に陥る小兵衛。

(こやつの剣の腕、こちらの予想を遥かに超えておる)

だが、幾度目かの小兵衛の剣撃を弾き返した小次郎の体勢が僅かに崩れる。

その隙を見逃さずに小兵衛は手の中で素早く刃の峰を返すと
木刀を持った手に狙いを付け、刀を一気に振り下ろす。

しかしその隙は小次郎の仕掛けた罠だった。

小兵衛が峰を返すと同時に、小次郎は全くの無挙動から自然な動きで
木刀を前に突き出す。おそらく急所である腎臓を狙ったその一撃は
すでに小兵衛がかわせるタイミングではなく、木刀とはいえ
硬い切っ先が正確に人体急所を射抜くだろう。

小兵衛は回避と防御を即座に諦め、体を無理やり傾けながらも小次郎に対し
一歩踏み込むと、木刀が鳩尾をかすめその腹に突き刺さる。
呻き声を上げながらも距離を詰める事で威力と打点をずらす事に成功する。
小兵衛は未だ腹に突き刺さる木刀を払おうと刀を振るうが
打ち込みの甘さとその意図に気付いた小次郎が木刀を素早く後退させかわす。

小次郎の隙の無さと見事な剣捌きに対して打ち合いで勝負の先が見えず、
小兵衛は多少強引な戦い方を試みるべく、小次郎へ己の体をぶつける。

その一撃は流石に小次郎の予想の範疇を超えていたらしく小次郎の体勢が崩れる。
小兵衛は密着した陣羽織を右手で素早く掴み、柔道よろしく、勢いにまかせ投げつける。
すかさず、地面に叩きつけられ倒れた小次郎の動きを封じようと
小兵衛は刀を振るうが間一髪で受身を取った小次郎は体を転がしながら
小兵衛の剣を紙一重でかわし素早く体勢を整える。

小次郎は小兵衛との距離をはかりながら体のダメージを確認してみるが、
投げられた際に打った背中に多少の痛みを感じる程度で
剣を振るうのには問題はない様子だった。

両者の激しい攻防を見守っていた吉宗と妖夢だったが、小次郎の剣捌きと
普段の小兵衛からは想像できなかった戦い方に感嘆の表情を浮かべる。
それほど小次郎が一筋縄ではいかない相手という事なのだろう。

対する小兵衛は手数では小次郎に勝っていたはずなのだが、
一連の動きと木刀で突かれた脇腹の痛みに肩で息をする。

小次郎は小兵衛の戦いに山南敬助との戦いで、
その顔面に拳が飛んできたのを思い出す。なんとも、泥臭い戦いだが。
本来の戦いとはそういった側面の方が多いのも確かだなと考えながら。

(だが、私の剣はまだまだこんなものではないぞ)

小次郎は、ふたたび自然体をもって木刀を手にすると。

「先程は受け手にまわったが、次は私から行かせてもらおう」

瞬間、小次郎の繰り出す無数の高速の斬撃が、小兵衛を襲う。

その高速の乱舞は、とてもではないが、打ち返せる程のものではなく、
小兵衛は僅かに捕らえられる残像を頼りに防御するのが精一杯であった。
相対する中、小兵衛は内心で大量の冷や汗をかいていた。

(この者の剣、只者ではない。というより強すぎる。白州でも多くの者に感じた事だが、
この若者が佐々木小次郎というのも存外嘘ではないのかもしれぬ)

小次郎の剣を受けながら小兵衛はその剣筋に一切の邪念が感じられない事に気付く。
最初は、主催者側の手下かと疑っていたが、純粋に剣者としての強さを競う為に、
死合いを求めるという小次郎の言葉も真実だろうか。

「おぬし、年甲斐の割になかなかの剣の腕よ」
「いや、小次郎殿こそ噂に違わぬ剣才ぶり」

自分よりもだいぶ老齢の剣士とはいえ、こうまで俺の剣を受け流すとは。
流石、白州に呼ばれるだけの事はある、一筋縄ではいかぬか。

ならば。

「佐々木小次郎が秘剣、はたして受けきれるかな?」

そう言い放つ小次郎は。手にした木刀を顔と重なる位置に持っていき、
八艘の構えを横に水平とした、独特の構えを取る。

佐々木小次郎が秘剣。となれば、かの有名な燕返し!
聞く所によると、あまりに名の知れたその剣技は、燕を落とす事により編み出され。
一の太刀をかわしたところで、返す二の太刀によって切り伏せられると聞いている。
小兵衛は小次郎が自分よりも過去の剣客であり、その名が剣と共に有名であるからこそ、
その技の正体をある程度予想できると考える。
ならばその太刀筋を見極め、本命であろう二の太刀を凌いだその時こそ勝機。

「ゆくぞ!!」

―― 秘剣 燕返し ――

超高速の刃が小兵衛を襲う。

小兵衛は、全神経を集中させ僅かな動きも見逃さぬようにその剣筋に意識を集中させる。

……、見えた。

体を両断する一太刀目を、わずかに右へ半身をずらす事で辛うじてかわし。
その身を囲うように迫る二太刀目を、一歩踏み出し距離を詰る事で刃を受け止める。

勝機!!

小次郎の斬撃の衝撃を受けながら、二太刀を防いだ事で勝利を確信した中でその刃を
返そうとする。
しかし、小兵衛の瞳が眼前で不敵な笑みを浮かべる小次郎の瞳を捕らえた。
その小次郎の笑みに疑問を抱く。

燕返しの二の太刀を防がれたというのに、何故こうも不敵な笑みを浮かべていられるのだ?
小兵衛の疑問を嘲笑うように、小次郎の瞳が”私こそ勝者だ”と言わんばかりに
その双眸を光らせる。
勝機を確信していた小兵衛は背筋に鋭い悪寒が走るのを感じとる。
それは剣者として研ぎ澄まされた勘が、何か致命的な勘違いをしている、
そう警報を鳴らす音であり、小兵衛の視界が本来そこにありえぬモノを捉える。

(なんと!?)

それは、本来の佐々木小次郎にはありえない燕返しの三太刀目が、
二太刀目の囲いを破り動こうとする者を捕らえるべく迫る。

得物が木刀でありながらも必殺の威力を秘めた破滅的な一撃が
小兵衛の首筋を正確に狙い、抗う事はもはや不可避。

(ここまでか)

先程の勝利とは打って変わり、己の敗北を確信する。
悲鳴を上げる吉宗と妖夢。

「小兵衛!!」
「小兵衛さん!!」

……。

しかし、その斬撃が小兵衛の体を打ち砕く事はなかった。
否、小次郎の木刀は小兵衛の首筋で寸止めされていた。
小兵衛の無事を確認した吉宗と妖夢が二人に駆け寄り安堵の表情を見せる。
自分が生きている事を確認するした小兵衛は、額からどっと冷汗を
垂らしながら当然の疑問を口にしてみる。

「小次郎殿、何故?」

小兵衛の問いに小次郎は、ふっ、と笑い。

「いやなに、おぬしの剣には一度として殺気がなかったのでな」

戦い中で峰打ちを狙った所を見ると恐らくは私の剣を量っていたのだろう?
そのような者を斬った所で私は死合をしたとは言えぬ。
あっさりとそう言い放ち木刀を下げる小次郎。
また小兵衛が小次郎を斬るつもりで剣を振るっていたならば、
勝負の行方はまた違ったのかもしれぬ、
そう語る小次郎に小兵衛はすまぬと謝ると心の内を正直に話す。

「見抜かれていましたか。小次郎殿、無粋な真似をしてすまなかった」
「ふっ、気にせぬゆえ。だが先程のおぬし等の話は断っておこうか」

小兵衛は噂に違わぬ腕前を持つ小次郎の剣と燕返しの三太刀目に驚愕した事を話す。

「なに、私の剣は多少邪道でな。本来の小次郎の剣とも多少異なるのよ」
「はて。本来の、と言いますと?」
「さて、どう話したものかな」

その言葉に首を傾げる小兵衛とどう語ったものかと迷う素振りを見せる小次郎。
そこで吉宗が現状を把握する為に少しでもお互いの情報を交換するべきではないか
と持ち掛ける。吉宗の言葉に以前の聖杯戦争の事や、自身が本来はアサシンの英霊
として”佐々木小次郎”の名を借りた無名の剣客である事を簡単に話す。

「私は“佐々木小次郎”の名を借りて呼び出される事によってのみ、この世に存在できる」

ならば、その技を振るい強者と命を賭した死合の瞬間こそ私が生きていると
その存在を、証明できる証なのだ、と話す。だから吉宗の提案には乗れぬと。

「そうであったか。だがお主程の剣客が決して邪な気持ちで御前試合にのっていない
という事だけは余もうれしく思う」

できれば、やはり余らと同行して欲しいと思うがそれは口にするまい。
頷く吉宗らを背に、木刀を腰に差すと小次郎は背を向け歩きだす。

「少し話し過ぎたようだ、私はもう行くとしよう。
ここでおぬし等と無理に戦った所でいい死合もできぬであろうしな」

口にするや否、すぐさま吉宗達と反対の道へ歩もうとする小次郎の背中に
小兵衛が声をかける。

「小次郎殿」
「なにか?」
「剣を打ち合った拙者にはわかる、さーヴぁんと、というものが何か、拙者にはわからぬ。
だが、お主のその高潔な精神、技は。噂に違わぬ佐々木小次郎殿、そのものであったよ」
「そうか」

ふっ、一言息を吐くと今度こそは振り返らずに小次郎は三人の前から姿を消す。

強者との死合を求め。

【ほノ陸 街道/一日目/黎明】

【佐々木小次郎(偽)@Fate/stay night】
【状態】左頬と背中に軽度の打撲 疲労(小)
【装備】妖刀・星砕き@銀魂
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:強者と死合
一:愛刀の物干し竿を見つける。
二:その後、山南と再戦に望みたい。
【備考】
※自身に掛けられた魔力関係スキルの制限に気付きました。
※多くの剣客の召喚行為に対し、冬木とは別の聖杯の力が関係しているのか?
と考えましたが、聖杯の有無等は特に気にしていません。
登場時期はセイバーと戦った以降です。
どのルートかは不明です。


 ◆ ◆


佐々木小次郎と別れた三人は、再び仁七村へとその歩みを進めていた。

「しかし、小兵衛に妖夢よ。お主達は、先程の話どう思う?」
「どんな願いをも叶える聖杯。聖杯戦争に、さーヴぁんと達の殺し合いですな。」
「私はあながち嘘ではないと思うわよ、私の世界でもそんな話は聞いた事がない
けれど、この世には私たちの知らない事なんていくらでもあるのだから」
「たしかに、半人半霊のそなたに言われると、説得力が増すな」

多少の違いはあるものの、多数の剣客の召喚、勝者の願いを叶えるという部分を
考えると、確かにこの御前試合は小次郎から聞いた聖杯戦争と内容が酷似していた。
徳川吉宗に魂魄妖夢、それに佐々木小次郎殿か、信じてみてもいいのかもしれぬ。
小兵衛は二度も立て続けに人外の者に出会った事、その二人の常識の範疇を超えた
話に対し熟考していたが、やがてその口をひらく。

「その事ですが。実は上様に話さなければいけない事がありましてな」
「改まってどうした?小兵衛」
「ええ、お恥ずかしながらこの小兵衛、実は上様の事を騙り。と最初は疑っておりました」

そもそも小兵衛にとっては徳川吉宗も佐々木小次郎と同様に過去の者なのであり、
小兵衛の住む江戸においての将軍は十代目、徳川家治であるのだ。
という事を吉宗に告げる。

「何と、それでは余も本来は既に過去の者。死んでいるという事か?」

吉宗の疑問に妖夢が自らの考えを口にする。

「そう結論付けるのは少し早いのじゃないかしら?
今までの話を総合すると皆それぞれの時代から直接呼ばれた。
という表現が最も可能性が高いと思うわ。
そう、さっき聞かせてもらった聖杯戦争の英霊のようにね」

「成程。そうなるとこの御前試合の黒幕は、いよいよ人外の力を操る妖の類
であろう事が確実ですぞ、そのような相手と一体どのように対峙したものか」

呻く小兵衛の様子に、そう悲観するものでもないぞ。と吉宗が声をかける。

「なに、人外の者ならばこちらにも妖夢がおるではないか。
それも余らと同じ正しき心を持った者がな」

刀を振るう事ならば、余と小兵衛でもできるであろうが。
こと、妖術の類となれば論外である。
だがこちらにもそれらに精通している者がいる事。その事がどれほど心強いか。
そう口にすると吉宗は妖夢に微笑みかける。

「私はただ、無益な争いを好まないだけよ」

正面きって褒められる事になれていない妖夢は、吉宗の真摯な瞳に思わず
目線を逸らしてしまう。

「はっはっは。上様、どうやら妖夢は照れておる様子ですぞ」

小粋な笑い声を響かせる小兵衛とその言葉にむっとした様子の妖夢。

「もう、子ども扱いしないで頂戴」

そうはいっても、半人半霊という事さえ除けば妖夢のその愛らしい童女姿は
吉宗や小兵衛から見れば、娘や孫ように写らないこともなかったのだろうか。

「いやすまぬな。だが、そちを頼りにしている事は本当だぞ」
「そうね。本来の力を取り戻す為に、私も早く楼観剣と白楼剣を見つけないといけないわね」

吉宗の言葉に頷く妖夢に相変わらず笑みを浮かべる小兵衛。

そうこう話しているうち、三人の前に一先ずの目的地であった仁七村の海岸が見えてくる。
はたして当座の目的であった舟は見つかるのか?その先に待ち受けるものは何か。

この御前試合なる殺し合いの主催者の正体を暴き
その企みを阻止せんとする、共通の目的を新たに再確認し、
それぞれの胸に決意を新たにする、吉宗達一行であった。

【にノ漆 海岸/一日目/黎明】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:仁七村の海岸に舟がないか調べる。舟があれば押さえる。
二:小兵衛と妖夢を守る。
三:妖夢の刀を共に探す。
【備考】
※この御前試合が尾張藩と尾張柳生の陰謀だと疑っています。
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識。
及び、秋山小兵衛よりお互いの時代の齟齬による知識を得ました。

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】腹部に打撲 疲労(中)
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:仁七村の海岸に舟がないか調べる。舟があれば押さえる。
二:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
 又は、別々の時代から連れてこられた?とも考えています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
 ただ、吉宗と佐々木小次郎(偽)関しては信用していいだろう、と考えました。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】健康
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する。
一:この異変を解決する為に徳川吉宗、秋山小兵衛と行動を共にする。
二:愛用の刀を取り戻す。
三:自分の体に起こった異常について調べたい。
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
 制限については、飛行能力と弾幕については完全に使用できませんが、
 半霊の変形能力は妖夢の使用する技として、3秒の制限付きで使用出来ます。
 また変形能力は制限として使う負荷が大きくなっているので、
 戦闘では2時間に1度程しか使えません。
※妖夢は楼観剣と白楼剣があれば弾幕が使えるようになるかもしれないと思っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類が使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。


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最終更新:2010年05月10日 19:26