夜明け前に ◆cNVX6DYRQU


時は夜明け前。日は未だ地平の下に在るが、空は徐々に白み始め、月明かりでは見分けにくかった風景を照らす。
島の東岸、仁七村沿岸の海面も、見る者にその実像……荒れ狂い、波が逆巻く凄まじい姿を見せ始めていた。
「これではとても脱出は無理ですな」
仁七村の船着場で海を眺めつつそう呟いた老人は、無外流の剣客、秋山小兵衛。
彼の言う通り、海がここまで荒れていては、最良の船と熟練の船乗りをもってしても、渡るのは至難だろう。
まして、ここにある小さな漁舟と操船に関してはほぼ素人の小兵衛達ではどうにもなるまい。
「ああ。それに、この件に妖術使いが関わっているのも間違いないようだ」
小兵衛に同意した青年は、征夷大将軍という高貴の身でありながら悪を討つ為に剣を振るう剣士、徳川吉宗。
荒れ狂う海だが、それは沖の方だけ。逆に、島の沿岸数間ほどは不自然な程に穏やかだ。
こんな現象が自然に起こる筈もなく、妖術などの人外の力が動いているのはもはや疑う余地がない。
「ええ。それもかなり強力な相手よ」
幻想郷でも感じた事のない禍々しい気配に戦慄する半人半霊の少女、魂魄妖夢の言葉に同行者二名も深く頷く。
小兵衛も吉宗も妖術などの人外の領域とは縁が薄かったが、そんな二人にもこの海を覆う異様な妖気は感じ取れたのだ。

とはいえ、妖の領域に関しては、この中ではやはり妖夢が一番の専門家。当然、妖気から得た知見も妖夢が最も多い。
例えば、妖気に覆われているのが海だけでなく、薄くはあるが島全体が妖気の影響下にある事を察したのは彼女だけだろう。
今までは妖気の密度が一定であった為に気付けなかったが、海辺で妖気の濃淡を感じ、内陸でも妖気が零にはならぬと悟った。
一度気付いてしまえば、今まで気付かなかった事を逆に不思議に思うほどの存在感が、この妖気にはあった。
密度が薄いとはいえ、こんな妖気に侵された空気を吸い続ければ心身の毒になるのではとも思うが、どうしようもない。
或いは、自分の力が抑制されているのは、島に充満するこの妖気のせいかとすら思えて来る。
だとすると、内陸の薄い妖気ですら自分の力をあそこまで制限する程の支配力がある事になり、
例え楼観剣と白楼剣を取り戻したとしても、妖気の本体の眼前では弾幕も飛行も半霊の力も使えなくなる公算が高い。
無論、剣術だけでも大抵の相手は倒せる自信が妖夢にはあるが、それでも一抹の不安が胸に広がりつつある事は否めなかった。

一方、海から漂ってくる妖気から、吉宗はかつて闘った盗賊玄海の怨霊の事を思い出す。
確かにあの時感じた不吉な気配と今回の妖気は、似ていると言えば似ていると言えなくもない。
しかし、それは水溜りと海が似ていると言うようなもので、凶悪さでも強大さでも今回の方が比較にならぬほど勝っている。
玄海ですらかなり手強い敵であったのに、今回の黒幕がそれを遥かに凌ぐとすれば、どれほどの力を持っているのか。
そして、これも玄海と同じく怨霊だとすれば、強い無念や恨みが力の源になっていると考えるのが道理。
己と子を無惨に処刑された玄海をも遥かに超える呪力を得る程の怨みとは一体……

妖夢や吉宗とは違い、小兵衛には妖怪や死霊といった人外の者と闘った経験はない。
敢えて言うならば、黄泉の国より来て杉本又太郎に憑いた狐の気配を感じたことがあるくらいか。
だが、報恩の為にこの世に戻った稲荷の神使と、この島を外界から隔離している悪霊とでは、性質が全く異なる。
それに第一、小兵衛は狐の気配を感じ取りはしたものの、それが何者かまではわからなかったのだ。
故に、小兵衛が海を覆う妖気から得た情報はそう多くない。むしろ、彼が注目した対象は陸にこそある。
いや、より正確に言うと、有るはず、或いは有っても良いものが「無い事」にこそ小兵衛の発見はあったのだが。
「妖夢。一つ試してみたい事があるのじゃが、手伝うてくれるか?」

小兵衛と吉宗が波打ち際に足を踏み入れ、船着場にあった舟を押して岸から離す。
更に、岸に居る妖夢が精神を集中させると船上の人魂が妖夢と同様の形を為し、舵を操って舟を沖へ向ける。
そして、舟が荒れ狂う海の領域に入ると、半霊は即座に人魂に戻った。
半霊の変化が数秒しか保たないのはわかっていた事だが、今回の変化解除のタイミングは陸の時よりも明らかに早い。
この事は、妖気が制限の源だという妖夢の仮説を裏付けていたが、小兵衛の実験の目的は別にあるようだ。
三人が注視する中、荒れ狂う海に進み出た舟は波に揉まれ、転覆するかとも思われたが、結局はそのまま押し返される。
「妖夢。すまぬがもう一度頼む」

それから、小兵衛達は三度まで同じ事を繰り返した。
その度に半霊を変形させた妖夢はかなり疲労している筈だが、その顔に不満の色はない。
彼女にも、そして吉宗にも、小兵衛の意図が漸く読めたのだ。
あれだけ荒れた海にまともな船頭のいない舟が乗り出せば、船は翻弄され、高い確率で転覆する筈。
しかし、舟は一度たりとも転覆する事なく、必ず無事に押し戻されて来た。
「この舟も尋常の舟ではないという事か。さすがだな、小兵衛」
妖術か、舟の構造か、この舟に荒海に出ても転覆する事なく後に戻る仕掛けが施されているのは間違いなさそうだ。
「いえ、それがしもまさか舟にこのような仕掛けがあるとは……」
そう応える小兵衛の言葉は、まんざら謙遜だけという訳でもない。
彼が、舟が元々この村の物なら当然ある筈の生活感のなさに気付き、これを主催者が用意した物と疑ったのは確かだ。
しかし、まさか舟に転覆を防ぐ仕掛けがあるとは小兵衛にとっても意外……彼の予想はむしろその逆だったのだが。

結局のところ、この試合の黒幕共は、参加者が逃げるのは無論、剣以外によって死ぬのも好んでいないのだろう。
沿岸数間の海が荒れていないのは、海の様子を知らずに飛び込んだり落ちた者が溺れ死ぬのを防ぐ為。
船着場に沈まぬ舟を用意したのも、舟をなくして参加者が筏を作ったりして脱出しようとする危険を残すより賢い手法だ。
そう考えれば一応は納得できるが、それでもまだ疑問は残る。
参加者の逃亡と溺死を防ぐのが目的ならば、海を荒れさせるより、中心に向かう潮流で島を囲う方が簡単に思えるのだが。
主催者の強力な妖術にも制約があるのか、それとも思惑が異なる複数の術者がいるのか……
敵は天候を操るほどに強力な相手だが、その辺りに付け入る隙があるやもしれぬ。

他にもう一つ、この船着場にはあってもおかしくないのに無い物があるのをを小兵衛は見付けていた。
それは人の痕跡。少なくとも、昨夜から今まで、小兵衛等以外にこの船着場を訪れた者はいないようだ。
仁七村自体を訪れた者が居ない訳ではない。
あらかじめ調べたところ、幾つかの家には家捜しされた跡があり、更に戦闘の跡や死体、村の中央には墓まであった。
幾人もの剣客がこの村まで来ながら、船での脱出を考えた者は誰もいなかったのか。
まあ、白洲で見た男女はどれも肝が据わっているように見えたから、それも不思議ではないのかもしれない。
だが、そうだとすると、白洲の場で少年の首を無慈悲に刎ねて見せた行いには何の意味があるのか。
参加者に恐怖を与え、萎縮させて言うままにさせるつもりだったとしたら、その狙いは外れた事になる。
主催者の妖術に恐怖を抱いた者がいたのなら、島を逃れよう船着場に来ている筈なのだから。
或いは恐怖の余り隠れて身動き出来ずにいる者がいるのかもしれぬが、それとて殺し合いを求める主催の意図にはそぐわぬ筈。

だが、本当にそうなのか。
参加者を溺死させない為に周到に準備した主催が、剣士を呪殺してまで為した計略が全くの的外れだったとは。
吉宗によると、彼は密かに江戸市中探索に出たところを連れて来られたらしい。
将軍のお忍びという幕府の最高機密まで掴んでいた主催者が、参加者の性格をこうも読み違えるものだろうか。
小兵衛は今一度はじめから考え直してみる。
もしも、主催者があの場で村雨なる少年を殺さずに、ただ御前試合の事だけを言っていたら己はどうしただろう。
(こうして吉宗公や妖夢と同行する事はなかったであろうな)
余計な危険を冒さぬ為に他者との接触を避け、隠れ潜みつつ主催者の意図と他の参加者の動向を探る、というのが妥当な所か。
しかし、少年の死によって喚起された義憤と危惧が小兵衛により積極的な行動を促した。
その意味では、吉宗や妖夢と同行したのも、佐々木小次郎との試合も、全てあの処刑の所産と言って良い。
(なるほどのう……)
つまり、あの惨殺の目的は、臆病な者を萎縮させる事ではなく、小兵衛のように慎重な者に行動を促す事にあるともとれる。

小兵衛の推測を聞いた吉宗と妖夢も、大筋では同意した。
「確かに、年端も行かぬ子供を殺して見せる事で、場の空気を殺伐とさせるのが目的だったというのは考えられるな」
それがなければ、見知らぬ老人にただ殺しあえなどと言われても、大半の剣士は冗談か狂人の繰り言だととったかもしれない。
まずは一人を殺して見せれば、とにかく事態が容易ならぬものである事は手っ取り早く認識させられる。
命の危険を感じれば、主催に従うにせよ抗うにせよ、行動がより短絡的・暴力的になるのが人情というもの。
「私も、最初に会ったのがあなた達でなければ斬っていたかもしれません」
魂魄妖夢は、この事態が起きた時、すぐに首謀者を斬る事を決意した。
仮に、好戦的な剣士に出会って勝負を挑まれていたら、主催者の手下と見なして斬り捨てていただろう。
まあ、妖夢には元々短絡的な所があるのだが、いきなりの殺人がそれを助長した事は否めない。
小兵衛の推測が正しいのならば、彼等三人は未だに主催者の掌から一歩も踏み出せていない事になるが……

「それがしの推測が正しければ、奴等は遠からず何かを仕掛けて参りますぞ」
あの白洲での殺人に触発され、小兵衛は普段よりも積極的に動き、短時間に幾人もの剣客と接触した。
しかし、その接触の帰結は斬り合いではなく、小兵衛は徳川吉宗と魂魄妖夢という頼もしい仲間を得る事になる。
この三人が力を合わせればよほど腕の立つ剣客が主催者の口車に乗って襲って来たとしても、軽く一蹴できよう。
無論、襲って来る剣客の方も、多少なりとも知恵が働くならば、いきなり戦いを挑むよりも隠れて隙を伺うだろうが。
これはつまり、小兵衛達が隙さえ見せなければ、参加者との無益な闘いを避けられるという事だ。
そんな状況が主催者の意に染むとは思えず、必ず何かを仕掛けて来る筈……そう小兵衛は結論した。
間もなく夜が明ける。この日が沈む時、立っているのは小兵衛達か、主催か、それとも……

【にノ漆 船着場/一日目/早朝】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:小兵衛と妖夢を守る。
二:妖夢の刀を共に探す。
【備考】
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識。
及び、秋山小兵衛よりお互いの時代の齟齬による知識を得ました。

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】腹部に打撲 健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
 又は、別々の時代から連れてこられた?とも考えています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
 ただ、吉宗と佐々木小次郎(偽)関しては信用していいだろう、と考えました。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】やや疲労
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する。
一:この異変を解決する為に徳川吉宗、秋山小兵衛と行動を共にする。
二:愛用の刀を取り戻す。
三:自分の体に起こった異常について調べたい。
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
 制限については、飛行能力と弾幕については完全に使用できませんが、
 半霊の変形能力は妖夢の使用する技として、3秒の制限付きで使用出来ます。
 また変形能力は制限として使う負荷が大きくなっているので、
 戦闘では2時間に1度程しか使えません。
※妖夢は楼観剣と白楼剣があれば弾幕が使えるようになるかもしれないと思っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類が使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

※船着場には舟がありますが、海は現段階では舟が渡れる状態ではありません。


海から漂う妖気に圧倒され、或いは周囲の様子から主催者の意図を考察する剣士達。
それらに気を取られていた彼等が、少し離れた所に潜んでいる男に気付かなかったのは、無理も無いだろう。
(こりゃあ、俺の出る幕はなさそうだな)
隠れている男……椿三十郎は一人ごちる。
周囲の状況を確認する為に船着場を訪れた所、見知らぬ三人の男女の姿を見付け、隠れて聞き耳を立てていたのだ。
話を聞く限り、彼等は危険人物ではなさそうだが、三十郎は声を掛けようとは思わなかった。
それをして仲間に入るよう誘われでもしたら煩わしい、と考えたからだ。
いつかの若侍達のように未熟で危なっかしければ別だが、そうでなければわざわざ群れて行動しようとは思わない。
その点、船着場に居る三人は腕も立ちそうだし、こんな状況でも落ち着いていて彼の助けなど必要としていなさそうだ。
いや、そもそもこの島には彼の助けを必要とする者などいないのかもしれない。
白洲に集められた剣客の中に女子供が含まれていた事から、彼女等を守ってやる必要があるかと三十郎は考えていた。
しかし、船着場にいる女は、この異常な事態に怯える様子もなく、それどころか奇怪な妖術を使って見せたのだ。
思い出してみると、白洲に居た女達は、多くがこの女と似たような奇抜な格好をしていた。
あれが妖術使いの装束なのであれば、彼等は一見か弱い女子に見えても、恐るべき力を秘めていると考えられる。
(ま、俺にはその方が好都合だがな)
椿三十郎は本質的には一匹狼的な性向が強い男。弱者を守る事に気を遣わずに戦えるなら、その方がやり易い。
そして、三十郎は船着場での情報収集に見切りをつけ、城下に向けて歩き出す。
主催の妖術使いが海流を操る程の力を持つ事を確認しながら、同じ志を持つ男女に敢えて背を向けての単独行動。
(そういや、あの爺さんは今もまだ暢気に眠ってやがるのかね。豪胆と言うか無謀と言うか……)
自身もかなり無謀な選択をしたのだという自覚は、三十郎にはないようだ。

【にノ漆 仁七村/一日目/早朝】

【椿三十郎@椿三十郎】
【状態】:健康
【装備】:やや長めの打刀
【所持品】:支給品一式、蝋燭(5本)
【思考】基本:御前試合を大元から潰す。襲われたら叩っ斬る
一:柳生十兵衛から情報を得るため城下へ向かう
二:名乗る時は「椿三十郎」で統一(戦術上、欺瞞が必要な場合はこの限りではない)
三:辻月丹に再会することがあれば貰った食料分の借りを返す
【備考】
※食料一人分は完全消費しました。
※人別帖の人名の真偽は判断を保留しています。

一方、島の西北の端にある伊庭寺……そこに寄宿した剣客、辻月丹は、三十郎の予想に反して起きていた。
殺し合いが行われている島で眠りこけているのはさすがにまずいと思い直した、という訳ではない。
月丹は仏の声を聞いたのだ。
と言っても、夢の中に仏が現れて何らかのお告げを下したとか、そんな劇的な展開があったわけではないのだが。
月丹が寝入ってからしばし、寺の撞木が再び動き出し、寅の刻を告げる。
その時だ、月丹が仏の声を聞いたのは。場を圧する鐘の音とは異なる音が、鐘とは別方向から聞こえて来たのだ。
眠っていた月丹は、夢うつつの意識の中でそれを仏の声と直感し、その認識によって覚醒した。
寝惚けた月丹の頭の中でのみ響いた幻聴とも考えられるのだが、悟りを開いたと自負する月丹はその説をとるつもりはない。
朧な記憶を頼りに仏の声が聞こえて来た方向……本堂の中に入ると、まず目に付いたのは床に転げた木仏。
内なる予感が囁くままに、仏像を仔細に検めると、背の部分の板が外れかかり、内部に空洞が見えている。
或いは、鐘の音がこの隙間から仏像の中に入り、内部で反響してまた出て来たのが仏の声と聞こえたのだろうか。
ともかくこれも仏の導きと、月丹が慎重に仏像の背板を取り外すと、中には経典らしき何冊もの書物が詰め込まれていた。

保存や運搬の便宜から、仏像を刳り抜いて内部に空洞を作るのは珍しい事ではない。
その空洞に、仏像の魂として仏舎利やそれを模した物をいれるのもよくある事だし、経典を入れる事もあるだろう。
しかし、この経典は明らかに違う。蓋が外れかけていた事から考えても、後から慌てて詰め込まれたもののようだ。
寺が荒らされる直前に、寺の人間が経典を守ろうと仏像の中に隠した、というところか。
元々の仏の魂は別に隠されたか、捨てられたか、鑿痕の荒さからすると仏像は未完成で魂はまだ無かったのかもしれない。
何にしろ、こうまでして隠してあるからには、これらの経典はよほど貴重な物なのだろう。
今回の件が片付いた後に、然るべき寺に寄贈しよう……そう考えてぱらぱらと経典を捲っていた月丹の手がふと止まる。
経典の群れの中に一冊、毛色の違う物があったのだ。
文字が小さいので読みにくいが、目を凝らして一部を読んでみると、どうもこの寺の住職が書いた日誌らしい。
それと知った月丹の目が輝く。この日誌を読めば島に起きた異変についてはっきりとわかるかもしれぬ。
そうでなくとも、この島の位置だけでもわかれば、黒幕の正体を探る上での大きな手掛かりになるだろう。

月丹は日誌を抱えて寺の外に出る。
暗く明かりもない堂内で日誌を読むのは難儀だが、幸いな事に、夜明けを目前に外は明るくなり出している。
「丁度良い刻限にこれを得られたのも御仏の導きか」
程なく夜が明ける。そして、日の出と共に、この御前試合の真相もまた、白日の下に曝されるだろう。

【いノ捌 伊庭寺境内/一日目/早朝】

【辻月丹@史実】
【状態】:健康
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式(食料なし)、経典数冊、伊庭寺の日誌
【思考】基本:殺し合いには興味なし
一:日誌を読む
ニ:徳川吉宗に会い、主催であれば試合中止を進言する
三:困窮する者がいれば力を貸す
四:宮本武蔵、か……
【備考】
※人別帖の内容は過去の人物に関してはあまり信じていません。
 それ以外の人物(吉宗を含む)については概ね信用しています(虚偽の可能性も捨てていません)。
※椿三十郎が偽名だと見抜いていますが、全く気にしていません。
 人別帖に彼が載っていたかは覚えておらず、特に再確認する気もありません。
※1708年(60歳)からの参戦です。


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存在証明/新たな決意をその胸に 徳川吉宗 波紋(前編)
存在証明/新たな決意をその胸に 秋山小兵衛 波紋(前編)
存在証明/新たな決意をその胸に 魂魄妖夢 波紋(前編)
椿花下眠翁/刀の銘は 椿三十郎 名刀の鞘
椿花下眠翁/刀の銘は 辻月丹 義士達に更なる試練を

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最終更新:2010年12月02日 20:41