すくいきれないもの◆YFw4OxIuOI



――――なんかさ、違うんだよなぁ。


武田赤音には違和感があった。
これまでの己の所業に、ではない。
今目の前にいる、己を凌駕する剣客に対してである。


――――らしくねえ、っていうかさ。


赤音が気まぐれで人に優しくしたり、かばったりする事は多々ある。
瀧川弓との奇縁も、元はと言えばそのようにして出来たものだから。

だが、だからこそいざ邪魔となれば躊躇なく斬り捨てもする。
所詮は気まぐれの産物でしかなく、決して心通わせてなどいないのだから。
神谷薫を助け、そして今捨てた事もそういう意味では瀧川弓と同様である。

どこか三十鈴の面影のある彼女に、思い入れがないと言えば嘘になる。
しかし、だからと言って命懸けで守ってやろうという気概まではない。
せいぜい「出来れば助けてやってもいい」程度の気持ちである。

だからこそ、もし彼の目の前に雲耀の剣の使い手と神谷薫を一緒に並べられ、
「どちらか一人を選べ」などと神に選択を迫られたとしたら?

武田赤音は躊躇なく前者を選び取り、後者を切り捨てるだろう。
武田赤音の本質とは、純粋なまでの剣狂者。
剣以外の事など、所詮は余興に過ぎぬのだ。

だが、だからこそ。


――――こいつ、馬鹿なんじゃねえのか?


剣の本質を歪めているようにすら思える、
目の前の剣客の殺意のない手温い剣には、
違和感と憤慨の念を抱かずにはいられなかった。

武田赤音と傍にいる人斬りを二人同時に相手取る、
その腕前は“剣聖”と言ってすら過言ではないのに。
目の前の“剣聖まがい”の企図する行動は明らか。


――――ようは、似非活人剣を披露したいって所か。


有り余る力を持ちながら、全力を出し惜しみする。
そうすれば、二人諸共に殺してしまうだろうから。
それだけの腕前を、充分にこの老人は秘めている。
赤音にも、彼我の実力差程度は即座に分析出来る。
もう一人の人斬りも、同様に勘付いているだろう。


――――てめぇ、神様にでもなったつもりか?


武田赤音は憤慨していた。
己を凌駕しておきながら、妙な手心を加える剣者に。
この剣客、雲耀の太刀を用いるかの素晴らしき剣者と
おそらくはほぼ腕を等価とするだろう。
そうでなければ、これまでの立ち会いで既に死んでいる。
だが、目の前の剣聖に抱いた感情は度し難い欲情ではなく。
ただただ、形容し難い不快感であった。
興醒めすること甚だしい。

剣者として、ただ剣者として。
修羅道に堕した剣狂者として。
赤音にとっては珍しい、純粋かつ真っ直ぐな怒りをかの剣聖に抱いた。


ふざけるな。てめぇの活人剣ごっこに、これ以上付き合う義理はねえ。
だったらな?こっちにも考えってもんがある。


――――あんたのその剣、いかに無意味だって教えてやるからなァ?


そして遊びは終わりだ、と心中で呟くと赤音は構え直した。


          ◇          ◇          ◇


赤音は三人が向かい合う位置関係から、軽く助走を付けて二人の間に躍り出た。
大きく踏み込み跳躍を見せ、伊勢守と以蔵の二人に割り込み、挟まれる形を取る。
伝説の剣聖と、悪名高き人斬り。
共に後世にすらその名を轟かせる、二名の剣客を相手取り。

あまりにも命知らず。
あまりにも大胆不敵。

二つの刀刃が迫る。条件反射的に、もう一つは殺意を以て。
一つは驚愕と共に。止めなければならない。このままでは殺してしまう。
一つは激昂と共に。止めるつもりなどない。このままに斬り殺す。

その愚行の対価として、神速にも似た二つの斬撃が赤音へと迫る。
だが、赤音は一切狼狽などしない。それらは全て想定の内。

飛び込んだ姿勢のまま、着地と同時に左足を軸に右回転しつつ、
半円形へと横薙ぎに一閃――。

迫る刀刃は下がる。剣聖の自制と修練による即応が、その身体を後ろに退げる。
迫る刀刃は下がる。人斬りの本能が、踏み込めば相討ちとなると察したが故に。

二人の刃、決して鈍刀などではない。
だが、これは赤音の攻撃の失敗を意味しない。
あくまでこれは牽制の一刀。
流れをこちらに導き寄せるための、
言わば次なる真の攻撃の為の布石。

そして赤音は左手の、伊勢守の正面へと向き直り――。
すなわち、以蔵に完全に背を向けて――。

赤音は大上段につい、と構える。
あまりにもあからさま過ぎる、攻撃に特化した構え。

赤音は不敵に笑う。
口は半月に裂け、歯を剥き出しにして。
かの剣聖を蔑む。心の底から、侮蔑する。
赤音はこの先の、刹那の未来を予見している。
赤音はこの剣聖の人間性から、取るであろう行動を、
取れないであろう行動を、完全に読み尽くしている。

故にこそ笑う。貴様の温い剣ではおれに何も出来ないのだと。
故にこそ哂う。貴様はそこで指を加えて眺めるより他無しと。
故にこそ嗤う。おれの剣の一人勝ちとなると。

赤音は刹那の未来に確信を持つ。


――――死ね。


赤音は心中で呟く。
眼前の剣聖に対して、ではない。
真後ろにいる、人斬りに対して。

伊勢守は動けない。活人剣故に動けない。
赤音のこれからの企図全てを理解しながら、
なお一切の打つ手がない。
――不覚。

この構えは偽攻にして罠。伊勢守はとうにそれを看破している。
しかし、それは赤音も折り込み済。そもそも地力が違うのだ。
全ての動きは読まれて当然。赤音はそう断じている。

今の赤音には、伊勢守は倒せない。
それは赤音自身も理解している。
今の赤音には、だが。

だが、それには何の問題もない。
元より、そのつもりなどさらさらないのだから。
赤音の罠は、伊勢守を嵌める為のものではない。
これは背にいる人斬りを仕留める為のもの。

今、この場における位置と関係。
伊勢守と赤音、以蔵の三人は、直線状に並んでいる。
赤音は伊勢守と対峙し、その無防備な背中を以蔵に見せつける。
これ見よがしに。これが好機だと言わんばかりに。
だが、この背は釣り餌。以蔵を釣り上げる為の罠。

そして、伊勢守は動けない。
分かっていながら動けない。
今の位置関係で赤音を制圧すれば、以蔵までは止められない。
以蔵はその隙を逃さず、赤音を容赦なく斬り捨てるだろう。
『一人づつ止める』ならば、それはまだ可能。
だが、二人同時となれば、それは困難を極める。
だからこそ、この三つ巴の膠着は続いていた。
『二人を救う』その過酷な命題は、伊勢守へのこれ以上無い枷となる。
その剣聖の枷を武田赤音は剣狂者の嗅覚で見抜き、逆手に取ったのだ。

以蔵は地を駆け、背を向けた愚者へと斬りかかる。
そして、赤音は伊勢守の危惧した通りの暴挙に走る。
悪辣に、狡猾に。伊勢守の戸惑による、僅かな硬直すら利用して。
赤音は、伊勢守の呪縛より脱する。
今の赤音は、野に放たれた剣の獣。


――――あほが。


赤音は“二人”に心中で毒付く。
一人の甘さに、一人の愚劣さに。
赤音は高速で反転し、先程までの後方に向く。伊勢守にその背を向けて。
すなわち以蔵の方角へと向き直り、跳躍。逆刃刀を袈裟へと振り下ろす。


――――あっさり掛かってんじゃねえや。


跳躍のごとき踏み込みで敵の間合いを奪う、
飢えた虎の如き躍動する奇襲。


――――刈流 飢虎


それは、以蔵の野太刀の広い間合いを瞬く間に奪い、
以蔵の懐へと深く入り込んだ。


「「!」」


人斬りが息を飲む。
剣聖が歯噛みする。

――懐に飛び込まれた。
――見逃してしまった。

場を動かすものと、静観せざるを得なかった者、
策に嵌められた者との反応差が、此処に出る。

伊勢守は動けない。その赤音の意図全てを把握しながら。
以蔵は追いつけない。それは完全に虚を付かれたが故に。

防御は出来ない。身体は既に動き、回避にも間に合わぬ。
斬撃すら届かない。相手の運体がそれを凌駕するが故に。

先の先にして、後の先の一刀。
それは実に絶妙な、奇襲にして迎撃であった。

無慈悲な鉄塊が、高速で以蔵に迫り来る。
以蔵は身体を捻る。軌道から首を逸らす。
必殺を期した、古流剣術ならでは首筋への袈裟を、
かろうじてその動物並の勘にて避ける。

逆刃刀が降り落ちる。流石に躱し切れない。
結果、まだ閉じてはいない胸板の深い傷口に、
さらなる痛打を受ける事になる。


「グァガアアアアアアァァァァァ!!!」


筋肉がひしゃげ、胸骨が砕ける耳障りな音が響く。
野獣のごとき、聞く者全ての肝を冷やす絶叫をあげながら。
以蔵は地に伏し、その激痛にのたうち回る。
頚骨狙いの致死打は避けられ、打点も大きくズレはしたが、
鉄塊による打撃を胸板に受けたのだ。
肋骨の数本に、深い罅が入る。
しかもその場所は、先刻四乃森蒼紫の回転剣舞を受けた箇所。
これにはさしもの人斬り以蔵とて、堪えられる訳がない。

以蔵は傷口から再び血を流し、悶絶に身を捩る。
口からは泡と血を吐きながら。


だが。
だが、しかし。


以蔵は右腕の野太刀を杖に再び立ち上がり、眼前の男を睨み付けた。
全身を激痛に苛まされ、そして幾度ともなくよろめきながらも。
いつ死に至っても不思議ではないという、瀕死の状態だというのに。
その精神は不屈。それどころか、なお一層殺意と闘志は増していた。

武田赤音は、あえて追撃を行わなかった。
止めを刺す際に出来る隙を、今後ろにある剣聖は
決して見逃さぬだろうという計算も、当然にある。
無論、先程のような人斬り相手の偽攻なども一切通じぬだろう。
そもそも、実力が違うのだから。

だが、そんな事よりも。

目の前の敵が、己の背にいる食欲をそそらぬ不味い剣聖まがいより、
よほど食いでのある危険かつ刺激的な獲物であると認めていたから。
そして、これより速度が増し進化した己の魔剣を、
この人斬り相手に試してみたかったのもある。

故にこそ、赤音は以蔵の再起を待った。
そして余計な横槍を回避する為に。
赤音はこの場を誘導する。
今は剣では適わない。
だが、人間は読める。
ゆえに付け入る隙もある。



「…止めだ、止め。ったく、下らねえ。」

赤音は背中越しに、かの剣聖相手に無礼千万な軽口を利く。
林崎甚助がその場で聞けば激昂しかねぬ暴言を吐く。
あるいは、その恐れ多さに卒倒するかもしれないが。
赤音には一切関係がない。何一つ知った事ではない。
この老人が、たとえ神であろうとも。
赤音は神に唾を吐く。

「おい、爺さん。あんたじゃ全然そそらねぇ。
 何なんだその温い剣?死合うにも値しねぇ。
 耄碌してんなら、そこで休んで黙って見とけ。
 …興醒めったらありゃしねえ。」

赤音は不機嫌に鼻を鳴らす。
逆刃刀を裏返し、軽く己の肩を叩いて。

「…私相手では、御不満かな?」

赤音の礼節の欠片もない、傍若無人も極まる言葉に。
伊勢守は一切動する事もなく、ただ静かに言葉を返す。
――だが、闘志のみは増し、赤音を静かに威圧する。
だが、それに怯む赤音ではない。
赤音は天に鍔を返す剣客だから。

「ああ、ものすっげえ不満。
 まだ、マジになってる素人のが断然いい。
 こりゃ強い弱いとかじゃねえ。あんたにゃ殺意がねえ。
 それ以上に、なによりこれを楽しんでねえ。
 こっちはな、この遊びに生命張ってんだよ。
 それにマジに向き合えねえ、って何様のつもりだあんた?
 …気に入らねえんだよ。」

「…何ゆえ、そう死に急ごうとなさる?」

この青年、実力の違いを決して理解出来ぬほど愚鈍ではない。
むしろ、知り抜いた上で出し抜こうという覇気すら感じられる。
だが、今の状況は赤音に不利なものでしかない。
以蔵が倒れ、伊勢守と一対一となれば、赤音の命運は窮まる。
それが分からぬ訳ではないのだろう。

――何故だ?

ならば、と伊勢守は彼の出方とその人間を見極める事にした。
その人を見極めずして、決して人はすくいきれないのだから。

「あぁん?おれの生命好きに捨てようが人の勝手だろ?
 おれが楽しめりゃそれでいい。そんだけのことさ。
 でもな、おれが楽しめねえ事はするつもりもねえ。
 ぶっちゃけな、あんたはつまらねえ。
 だからさ、もうどうでもいい。
 ま、そっちがどうしてもってなら続けてもやるさ?
 …その代わり、刺し違えてでも死んでもらうけどな。」

一切の気負いも虚飾もない、飄々とした赤音の返答。
流石に、これにはさしもの伊勢守も言葉を失った。

駆け引きではない。この青年、心底そう思っている。
生命乞いでもない。それにしては挑発的にも過ぎる。

ただ戯れに生命を賭け、そして賭けに外れれば
それもまた仕方なしと諦める徹底した享楽主義。
純粋に命賭けで刺激だけを求める、人格破綻者。

何かの目的の為に生命を賭ける覚悟や悲壮感とは、根本的に違う。
一切の迷いもなければ、戸惑すらもない。
何かを狂的に信じるが故の無謀とも異なる。
「獣」とはベクトルの違う、人格の荒廃状態。
青年の心の根本的な何かが、既に壊れている。
人の形をした、別の生き物になり果てている。

恐怖や迷いを感じる心や、生命を惜しむ気持ちがあれば、そこに付け入る隙はある。
だが、青年は一貫にして不動。純粋なる狂気に冒されている。
ある意味、純粋なまでの剣狂者の姿がそこにはあった。
こんな男に単なる生命の危機で脅しても、むしろ喜ばせるのみだろう。
剣狂者とは、己が生命でなく、戦場にこそ価値を見出すものだから。
その男の生命を摘まず、心のみを折るにはどうすればよいか?


――――わしは、この青年を果たして救えるのだろうか?


伊勢守をして、逆に戸惑を与えるほどの揺ぎ無い狂気。
そして、その思考する隙を逃さぬ赤音ではない。

赤音は仕掛けを打つ。
だが、伊勢守にではなく、以蔵に顔を向ける。
そして今赤音が使うものは、剣ではなく言葉。
己が望む行動を、人斬りに取らせる為に。
眼前の剣聖の、活人剣を穢す為に。

赤音は人斬りに、さも楽しげに語りかける。

「…それにしてもさ。
 あの爺さんと違って、あんたホントにすげえよな。
 おれの“飢虎”受けてさ、生きてる奴なんて初めて見たぞ。
 でもま、やりかけの勝負って奴はきっちり白黒付けねえとな?
 それにさ、あんたもやられっ放しじゃ収まりが付かねえだろ?
 こんな半端じゃ、お互いにやってられねえ。
 …違うかい?」

その態度は、剣聖に対してのものとは真逆。
伊勢守に対するような冷淡さは欠片もなく。
それどころか、どこかしら親愛の情すら帯びていた。

「…だったらさ。お互いやる事も一つだよな?
 ここより先は、おれとサシで殺り合わねえか?
 あの爺さんの邪魔入らずで、二人っきりでさ。
 これより先は、男と男の真剣勝負って奴だ。」

赤音は伊勢守を愚弄する。
伊勢守は男には非ずと、剣聖が志す活人剣を。
人と剣、諸共に軽侮する。かの剣聖を相手取り。

「第一、剣士の真剣勝負、訳分かんねえ爺さんの活人剣なんぞで
 穢されちまっちゃ正直やってらんねえだろ、…な?」

――活人剣。
その言葉を吐いた時の、赤音の微かに歪んだ顔に気づき。
伊勢守は赤音の真意に気付く。
これは以蔵への会話ではない。伊勢守への報復であると。
己か以蔵の人死にを見せつけ、活人剣を穢す為にあると。
だが、もう遅い。
気付くのが遅すぎた。


「おう、ほりゃいい。そっちがこちらも楽しそうやき。」


以蔵もまた赤音の意図を察し、楽しげにその提案に乗った。
以蔵もまた、伊勢守の剣には度し難い不快感を抱いていたのだろう。
伊勢守に、見せつけるように嘲笑を浮かべる。
二人の剣鬼は、ともに剣聖による救済を拒む。
いずれかの死を望み、それをかの剣聖に見せつける事を望む。

以蔵が赤音の提案に承諾した理由。
それは、負傷した中で三つ巴の乱戦を行う不利より、
一人づつ倒すほうが確実に有利であるとの計算も無論ある。
乱戦とは、まず弱みを見せたものから確実に潰されていくものだから。
…だが、それ以上に。

この『人斬り以蔵』に完璧な隙を付いて一太刀入れた、
傲岸不遜も極まる少年をその剣にて凌駕して
剣者としての格の違いを知らしめたいという、
純粋な欲望が疼いた理由が大きかった。

あれが逆刃刀でなく真剣なら、本来は死んでいた筈の一撃。
剣者として、ただ剣者として。
剣以外に何一つの取り柄もなく、
ただ剣以外に縋るものがない半生を歩んだからこそ。
維新志士として決して見なされぬ、今だからこそ。

以蔵は赤音の剣を凌駕し、優位を示さねばならない。
己自身の、半生における剣者としての矜持に賭けて。
だからこそ、赤音の挑発に乗った。
眼前の剣聖に、一杯喰わせる為にも。

「…じゃ、決まりだ。おい、爺さん。
 休憩ついでに、決闘の見届け人になってくれや。
 まさか剣客同士が同意した喧嘩に、横槍なんぞ入れたりしないよな?」


伊勢守は、同意せざるを得ない。
己もまた、骨の髄まで剣者であるが故に。
双方合意の上での、一対一でのこの決闘。
それを止める無粋だけは、剣者として出来ない。してはならない。
己が非殺の信念を貫こうとも、この状況で伊勢守が割り込めば
それは二人の意を踏みにじる傲慢でしかない。
それは己の圧倒的武力を背景にした、二人の剣者に対する最大の侮辱。
己自身も剣に身を置く身であるからこそ、その禁忌を深く知る。
故にこそ、手を出せない。

一方で、赤音はほくそ笑む。
この老人がそういった武士の心意気を守る人間性の持ち主である事は、
二人を殺すだけの実力がありながら制圧を欲する、彼の剣筋から見ても明らか。
そうでなければ、二人の首はとうの昔に飛んでいるだろうから。
赤音は、その人情の機微を逆手に取った。

――して、やられた。こうなれば、見届けるより他に無し。
伊勢守は顔を苦悩に歪めながらも、頷くより他無かった。

「…そうだ。それでいい。じゃ、おれからもあんたへのお礼代わりだ。
『見事な太刀筋』ってやつ、これから特等席で見せてやるよ。」

そう言って赤音は首だけを伊勢守に向け、不敵に笑う。
だが、その心はすでに伊勢守にはない。
近くに控える人斬りに、既に心は移っている。

「…じゃ、楽しもうぜおっさん。朝も近い。
 お互い、最高の夜明けにしたいよなぁ?」

赤音は以蔵に向き直り、そう言って微笑んだ。
邪気のまるでない、純粋無垢な子供のように。

以蔵も赤音に釣られて笑った。笑ってしまった。
その心は世界への憎悪に満ちていたはずなのに。
生きとし生けるものへの殺意に満ちていたのに。
晴れやかに。そして、その瞳は闘志に満ちながら。

…以蔵は孤独であった。
身命を賭して尽くしてきた主には見捨てられ、
今の彼には剣以外なにも残されてはいないのだ。
だからこそ、今の以蔵は剣に拘泥している。
どうしようもないほどに、執着している。

この血臭漂う殺し合いこそが、今の以蔵の唯一の居場所。
それ以外のどこにも生きる場所はない。
その戦場で、己は認められた。
それが、何よりも嬉しかった。

己が世界から認められぬが故の憎悪。だが、しかし。
己とその腕をほぼ等価とする剣者が、ただ純粋に剣者として以蔵を認めた。
己と実力を隔絶する眼前の剣聖より、この以蔵こそを選び果し合いを求めた。

剣者として。ただ剣者として。
誰よりも、自分は全面的にその存在を認められた。
名も知らぬ剣狂者ではあるが、他人に認められた。

それが何よりも嬉しく、ただ自然に釣られて笑った。
今この刹那だけは世界への憎悪はない。妄執もない。
あるのは眼前の敵を凌駕したいという想いのみ。
それは恋情にも似た純粋なまでの思いであった。

――なんという皮肉。

剣聖の活人剣では以蔵の憎悪は薄れず。
野獣の殺人剣で初めて彼は心を開いた。

――なんという滑稽。

伊勢守は、以蔵の純粋な笑みを見て、苦悩をより深いものとする。
伊勢守は、この場にいる誰よりも剣において優れながら、
己が何一つ救えぬ道化であることを自覚せざるを得なかった。


          ◇          ◇          ◇


伊勢守は、ただ静かに見届ける。
二人は笑みを浮かべながら、対峙する。
至福の歓喜と闘志に満ちながら。
だがしかし、お互いにその生命を奪わんと。
瘴気さえ漂わせる、濃厚なる殺気を伴って。

以蔵は壊れた左腕を突き出し、右腕を突きに構え機を伺う。
その企図は誰の目にも一目瞭然。
負傷した左腕を盾代わりにして、残る右腕で赤音を刺し穿つ。
何も仕掛けないなら、そのままに先を取り敵を貫けば良し。
いわば捨て身の戦法。肉を切らせて骨を断つ。

もはや壊れた片腕に、精緻な剣術など求めようがない。
ならばこそ、壊れた腕一本など盾にしかならぬ。
たとえ切断され、その結果死に至ろうとも。
今、この刹那。勝負に勝ちさえすればいい。
眼前の好敵手さえ倒せば、それで良し。
全てを投げ売ってでも、勝負を取る。
それこそが、眼前の敵への友愛の証。

野太刀は決して前には出さない。間合いの優位は捨てる。
片手で握りしめた剣、前に出せばそれを狙われるは必定。
両腕で振り下ろされる剣にて、弾かれる可能性が高い。
この難敵相手に、先制は至難の業。故にこそ後ろへ引く。
狙うべきは後の先。先の機はくれてやればいい。
以蔵はそう、覚悟を決める。

赤音はそれを待ち受ける。構えは指の構え。
赤音が最も得意とし、そして最も好む構え。

赤音は目を半眼に据える。
いつ敵が向かうか分からぬが故に。
目を見開いて眼球が乾き、瞬きの刹那を作らぬ為に。
赤音は意識を半ば遮断し、雑念を排除する。





――武田赤音が、その両眼を大きく見開いた!




岡田以蔵は地を蹴る。
武田赤音は迎え撃つ。

以蔵は地を駆け、土を穿ち、その間合いを急速に詰める。
赤音は即応する。最適な迎撃の刹那を、決して逃さない。
赤音は手をこまねいたりしない。以蔵に先など渡さない。

だが、このままでは。
そう、このままでは。

赤音は以蔵に倒される。
突き出た左腕は折れようとも、
残る右腕でその喉を抉られる。

以蔵の攻撃を阻止するには、左腕の盾をかい潜り。
後ろにある頭、あるいは残された右腕を壊すしか無い。

だが、左はまだ完全には死んでいない。
向かい来る刃をいなす、盾代わりには動かせる。
そして右は後ろに引いている。用心深く、周到に。
これでは右は狙えない。

以蔵は思う。
勝利の代償として、左腕は完全に壊されるだろうが。
切断されようとも同じこと。刹那の隙を奪えば充分。
一度の踏み込み、一度の呼吸において。
一度しか必殺の斬撃は生み出せない。
敵がニ撃目へと己が刀を巻き返す前に。
以蔵は確実に事を為し、敵の喉を貫く。

単に腕の力だけなら。
誰にでも一呼吸に二度以上、
刀刃を振り回すことだけは出来るだろう。
だが、腕の力だけでは剣は人を阻止出来ない。
それだけの破壊力を宿し得ない。
だから以蔵はただ押し通せば良い。
それは、極めて単純な剣の条理。

ならば、一度犠牲を決めれば赤音に打つ手はない。
以蔵の相討ち狙いの後の先が、圧倒的に早い。

以蔵は左腕を犠牲に、赤音に勝利を収めることが出来る。
以蔵は地を駆けながら、赤音に無言で笑いかけた。

――――腕一本などくれてやる。それでお前を敗れるなら本望。

以蔵は何も言わずとも、その顔には如実にそう語っていた。


なのに。
なのに、何故?


赤音もまた笑っていた。
赤音が狂したわけではない。
赤音は勝利を確信し、薄く笑った。
一足一刀の間合い、殺傷圏内に以蔵が入る。


「――――――――――ッッッ!!!」


赤音の後足が弾ける。逆刃刀が降り落ちる。
あたかも天空の雷雲の耀きが如く。
寸毫の時も赤音は逃さず。
寸毫に至る速さにて。

敵の先の機を、赤音は奪う。


――――刈流 強


赤音の剣は修練によって忽の域を超え。
今や、まさに毫の域にまで達していた。

その神速の一閃は、だがしかし以蔵の前に突き出た左腕に阻まれる。
左腕が壊れる。完膚なき迄に、粉々に。
その関節を、さらに一つ奇怪に増やし。
だが、赤音の一刀はその左腕を掻い潜る事は無く。
即死に至る頭や、首筋に触れる事も無く。

以蔵の顔が、これ以上無い程の激痛に歪む。
左腕の神経という神経が、破壊される。
だが、それでなお突撃は止まらない。


――構わない。それでいい。

以蔵は左腕を代償に、遠からぬ破滅と引き換えに。
ただ目の前の敵への勝利だけを求めたのだから。

残されたその右腕に剣は握られたまま、
その鋭鋒は一直線に赤音の喉へと迫る。

だが、赤音は恐れない。
だが、赤音は怯えない。
己が死が、敗北が迫ると言うのに。

赤音はただ両手の握りを変える。
右手の握りの中で、柄を回し。
左右の手の向きが互い違いの形となる、
異形の握りへと手の内は変する。

その両腕に、左腕を砕く確かな手応えを感じた瞬間に。
寸毫の遅れなく。

――鍔眼(ツバメ)が返る。


後ろ足を伸ばす。それにより生まれる、上体が起きる力に、
さらに踏み込んだ足が地面を打つ、接地の反動力を加える。
それらを総合して、ニ撃目の斬り上げに、人体を断つ破壊力に充てる。
振り落ちた一撃が勢いを落とすこと無く、天空へと跳ね上がる。
寸毫の神速のままに。


――燕(ツバメ)は返る。


剣の担い手に迫り来る、死の運命と天に唾(つば)すべく。
勝利の為に犠牲を捧げた、敬虔なる人斬りに微笑んだ筈の勝利の女神に。
赤音はその女神の後髪を鷲掴みにし、不条理を以て陵辱の限りを尽くす。

武田赤音は、勝負の未来を捩じ曲げる。
天に鍔(つば)を返す、魔剣にて応じる。


――だから、そんな事は有り得ないのだ。


一つの踏み込み、一つの呼吸の間での、必殺の力を持つ二度の斬撃。
武田赤音は、その有り得ない不条理を成し遂げる。

伊勢守すら息を呑む。赤音の妙なる技に。
以蔵の剣が赤音の喉に届く、その寸前に。
以蔵の命運と右の手首とが、音を立て捻じ曲がった。


――――我流魔剣 鍔眼返し


それは赤音の即応能力の極限と、その刹那も逃さずただ一途に
相手を見つめ続け完璧に応じる、愛の如き執念を以て初めて可能とする。

剣聖の無想の境地とは対極にある、言わば有想の境地にして懸想の極致。
剣聖とは程遠い、むしろ対極に位置する赤音だからこそ可能とする絶技。
相手の先を取り、後の先に対して、更に先を取る不条理の剣。
外法の剣。
強欲の剣。
先を取る限りにおいて、
限りなく無敵に近い剣。


――――勝敗は決する。魔剣にて、赤音は勝利を強奪する。


武田赤音もまた、伊烏義阿と同じく。
人智を超えた魔剣を手に入れていた。


          ◇          ◇          ◇

「…殺せ。」

その顔を苦悶に歪めながら。
その身体を地に横たえながら。
両腕があらぬ方向へと曲がり。
身体から再び夥しい血を流しながら。
これまでの身体への無理を思い出し、
その心身を激しく衰弱させながら。

――だが、なおはっきりとした声で。

以蔵は赤音に満面の笑顔で、己が死を乞いた。

「…ああ、そうするよ。少し待ってな。」

赤音はそれに微笑で応じる。
まるで旧友に向けるかのごとく、親しげに。

赤音はゆるりと以蔵に近づく。
刀を裏返し、肩に担ぐようにして。
以蔵の心の臓を止めに、介錯の為に近づく。
赤音は振り返らずに、ふと伊勢守に尋ねる。

「…止めねえんだな、爺さん。」
「…止めはせぬ。それが、何よりの救いであるならの。」

伊勢守は理解していた。二人の立会の中で。
殺し合いの中でしか、すくいきれないものがいることを。

目の前の両腕の折れた剣客。手当すればまだ生き残ることは出来るだろう。
だが、彼は人としての第二の生よりも、剣者としての死を心より望む。
それは、その顔を見れば語らずとも知れる、剣者としての矜持であった。

故にこそ、この場は潔く以蔵の最期を見届ける事にした。
今ここで制止することこそ、己の恥の上塗りであり、
二人の勝負への愚弄でしかない。

二人をあの局面で止められなかった、己の不覚と未熟を噛みしめて。
伊勢守は二人の殺人剣との勝負に敗れたからこそ、何も語らなかった。
『殺すは容易く、活かすは難し。』などという生易しい話ではない。

人を活かし、その魂を救済しようという己の試みが破れ。
殺し、殺される道によって以蔵が魂の救済を得られる。
その事実こそが、剣聖の活人剣の敗北を意味していた。
『敗者は語らず』
伊勢守は、確かに二人の剣に敗北した。

「へえ?少しだけ見直したよ、爺さん。
 あんた、わかってんじゃねえか?」

赤音は背を向けながら、伊勢守に答える。
以蔵は正座の姿勢を取り、口を再び開く。

「じゃ、この首すぱっとやっとくれ。」
「オッケー。じゃ、死ぬ前に言い残したこととかねえか?
 折角だし、聞いてやる。」

以蔵に「おっけい」という言葉は分からない。
だが、その旨を了解したと理解したと見なし、
赤音に一つの願いを乞う。

「…ほいじゃ、辞世の句を読もうかのう。ちっくと待っちょくれんか?
 これでも武士じゃからの。それ位は頼きもいいか?」
「…ああ、良いぜ。武士の情けって奴だ。」

赤音は以蔵の願いに答える。
これから行われるのは、斬首という血生臭い処刑にもかかわらず。
二人はこれから釣りにでも出かけるような、気安さに満ちていた。
これこそが、彼らの本質なのだろう。
二人は共に親しき者の裏切りで人間性を失い。修羅道へと堕して。
剣以外の全てを喪失して。人でなしへとなり果てて。
だが、それが故に。同じ修羅にこそ心を許す。
修羅を理解出来るのは、同じ修羅だけだから。

「『君が為 尽くす心は 水の泡 消えにし後ぞ 澄み渡るべき』
 …どうじゃい?即興で考えたにしちゃ、いい出来ぜよ?」

以蔵は謳う。己が辞世の句を。
己が生きた証を立てんが為に。

それは、維新志士としての苦悩に満ちた人としての人生を捨て、
人斬りという獣に立ち返ったこの今こそ心の充足感を得られたという、
あまりにも人として悲し過ぎる歌であった。
その歌の深意を、赤音も伊勢守も知る由はない。

だが、歌った時に二人に見せた彼の笑顔は、
その満足を知るに充分過ぎるものであった。


「へえ、中々いい歌じゃないか。おれが今度死んだ時も、参考にするよ。」
「…今度?何を言うちゅう?」

赤音が一度死した存在であることを、以蔵は知らない。
だが、それは話す必要も、意味もない事だ。
第一、全て終わればすぐにでも後を追うつもりだから。
剣以外に、何も残されてはいない身の上であるが故に。

「あー、まあこっちの話し、こっちの話し。
 じゃ、これでもう悔いはねえな?」

赤音はひらひらと手を振って答える。
以蔵もまた、微笑して応じる。

「ああ、やっとくれ。最期は、しょうまっこと楽しかったぜよ。」
「おれもだよ、おっさん。」

以蔵はそう言って姿勢を正すが、ふと何かを思い出し。
赤音に名乗りを上げる。

「そういや名乗りがなかったが。わしは以蔵ぜよ。わしの事、絶対忘れきくれ。」
「おれは赤音、武田赤音ってんだ。じゃ、今度は地獄で会おうや。」

いぞう、の名に伊勢守は驚愕の表情を浮かべる。
だが、二人にはそれは与り知る事の無い事。
この場は、まさに二人の世界であるが故に。


――そして。


以蔵は正座の姿勢を取り、眼を閉じて待つ。
赤音は上段の構えを取り、無言にて近づく。


――やがて。


以蔵はいつ首を斬られたか分からぬほどに。
赤音は逆刃刀を裏返して静かに以蔵に近づき。
喉の皮一枚を残して切り、その首を胸元へ転げ落とした。
それは、本来は斬首でなく切腹に用いられる、葬送の剣。
死に臨む武士にのみ報いる、最大の礼節の剣。――『順刀』。
武田赤音は、岡田以蔵の最期に剣者としての礼を尽くした。


【岡田以蔵@史実 死亡】
【残り 六十一名】


          ◇          ◇          ◇


赤音と伊勢守の二人が、無言で近くの民家で丁重に以蔵を弔って後の事。

「さて、これからどうすっかね?
 爺さんがこの分だと、どうせあんたの連れも甘甘なんだろ。
 薫って女も…。ま、この分じゃ大丈夫か?」

赤音は逆刃刀を納刀し、余分な荷物を捨て。
以蔵の残した野太刀を手入れしながら、
後に残された伊勢守に問いかける。

「名乗りが遅れたな。おれは武田赤音。赤音でいい。
 本気になれねえ爺さん相手にしても、面白くもなんともねえ。
 どこへなりとも消えちまえ。って言いたいとこだが…。」

今の赤音に好戦的な気配は消えている。
敵とは見なされていないが故にだろう。
赤音は野太刀を腰に佩き、悪戯っぽい笑みを浮かべながら、
聞き捨てならない事を言う。

「おれのいた近くの小屋に“神谷薫”って名前の女がいるから、
 そいつをあんたらに預けとく。…ま、拾いもんなんだけどな。
 でもま、おれの傍にいるよかよっぽど安全だろ?」

一人の女の身柄を預けようとする赤音。
そして、当の伊勢守の返答を待つ前に。

「…爺さん、人助けとか大好きなんだろ?
 じゃ、案内してやるよ。付いて来な。」

そういって伊勢守に背を向け、顎で示して先行する。
背後に特に用心はしない。大胆不敵にして傍若無人。
無論、それは伊勢守の人間性を分析した上での行動ではあるのだが。

伊勢守は押し黙り、赤音に付き従う。
赤音の非礼に激怒しているわけではない。
己の至らなさに対する無念は無論あるが、
それを愚痴にするなど意味がない。

伊勢守は、己の思考の渦に囚われていた。
伊勢守は、赤音の人間性を掴みそこねていた。
故にこそ、逆に興味と関心を持ちつつあった。
この者が、修羅道に堕した剣狂者であることは間違いない。
だが、その彼なりの奇妙な思いやりは決して偽善などではなく。
虚飾を剥いだ末にあるものであるが故、
ある種の潔さ、美しさすら感じさせた。
それは短く咲き誇り、そして舞い散る桜花のように。

少なくとも赤音の殺人剣はかの人斬りの魂を救い、
己の活人剣では以蔵をすくいきれなかったのだから。
それは、決して技量の優劣という浅薄な比較ではなく。
赤音の殺人剣に、その結果と価値を伊勢守は認めざるを得ない。

此度の敗北は、潔く受け入れる。
無論、己が敗れたままであり続けるつもりも、
決してありはしないのだが。
赤音の殺人剣と、己の活人剣との再戦を、伊勢守は切望する。
だが、その前に確認すべき事もある。

さらに赤音はここで出逢う前に。
既に一人の女性を助けていると言うのだ。
無論、それは赤音の嘘であり、罠である可能性も無くは無いのだが。
伊勢守は、赤音に嘘はないと判断する。そうする意味がないが故に。
赤音はそもそも、伊勢守を敵と見なしていないのだから。

だが女性の事が事実ならば、先程のこちらへの挑発も頷ける。
こちらの接近を知り、殺気を撒き散らして二人の気を引き、
かの女性から注意を逸らさんと欲したのではないか?

――ならば、この青年は一体何者なのだろうか?

決して善人ではないだろう。
だが、単なる人斬りでもない。
その思考は、実に複雑怪奇も極まる。
伊勢守の興味は尽きない。

伊勢守は同時に苦悩する。
己は活人剣という言葉の意味を取り違えてはいないだろうか?
何をして人を真の意味で救い切る事ができるのか?
殺人剣とは、常に忌み嫌うべきものなのだろうか?
…ただ考えても、一向に答えは出ない。

ならば、この奇天烈な青年を見届ける事により、
己に課す活人剣の解答を得るべきであろう。
それを是非、見極めたい。
その為には――。

この武田赤音という名の純粋な獣に、しばし付き合おう。
ただし、赤音に暴走があれば、その時は即座に制圧しなければならないが。
伊勢守は、興味と関心、そして苦悩を同時に抱きつつも
赤音の無礼極まる案内に、黙って付き従う事にした。

【へノ参 城下町/一日目/早朝】

【上泉信綱@史実】
【状態】疲労(軽度)、足に軽傷(治療済み)、腹部に打撲、爪一つ破損、指一本負傷、顔にかすり傷
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】なし
【思考】基本:他の参加者を殺すことなく優勝する。
     一:武田赤音の行く末を見届け、己の活人剣の解答を得たい。
     ニ:ただし、武田赤音に暴走がある時は、今度こそ阻止する。
     三:神谷薫と甚助に合流する。
     四:己の今回の敗北を認める。
     五:ただし、敗北のままでは終わらせない。赤音を救い、導く。

【備考】※服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、土方歳三の人物像を聞きました。
    ※己の活人剣で以蔵を救えず、赤音の殺人剣でこそ以蔵が救われた事実に、苦悩を抱いています。
    ※己の活人剣の今回の敗北を率直に認め、さらなる高みを模索しようとしています。

【武田赤音@刃鳴散らす】
【状態】:健康、疲労(中度~重度の間)
【装備】:逆刃刀・真打@るろうに剣心
     野太刀
     殺戮幼稚園@刃鳴散らす
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:気の赴くままに行動する。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。
     一:強そうな剣者がいれば仕合ってみたい。
     ニ:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。
     三:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。
     四:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。
     五:一輪のこれ(殺戮幼稚園)、どうすっかな?
     六:後ろの爺さんとその連れ(甚助)に、神谷薫を押し付けて自由になりたい。
     七:休みてえ…。
【備考】※人別帖をまだ読んでません。その上うわの空で白州にいたので、
    ※伊烏義阿がこの御前試合に参戦している事を未だ知りません。
    ※道着より、神谷活心流と神谷薫の名を把握しました。
    ※上泉信綱とその連れ(林崎甚助)の名前をまだ聞いていません。
    ※現地調達した木の棒と竹光は、野太刀の入手と同時に近くの小屋で廃棄しました。
     傍に以蔵の死体が置いてあります。

時系列順で読む

投下順で読む


活人剣の道険し 武田赤音 顔合わせ
活人剣の道険し 上泉信綱 顔合わせ
活人剣の道険し 岡田以蔵 【死亡】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年12月02日 19:40