ハイエクと自由主義

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ハイエクと自由主義 - (2010/02/18 (木) 08:31:14) の編集履歴(バックアップ)


「自由の理論のこの発展は主として十八世紀に起こった。それはイギリスとフランスの二カ国で始まった。前者は自由を知っていたが、後者は知らなかった。
その結果、我々は今日まで自由についての理論において二つの異なった伝統を受け継いでいる。すなわち、一方は経験的で非体系的、他方は思弁的で、合理的である。-前者は自生的に成長してきたが、不完全にしか理解されなかった伝統と制度の解釈を基礎としており、後者はユートピアの建設を目指すものであり、しばしば実験されてきたが、いまだかって成功していない。」

F.A.ハイエク『自由の条件』(1960年)

■動画:ケインズv.s.ハイエク

経済の基礎知識の動画に登場するF.A.ハイエクは、1980年代の英サッチャー&米レーガン両政権の諸政策に理論的基礎を与えた20世紀後半最大の経済学者・法思想家・政治哲学者です。



ハイエクは、日本ではノーベル経済学賞を受賞した経済学者、という限定した紹介のされ方をする場合が多いのですが、実際には法思想・政治哲学を経済学とリンクさせつつ生涯追求し続けた一代の碩学であり、ナチス・ドイツや旧ソ連・東欧諸国などの全体主義体制に対して激しい闘志を燃やしたことで知られます。

■動画『隷従への道』

ハイエク著『隷従への道』(1944年)は、計画経済などの設計主義的合理主義が、ソ連やナチス・ドイツなどの全体主義に至る危険性を訴えた名著です。
第二次世界大戦中の1944年にドイツ軍のミサイル攻撃を受けるロンドンで執筆・出版され、アメリカで大評判になりました。
しかし社会主義勢力の強かったイギリスでは、この本の出版の反響は芳しくなく、まもなくアトリー労働党政権が誕生し、イギリスは(チャーチル率いる保守党の抵抗により)自由主義的な政治形態こそ損なわれなかったものの、公共企業の大規模な国営化・社会保障の大幅な拡大(「ゆりかごから墓場まで」)というハイエクの危惧した社会主義への道を辿り、1970年代末に保守党サッチャー政権が誕生するまで「イギリス病」とよばれる長期の低落状態に陥ってしまいました。



ダイジェスト版「The Road to Serfdom」の紹介

『隷従への道―全体主義と自由 (単行本)』(F.A.ハイエク:著)
計画経済と生産手段の共有という社会主義政策が、なぜ全体主義に至ってしまうのか。自由を守るために心に留めなければならないことは何か。「法の支配」の真の意味と重要性とは。
後年のハイエクが、自己のエッセンスが全部詰まっているとして一般の読者に薦めた一冊。
第二次大戦末期にアメリカで好評を得たあと、1989年にベルリンの壁が崩れ91年までにソ連が崩壊していった時期に、その恐ろしいまでに的確な全体主義社会の分析によって、この本は再度、西欧世界で熱心に読まれ初めました。
全体主義を厳しく排撃するハイエクを、戦後長く意図的に無視し続けてきた日本の出版界にも1980年代の終わり頃から漸くハイエクの著書を出版する動きが出てきました。
『自由をいかに守るか―ハイエクを読み直す』(渡部昇一:著)
上記『隷従への道』を各章毎に日本での事例を含めて細やかに解説。本家をいきなり読むよりは、こちらを先に読んだ方が日本人には取っ付きやすく理解し易いかも知れません。なおアマゾンの読者コメントには渡部昇一氏を不当に貶してしるものが幾つも見受けられますが、サヨク的心情の抜け切らない半可通の根拠のないコメントと見なすのが妥当でしょう。
自虐史観から抜け出せていない人は所詮自分の色眼鏡でしか物事を理解できない、というケースの一つです。
『ハイエク 知識社会の自由主義』(池田 信夫:著)
上記『隷従への道』に限らずハイエクの全著作・全思想を一応概観した好著。
但し、この本はあくまで池田信夫氏のハイエク観を述べたものであり、ハイエクに興味を持った方は、ご自身で図書館などでハイエクの2大名著『自由の条件(3巻)』『法と立法と自由(3巻)』を順に読み進められるのが良いでしょう。

■ハイエクから更に先へ

『保守主義の哲学―知の巨星たちは何を語ったか (単行本)』(中川八洋:著)
ハイエクの思想を機軸に西欧哲学の正統保守主義(真正自由主義)の系譜と、それに対立する邪悪な全体主義思想の系譜を峻別して分かり易く解説。
エドマンド・バークを初めとする正統保守思想の概略をこの一冊でマスター可能。
後は本書で紹介されている興味の沸く各思想家の書に挑戦しましょう。


【関連】 経済の基礎知識 法学の基礎知識