政治思想ないし イデオロギー |
説明 | 関連ページ | |
保守主義、及び、保守主義の内実を成す概念 | |||
保守主義 (conservatism) |
既存の価値・制度・信条を根本的に覆そうとする理論体系が現れたときにこれに対する対抗イデオロギーとして形成される。 「保守主義の宣言」とも言われる『フランス革命に関する省察』を著わしたE.バークは、人間のあらゆる制度の基礎は歴史であり、具体的な文脈のなかで長い時間をかけて培われてきたものだけが永続性を持つため、抽象的な哲学原理に基づく革命は座絶を運命づけられているとしている。 バークは決して変化を拒絶しないが、それは既存のものの漸進的改良として果たされねばならないと考える。 歴史的・有機的な社会秩序への人為的介入の排除とその漸進的改革が保守主義の思想的特徴であるが、これは現代のF.ハイエクやM.オークショットにもみられる考え方である。 |
保守主義とは何か | |
新保守主義 (neo-conservatism) |
1960年代後半以降、アメリカでリベラリズムや対抗文化の行き過ぎを批判しつつ登場してきた思想。 I.クリストル、D.ベル、S.ハンティントンなどが代表的である。 アメリカでは、ベトナム戦争の経験に伴う文化的混乱から若者を中心として性の自由や家族の解体といった急進的な主張がなされたが、反面、こうした潮流に強い危機意識をいだき、西欧的価値を擁護しながらアメリカの文化的同一性を再定義しようという試みも生まれた。 これらは資本主義と自由の結びつきを強調し、共産主義に対する批判を共有するもので、現実の政策的提言においても連邦政府が過剰な役割を果たすことには懐疑的で、私的集団の活動の場を拡大する「小さな政府」への方向性を示唆している。 このような主張を経済論として展開しているのが、新自由主義である。 |
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自由主義 (liberalism) |
個人の諸自由を尊重し、封建的共同体の束縛から解放しようとした思想や運動をいう。 本格的に開始されたのはルネサンスと宗教改革によって幕をあけた近代生産社会においてであり、宗教改革にみられるように、個人の内面的自由(信教の自由、良心の自由、思想の自由)を、国家・政府・カトリック・共同体などの自己以外の外在的権威の束縛・圧迫・強制などの侵害から守ろうとしたことから起こった。 この内面的諸自由は、必然的に外面的自由、すなわち市民的自由として総称される参政権に象徴される政治的自由や、ギルド的諸特権や独占に反対し通商自由の拡大を求め、財産や資本の所有や運用を自由になしうる経済的自由への要求へと広がっていった。 これらの諸自由の実現を求め苦闘した集団や階級が新興ブルジョアジーであったため、自由主義はしばしばそのイデオロギーであるとみられた。 しかし各個人の諸自由を中核とした社会構造は、その国家形態からみれば、いわゆる消極国家・中性国家・夜警国家などに表象されるように、自由放任を生み、当然弱肉強食の現象を現出させることになり、社会的経済的に実質的な平等を求める広義の社会主義に挑戦されることになった。 しかし、20世紀に出現した左右の独裁政治の実態は、自由主義が至上の価値としてきた内面的自由・政治的社会的諸自由などが、政治体制のいかんに関わらず、普遍的価値があることを容認せしめ、近代西欧社会に主として育まれてきた自由主義は再評価されている。 |
リベラリズムと自由主義 | |
新自由主義 (neo-liberalism) |
(1) | 1870,80年代から勃興したイギリスの理想主義運動、なかんずくT.H.グリーンが主唱した社会思想。 グリーンは、道徳哲学としてはJ.ロック、J.ベンサムなどの功利主義的自由主義ではなく、カントやヘーゲルの影響を受けた観念論的・理想主義的自由主義を、社会哲学としては、自由放任主義(経済的自由主義)ではなく国家による保護干渉主義(社会政策)を主唱した。 しかし決して国家専制主義や全体主義に陥らず、個人の自我の実現、個人の道徳的生活の可能な諸条件の整備に国家機能が存在するとして、自由主義の中心である個人主義を継受した。 この思想はイギリス自由党の労働立法・社会政策に思想的根拠を与えた。 ⇒※注:こちらは正確には new liberalismであり、訳すと文字通り「新自由主義」だが、現在はこちらの意味では使用されなくなったので注意が必要。 |
リベラリズムと自由主義 |
(2) | 1930年代以降の全体主義国家の台頭や第二次世界大戦中から戦後にかけてのケインズ政策に反発して、再び個人の自由の尊厳を説き、政府の恣意的政策の採用を排し、法の下での自由を強調する思想。 このような思想をもつW.オイケン、W.リプケ、L.ミーゼス、G.ハーバラー、F.ハイエク、L.C.ロビンズ、M.フリードマンらの多彩な人材を擁して、47年にモンペルラン・ソサエティーを結成している。 恣意的・強権的権力の行使に反対する点ではかっての自由放任的自由主義と共通する面をもつため、その単なる復活と誤解されがちであるが、普遍的な法の強力な支配の必要を説き、法秩序の下での自由を強調する点で、かっての自由放任とは異なる。 経済政策面でのその端的な表れは、ドイツに代表される社会的市場政策とシカゴ学派に代表される新貨幣数量説である。 ⇒※注:こちらが、neo-liberalism(正確に訳すと「再興自由主義」)すなわち現在使用されている意味での「新自由主義」である。 |
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保守主義に隣接・類似するために混同されやすいが、別概念として区別すべきもの | |||
自由至上主義(libertarianism) ※注:項目なしのため、 リバタリアン(libertarian) の項目で代用 |
福祉国家のはらむ集産主義的傾向に強い警戒を示し、国家の干渉に対して個人の不可侵の権利を擁護する自由論者。 古典的自由主義と同様、リバタリアンも自由市場経済を支持するが、その論拠は自由市場が資源配分の効率性に関して卓越しているということだけではない。 より重要なのは集産主義的介入(⇒コレクティビズム)が、自明の権利である個人の自然権や人権を侵害するという点である。 リバタリアンの出発点は社会の理解に関する徹底的な個人主義的アプローチである。 社会とは何らかの実体ではなく、自律性を権利として保障された諸個人が互いの価値の実現を目指して交流を持つ場である。 経験的な意味で国家や政府による合理的計画よりも自律的な個人の活動のほうが社会的利益を最大化するというだけでなく、道徳的な意味でも個人の自律性を国家や政府の干渉によって強制的に縮小しようとするあらゆる試みは、個人の独自性を破壊し社会の目的のための手段といて扱うことになる。 個人の価値の追求にはルールによる制約が課せられるべきであるが、それは各人の平等な権利を保障するというに限定されねばならない。 国家や政府の役割はそこにあるのである。 ⇒※補注参照 |
中間派について | |
共同体主義(communitarianism) ※注:項目なしのため、 コミュニタリアン(communitarian) の項目で代用 |
人間存在の基盤としての「共同体」の復権を唱える一群の政治哲学者たちの総称。 J.ロールズの『正義論』(1971)が政治哲学の復権に大きな影響を与え、当初その指導的立場にあったのが、ロールズに代表される福祉国家的な自由主義を主張するリベラリストと、ノージックに代表される個人の自由に対する制限を最小化しようとするリバタリアンであった。 一見したところ対立するこの両陣営は「個人」の多元的対立から社会構成の原理を導出しようとする基本的枠組みでは一致している。 この個人主義的な人間像・社会像に対して根本的な次元から論争に参加してきたのがコミュニタリアンである。 A.マッキンタイア、M.サンデル、M.ウォルツァーらを代表とし、その主張は必ずしも一様でないが、人間的主体性を抽象的なアトム的存在の自律性としてではなく、共同体のもつ歴史・社会的なコンテクストに根付いた具体的存在として捉えようとする点では共通している。 コミュニタリアンの登場の背景にはアメリカ社会が極端な個人主義の結果、公共心を衰退させ、そのことが様々な社会問題を引き起こしているという洞察がある。 |
中間派について | |
ナショナリズム (nationalism) |
民族、国家に対する個人の世俗的忠誠心を内容とする感情もしくはイデオロギー。 普通、民族主義と訳されるが、国民主義あるいは国粋主義と訳されることもある。 しかしこれらの訳語はいずれもナショナリズムの概念を十分に表現しているとはいえない。 ナショナリズムの概念が多義的であるのは、ネーション(民族、国民)が歴史上きわめて多様な形態をたどって生成・発展してきたことに起因している。 歴史的な重要概念となったのは18世紀末以後のことである。 アメリカの独立とフランス革命がその端緒となったとされ、南アメリカに浸透し、19世紀にはヨーロッパ全体に広まり、ナショナリズム時代をつくりだし、20世紀に入って、アジア・アフリカで多くのナショナリズム運動が展開された。 ナショナリズムはこうした諸国の独立をもたらす解放的イデオロギーではあるが、民族紛争と戦争の拡大をもたらす危険も大きい。 |
ナショナリズムとは何か 右派・右翼とは何か |
保守主義 | 自由主義との関係 | 該当する概念(=外延) | 隣接・類似するが別概念 | 対抗思想 | ||
(1) | 伝統保守 (真正保守主義) |
古典的自由主義と親和的 (バーク的保守主義) |
・文化的保守 ・宗教保守 (主として社会面に関心) |
・共同体主義(コミュニタリアニズム)⇒中間に分類 ・ナショナリズム⇒右翼に分類 |
・フランス啓蒙思想(特にルソーの思想) ・デカルト的理性主義 |
長い歴史の中で育まれてきた 伝統的権威・文化・社会制度 を破壊する思想 |
(2) | 経済保守 (新保守主義) |
新自由主義と親和的 (ハイエク的保守主義) 即ち、リベラル右派のこと |
・反福祉国家/「小さな政府」派 ・減税主義者 (主として経済面に関心) |
・自由至上主義(リバタリアニズム)⇒中間に分類 | ・社会主義/共産主義/ファシズム等の全体主義 ・リベラル左派(福祉国家/「大きな政府」派) |
資本主義経済体制と それによって担保されている個人の自由 を破壊する思想 |
(1) | ブリタニカ・コンサイス百科事典(conservatismの項)より全文翻訳 | ||||
歴史的に発展し、それゆえに継続性と安定性の明証である制度(institutions)と慣行(practices)への愛好を表す政治的態度またはイデオロギー | |||||
保守主義は近代においてフランス革命に対するリアクションとしてエドマンド・バークの著作を通じて最初に表明された。バークはフランス革命は、その理想が、その行き過ぎによって汚された(tarnished)と信じていた。 | |||||
保守主義者は、変化の遂行は最小限(minimal)で漸進的(gradual)であるべきだと信じている。彼らは歴史を愛好し、理想的(idealistic)であるよりは現実的(realistic)である。 | |||||
著名な保守主義政党として、英国の保守党、ドイツのキリスト教民主同盟、アメリカの共和党、日本の自由民主党がある。 | |||||
(2) | オックスフォード英語事典(conservativeの項)より抜粋翻訳 | ||||
(政治的文脈において)自由企業・私的所有・社会に関する保守的な理念を愛好すること | |||||
(3) | コウビルド英語事典(conservatismの項)より全文翻訳 | ||||
<1> | 保守主義とは、変化が社会にとって為されることが必要とされる場合において、それは漸進的(gradual)に為されるべきだと信じる政治的哲学である。 | ||||
<2> | 保守主義とは、変化や新しいアイディアを受け入れることを嫌がることである。 |
(1) | 内包(intension) | 論理学で、一概念に含まれる属性。例えば「空」の内包は、「上、青色、広い」など⇔外延 |
(2) | 外延(extension) | 論理学で、その概念が適用される事物の範囲。例えば、金属という概念の外延は、金・銀・鉄の類⇔内包 |
(1) | (保守主義とは)常に「現状(status quo)」の中に、①「守る(conserve)べきもの」と、②「改善(improve)すべきもの」を弁別し | |
<1> | 「絶対的破壊(absolute destruction)」の「軽率さ(levity)」と | |
<2> | 「一切の改善を拒絶する頑迷(the obstinacy that rejects all improvement)」 | |
を共に排除しようとするもの、であり | ||
(2) | そのような「保守(preserve)」と「改革(reform)」とにあたっては | |
<1> | 古い制度の有益な部分が維持され | |
<2> | 「改革」によって「新しく付け加えられた」部分は、これに「適合するようにされるべきであり」 | |
<3> | 全体としては「遅くはあるが、しかし申し分なく持続的な進歩(a slow but well-sustained progress)」が保たれることを政治の眼目とする | |
という所に、その顕著な特色がある。 |
<1> | 「現状(status quo)」の中に常に「守る(conserve)べきもの」を見出すことを起点として政治的思惟が進行する、という思考形式と、 | |
<2> | 「遅くはあるが、しかし申し分なく持続的な進歩(a slow but well-sustained progress)」への政治的志向 |
この様な保守主義的政治態度は、政治情勢により「右」へ振れる場合にも、あるいは「左」に振れる場合にも、その振幅を有限化するばかりでなく比較的にいって僅少なものにする。 |
なぜなら、いずれの方向にせよ、過度の振れは「守るべきもの」を放棄することを意味し、また「左」へ振れすぎるときには、進歩の連続性が切れてしまうからである。 |
(1) | 思想形成の反定立(antithesis)性 | 保守主義は既に定立(thesis)された思想の衝撃を待って初めて、その対立者として自己の思想形成を開始する。 |
(2) | 思想内容の他者被規定性 | 保守主義は、思想内容が他者によって(つまり定立された別の思想によって)方向づけられ限定される。 即ちバークにおいては「アンチ・フランス啓蒙思想」「アンチ・デカルト流理性主義」であり、ハイエクやポパーにおいては「アンチ・社会主義/共産主義その他の全体主義」「アンチ・リベラリズム/福祉国家」である。 |
(3) | 高度の状況的機動性(状況適応性) | 保守主義は、それが置かれた具体的状況に密着した思考形式と実現手段を提供する。 つまり保守主義は、その対抗思想のように理論が先行した思考様式ではなく、常に「現状(status quo)」を前提として歴史的継続性の中で、その内容と対応策を見出す。 「イギリス人は新事態が起こるたびごとにそれを如何に利用するかを心得ている」(A.ヒットラー) 即ち保守主義は、①反省的判断力による個性的状況の敏速な把握と、②政治的実践へのその巧みな活用、を本領とする。 |
(4) | 無原則的状況主義(opportunism)との区別 | 保守主義は、一般に「中道(mid-roader)」あるいは「中間(centrist)」と呼ばれる「無原則主義(opportunism、便宜主義・日和見主義)」と違って一定の政治的原則/政治的価値を保持する。 |
(5) | 貴族政治的(aristocratic)志向性 | 保守主義は、民衆政治(democracy)を衆愚政治(mobocracy)に陥り易いものとして警戒し敬遠する傾向がある。 ※関連ページ デモクラシーの真実 |
(1) | 「現状(status quo)」における「保守(conserve)すべき」内容の発見可能性の肯定 |
保守主義は一定形態の歴史意識(但しマルクス主義的な歴史発展法則を肯定するものではなく「過去」と「現在」との継続性という意味での歴史意識)と、そうした歴史を把握する人間の能力(つまりデカルト的な普遍的理性ではなく、歴史的に形成され、個別的に存在する広義の理性)を肯定している。 なぜなら保守主義は「現状(status quo)」の中に一定の「保守すべき」(即ち一定の積極的に望ましいと評価し得る)内容を見出す思想であり、それは従って人間は歴史的な経緯のうちに「保守すべき」価値内容を弁別する能力を保有することを肯定しているからである。 | |
(2) | 政治目的およびその実現手段の「既存性(existence)」の肯定 |
一般に政治的思惟は、①政治的目標の設定に始まり、②その適合的な実現手段を発見し、③その手段の効果的適用による目標実現によって完了する。 しかし保守主義は、①この政治的思惟の起点を「現状(status quo)」における「保守すべき」内容の発見に求め、かつ、②その実現手段をも「現状」に求めている。 「真の政治家というものは、常に、どうすれば自国の現存の諸材料を、最大限度に利用することになるかということを考慮するものである」(E.バーク) | |
(3) | 「申し分なく継続的な進歩(well-sustained progress)」の肯定 |
保守主義は「歴史の流れに順行した」政治、言い換えると慣例を活かし「現状(status quo)」を絶えず制度的ないし観念的に過去に連結していくような政治を理想とする。 政治における新奇な、あるいは革新的な企図は、保守主義の歴史意識にとっては歴史の継続性に対する撹乱要因に過ぎない。 | |
(4) | 「自然的」人間性に対する「歴史的」ないし「社会的」人間性の優位 |
(5) | 「自然的」理性に対する「歴史的」理性の優位 |
(6) | 「抽象的悟性(abstractive understanding)」に対する「歴史的悟性(historical understanding)」の優位 |
「旧い先入見prejudice」と「理由のない慣習」の尊重 |
リベラリズムの段階・種類・区分 | 時期 | 意味内容 | |
<1> | 古典的リベラリズム(classical liberalism) | 16世紀~19世紀 | ①個人の権利・自由の確保、②政府権力の制限、③自由市場を選好…消極国家(夜警国家) |
<2> | ニュー・リベラリズム(new liberalism) | 19世紀末~20世紀 | 経済的不平等・社会問題を緩和するため市場への政府介入を容認→次第に積極的介入へ(積極国家・福祉国家・管理された資本主義) 社会主義に接近しているので社会自由主義(social liberalism)と呼ばれ、自由社会主義(liberal socialism)とも呼ばれた。 |
<3> | 再興リベラリズム(neo-liberalism) | 1970年代~ | スタグフレーション解決のため自由市場を再度選好。 <2>を個人主義から集産主義への妥協と批判し、個人の自由を取り戻すことを重視 |
<4> | 現代リベラリズム(contemorary liberalism) | 現代 | ①不平等の緩和、②個人の権利の拡張、を含む社会改革を志向 1970年代以降にJ.ロールズ『正義論』を中心にアメリカで始まったリベラリズムの基礎的原理の定式化を目指す思想潮流で、①ロールズ的な平等主義的・契約論的正義論を「(狭義の)リベラリズム」と呼び、②それに対抗したR.ノージックなど個人の自由の至上性を説く流れを「リバタリアニズム(自由至上主義)」(但し契約論的な構成をとる所はロールズと共通)、③また個人ではなく共同体の価値の重要性を説くM.サンデルらの流れを「コミュニタリアニズム(共同体主義)」という。 |
補足説明 | <2>ニュー・リベラリズム(new liberalism)と<4>再興リベラリズム(neo-liberalism)は共に「新自由主義」と訳されるので注意。 もともと<1>古典的リベラリズムに対して修正を加えた新しいリベラリズム、という意味で、<2>ニュー・リベラリズム(訳すと「新自由主義」)が生まれたのだが、世界恐慌から第二次世界大戦の前後の時期に、経済政策においてケインズ主義が西側各国に大々的に採用された結果、<1>に代わって<2>がリベラリズムの代表的内容と見なされるようになり、<2>からnewの頭文字が落ちて、単に「リベラリズム」というと<2>ニュー・リベラリズムを指すようになった。 ところが、1970年代に入るとインフレが昂進してケインズ主義に基づく経済政策が不況脱出の方途として効かなくなってしまい、市場の自律調整機能を重視する<1>の理念の復興を唱える<3>ネオ(=再興)・リベラリズムに基づく政策が1980年前後からイギリス・アメリカで採用されるようになった。そのため今度は、<3>を「新自由主義」と訳すようになった。 |
① | 18世紀末のE.バークの時代においては、実質的に「保守すべき」内容として、<1>古典的自由主義を意味し、 | 対抗思想 | フランス啓蒙思想(特にルソーの思想)、デカルト的理性主義 |
② | 20世紀半ば以降のF.A.ハイエクやK.R.ポパーの時代においては、実質的に「保守すべき」内容として、<3>再興(=ネオ)自由主義を意味した。 | 対抗思想 | 社会主義・共産主義・ファシズム等の全体主義、<2>ニュー・リベラリズム(所謂リベラリズム…福祉国家など大きな政府による実質的な個人の自由の剥奪) |
(1) | D.ヒューム(スコットランド出身の英国外交官・道徳/政治哲学者、歴史家)『道徳・政治・文学に関する随想』(1742) | |||
「英国においては到底存在する見込みはないと思われる一政体について、これ以上論議を重ねる必要はありません。我々の間ではどの党派もそれを目的としてはいないように見えます。出来るだけ我が国の古来の政体を育て発展させるようにしましょう。大変危険な新型の諸政体に対する情熱を掻き立てないようにして。」 | ||||
(2) | E.バーク(アイルランド出身の英国下院議員・思想家)『フランス革命の省察』(1790) | |||
「思慮深い警戒心、綿密周到さ、気質的というよりはむしろ善悪判断から来る小心さ、これらが最も断固たる行為をする際に我々の父祖が拠り所とした指導原理の中にありました。彼らは、あの光-つまりフランス人の紳士諸君が自分たちはそれに大いに与っていると吹聴するあの光-に照らされてはいなかったために、人間とは無知で誤りやすいものである、ということを肝に銘じて行動したのでした。」 | ||||
「国家と法を聖別するにあたって、まず第一に則るべき最も重要な原理の一つは、それら国家や法を一時的に、あるいは終身で保有している人々が祖先から受け取ったものや本来子孫に属するものを忘れて、あたかも自分だけが完全な主人であるかのように行為する、といったことがあってはならない、ということです。 即ち、自らの社会の根源的な構造を勝手に破壊し、それによって限嗣相続の制限を解除したり相続財産を浪費したりしても、それは自分たちの権利のうちなのだ、などと思ってはならない、ということです。 もしもそうしたことが行われれば、彼らは後から来る者に対して、住むべき家の代わりに廃墟を残すことになるでしょうし、彼らが自らの祖先の諸制度を殆ど尊重しなかったのだから、彼らが考え出したものもやはりそんなに尊重するには及ばないのだ、と教えるようなものでしょう。」 |
(1) | ブリタニカ・コンサイス百科事典(libertarianismの項)より全文翻訳 | ||||
個人の自由を強調する政治思想。自由至上主義者は、各個人は、自己の行動が他人の自由を侵害しない限り、完全な行動の自由を保持すべきだと信じている。 | |||||
自由至上主義者の政府に対する不信は、19世紀の無政府主義(anarchism)に起源を持つ。典型的な自由至上主義者は、所得税やその他の政府の課税ばかりでなく、社会保障(social security)や郵便サービスのような他の多くの人々が有益だと思っているプログラムにも反対する。 | |||||
アメリカでは彼らの見解はしばしば伝統的な政党間の境界を横断する(例えば、自由至上主義者はほとんどの共和党支持者と同じ様に銃規制に反対するが、ほとんどの民主党支持者と同じ様に禁止薬物の合法化を支持する)。 | |||||
自由至上主義者の間で愛好されている人物はヘンリー・デビット・ソローとアイン・ランドである。 | |||||
(2) | オックスフォード英語事典(libertarianismの項)より抜粋翻訳 | ||||
市民生活に対する政府の介入を最小限のもののみとすることを唱導する極端な自由放任の政治思想。 | |||||
その支持者は個人の道徳は政府の扱う事柄ではなく、それゆえ麻薬使用や売春のような異論もあるところではあるが参加者以外の誰も害さない活動は不法とされるべきではないと信じている。 | |||||
自由至上主義者は無政府主義者と主張内容を共有しているが、但し自由至上主義者は一般には、より一層政治的権利と関連付けられる(主としてアメリカ)。自由至上主義は伝統的な自由を社会的正義に結びつける配慮が欠落している。 | |||||
(3) | コウビルド英語事典(libertarianの項)より全文翻訳 | ||||
<1> | リバタリアンであったり、またリバタリアン的な態度の人とは、人々は自分が望むままのやり方で考えたり振る舞う自由を持つべきだという理念を信じ、また支持している人である。(= リベラル) | ||||
<2> | 自由至上主義者とは自由至上主義の見識を持つ人である。(= リベラル) |
(1) | ブリタニカ・コンサイス百科事典(communitarianismの項)より全文翻訳 | ||||
①政治生活の実行、②政治制度の分析・評価、③人間のアイディンティティと安寧幸福の理解、に関する共同体(community)の重要性を強調する政治・社会思想。 | |||||
共同体主義は1980-90年代に、ジョン・ロールズ等の思想家による理論的リベラリズムに対する明白な反対思想として興起した。 | |||||
共同体主義者によれば、リベラリズムは非現実的なほどに原子化した抽象的個人という概念に寄りかかっており、また自由と自律といった個人的価値に余りにも重要性を置き過ぎている。 | |||||
共同体主義の主要な代表者には、アミタイ・エツィオーニ、マイケル・サンデル、チャールズ・ティーラーが含まれる。 | |||||
なお、集産主義を参照のこと。 | |||||
(2) | オックスフォード英語事典(communitarianismの項)より抜粋翻訳 | ||||
<1> | 小規模な自治的共同体に基礎を置く、社会組織に関する理論または制度。 | ||||
<2> | 共同体に対する個人の責任と、家族という単位の社会的な重要性を強調するイデオロギー・ |
(1) | ブリタニカ・コンサイス百科事典(nationalismの項)より全文翻訳 | ||||
自己のnation(アイデンティティを共有する人々の集合)またはcountry(地理的な意味での国家)に対する忠誠(loyalty)と献身(devotion)であり、特に他の人々の集合や個人的な利害への忠実さを上回るもの。 | |||||
国民国家(nation-state)の時代以前は、ほとんど全ての人々の忠誠先は彼らの直近の地域や宗教的集団だった。 | |||||
巨大な中央集権国家の登場は地方的権威を弱体化させ、日々進行する社会の世俗化は宗教的集団に対する忠誠を弱体化させた。しかしながら人々に共有される宗教は-共通の民族性・政治的遺産・歴史と共に-人々を国民主義運動(nationalist movement)へと誘い入れる要因の一つとなった。 | |||||
18世紀から19世紀初めにかけての欧州の初期の国民主義運動は自由主義的(liberal)で国際的(internationalist)なものだった。しかしそれは次第に頑迷(conservative:「保守的」の意味もあるがここでは「頑迷」の意味ととる)で偏狭(parochial)なものとなっていった。 | |||||
ナショナリズムは第一次世界大戦・第二次世界大戦そして近代におけるその他の多数の戦争を引き起こした主要因と考えられている。 | |||||
20世紀のアフリカとアジアでは民族主義運動(nationalist movements)はしばしば植民地主義(colonialism 植民地支配)に対する反対(抵抗)を引き起こした。 | |||||
ソ連邦の崩壊後、東欧と旧ソ連邦の各共和国の強烈な民族主義的感情(nationalist sentiments)は、旧ユーゴスラビア地域におけるような民族的紛争(ethnic conflict)の要因となった。 | |||||
(2) | オックスフォード英語事典(nationalismの項)より抜粋翻訳 | ||||
<1> | 愛国的な感情・原理・尽力(patriotic feeling, principle, or efforts) | ||||
<2> | 他の国々(country)に対する優越性(superiority)という感情によって特徴づけられた極端な形の愛国心(an extreme form of patriotism) | ||||
<3> | 特定の国家(country)の政治的独立の主張(advocacy) | ||||
(3) | コウビルド英語事典(nationalismの項)より全文翻訳 | ||||
<1> | ナショナリズムとは自分達は歴史的にまたは文化的に、ある国家(country)の中で特定の分離された集団であると感じる人々の、政治的独立への渇望(desire for political independence)である。 | ||||
<2> | ある個人の自己のnationに対する巨大な愛情をナショナリズムと呼ぶことが可能である。 ある特定のnationは他の全てのnationより優秀であるという信条と、このナショナリズムはしばしば関連付けられるが、こうしたケースは、しばしば(話者の)不承認(不快感 disapproval)を表現するために用いられる(=jingoism 偏狭的優越主義) |
内容 | 関連ページ | |
保守 | 国内外の全体主義(共産主義・社会主義・リベラリズムなどの集産主義)の脅威から自由を守る(=自由主義) | 保守主義とは何か リベラリズムと自由主義 |
右翼 | 他国・他国民の侵略的ナショナリズムの脅威から自国・自国民を守る(=解放的ナショナリズム) | 右翼・左翼の歴史 |
極右 | 他国・他国民に対して侵略的ナショナリズムを発動している段階。 なお極右と極左は紙一重の双生児であり、極左も当然侵略的ナショナリズムを発動している段階である。 |
にほんしゅぎ【日本主義】 | 明治から第二次世界大戦敗戦までにおける欧化主義・民主主義・社会主義などに反対し、日本古来の伝統や国粋を擁護しようとした思想や運動をいう。 一定の思想体系をなしていたとはいえず、論者により内容が相違する。 明治の支配層が推し進めた欧化主義への反発として三宅雪嶺や高山樗牛らによって唱えられ、政治的には欧米協調主義への反対、国権や対外的強硬策の強調となって現れた。 大正や昭和になって日本の資本主義の高度化が階級対立を激化させ、社会主義やマルクス主義が流入すると、これら諸思想の対抗イデオロギーとして機能し、天皇を中心とする皇道や国体思想を強調した。(cf.神国思想) |
① | 明治期の日本主義 | 政府の欧化主義に反発し、国粋主義/国権主義(特に政府の欧米協調路線に反対する攘夷主義)を主張した言論活動(政論的ジャーナリズム) | 他国の侵略から自国・自民族を守る(解放的ナショナリズム)⇒即ち「右翼」思想 |
② | 昭和期の日本主義 | 皇道・国体思想を強調して、社会主義やマルクス主義の思想侵略の脅威への対抗イデオロギーとして機能した思想活動 | 全体主義の脅威から自国の歴史・伝統に根差した自由を守る(日本型保守主義)⇒即ち「保守」思想 |
『保守主義の哲学―知の巨星たちは何を語ったか (単行本)』(中川八洋:著)
ハイエクの思想を機軸に西欧哲学の正統保守主義(真正自由主義)の系譜と、それに対立する邪悪な全体主義思想の系譜を峻別して分かり易く解説。 エドマンド・バークを初めとする西欧の正統保守思想の概略をこの一冊でマスター可能。 後は本書で紹介されている興味の湧く各思想家の書に挑戦しましょう。 | |
アメリカ保守革命
中岡 望 (著) 出版社/著者からの内容紹介 今、世界を席巻しつつある「保守主義革命」は、アメリカで始まった。それは“アメリカ化”という形で、世界の政治、経済、文化を巻き込み、留まることのない勢いで世界の隅々まで行き渡りつつあるようにみえる。日本もその世界的な潮流の埒外に存在しているわけではない。主流だったリベラリズムと対峙しながら、最初は思想運動として始まり、やがて現実の政策へと影響力を拡大していったアメリカ保守主義の発展過程とその内実を縦横に描いた名作。 | |
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日本主義的教養の時代―大学批判の古層
竹内 洋 (編集), 佐藤 卓己 (編集) 2006.2刊 内容(「BOOK」データベースより) 戦前「護憲」の降魔剣“日本主義”を解明。「右翼」「反動」のレッテル貼りで忌避されてきた一九三〇年代“日本主義”の大学批判。マルクス主義的教養の機能的代替となった日本主義的教養の担い手たち。来るべき時代を読み解く画期的論集。 目次 第1章 帝大粛正運動の誕生・猛攻・蹉跌 第2章 天皇機関説批判の「論理」―「官僚」批判者蓑田胸喜 第3章 写生・随順・拝誦―三井甲之の思想圏 第4章 英語学の日本主義―松田福松の戦前と戦後 第5章 戦時期の右翼学生運動―東大小田村事件と日本学生協会 第6章 日本主義的社会学の提唱―赤神良譲の学術論 第7章 日本主義ジャーナリズムの曳光弾―『新聞と社会』の軌跡 ★未だに自虐史観どっぷりの東大・岩波系とは距離を置く京大系の学者達による昭和10年代日本の思想状況の共同研究プロジェクト全体のガイドライン的な位置づけの本。 |
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日本主義と東京大学―昭和期学生思想運動の系譜
井上 義和 (著) 2008.6刊 内容(「BOOK」データベースより) 国家的危機の時代における大学の使命とは何か。欧化一辺倒の東京帝国大学に学風改革を迫り、高度国防国家を標傍する政府とも命がけの思想戦を繰り広げた東大生たち。戦時体制下で宿命的に挫折した“日本主義的教養”の逆説を読み解き、日本型保守主義の可能性を探る。 目次 第1章 「右翼」は頭が悪かったのか―文部省データの統計的分析 第2章 政治学講義と国体論の出会い―『矢部貞治日記』を中心に 第3章 学風改革か自治破壊か―東大小田村事件の衝撃 第4章 若き日本主義者たちの登場―一高昭信会の系譜 第5章 学生思想運動の全国展開―日本学生協会の設立 第6章 逆風下の思想戦―精神科学研究所の設立 第7章 「観念右翼」の逆説―戦時体制下の護憲運動 第8章 昭和十六年の短期戦論―違勅論と軍政批判 第9章 「観念右翼」は狂信的だったのか―日本型保守主義の可能性 ★現代の日本会議に繋がる国民文化研究会の母体となった昭和10年代の右翼学生運動の系譜を追い、左翼が壊滅した後、国家改造を進める革新右翼(国家社会主義者・アジア主義者)と激しく対立した観念右翼(伝統保守・日本主義者)の論理と実情を具体的に論証する好著 |