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■まとめ■ (1)ルソー的(フランス的)なロマン主義 と (2)J.オースティン的(イギリス的)な反ロマン主義 の対比に注目しよう。
作家 | 作品名 | 解説 |
森鴎外 | 『舞姫』 | 『うたかたの記』『文つかひ』と共にドイツ三部作と呼ばれる代表作。樋口一葉の『たけくらべ』『にごりえ』と並んで、雅文で書かれた日本文学の傑作である。ストーリー自体よりもその文体の流麗さで名高い。なおベルリン(旧東ベルリン)には森鴎外の下宿先の一つが「森鴎外記念館」として保存されており、フンボルト大学日本語学科の学生が受付アルバイトを務めている。 |
島崎藤村 | 『夜明け前』 | 文庫本4冊と長く、かつ最後の巻の最後の数章まで読まないと面白さが分からない、という厄介な作品だが、まさしく近代日本文学の最高峰である。 |
尾崎紅葉 | 『金色夜叉』 | 近代文学を代表する小説。作者が創作中に逝去したため、作品の全体像が掴めないという難点があるが、文語体と口語体を混合した文体は当時の華麗さを失っていない。 |
作家 | 作品名 | 解説 |
ジェイン・オースティン | 『プライドと偏見』 | 『自負と偏見』『高慢と偏見』と出版社により邦訳名が微妙に違っているので注意。原題は『Pride and Prejudice』 サマセット・モーム(英)『世界の十大小説』、This Magazine's Week(米)編『一生の読書計画』その他の英米系の読書案内で、必ず最高級の文学作品として激賞される傑作中の傑作。映画『ユー・ガット・メール』でもヒロイン(メグ・ライアン)が「オースティンの『自負と偏見』はもう200回は読んだ」と発言している。 同じオースティンの『分別と多感(Sense and Sensibility)』も人間観察が冴え渡っており、人気が高い。 |
サマセット・モーム | 『人間の絆』 | この作品はモームの人生経験を凝縮したものだがモームの作家としての限界が見え隠れしており、敢えて読む(精読する)ほどの価値は余りないと思う(飛ばし読みで十分)。モームの著書では世界の名作を評価した読書案内『世界の十大小説』の方が重要である。 |
D.H.ロレンス | 『息子と恋人』 | ロレンスは、ルソーと並んでかって日本の左翼に非常に好まれた作家であり、J.オースティン嫌いを公言していたことでも有名である。従って、その作品を読むことは左翼心理を分析することに繋がるのかも知れない。『息子と恋人』は、ロレンスの自伝的な作品であり、モームの『人間の絆』に相当するが、どちらも敢えて読む(精読する)ほどの価値はないように思う。他に代表作『チャタレイ夫人の恋人』『恋する女たち』がある。 |
ジョージ・オーウェル | 『1984年』 | 全体主義の様相を描いた問題作。 |
作家 | 作品名 | 解説 |
ジャン・ジャック・ルソー | 『告白』 | 『社会契約論』で有名なルソーの自伝だが、脚色が多く指摘され「創作」と見なしたほうがよい。スタンダール『赤と黒』の主人公ジュリアン・ソレルの少年時代の愛読書は、この『告白』だったとされる。 |
ラクロ | 『危険な関係』 | 革命前夜のフランス貴族の恋愛の実相を描いたこの作品は、少し前に出版され18世紀最大のベスト・セラーとなったジャン・ジャック・ルソーの恋愛小説『新エロイーズ』の過度のロマンティシズムへのアンチ・テーゼとして生まれ、現在では、本家よりはるかに多く読まれている傑作となった。 |
スタンダール | 『赤と黒』 | ナポレオン失脚後に復活したブルボン王制下のフランス社会の実相を描く。 『赤と黒』はジャン・ジャック・ルソーの自伝『告白』を一つのモチーフとして構成されており、フランス革命~ナポレオン時代を生きたスタンダール(本名:アンリ・ベール)という一つの強烈な個性の人生経験と時代精神が凝縮された名作と評されている。サマセット・モーム(英)『世界の十大小説』の一つ。スタンダールは、17才でナポレオンのイタリア遠征軍に従軍し、のちにロシア遠征にも参加した稀有の経験を持つ人物で、イタリアを舞台にしたもう一つの傑作『パルムの僧院』も名高い。 |
バルザック | 『ゴリオ爺さん』 | 赤と黒と同じくブルボン復古王制下のパリで繰り広げられる人間模様を描いた傑作。サマセット・モーム『世界の十大小説』の一つ。バルザックは他に『谷間の百合』『従姉ベット』など王制復古期のフランス全土を舞台とし、「人物再登場」の手法を駆使した膨大な連結小説群「人間喜劇」を残している。 |
フローベール | 『感情教育』 | こちらは、7月王制(ルイ・フィリップ王)期から2月革命を経て第二共和制に至る時期のフランス社会の実相を捉えた名作。スタンダールやバルザックとは違った革命や恋愛に対するある種の醒めた視線が新鮮。フローベールは『ボヴァリー夫人』がサマセット・モーム『世界の十大小説』に取り上げられている大作家である。 |
アンドレ・ジッド | 『狭き門』 | ジッドは第三共和制期を生きたノーベル賞作家。1920年代に共産党に入党し誕生したばかりのソ連に赴いたが、その実情に幻滅して共産党を脱退したことで知られる。スタンダールの影響が強く、精緻な心理描写を特色とする作品群を著している。『狭き門』はジッドの自伝的な作品であり、ラスト・シーンでジュリエットが主人公ジェローム(=ジッド)にかける言葉「さあ、もう目を覚まさなければ」の解釈を巡って論争のある佳作である。 |
作家 | 作品名 | 解説 |
プーシキン | 『オネーギン』 | 韻文で書かれ「ロシア人の魂」とまで称えられるプーシキンの1830年代の名作。なお映画では、タチアーナがオネーギンの邸宅の図書館でジャン・ジャック・ルソー『新エロイーズ』を借りて池辺で読みふけり、思い余ってオネーギンに恋文を書き寄せてしまう、という設定になっている。 |
チェホフ | 『犬を連れた奥さん』 | 没落してゆくロシア貴族の哀感を描いた作家。『桜の園』も有名。 |
ドストエフスキー | 『罪と罰』 | 表の主人公ラスコリニコフが有名だが、作品後半部にスビドロガイロフが裏の主人公として存在感を増してくる不思議な構成を持つ傑作。対照的な2タイプの主人公を配する構成は『カラマーゾフの兄弟』『悪霊』など後に続く大作でも踏襲されている。『カラマーゾフの兄弟』はサマセット・モーム『世界の十大小説』の一つ。しかしドフトエフスキーの作品は冗長性が著しく精読する必要はない。(飛ばし読みで) |
トルストイ | 『戦争と平和』 | サマセット・モーム『世界の十大小説』の一つ。『アンナ・カレーニナ』も名高い。ドフトエフスキーと同じく飛ばし読みで。 |
作家 | 作品名 | 解説 |
フィッツジェラルド | 『グレート・ギャツビー』 | 経済的繁栄に沸く1920年代のアメリカ社会の一断面を描いた名作。「失われた世代」の作家ではヘミングウェイが有名だが、フィッツジェラルドはより典型的にアメリカン・ドリームを象徴する作家と見なされている。一昨年、村上春樹が翻訳版を出して話題となった。 |
ヘミングウェイ | 『日はまた昇る』 | ヘミングウェイはこの一冊のみ読めば十分。 |
メルヴィル | 『白鯨(モビー・ディック)』 | サマセット・モーム『世界の十大小説』の一つ。確かに希に見る名作だが、その面白さは文庫本2冊を確り最後の3章まで読み進めないと分からない、という厄介な作品でもある。 |
フォークナー | 『響きと怒り』 | 上2つほどの価値はない。 |
作家 | 作品名 | 解説 |
トーマス・マン | 『魔の山』 | ドイツ文学の伝統であるビルドゥングスロマン(教養小説、青年が様々な経験を通して人生の実相を学んでいく固定化された筋書きの小説分野)の代表作。ドイツ文学ははっきり言ってこれ一つ読めば十分である。しかし『魔の山』が長編過ぎてとっつきにくい場合は、まず『トニオ・クレーゲル』『ヴェニスに死す』両編を収めた岩波文庫本を試し読みするとよい。『トニオ~』は自意識過剰気味の文学青年の心境を吐露した短編、同じく『ヴェニス~』旅先で見掛けた美青年に魅せられた初老紳士を描いた短編である(つまりBL?)。 |
ヘルマン・ヘッセ | 『ナルチスとゴルトムンド』 | ヘッセは何故か日本の左翼教師に非常に好まれる作家であり、有名な『車輪の下』は「青年よ社会の車輪となるな」というメッセージを打ち出した小説とされるが、実際に読むとこの小説はトーマス・マンの欄で述べたドイツ伝統の教養小説の一つでしかない。ヘッセはその生涯に幾つもの教養小説を書いているが、『車輪の下』はそうした作品の中では内容の薄い部類であり、ヘッセの最高傑作は長編『ナルチスとゴルトムンド』である。しかも、その作品も上に述べたトーマス・マン『魔の山』に比較すれば随分と浅薄な内容にとどまっているため、もしヘッセをなるべく簡潔に把握したい場合は、『ラテン語学校生』をとりあえず試し読みすれば十分と思われる(ヘッセの作品には、結局この小品以上のメッセージはない)。 |