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リサイクルページ3 - (2010/05/08 (土) 02:47:04) の編集履歴(バックアップ)


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(仮題)世界政府・地球市民の正体

<目次>

■1.国家解体思想?

先日、人気ブログ「中韓を知りすぎた男」様に、国家解体思想の正体 という記事が上がりました。
日本やアメリカといった既存の国家を解体して、世界統一政府を作り、みんなで地球市民になるんだ・・・という思想ですね。
本ページでは、この問題について少し突っ込んだ検討を行います。

■2.「世界政府・地球市民」理念の思想的背景、歴史的経緯

◆大陸合理論とイギリス経験論

中学や高校で、「啓蒙思想」が17世紀のイギリスや18世紀のフランスで起こり、それが1789年のフランス革命に繋がっていった、という事を学ぶと思います。
ホッブズ・ロック・ルソーらの唱えた「社会契約説」がその代表とされ、ほかにデカルトやモンテスキューなどの思想も少し習いますね。

大学の教養課程レベルだと、この啓蒙思想には実は

大陸合理論 「コギト・エルゴ・スム(我思うゆえに我あり)」というデカルトの『方法論序説』以来ドイツ・フランスなど欧州大陸で発展した理性を唯一の拠り所として世界を合理的に理解しようとする思想潮流で、理性からの演繹による思弁を絶対視するもの。
イギリス経験論 人間の理性は不完全であり、所詮は人間は失敗と成功という試行錯誤を繰り返しながら経験に学ぶしかない、という理性に対する懐疑を唱え、演繹ではなく帰納の大切さを強調するもので、主に18世紀のスコットランド出身者(ヒューム、アダム・スミスら)およびアイルランド出身者(エドマンド・バーク)らが①大陸合理論に対抗して唱えた。

の二つがある、ということを学ぶと思います。
もちろん西洋思想の主流は、デカルト以来の、①大陸合理論のほうで、この思想が結局フランス革命を引き起こし、さらにやがてカント・ヘーゲルらのドイツ観念論を生み、ヘーゲル左派からはマルクス主義が生まれ、ロシア革命へと繋がり、またヘーゲル右派からはナチズムが生まれたのです。(なおフランスではフーリエらの(空想的)社会主義が生まれています)

◆設計主義的合理主義と批判的合理主義

日本の学者は明治以来、①ドイツ・フランス系の大陸合理論ばかりを輸入しましたし、今の社会科教育で教えられる思想家も、やはり①大陸合理論の思想家ばかりです。
しかし、実はイギリス・アメリカでは、②イギリス経験論の伝統が強くて、フランス革命の時にはエドマンド・バークが出、また第二次世界大戦の最中にはオーストリア出身で故国がドイツに併合された際にイギリスに帰化していたF.A.ハイエクと、K.R.ポパー、さらにはラトビア出身で、やはり故国がソ連に併合された際にイギリスに帰化していたI.バーリンらが出て、フランスの革命思想や、ヘーゲルやマルクスの思想、ナチズム(国家社会主義)を含む社会主義を全体主義思想として排撃し、そうした思想が発生した根源としてデカルト以来の①大陸合理論の持つ重大な誤謬を強く批判しました。

簡単に言うと、①大陸合理論、②イギリス経験論というネーミング自体が実は、①は合理的で②は非合理的だ、という①大陸合理論の論者の側のプロパガンダであり、実際には以下の分類が相応しい、という批判です。

設計主義的合理主義 (F.A.ハイエクの造語で、いわゆる大陸合理論) デカルト以来の「自らの理性のみの力で世界を解明し、人類にとって理想的な世界を再設計できる」とするリセット主義。社会主義の暴力革命論も修正社会主義といわれる議会制内での社会改革も含めて、国家や社会を改造しようとする思想で、世界統一政府や地球市民という理念もここからの帰結である。
批判的合理主義 (K.R.ポパーの造語で、いわゆるイギリス経験論) 人間が自らの理性を有効に活用できるのは自由な批判を通じて間違いを検出し改善して、より真実と思われるものに一歩でも近づく限りにおいて、である。社会を根底からリセットできる、とする①は致命的な思い上がりである。

もちろん、ハイエクやポパーが正しいとしたのは
②批判的合理主義であり、これこそが真の意味での「合理主義」であって、
①設計主義的合理主義は結局は人間を『隷従への道』(上の凛氏の日記にあるハイエクの著作名)へと導く誤った思想である、というのが彼らの結論です。

実際にも1980年代のイギリス・サッチャー政権は、ハイエクの思想を政策理念の主軸に据えてサッチャー改革を断行しましたし、米レーガン政権もハイエクの所属したシカゴ学派の経済政策を大々的に取り入れ、また政治面でもソ連との対立政策を断行し、1989-91年にかけてソ連・東欧の社会主義体制を崩壊に導いたことは周知のとおりです。

◆「世界政府・地球市民」は、設計主義的合理主義(大陸合理論)からの帰結

上に書いたように、現実の世界政治の舞台では、サッチャー・レーガン政権以来、ハイエクやポパーの思想が一応の勝利を収め、社会主義は大きく後退したのですが、学者達の思想の世界では、いまだに①設計主義的合理主義が大きく蔓延っていて、とくに日本においてはその傾向が強いのです。私達は、学校教育で、ホッブズ・ロック・ルソーの社会契約説やデカルトの思想は習いますが、ハイエクやポパーの思想は、ほとんど全く習いません。

従って高度な教育を受け、官僚や政治家や司法界に入るような、あるいはマスコミ界に入るような人材は、教育で植えつけられる思想のオカシサに自分で気づかない限り、デカルト以来のリセット主義(世界を理性の力で再設計できるとする思想)になってしまいます。

要するに問題なのは、西洋思想の主流そのものです。
鳩山由紀夫首相のおかしな「日本列島は日本人だけのものじゃない」発言も、その淵源を辿ればここからきているわけです。

■3.いわゆる「イルミナティ陰謀論」について

ところが、このような「世界政府・地球市民」理念(国家解体思想)が発生した思想的背景・歴史的経緯を知らない人達の中には、陰謀組織イルミナティなるものが存在し、あらゆる謀略活動の糸を引いている・・・というようなデマ情報を本気で信じ込んでしまう方々がいらっしゃるようです(特に一神教国のアメリカで多いらしい)。中には2001年9月に起きた911連続テロ事件までイルミナティに乗っ取られたアメリカ政府の自作自演だ・・・などと言う人までいらっしゃいます。

しかし、そのような安直な陰謀論に飛びつくのは、

(1)国家解体思想が発生した思想的背景・歴史的経緯を知っている人からは、思いっきり馬鹿にされる一方で、
(2)そうでない人は全部を信じ込まないまでも、そうした陰謀論にそそのかされて、あらぬ方向に走ってしまう

という結果を呼んでしまいます。

なぜ「イルミナティ陰謀論」などが発生したのだろう?


デカルト以来の①大陸合理論は「理性によって世界を唯一の正しい姿にリセットできる」という一元論・決定論でした。
当然その直系である社会主義思想も「歴史の方向性は決まっており、世界は共産主義社会に向かって進歩する」という決定論です。

これをそっくりそのまま裏返すと、「イルミナティ」という陰謀組織が存在し、彼らが世界の統一を目指してあらゆる陰謀の糸をj引いている、という、話になります。

ようするに一元論・決定論はそのままなのです。

このような安直な考え方が、しかし一神教の精神文化を持つ欧米諸国で発生し広まってしまったのは、仕方がない側面があるようにも思いますが、そもそも寛容な多神教的精神文化を持つ我が国の普通の人には、ハイエクやポパーの批判を知らなくとも直感的にこのような話はおかしいと気づいてもよさそうですが、どうなんでしょうか?

■4.まとめ

「世界政府・地球市民」という理念は、ひとつの思想ですから、それだけで一概に悪いとは言いませんが、このような思想が発生した背景、またこの手の思想を信奉する人達が自分たちの理想的な信条とは裏腹に、これまで世界にどのような惨禍をもたらしてきたのか、といった歴史的経緯を確り知っておくことは非常に大切です。
そして、そのような思想的背景・歴史的経緯を知ることで、いわゆる「イルミナティ陰謀論」「911自作自演説」といった集団ヒステリーのようなトンデモ話に引っかからないで済むようになるはずです。


【関連】 ハイエクと自由主義