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OR(作戦研究)入門 - (2019/12/28 (土) 09:45:57) の編集履歴(バックアップ)
OR(Operations Research:作戦研究) ~ 戦争を勝ち抜くために生み出された作戦立案・活用の技術
- このページは閲覧者の皆さんに、自衛隊を始めとする各国の軍隊や有力企業・組織などで研究され活用されているOR(オー・アール、「作戦研究」と訳す)を紹介するページです。
- 安倍元総理が敗北した2007年の参院選から麻生総理が敗北した今回の衆院選まで、ネット世論をつぶさに観察していた人は、「保守」を自称しながらも「木を見て森を見ず」さながらに、守るべき味方の揚げ足取りに終始してしまっている迷惑な(あるいは判断力に問題のある)人が非常に多いことに気づかれたことでしょう。
- そのような方々を含めて私達が、①目的と、②効果を見据えた、合理的な判断を確り(しっかり)行うための基礎知識として、ORという方法がある、という事を知っていただければ幸いです。
<目次>
■1.ORとは何か
「ORとは、①執行部に、②その管轄下にあるオペレーション(作戦)関する決定に対して、③定量的(計量的)な判断の基礎を与える、④一つの科学的な方法をいう」 ~ P.M.キンボール(MIT教授)とG.E.モース(コロンビア大教授)による定義 |
ORの定義、4つの特徴 |
ORとは |
① |
執行部に |
⇒ |
スタッフ機能である |
|
② |
その管轄下にあるオペレーション(作戦)関する決定に対して |
⇒ |
ソフトであるオペレーション(作戦)を検討の対象とする |
|
③ |
定量的(計量的)な判断の基礎を与える |
⇒ |
定量的な評価をしている |
|
④ |
一つの科学的な方法をいう |
⇒ |
科学的な方法である |
- ORとは第二次世界大戦の頃に大きく芽吹いた作戦立案・活用(あるいは問題解決・運用)のための「方法」である。
- その「方法」には、①考える対象、②検討の仕方、③検討結果の位置づけ、について、他の方法とは異なる大きな特徴があり、その効果が大きいので、今では多くの国々の組織で研究され活用されている。
(2).OR誕生の経緯
- 第二次世界大戦期の英国では、当時最先端の防衛設備となるレーダーが既に完成していたが、ドイツ空軍の来襲に対していざ運用してみると、当初思い描いたような成果を得られなかった。
- その原因を探る際に、<1>レーダーなどのハード資源に求めず、<2>レーダーや周辺設備を含む資源「全体」の用い方、即ち「オペーレーション(作戦、運用)」に求めて研究を進めた。
- この研究を、<1>テクニカルな研究(技術研究)、と区別するために、<2>オペレーショナルな研究(運用研究、作戦研究) と呼ぶようになった。
- つまり、研究の眼目を、<1>個々のハード資源、に置かず、<2>それらのハード資源全体を一つのシステムとして捉え、その組み合わせ方(ソフト)に置いたのである。
- OR適用の効果は直ちに現れて、レーダーだけでなく他の多くの戦闘部署にも適用され、数々の成果がもたらされた。
(3).ORの具体的内容
- 現在までに様々なORの技法が開発されています。⇒ OR - Wikipedia
の 関連項目にある「日本オペレーションズ・リサーチ学会」の基礎編を参照下さい。
■2.ORと通常の意思決定の違い
(1).一般的な意思決定の仕方
① |
解決すべき問題を認識する |
↓ |
② |
解決案を考え出す |
|
(1)ハード面 |
(2)ソフト面 |
↓ |
③ |
各案を評価する |
|
(1)定性的評価 |
(2)定量的評価 |
↓ |
④ |
意思決定する |
(2).一般的な意思決定の問題点
1.検討の対象について
⇒ ハード面(資源)ばかりに目が向き、ソフト面(運用方法)にまで考えが及んでいない。
- 例えば、ある兵器の使用効率がなかなか現れないと、すぐに製造台数が足りない、とか性能が低い、という風にハード面に原因を求めてしまう。
- その兵器の操作手順や、操作要領を見直す、といったソフト面への視点が欠落しがち。
2.評価方法について
⇒ 主観的な定性的評価になりがちで、客観的な定量的評価に乏しい。
|
設備案 |
評価要素 |
パンテル戦車100台製造 |
ティーゲル戦車50台製造 |
①.信頼性 |
◎ |
△ |
②.整備の容易さ |
△ |
○ |
③.稼動性 |
○ |
△△ |
総合評価 |
採用 |
不採用 |
- 上記のような定性評価表を作成して意思決定することが多い。
- 個々の評価要素を独立的に捉え、各要素が最終結果に及ぼす影響を確たる根拠もなく感覚的に捉える「定性的評価」のみで終わっている。
- そのために、評価が主観的になり、意思決定を誤らせる恐れが(定量評価を行った場合よりも)大きくなってしまう。
- 特に、個々の比較要素について、いわゆる「権威者」や「先達(ベテラン)」と呼ばれる人々が幅を利かせ、結局は主観的な判定を下し易くなっている。
- このような定性評価では、「やや」「少し」「若干」といった微妙な差異を正しく評価できず、その僅かな差異が積もれば、結局は大きな違いが生じてしまう。
(3).定量的評価の利点
- 定量評価の場合は、例えば、次のような数式を使った評価となる。
稼働率=f(故障頻度 , 故障修復時間 , 定数)
①各々の設備の故障頻度(=信頼性)と、
②故障修復時間(=整備の容易さ)
の数値を用いて、最適な③稼動率を算定し、客観的に比較することが出来る。
- 数値に基づく評価なので、個々人による評価のブレがなく、かつ設備毎の微妙な差異も把握でき、その上、実行結果まで予想可能である。
(4).まとめ
- 定性的な表現は、一般的に、①曖昧で、②抽象的であり、③説得力に乏しい
- 定量的な表現は、数値を用いているために、①差異が明確で、②具体的であり、③説得力がある。
- ORは、ソフトであるオペレーション(作戦、運用)を対象とし、定量的評価を行う。
以上は、ORの教科書に記述されている、(1)一般的な意思決定と、(2)ORを活用した意思決定、の違いの例です。
実際に観察される行動例では、定性的評価すら、果たして行っているのか怪しい人が多々見受けられます。
(例:児童ポルノ法は評価要素の一つに過ぎないのに、その一点で麻生総理への支持を止め、叩く方に廻ってしまう)
⇒ 意思決定をする場合には、少なくとも選択肢の比較までは行いましょう(その決定がもたらす効果まで考える)。
■3.ORは科学的方法である。
(1).ゲーム理論と「しっぺ返し戦略」
「しっぺ返し戦略」は、有名な「繰り返し囚人のジレンマ」ゲームで実証された、協調と裏切りの組み合わせに関する理論です。 この戦略のもとでは、交渉は以下のようになされるべきだとされます。 |
(a) |
交渉において協調的に誠実に振舞うことが、まず出発点において重要です。 |
(b) |
もし先方が交渉過程で不誠実な対応をした場合には、すかさず「しっぺ返し」をし、当方は単にお人好しではなく不誠実な対応を許しはしないこと、及び、そのような姿勢を相手に分るように伝えることが重要です。 |
(c) |
しかし先方が「しっぺ返し」を受けて速やかに誠実な対応に復帰するならば、当方も先方の不誠実をいつまでも根に持たず水に流して、再び協調的に誠実に対応すること、及び、そのような姿勢を先方に分るように伝えることが重要です。 |
(d) |
これらのプロセスを通じて、当方も誠実に対応し、また、相手方も不誠実になる誘惑を克服して誠実に対応することが確保され、長期的な協調関係の形成ができるというものです。 |
- ここで日中関係や日韓・日朝関係を考えて見ましょう。結論は明らかで「しっぺ返し(Tit-for-tat)」戦略を取る事が日本にとって正解です。
- 従って我々も、政府の外交交渉や、各党の外交政策を比較し評価する時は、この「しっぺ返し(Tit-for-tat)」戦略に則っているか否かを基準として考えるのが正解となります。
- アメリカは確実に、このような科学的知見を活用して外交戦術を決定していることでしょう。
- 翻って、我が日本政府(ことに安倍元総理の登場以前の歴代政権、そしてこれから発足する鳩山政権)はどうだろうかと暗澹たる気持ちになります。
(2).モデルの活用
- ORによって我々が解こうとするのは現実の問題です。
- しかし現実の世界は非常に複雑ですから、分析に必要な範囲でこれを抽象化して、本質的要素を抜き出す必要があります。
- このようにして抜き出されたものをモデルといいます。モデルを作成することにより、我々は現実を整理し、問題点や因果関係を検出することが可能となります。
- 例えば、車を開発する場合は、デザインが固まったのちに、クレイ(粘土)・モデルを作ります。エンジンなどは積んでいない動かない物体ですが、デザインを確認するにはそれで十分ですし、ミニチュア・モデルでは今一つはっきりしない量感の良し悪しまで確認することも可能になります。
- OR(作戦研究)では、①図モデル、②表モデル、③関数モデル(数式モデル)などを作成し活用します。
- 例えば、以下は②表モデルです。
|
環境要因1 |
環境要因2 |
評価基準 |
|
作戦案 |
ドイツ軍抵抗後転進 (損耗率3割:全滅) |
ドイツ軍徹底抗戦 (損耗率5割:壊滅) |
米英軍損耗予想 /両軍損耗予想 |
|
ノルマンディー上陸 |
(15 , 6) |
(20 , 10) |
68.6% |
決定案 |
カレー上陸 |
(21 , 9) |
(32 , 15) |
68.8% |
|
ブルターニュ上陸 |
(8 , 3) |
(11 , 5) |
70.4% |
|
|
※(米英軍の損耗予想 , ドイツ軍の損耗予想) |
|
|
このようにORの様々な方法を活用することにより、問題を理解し易くしたり、合理的な結論を導き出す事が可能です。
私達一般人がORを十分に活用できる訳ではありませんが、少しでも合理的に考える習慣を持つように努めましょう。
■4.ORはスタッフ機能である。
- ORは、科学的知見を使って様々な合理的結論を導き出す方法ですが、それが何時でもそのまま採用されるわけではありません。
- 特に人間は精神的要素に左右されるのが普通ですから、いくら合理的結論が提示されても、それは採用しない、という事は多々あります。
- 但し、そのような場合は、合理的選択ではない以上、その意思決定の結果は(ORによって予見された結果に較べて)不満足なものに成らざるを得ないでしょう。
- そして、採用者が十分に合理的ならば、次回以降は経験に学んでくれることが期待できます。
常に合理的な結論を求め、かつ提示しよう。しかし採用は相手の合理性に任せよう。
■5.参考サイト
軍事OR入門~情報化時代の戦闘の科学
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