歴史問題に関しては、①事実か否か、の検証がきちんと進めば問題はかなり正常化されますが、 法律問題に関しては、①事実認定、のほかに、②価値判断、が大きく絡むので正常化への道のりは厳しいものがあります。
法学(法律学) Legal Science | |||
1. | 理論法学(基礎法学) | 法、及び、法現象の経験科学的・理論的な解明を直接の目的とする。 | |
① | 法理学(法哲学) | 英米法では法理学(Jurisprudence)、大陸法では法哲学(Legal Philosophy)の語が一般的 法とは何か、法によって何を実現するのか、といった法思想を考究する分野であり、全ての法学の基礎となる分野である。 | |
② | 法社会学 | 法を取り巻く社会的現象を考究する分野 | |
③ | 法史学 | 法の歴史的な推移を考究する分野 | |
④ | 比較法学 | 各国あるいは各時代の法を比較検討する分野 | |
2. | 実用法学(応用法学) | 立法・行政・裁判に役立つ法原理・法的技術を中心に体系化したもの。 | |
⑤ | 法解釈学(狭義の法学) | 制定法の解釈、あるいは判例や慣習によって実現される法実践を考究する分野であり、法学の中心的位置を占めている。 しかし、そもそも現行の制定法あるいは慣習法が果たして望ましいものであるか否かの考究自体は、基礎法学の①法理学(法哲学)に負っている。 | |
⑥ | 法政策学 | 効果的な法政策の在り方を考究する分野 |
歴史主義・伝統主義(注1) | 反歴史主義 | |
権利の本質 | 人間は長い歴史を通じて、社会の中で試行錯誤を繰り返しながら、社会的叡智の結晶として歴史的権利を「慣習」という形で個別に見出してきた、とする立場 | 人間は自然状態において、生来的に自然権(natural right)を有していたが、社会契約(social contract)を結んで自然権を放棄し、人定法(実定法:positive law)を定めた、とする立場 |
法の本質 | 特定の共同体の中で法が自生(自然に成長)した(法=自生的秩序説) | 法はそれを作成した主権者の意思であり命令である(法=主権者命令説)(注2) |
誰が法を作るのか | 法は幾世代にも渡る無数の人々の叡智が積み重ねられて自生的に発展したもの(経験主義、批判的合理主義)⇒「法は“発見”するもの」 | 法は主権者の委任を受けた立法者(エリート)が合理的に設計するもの(設計主義的合理主義)⇒「法は作るもの」(注3) |
補足 | 個別性、相対主義、帰納的、保守主義と親和的、法の支配ないし立憲主義 | 普遍性、絶対主義(但し価値相対主義)、演繹的、急進主義と親和的、法治主義 |
実例 | 英国の不文憲法が典型例。またアメリカ憲法は意外にも独立宣言にあった社会契約説的な色彩を極力消した形で制定され歴史主義の立場に基づいて運用されてきた。 明治憲法も日本の歴史的伝統を重んじる形で熟慮を重ねて制定された |
フランスの数々の憲法、ドイツのワイマール憲法が典型例。 日本国憲法は前文で「国政は、国民の厳粛な信託によるもの」とロックの社会契約説的な制定理由を明記しており、残念ながら形式上この範疇に入る(GHQ草案翻訳憲法) |
主な提唱者 | コーク、ブラックストーン、バーク、ハミルトン なお第二次大戦後の代表的提唱者は、ハイエク、ポパー |
ホッブズ、ロック、ルソー なお第二次大戦後の代表的提唱者は、ロールズ、ノージック |
① | 君主主権 | 君主一人が主権者:社会契約説以前の王権神授説やホッブズの社会契約説 |
② | 人民主権 | 君主以外の人民 people が主権者:ルソーの社会契約説 |
③ | 国民主権 | 君主を含めて国民全員が主権者。但し左翼の多い日本の憲法学者には「君主は含めない」として、実質的に人民主権と同一と見なす者が多い |
④ | 議会主権 | 英国の憲法学者A.V.ダイシーの用語で、正確には「議会における女王」が主権者とする。君主主権や国民主権の語を避けるために考え出された理論 |
⑤ | 国家主権 | 帝政時代のドイツで、君主を含む「国家」が主権者であるとし君主主権や国民主権の語を避けた理論。戦前の日本の美濃部達吉博士の天皇機関説もこの説の一種である |
⑥ | “法”主権 | つまり「法の支配」・・・国憲に関して言えば歴史的に形成された慣習法(を可能な範囲で実定法化した憲法)が天皇をも含めた国家の全構成員を拘束する |
№ | 有益な思想家 | 主著 | 評価 | 説明 |
1 | A.ハミルトン(1755?-1804、米) | 『ザ・フェデラリスト 』(1788)(マジソン、ジェイと共著) | 有益度:S | アメリカ独立戦争でワシントンの副官として活躍。その後13邦に分立したままのアメリカを一つの連邦にまとめる合衆国憲法案の批准を訴える論説をJ.マジソン、J.ジェイと共にニューヨーク州の新聞に連載し合衆国発足に貢献。その論説集『ザ・フェデラリスト』は現在に至るまで合衆国憲法の最良のコンメンタール(注釈書)として揺ぎ無い地位を保ち続けている。 |
2 | E.バーク(1729-1797、英) | 『フランス革命の省察 』(1790) | 有益度:S | 当時英国領であったアイルランド出身のホイッグ党(自由党の前身)の有力下院議員。アメリカ独立戦争では植民地側に理があるとしてこれを支援したが、フランス革命が勃発すると逸早くその全体主義的・狂信的本質を見抜いて、これを糾弾する名著『フランス革命の省察』を著し英国のフランス革命反対の世論形成に大きく貢献した。 |
3 | F.A.ハイエク(1899-1992、オーストリア→英) | 『隷従への道 』(1944)『自由の条件 』(1960)『法と立法と自由 』(1973-79) | 有益度:S | ノーベル経済学賞を受賞。しかし「隷従への道」執筆後は経済学に加えて法思想・政治思想の分野を総合した哲学者として晩年まで精力的に活躍。第二次世界大戦を挟んで膨張する一方の社会主義に警鐘を鳴らし、自由主義の価値を訴え続けた。1970年代末に始まる英国のサッチャー改革はハイエクの思想をバックボーンとして実行された。⇒ハイエクと自由主義 |
4 | K.R.ポパー(1902-1994、オーストリア→英) | 『開かれた社会とその敵 』(1945)『歴史(法則)主義の貧困 』(1957) | 有益度:S | ハイエクと共に、マルクス主義・全体主義の似非科学性を厳しく追及・糾弾し、相互批判に向けて開かれた自由な社会を擁護し続けた。なお上記の様にポパーの名著『The Poverty of Historism』は日本では左翼文化人の久野収によってワザと『歴史主義の貧困』と誤訳されている。 |
№ | 有害な思想家 | 主著 | 評価 | 説明 |
1 | T.ホッブズ(1588-1679、英) | 『リヴァイアサン』(1651) | 有害度:S | 英国の清教徒革命(1640-60)期にスチュアート王朝もクロムウェルの共和制も双方とも擁護可能な御用理論として『リヴァイアサン』を著し、一旦社会契約を交わして国家を創立した後には、人民は国家に対する絶対的服従を要求される、とした。 |
2 | J-J.ルソー(1712-1778、スイス→仏) | 『社会契約論』(1762)『人間不平等起源論』(1755) | 有害度:S | 社会契約を締結した人間は、その契約の結果形成される「一般意思」に完全に従属する(喜んで従う)、とする個人の自由意志を完全に滅失した集団主義的・全体主義的思想(Collectivism:集産主義と訳す)を唱えて、フランス革命やヘーゲル更にマルクスの思想に大きな影響を及ぼした。 |
3 | G.W.F.ヘーゲル(1770-1831、ドイツ) | 『歴史哲学』(1840)、『法哲学』(1821) | 有害度:S | ドイツ観念論の大成者。「歴史とは世界精神(世界を支配する絶対的な理性原理)の展開過程である」とする歴史法則主義を唱えて、マルクスの思想に多大な影響を与えた。 |
4 | K.H.マルクス(1818-1883、ドイツ) | 『共産党宣言』(1848)、『資本論』(1867) | 有害度:S | ヘーゲル左派から出発し、F.エンゲルスと出会って以降フランスなどで提唱されていた初期の社会主義(空想的社会主義)に接近。これに科学の装いを施し「共産主義社会の出現は歴史的必然である」とする科学的社会主義(マルクス主義)思想を打ち立て、さらにプロレタリア革命を実現するための実力行使を広く呼びかけた。 |
参考図書 | |
『知の歴史―ビジュアル版哲学入門 (大型本)』
(ブライアン・マギー:著) イギリスの標準的な哲学・思想解説本。左翼の強い日本では意図的に紹介されない英国保守思想の大家エドマンド・バークにも確り数ページが割かれています。 著者ブライアン・マギーは、ハイエクの盟友カール・R・ポパーと深い交流のあったイギリスの代表的な哲学解説者で、イギリス左翼の代表的思想家バートランド・ラッセルとも交流のあった人物。 この本で特に興味深いのは、デカルト以来の大陸合理論が、ガリレオ・ガリレイからケプラーを経てニュートンによって完成した古典力学の決定論の大きな影響を受けていること、しかし20世紀に入ってアインシュタインの相対性理論・ハイゼンベルクの不確定性原理が発見され、絶対と思われたニュートン力学が否定され、それがハイエクやポパーの合理主義批判に影響を与えていること、がポパーの解説部分の前後に述べられている点である。 | |
西洋哲学史3
B.ラッセル著 みすず書房 (2000年) バートランド.ラッセル(1872-1970) はノーベル文学賞を受賞した英国の哲学者・数学者・論理学者。熱心な労働党支持者であり英国左翼の代表格である。本書は日本では余り紹介されない英米系の体系的な政治思想史の大著であり、英語圏ではB.ラッセルなどの左翼においてもルソーやマルクスが如何なる存在と見なされているのか(=狂気の全体主義を招いた人類の恥として完全否定されていること)を正しく知るうえで貴重な一冊である。 ※なおアメリカの愛国的左翼の代表格としてR.ローティ を挙げておく。ローティは主著アメリカ未完のプロジェクト―20世紀アメリカにおける左翼思想 で、教育界・言論界に蠢くアメリカを一方的に否定し貶めるだけで母国に全く貢献しようとしないサヨク人士を「文化左翼(cultural left)」と痛罵し、ネイティヴ・アメリカン(インディアン)迫害や黒人奴隷制などの恥ずべき歴史を抱えながらもアメリカの先人達は不断の努力によってアメリカをより良い社会へと改良し続けてきた、としてリベラル左翼も堂々とアメリカを誇りと思うべきだ、と力説している。 | |
正統の憲法 バークの哲学
中川八洋著 中公叢書 (2002年) 米・英・仏・日(明治・昭和)の憲法をその来歴から「正統の憲法」と「異端の憲法(偽りの憲法)」に切り分けて論じた目から鱗の名著 《目次》 序 正統の憲法、異端の憲法―祖先の叡智を保守する精神 第1章 保守主義のアメリカ憲法―デモクラシーへの不信、人民への警戒 第2章 イギリス憲法の母胎―封建遺制と中世思想 第3章 フランス憲法、負の遺産―血に渇く神々を祀る宗教革命の教理 第4章 「日本の知的遺産」明治憲法―自由と倫理が薫る英国型憲法 第5章 GHQ憲法のルーツ―スターリン憲法の汚染、ルソー主義の腐蝕 第6章 バーク保守主義の神髄―高貴なる自由、美しき道徳 あとがき 「改革」の魔霊に憑かれた日本 | |
憲法1 国制クラシック
、憲法2 基本権クラシック
著者・阪本昌成氏(近畿大学教授・憲法学者)はハイエクの自由論とハートの法概念論をベースに自由主義的憲法学を展開する稀有の碩学。右記の2冊本は保守のための憲法基本書として唯一無二の価値を持つ名著であり、宮沢俊義→芦部信喜と続く左翼憲法学の誤謬を完膚なきまでに粉砕する内実を備えている。2冊とも2011年秋に改訂されており、最新の判例をも取り込んでいるところも嬉しい。 ※重要参考ページ ⇒ 1. 阪本昌成『憲法理論Ⅰ 第三版』(1999年刊) ⇒ 2. 阪本昌成『憲法1 国制クラシック 全訂第三版』(2011年刊)} | |
現代法理学
ハイエクとロールズの両思想を押さえた上で読むべき法思想・法理論の標準的解説本(ただし超難解)。憲法その他の実定法をいかなる思想を持って定立すべきかを、かってのドイツ系の「法哲学(legal philosophy)」の立場からでなく、英米系の「法理学(jurisprudence)」の立場から考える重要な一冊。ここまで読んでおけば理論派保守として免許皆伝? 厄介な左翼相手の論争で無敵の王者になれるかも? |
国名 | 憲法 | 該当ページ | |
(1) | イギリス | イギリスの憲法(不文憲法) | イギリス憲法と政治 |
(2) | アメリカ | アメリカ合衆国憲法 | アメリカ憲法と政治 |
(3) | フランス | フランス共和国憲法 | フランス憲法と政治 |
(4) | ドイツ | ドイツ連邦共和国基本法 | ドイツ憲法と政治 |
(5) | 韓国 | 大韓民国憲法 | |
(6) | 日本 | 日本国憲法 | 明治憲法の真実 日本国憲法の是非 |
広義の法 | 1. | 自然法則 《必然の法則》 |
人為によらず自然を根源として成立(超経験的な本質を有する) | ||
2. | 規範的法則(社会規範) 《当為の法則》 |
経験的事実に基づいて成立し、且つ、それ自身が経験的事実たる性質を有する | |||
(1) | 狭義の法(法規、法令、広義の法律) | ||||
① | 憲法(最高法規) | ||||
② | 法律(狭義の法律) | ||||
③ | 命令(政令、省令、命令に属する規則等) | ||||
④ | 自治法規(条例、自治法規に属する規則等) | ||||
⑤ | 慣習法 | ||||
⑥ | 判例 | ||||
(2) | 団体規則 | ||||
(3) | 宗教 | ||||
(4) | 慣習 | ||||
(5) | 道徳 | ||||
(6) | 伝統、流行、モーレス(行動様式・習慣)等 |