旅立ち



信州の深山にその者達は密かに暮らしていた。ただの山の集落のように見えるが切り立った崖があり、谷にはたくさんの馬が放たれていた。周りに少しの畑があり村人が畑仕事に精をだしている。のんびりした山の集落の風景である。
村の中心にある館に村人とは違いきらびやかな装いをした武士が到着した。一刻ほどしてその武士は山を降りていった。
「父上、どこのものでしょう?」
「尾張の織田じゃ」
「では・・・」
「出陣じゃ。母衣衆の準備はよいか?」
「はい。常に出陣の準備はできております」
「よしではお主はすべての準備を整えておけ」
「いかさま」
風心が出て行き少したったころ村にはほら貝の音が山に木霊しながら響き渡った。
「楓、おるか?」
「はっ、ここに」
奥の襖から音も立てずにさっと女が入ってくる。
「どちらへ?」
「今川へ行って来い」
「手のものは何人ほど?」
「使えるだけ使ってよい」
「ではすぐに」
雲心はまだ動かずなにか思案しているようである。四刻ほど立ったころ・・・
「準備整いました」
「うむ」
「具足をもてい」
小姓がすぐさま鎧櫃を持ち込み準備を始めた。
鎧、兜、小手、刀のすべてにいたるまで漆黒に包まれている。
雲心は村の広場へ出たときにはさきほどのんびりとしてた村人達とは思えぬほどの騎馬隊が居並んでいる。
「出陣じゃー」
「おー」
雲心を先頭に何も書かれていない黒の旗をなびかせながら深山を下っていった・・・
最終更新:2008年04月01日 10:25