民と武士




深山の里は大宴会である。風心と楓の婚礼が行われている。
「わしの思うとおりになったの風心。」
「楓は強情なので大変でござりました。」
「雲心様、このようなことせずとも・・・」
「まあよいよい。めでたいのじゃ飲め。飲め。」
深山の嫡男と忍びの頭の婚礼なので村をあげての大宴会である。夜なのにあちらこちらで明かりがたかれ山を見たものは山火事かと思うほどの明かりであろう。何日かは宴会があちらこちらで行われお祭り騒ぎであった。
影母衣衆は規模を少し大きくし1500を超える大所帯になってきた。元は深山の里のみであったが周りの村々の者たちにも今までいろんなことで協力しあっていたのだが少しずつの交渉の結果周りの五つの村が影母衣衆の一員となり、これより兵の補充、兵糧の蓄えなど規模を大きくしていった。新兵の調練も順調でほぼ全軍戦に出れる状態までもっていった。
そんな時である。三河からの使者がきたのは・・・
「どうしたのでござりまするか?」
「松平殿じゃ・・・」
「次の戦は三河でござりまするか。」
「うむ。今回はあまり乗り気はせぬの。しかし康友にとって元の殿様じゃから断りきれんかった。」
「康友ももうわしらの家族ですからな。」
「うむ。いやな戦じゃ・・・」
永禄6年(1563年)影母衣衆は黒揃えの騎馬を整列させ深山を下っていった。
松平家康。今川からの離別を機に三河一帯を制圧し治めていた。三河武士といえば勇猛果敢でどこの兵より強いとされていた。しかしその三河武士でもてこずる相手が現れたのである。
三河一向一揆。一揆衆というのは信念によって戦い死をもろともせずにかかってくる民である。民との戦い。これほどいやな戦はなかったであろう。
元の家臣の者たちも争いに加わっているという。
「松平殿お初にお目にかかり申す。」
「これはこれは深山殿よくぞ参ってくれた。」
「一揆でござるか。」
「そうなのじゃ。寺との対立もあり手に負えんほどになってきおった。」
雲心は一揆衆との戦はさけたいところであった。深草の一族も武士ではあるがどちらかというと民に近い位置におり民と共存しながら生きている。国と国との戦いとは違いいやな気分になった。
雲心がまかされたのは酒井忠尚、本多正信が立て篭もる上野城攻めである。
元家臣である二人をできるだけ生きたまま捕らえたいという。
影母衣衆は上野城に向け出陣した。
この城に立て篭もるものは民達とは違い訓練された武士が守っていた。
そのまま攻めても攻めきれず影母衣衆は少し離れた場所で陣取っていた。
「楓おるか。」
「はっ。」
「城の中はどうなっておる?」
「はい。兵糧の蓄えもあり、長期戦の構えをみせております。」
「うーむ。してほかのものの手はずは整っておるのか?」
「本日夜半西の門よりお入りくだされ。」
「準備は整ったか。よしみなのもの腹ごしらえじゃ。そして見張りのもの以外夜まで休息。」
夜半闇にまぎれるように部隊は西の門前に集結している。
どこからか声が聞こえてくる。
「火事だー。あっちで燃えとるぞー。」
あちこちから火の手があがってくる。そして西の門が開かれる。
「今じゃ進めー。」
影母衣衆は西の門より入城しはじめた。あちこちで火事が起こっているのでほとんどのものは火消しにまわっているようだ。
「酒井、本多の二名は生け捕りにせよとの仰せじゃむやみにきるでないぞ。」
三の丸、二の丸とほぼ敵はいないような状態であり酒井がいる本丸まで到着した。
「酒井殿でござるな。松平殿の命を受け参上仕った。命は助けろと仰せなので某らと一緒にきてもらおう。して本多殿は?」
「しらぬ。」
「雲心様そろそろ敵が終結しはじめました。脱出しませぬと。」
「あいわかった。これより撤収する。」
まだあちこちで煙があがってる上野城を後にし影母衣衆は城を後にした。
「松平殿、酒井殿のみでござるが連れてまいった。本田殿は所在不明でござる。」
「深草殿よくぞやってくれた。して忠尚、一揆どもを収めてくれるのであれば帰参を許そうぞ。」
「はっ。面目ございませぬ。これよりは一揆の収拾に努めまする。」
「よし。で、正信は?」
「わかりませぬ。拙者が気づいた頃にはもう姿が見えませなんだ。」
「うぬ。逃げたか・・・」
「深草殿もうすぐ一揆は収束に向かうであろう。のちこちらから使者をだすゆえまたお力添えをお頼み申す。」
「はっ。ではこれにて。」
雲心は報酬をもらいぽつりと呟いて三河を後にした。
「いやな戦じゃ・・」
最終更新:2008年04月05日 23:33