グリーン「ん……ここは、何処だ?ブヒッ」
気が付くと、グリーンは白い霧に包まれた草原にいた。
辺りを見渡すと、小さな川があった。
その岸辺で、白衣を着た人が蹲っている。
それはもちろん、
グリーン「じ、じっちゃんブヒッ」
オーキド「んー?……………………………………………………………………………………………………………………………………………………グリーンじゃないか!?」
グリーンを確認してから随分と時間がかかったが、オーキドは豚がグリーンだと気が付いた様だった。
グリーン「じっちゃん……よく分かったブヒッね」
オーキド「当然じゃ、目に入れても可愛くない孫じゃからの」
そう言って、オーキドは優しく微笑む。
グリーンは、自分の醜さを痛感した。
グリーン「じいちゃん、ここは……どこなの?ブヒッ」
そう言うと、オーキドはちょいちょいと自分の足下を指さす。
そこには、積み上げられた石があった。
それで、グリーンは理解してしまった。
俺は……
グリーン「俺は……死んだんだねブキキキッ」
そう言って、自分の両手を見る。
ゴム手袋の様なその手は、昔見た怪獣の手の様な醜さだ。
……実感が、わかない。
そこで、グリーンはハッと気が付く。
グリーン「っていうか、じいちゃんも死んでたんだ?ブヒッ」
オーキド「ホッホッ、死んでから気付くというのも、随分酷い話じゃの?」
そう言って、オーキドは達観したような笑みを見せる。
自分が、ジムに籠って外界との接触を絶っていたから……。
グリーン「ゴメン、じいちゃんブヒッ」
オーキド「なーに、グリーンはジムで毎日挑戦者達相手に忙しかったんじゃ。しょーがないワイ」
グリーン「ブキッ、ブキキキッ……」

グリーンの鳴き声が響いた。
エレブー「ブイブーイ!オーキド、石は積み終わったかよッッ!!」
すると、何処からともなくエレブーが現れた。
グリーン「……ブキッ」
エレブー「ブーイ?何だコイツは?」
オーキド「ワシの孫じゃ」
エレブー「これがwwww孫wwお前wwwww豚だったブイwwww?」
グリーン「……ブキキッ」
エレブー「じゃぁwwwコイツはwwサービスブイwwwww」
そう言って、エレブーはオーキドが積んだ石を破壊した。
エレブー「じゃぁ、その孫豚もちゃんと積んどけよー!ブイブーイwwww」
そう言って、エレブーは去って行った。
後には、オーキドと豚のみ残される。
オーキド「お前、本当に死んだんじゃのぅ」
オーキドは、複雑な顔をしていた。
グリーン「じいちゃん……これって」
オーキド「……まぁ、昔お前にしてやった話と一緒じゃ」
オーキドは、懐かしがる様にそう言った。
オーキド「懐かしぃのう……お前は、この話を聞くと怖がっとったからのぅ」
そう微笑みながら、オーキドはまたも石を積み直す。
オーキド「ホレ、ワシは長いから積み方のコツは分かっとる。一緒に積もうグリーン」
それは、恨みなど何処にもない……紛れもなく、孫を見る目だった。
グリーン「じいちゃん……俺、ブヒィッ」
グリーンは、溢れる涙を抑える事が出来ない。
グリーンは、感情のダムが決壊するのを感じた。
もう、抑える事など出来はしない。
グリーン「じいちゃん!……ごめんよ、ごめんよ。俺、本当はジムリーダーの仕事なんて全然やって無かったんだ」
グリーン「ポケモン協会からの仕事は代行にやらせて、挑戦者は強いジムトレーナーを雇って……」
グリーン「俺、金にものを言わせて……ずっと、ずっと部屋に引き込って」
グリーン「そのくせ、じいちゃんが死んだ事にすら気付かない……」
そのとき、グリーンの顔を柔らかな腕が包んだ。
グリーン「……ブキッ」
オーキドが、グリーンを抱きしめていた。
オーキド「……知っとった」
グリーン「……ブキッ?」
オーキド「知っとったんじゃよ、グリーン。お前が、まともにジムを運営しとらん事は」
オーキドは、優しく語る。
オーキド「だけど、ワシは……ポケモンの研究(性的な)に没頭するあまり、お前の事は見えないふりをしておった」
オーキド「大事な……命より大事な孫であったはずなのに」
オーキド「すまなかった」
気付くと、オーキドも泣いていた。
グリーン「じーちゃんっ!」
オーキド「グリーンっ!」
二人は、抱き合って泣く。
それは、固まっていた関係を溶かす。
そんな時間だった。
しばらく二人は泣き合う。
唐突に、グリーンが言った。
グリーン「でも、俺……こんな豚にブヒッ」
オーキド「……大丈夫じゃ」
オーキドは、力強く言う。
オーキド「昔の偉人はこう言った」
オーキド「――いわれたことしかできない人間を三流」
オーキド「―― いわれたことを上手にできる人間で、ようやく二流」
それは、何処かで聞いた事のある言葉。
オーキド「だがな、ワシは思うんじゃ。例え三流でも、豚じゃない」
オーキド「人じゃ」
それは、オーキドの様な歳を積んだ者だからこそ言える言葉。
オーキド「この石積みも、鬼(エレブー)から言われた事。じゃから、わしと一緒にこれを出来るようになって――」

オーキド「――人に、ならんか?」

グリーン「じいちゃん俺、なれるかな?ブヒッ」
グリーン「豚じゃなくて……人に」
オーキドは、軽快に笑う。
オーキド「なれるさ、なんたって――」


オーキド「――ワシの孫じゃからな!」
二人は笑いあう。
オーキド「ほれほれ、早速石を積もうじゃないか?」
グリーン「うん、分かったよじいちゃん!」
二人は共に石を積み始める。
ソレは、孫と祖父で戯れている様な、

そんな、温かな光景だった。

――所変わって、オーキド研究所。
――プルルルルッ、ガチャ。
助手キド「はい、もしもし!こちらオーキド研究所」

レッド「あ、助手キド博士ですか?レッドですけど、今時間大丈夫ですか?」
助手キド「レッド君かい?大丈夫だよ」
レッド「あ、そうですか。あのですね、実はまぁ……ぶっちゃけどでも良いんですけど、何か可哀想なんでオーキド博士の葬式やっといて貰えます」ホジホジ
レッド「暇な時で良いんで」ピンッ
助手キド「あぁ、そうだね。オーキド博士には一応世話になったし、やっとくよ」
レッド「んじゃ、それだけなんで」
――ガチャ。
助手キド「やれやれ、面倒だし、すぐやるか」
そう言って、助手キドはオーキドの腐乱死体に近づく。
助手キド「お金をお供えしてっ……と」
――チーンッ。
助手キド「ザーメン」

オーキド研究所に軽やかな音が響いた。
グリーン「じいちゃん……ここ、上手く積めないよブキッ」
オーキド「ふむ、そこはの…………!?」
オーキドは、懐に違和感を感じた。
グリーン「じいちゃん、どうしたブヒッ?」
オーキド「……いや」
オーキドは、グリーンに見えない様に懐を覗く。
そこには、まごうことなきお札があった。
エレブー「ブイブーイ!おい、オーキドと孫豚ッ!!石は積み終わったかよッッ!?」
その声に、グリーンは悲鳴を上げる。
が……
オーキド「……クククッ」
エレブー「あぁ!?オーキド、テメェ何が可笑しいッッ!!」
オーキド「コイツを見んかぃッッ!」
オーキド「通・行・料 じゃぁ―――――いッッ!!」
オーキドは、高々それをソレを掲げた。
エレブー「ブ、ブーイッッ!?」
オーキドは、驚愕するエレブーの肩を置く。
オーキド「どうした?……さっきの強気の態度は、何処に行ったんじゃ?んー?」
エレブー「も、申し訳ございませんオーキド……様」
通行料のある者と無い者で、立場は逆転するのだ。
オーキドは水を得た魚のようになっていた。


グリーン「……ブキッ」


オーキド「まぁ、こうして通行料も得たわけだし?今までの無礼は許してあげなくもないよ?エレブー君」
エレブー「ははっ、有り難き幸せですブーイ」
そう言って、エレブーは深々と土下座する。
元々、鬼(エレブー)は死者達の従者なのだ。
ここは、そのストレスの発散の場でもある。
エレブー「そ、それでオーキド様、一体どうなさいますブイ?」
オーキド「あぁん?どうするもこうするもココから出るに決まっとるじゃろうッッ!!」
エレブー「いやいや、そうではなく。その金額なら天国DXコースに行く事も……」
そう言って、エレブーは指を指す。
エレブー「そこのお孫さんを連れて行く事も可能ですブイ」

グリーン「……ブキッ」

オーキドは、グリーンを見た。
グリーン「……ブキキキッ」
醜く変わってしまったとは言え……自分の、孫だ。
思い出も沢山ある。
悩む事では無かった。

オーキド「むろん――」


オーキド「――天国DXコースじゃ!」


そう言って、オーキドは爽やかに笑った。
グリーン「ブキキッ!!?」
エレブー「わかりました。では、これを」
そう言って、エレブーは鍵の様な物を渡す。
エレブー「この鍵で向こう岸にある扉を開けて下さい。そこが、天国DXコースです」
オーキド「うむ、結構結構」
そう言って、オーキドは振り返る事もなく向こう岸に歩き出す。
グリーン「ブキッキ――ッッ!!」
(訳:じいちゃん!)
グリーンがオーキドの足にしがみついてくる。

オーキド「……なんじゃ?」
グリーン「じいちゃん、俺を助けてくれブヒィ――!!」
グリーンは、オーキドに泣き付いてくる。
オーキドは、フッと柔らかく笑った。
オーキド「何を、勘違いしておる?」
グリーン「……ブキッ?」
オーキド「コイツは、お前のじゃよ」
そう言って、オーキドはグリーンに鍵を渡しす。
そんなわけもなく、オーキドはその豚を蹴り飛ばした。
豚が転がり、豚が積んだ石を崩した。
オーキド「な―んてなwwな―んてなwwwwワシがそんな事言うと思ったかwwwwwwww?」
オーキド「だからお前は豚なんじゃwwwwブヒブヒッwwwwってかぁwww」
グリーン「ブッ、ブヒヒィ……」
グリーンは、醜くく、豚のごとく泣き出す。
オーキドはそれを見て心底可笑そうに高笑い。
オーキド「大体、お前がさっさと葬式しねぇからワシがこんな苦しいおもいしとったんじゃろうが!調子にのるなッッ!!」
オーキド「それからなぁ、お前キモすぎるんだよ。豚ってなんだよ豚ってwwwww?」
オーキド「お前と一滴でも血が繋がってるかと思うと、吐き気がしてくるワイッッ!!」
グリーン「ブヒィ――ッッ!」
豚は醜く泣いている。オーキドはなおも高笑い。
エレブー「向こう岸に行く為の、船の準備が出来ました」
オーキド「うむ、ご苦労。では最後に……」
オーキドは、豚の方を向く。
オーキド「いいか?グリーン、良いことを教えてやろう」
オーキド「――いわれたことを上手にできる人間で、ようやく二流」
オーキド「――いわれたことしかできない人間は三流」
オーキド「では、言われた事も出来ない人間は何だと思う?」
グリーン「……ブキッ」
豚は、醜い豚面を上げる。
オーキドはニヤリと笑った。
オーキド「……豚ぁ……お前の事じゃッッ!」
そう言って、オーキドは高笑いを抑える事なく去って行く。
豚は――

豚「……ブキキキッ!」

――豚だった。

オーキド「……ふぅ」
扉への船の上で、オーキドはため息を付いた。

エレブー「……どうしたんですか?」
オーキド「いやなに、本人の為とは言え、孫にあんな事を言うのは辛いなと思ってな」
エレブー「そうだったんですか……」
そう言いながらも、エレブーは意外そうな顔はしていない。
なんだかんだで付き合いが長い、大体は分かっていた様だった。
エレブー「しかし、あんな言い方しなくても……」
オーキド「仕方がない、アイツは小さな時から根拠の無い自信家じゃった……あのぐらい言ってやらんと、アイツの鼻はへし折れん」
オーキドは染々とそう言う。
昔から、色々あったようだ。
エレブーは、ふっと笑う。
エレブー「では、その鍵を返して下さい。普通の天国行き二つと交換しますよ」
オーキド「いや……ダメじゃ」
エレブー「えっ!?」

エレブー「それは……どういう事です?」
オーキド「……クククッ」
オーキド答えない。
ただ、押し殺した様に笑っている。
オーキド「お前も、馬鹿じゃな」

オーキド「グリーンの顔が……本当の豚っ鼻になっておったじゃろ?」
エレブー「え?…………ああッッ!!」
エレブーは思い出した様に叫ぶ。
あまりに見かけが豚なので、ナチュラル過ぎて全く気が付かなかった。

エレブー「そ、そういえば……」
オーキド「クククッ……鬼のクセにのぅ、クククッ」
オーキド「ま、おかげでワシもグリーンじゃと気が付くのに時間が掛ってしまったが」
そう言って、オーキドは心底可笑しそうに笑う。
エレブー「では、彼は……」
オーキド「そう、殺人……いや、鼻だけなら未遂かの?」
オーキド「とにかく、グリーンは天国に行く事は出来ん」
オーキド「……家畜牧場行きじゃ」
そう、オーキドは達観したかの様に呟いた。
オーキド「ならば……最後に言いたい事を全部言ってやろうと思っての、クククッ」
そう言って、オーキドはいやらしく笑うと、船の上に寝転がった。
エレブー「……」
エレブーは、さっきオーキドを見直していたが――



――改めて、軽蔑し直した。



オーキド「――ホレ」
寝転がったまま、オーキドはエレブーに何かを投げてよこす。
エレブー「!!?」
エレブーが慌てて受けとると、



ソレは――


――鍵、だった。



エレブー「これは……」
エレブーは、息を呑む。
オーキド「地獄の沙汰も金次第――とは、良く言ったもんじゃのぅ」
オーキド「ワシは、知っとるぞ。このDXコースに行く程の金なら、豚っ鼻くらいは何とかなるとな」
そう言って、オーキドはカラカラと笑う。
エレブー「しかし……これでは、貴方は」
オーキドは軽く首を振る。
オーキド「ワシは、自分勝手に生きすぎた。グリーンなんぞとは比べ物にならんくらいに」
オーキド「知っておるじゃろう。ワシが晩年、ポケモンに何をしておったかを?」
そう言って、オーキドは悪戯っぽく笑った。
エレブー「……」
エレブーは、何も言う事が出来ない。
オーキドがやっていた事は、ポケモンであるエレブーにとっては決して許される事では無かった。
オーキド「良いんじゃ、ワシは後悔しとらん……だから許しを貰おうとは思っとらん」
オーキド「ワシは、あの岸辺で永遠に――」
オーキドはエレブーに笑いかける。

オーキド「――石を、積もう」
エレブー「……」
エレブーは何も言わず、ただ黙って船を反転させる。
オーキドは思う。
オーキド「(ワシは、とんだ孫馬鹿じゃ……)」
オーキド「(実際、家畜牧場に行かせた方が、グリーンの為になるかもしれんというのに……)」
オーキド「(しかし、それでも……)」
船が、波に揺れた。
オーキド「(……ワシは『おじいちゃん』じゃから)」
船は進んで行く、元の岸辺に向かって。
オーキド「これが、ジジイの現実か」
何を思ってそう呟いたのか、オーキドには未だに分からない。
が、最後にオーキドは明確な意思を持って――

――叫んだ。

オーキド「あの世でも、ポケモンゲット(性的な意味で)したかったのぅ!!」

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最終更新:2008年09月24日 19:22