送り儀礼


アイヌにとってあらゆる物はカムイの化身であったわけだが、なぜカムイが人間の世界にやってくるかといえば、人間の役に立ち、酒や煙草、木幣を受け取りカムイの世界へ帰るという、ある意味「交易」のためであった。

そのためアイヌは、鳥獣を狩ったとき、木を切り倒したときなど、必ず木幣を添え、酒を供え、儀礼に則ってその魂をカムイの国へ送り返した。逆に言えばそれをされなかったカムイは、人間の世界で尊ばれなかったためと他のカムイたちから軽んじられてしまうという。昔話などでは、悪いことをして退治されたカムイが、夢枕に立って「反省しているが、このままではカムイの国へ帰れないので、粗末な木幣、酒の絞り粕でもいいから供えて欲しい」と懇願するシーンはよく見られる。逆にいたずらに狩り、そのまま放置された鳥などが祟りを為す昔話などもままあり、例え利用せずとも必ず小刀で傷をつけ、祝詞をもって送るものであるとされる。

送り儀礼はアイヌ語でイオマンテ「i(それ)omante(送る)」というが、この語は一般的に熊のカムイの送り儀礼を表す語として知られている。送り儀礼には大きく二つ、狩猟や採集の段階で送るものと、動物をある期間養育して、近隣の集落からも賓客を招いて盛大に行うものとがある。熊の送り儀礼は、春先に冬眠している熊の仔を捕まえて1~3年間育てて送るものである。この熊の送り儀礼が「熊祭り」として有名になり、観光に利用されたりしたために、特に熊のそれを指す言葉として知られるようになったものである。ほかシマフクロウのカムイなども同様に飼育して送った。

送るのは動植物ばかりでなく、家というのは主婦の持ち物であり、またあの世で女性一人では家を建てるのもままならないということで、その家の主婦が死ぬとそれまで住んでいた家に火をつけてあの世へ送る、カソマンテ(家送り)も、明治政府に禁止されるまでは行われていた。

参考資料

北海道の項を参照のこと。

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最終更新:2006年04月20日 13:00