ミュウは絶滅したポケモンではない――。
この仮説はもはや定説と化し、けれどその姿を現さざるが故、幻のポケモンと呼ばれるに至った。
ミュウを実際に見たという報告は度々舞い込んできたが、その殆どは虚言。
その珍しさがまたこのポケモンの価値を高め、ことあるごとに大規模な捜索が決行された。
そうして初めてサンプルが手に入ったのは僅か十数年前。
ミュウの睫毛。
しかしそれが含む遺伝子を解き明かした論文は学会を揺るがし、ミュウを追う活動はより活発となって、その数年後には最初の個体が捕獲された。
そこから得たデータはさらに、新たなミュウの追跡への道標となる。
しかし。
ここまでの努力を経て尚、ミュウは謎に包まれている。
――そうだ。私がこれから行うことの全ては、それを解き明かすための行為に過ぎない。



ガラス張りの部屋の内側を覗き込む。
ポケモンコロシアム用の強化ガラスは映りこみが気にならないほど鮮明に向こう側を見せてくれる。
部屋の中央に、私が望んでいた通りのものがあった。
丸みを帯びたフォルム。長い尾、長い脚に短い腕。耳に似た突起。
ミュウは、手足を拘束され、首輪を嵌められた状態で眠っていた。
そう、この首輪こそが重要なのだ。
手足の拘束具はそこまで意味を成さない。
しかし首輪は所謂制御装置で、約十年前はずっと大型だった機械を小型化したものだ。
これでミュウはお得意の透明になる能力を使うことはおろか、満足な力を発揮することも侭ならない。
そんなことも知らずにミュウは昏々と眠り続ける。
強力な催眠術をかけてあるから、もう少しはこのままだろう。
このミュウは私が“借りた”ものだ。
私が所属している研究所の名を使い、他の研究機関から、「研究したいから」という名目で。
尤も、研究したいという気持ちに偽りはないが。
四方八方に設置したカメラも、さまざまな用途のある「おもちゃ」も、特殊な効果を誘発する薬剤も、すべて”研究のため”。
私はモンスターボールを一つ取り出し、壁の受け皿の上に置く。
ボールは壁の奥に吸い込まれ、代わりに、ガラスの向こう側にもう一体のポケモンが姿を現す。



*

目覚めたときミュウは何が起こっているのか分からないのか目を瞬かせるばかりだった。
眠らされてここに来るまでは液体で満たされた筒の中で人間とのコミュニケーション能力に関する実験を行っていたはずだから無理もない。
手足を動かそうと試みて、それが拘束されていることを知る。
金属の輪のようなもので括られているようだと分かると、ミュウは状況の把握に青い目をきょろきょろと動かした。
何もない、ただガラス張りの部屋。
しかしミュウは正面ガラスの向こうに人影を認めた。
『だぁれ?』
テレパシーで語りかける。
指向性の弱い念波は音声と同じように拡散する。
『今度はなんの研究なの?』
答えは返ってこない。
その代わりガラスの向こう側の人物は笑みを浮かべる。
それがどういった種類の笑みか理解できずに、ミュウも笑い返す。
テレパシーは前の研究所の人間が教え込んだ技術だった。
習得するのを嫌がって科学者たちは困っていたが、ミュウ自身はテレパシーが通じたことに喜びを覚えているらしい。
拘束されていることに対する恐怖さえ忘れていた。
「やあ」
突然かけられた声に驚いて肩が跳ねる。
背後から話しかけられたことが分かって首を捻り、初めて相手の姿を知る。
 メタモン。半透明なピンク色の体をくねらせ、ミュウの正面に這い出てきた。
「こ、こんにちは……?」
「君が、ミュウ?」
「そうだけど、ねえ、これ外して欲しいんだけど」
これ、と手と足を動かして伝える。
「無理だ」
「えー、だったらあの壁の向こうの人に頼んで――きゃっ!?」
言い切らないうちにメタモンがミュウの体に纏わりつく。
ジェル状の体はぬるぬると股間に進入していく。
言いようのない生暖かい感覚にミュウは体を戦慄させた。

「ほう、」
 股間のスリットの覗き込んでメタモンが口を開いた。

「メスなんだ」
「やっ……あっ! やめてよ!!」
「てっきり性別なんてないのかと思った」
子供の駄々のような金切り声を上げるミュウに構わず、メタモンはスリットを押し広げる。
濃い桃色の陰唇はあたかも処女であるかのようにぴったりと閉じていたが、それだけでの判断はメタモンにも致しかねたし、また処女だからといってどうだという訳でもない。
にゅるりと腹部に顔を出したメタモンをミュウは睨めつけたが、その視線に羞恥と恐怖が混じっていることは誰の目から見ても明らかだった。
首を伸ばしてメタモンはミュウに顔を近づける。
可愛らしい顔立ちの耳もと――三角の突起を耳とするならば――に口を寄せ、囁く。
「君、立場は分かっているのか?」
「たちば……?」
「そうだよ」
瞬間、ミュウの体が強張る。
喉元に冷たく鋭い感触。
冷や汗が肌に滲む。
体の一部をへんしんさせて作り上げた刃を、メタモンは軽く首に宛がった。



「君は飽くまでも研究対象なんだ。早い話がモノだよ。ペットじゃない。
 モルモットとかマウスと呼んでもいいだろう。
 つまり、君が服従しないならば、その時は、その時だ」

「やだ……やだよ、やだやだやだ!」
ミュウは急にもがきだし、手足を激しくじたばたさせて枷から逃れようとした。
それが適わないと分かれば逆に体中の筋肉を緊張させて念力を作り出そうとあがき、しかし能力が抑制されていることに気づくと、愕然として虚ろな目をメタモンに向けた。
高い知能を持っていても、あらゆる技を使うことができても、あるいは、幻のポケモンと謳われていても。
こうなってしまっては、最早ただの生娘に過ぎない。

*

漸く自分のおかれた状況を飲み込んだミュウを見て、私は一つため息を落とす。
嘆息ではない。寧ろ嗜虐的な悦びから漏れ出たものだ。
まだ幼いからか、性的快楽というものを知らない様だし、メタモンに言い負かされてしまうところもまたおつなものだ。
前の研究所からご丁寧にも送られてきたデータによれば腕白だそうだが……これがどのように化けるかも見ものだろう。
尤も私は直接手を下しはしないが、ポケモンによってポケモンを調教するというのもまたある種のフェティシズムがあるように思う。

さて、どこから調教しようか……?
性的興奮剤を投与するのも良い。
浣腸などさせてみても楽しい。
最初に性的快楽の甘さを教えるのも、逆に陵辱の苦みを味わわせるのも一興、だろう。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年09月07日 19:47