69-492「佐々木さんのキョンな日常 学園祭その10~」

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僕の横に並んで歩いている橘京子は、ご機嫌だった。  小さい頃はいつもこうやって一緒に並んで歩いていた。父親同士が親友で、しかも父の仕事を支える優秀な人材 である京子の父親は、僕にとっては親戚同然であり、そのため京子とは兄妹のように育った。  ただ、こうして並んで歩くのは、二年ぶりのことだ。    自分の生き方を他人に決められるのは好きじゃない。たとえ親でもだ。  両親は僕を自分たちの後継者にしたいと思っている。親の仕事に対しては悪い感情などない。むしろ敬意を抱いている。  だが、それを決めるのは自分で納得してからだ。  京子を婚約者に、と親同士が決めたことで、僕はしばらく家を離れることにした。年齢不相応の金融工学で得た金は、 少なくとも大学まで行き、卒業してもおつりが来るくらいある。  自分のことは自分でやれ、という親の教育方針のもと、何でもやっていたので、一人暮しには困らない。その点は親に感謝 している。  京子のことを嫌っているわけではない。あの家にそのままいて、親同士が勝手に婚約者と決めなければ、いまでも僕の隣に いるのは京子だと思う。  家を出て、転校先で、僕は一人の女性と出会った。  涼宮ハルヒ。  今の僕の想い人である。  「こうやって二人で歩いていると昔を思い出すわ」  京子の言葉に僕も頷く。  コンテストが始まるまでの時間、僕は京子を案内することにした。  「楽しそうな人が多そうね、この学校。涼宮さんに、あなたの友人だと言ったキョンさん、その彼女の佐々木さん。とても 個性的ね。光陽じゃなくて、こっちに転校してくればよかった」  厳密に言えば、佐々木さんは彼のまだ正式な彼女というわけではないが。  「でも、親は光陽しか許してくれなかったし、残念だわ。一樹さんみたいに一人で生きていく力もないし、ほんと駄目ね。 せいぜい出来るのは家事ぐらいだし」  「それだけできれば上等でしょう」  「何なら一樹さんのおうちに住まわせてもらおうかしら」  楽しそうに京子は笑った。  「でも、一樹さん。涼宮さんはあなたの友人を好きみたいね」  「ええ。先程は生きた心地がしませんでしたよ。火薬庫に松明持って入ったような感じですね」  正直、佐々木さんがあそこまで強い感情を見せるとは思わなかった。彼のことに対しては佐々木さんは一歩も譲る気はな さそうだ。  「あなたの友人が恋のライバルだということに対してどう思っているの?」  「あまり関係ないですね。何故なら、彼は涼宮さんに対しては、佐々木さんにかけるほどの気持ちを向けてない。基本的に 彼は女性には優しいですが、佐々木さんに対しては他の人とは比べ物にならないほど大事にしている。お互いの信頼関係も強 いですし、正直涼宮さんが入り込むのは難しいでしょう」  「だけど、人の気持ちは変化する。可能性はゼロじゃない。涼宮さんはそう考えてそうね」    人の気持ちは変化する。絶対というものは存在しない。それは真理だ。  だからこそ、僕は思う。  今は涼宮さんは僕には振り向いてはくれない。しかし、いつか必ず彼女の気持ちを捉えてみせると。 ----  一通り案内した後、京子は何故かSOS団の部室を見たいと言い出した。  「今は誰もいませんが」  「ちょっと興味があるの。一樹さんがいる部室をみてみたいの」  学園祭の喧騒から外れた文化部棟の一室。僕らSOS団が入る前は物置だったが、涼宮さんによって僕らの根拠地 となった。そしてSOS団を作るきっかけを与えた彼が所属する文芸部の部室はすぐ側にある。  「そろそろ戻らないと。もうすぐコンテストの時間だし、その前に周防さんたちにも会わなきゃ行けないし」  中学時代のクラスメ-ト、谷口君の彼女だというその女生徒と京子が友人だと言うのも、因縁めいている。  「それじゃ、一樹さん。頑張ってきてね」  そう言って笑った後、京子は言葉を続ける。 「昨日も言ったけど、あなたを涼宮さんに渡すつもりはないから。だけど、今日だけは目をつぶるわ」  その言葉におもわず、ため息をついた。    --------------------------------------------------------------------------------------------------------  「結構参加者がいるね」  ああ。商品に釣られたのかね。  「部の予算が増える可能性があるから、そっち絡みじゃないのかね。つくづく思うのだが、うちの学校の生徒会は、 やる気を起こさせることに関してはけっこう優秀なような気がするんだ」  上手い金の使い方を心得ているのだろう。  「まあ、人間のやる気を引き出すコツは、人の持つ欲望を上手に生かすことだからね」    コンテスト会場にはかなり多くの参加者がいた。  こんなに多いと、目立たなくなって俺達が優勝する見込みはないんじゃないかね。涼宮と古泉、あるいは鶴屋さんと 国木田コンビだったら、目立って優勝の可能性はありそうだが。  「まあ、キョン。当たって砕けろだ。お祭りなんだから楽しんでやればいい。商品何か関係ないよ、僕には。君と 出られるだけでも嬉しいからね。それに、僕自身は、いつも君と組むと負ける気はしないんでね」  自信たっぷりにそう言って、佐々木はくっくっくっと笑った。  ペアコンテストの出場者は合計40組。一分間という短い間に、自分たちの紹介を行い、観客にアピ-ルする。  そのペアのなかで、誰がベストペアなのか、観客は投票を行う。  生徒全員参加ではないし、けっこう時間がかかるので、俺はそこまで参加する奴はいないと思っていたが、何故か 異様に盛り上がり、会場となった講堂は熱気に包まれた。  正直、舞台の上に立ち、俺達がなにをしゃべったか、覚えていない。気がついたら、あっつと言う間に時間は過ぎ ていた。  「大丈夫だよ。キョン。うまくできたよ」  佐々木はそう言ってくれたが本当かね。  俺たちの後に、涼宮&古泉、国木田&鶴屋さん、そして最後に谷口と九曜がアピ-ルした。  なお、何故か長門と朝倉の先輩、喜緑先輩と生徒会長も出ていたが、これはありなのか?  『投票受付は只今をもちまして終了します。なお、結果が出るのは二時半頃になると思います。優勝者は校内放送で お知らせします』  「キョン、とりあえず、昼食を食べよう」  そうだな。少し疲れたからな。気分転換に何か食べようぜ。  「そうだね。出店で何か買って部室で食べよう」  それがいいな。そうしよう。  俺は頷いて、佐々木と一緒に、各クラスが出している屋台を見て回ることにした。
僕の横に並んで歩いている橘京子は、ご機嫌だった。  小さい頃はいつもこうやって一緒に並んで歩いていた。父親同士が親友で、しかも父の仕事を支える優秀な人材 である京子の父親は、僕にとっては親戚同然であり、そのため京子とは兄妹のように育った。  ただ、こうして並んで歩くのは、二年ぶりのことだ。    自分の生き方を他人に決められるのは好きじゃない。たとえ親でもだ。  両親は僕を自分たちの後継者にしたいと思っている。親の仕事に対しては悪い感情などない。むしろ敬意を抱いている。  だが、それを決めるのは自分で納得してからだ。  京子を婚約者に、と親同士が決めたことで、僕はしばらく家を離れることにした。年齢不相応の金融工学で得た金は、 少なくとも大学まで行き、卒業してもおつりが来るくらいある。  自分のことは自分でやれ、という親の教育方針のもと、何でもやっていたので、一人暮しには困らない。その点は親に感謝 している。  京子のことを嫌っているわけではない。あの家にそのままいて、親同士が勝手に婚約者と決めなければ、いまでも僕の隣に いるのは京子だと思う。  家を出て、転校先で、僕は一人の女性と出会った。  涼宮ハルヒ。  今の僕の想い人である。  「こうやって二人で歩いていると昔を思い出すわ」  京子の言葉に僕も頷く。  コンテストが始まるまでの時間、僕は京子を案内することにした。  「楽しそうな人が多そうね、この学校。涼宮さんに、あなたの友人だと言ったキョンさん、その彼女の佐々木さん。とても 個性的ね。光陽じゃなくて、こっちに転校してくればよかった」  厳密に言えば、佐々木さんは彼のまだ正式な彼女というわけではないが。  「でも、親は光陽しか許してくれなかったし、残念だわ。一樹さんみたいに一人で生きていく力もないし、ほんと駄目ね。 せいぜい出来るのは家事ぐらいだし」  「それだけできれば上等でしょう」  「何なら一樹さんのおうちに住まわせてもらおうかしら」  楽しそうに京子は笑った。  「でも、一樹さん。涼宮さんはあなたの友人を好きみたいね」  「ええ。先程は生きた心地がしませんでしたよ。火薬庫に松明持って入ったような感じですね」  正直、佐々木さんがあそこまで強い感情を見せるとは思わなかった。彼のことに対しては佐々木さんは一歩も譲る気はな さそうだ。  「あなたの友人が恋のライバルだということに対してどう思っているの?」  「あまり関係ないですね。何故なら、彼は涼宮さんに対しては、佐々木さんにかけるほどの気持ちを向けてない。基本的に 彼は女性には優しいですが、佐々木さんに対しては他の人とは比べ物にならないほど大事にしている。お互いの信頼関係も強 いですし、正直涼宮さんが入り込むのは難しいでしょう」  「だけど、人の気持ちは変化する。可能性はゼロじゃない。涼宮さんはそう考えてそうね」    人の気持ちは変化する。絶対というものは存在しない。それは真理だ。  だからこそ、僕は思う。  今は涼宮さんは僕には振り向いてはくれない。しかし、いつか必ず彼女の気持ちを捉えてみせると。 ----  一通り案内した後、京子は何故かSOS団の部室を見たいと言い出した。  「今は誰もいませんが」  「ちょっと興味があるの。一樹さんがいる部室をみてみたいの」  学園祭の喧騒から外れた文化部棟の一室。僕らSOS団が入る前は物置だったが、涼宮さんによって僕らの根拠地 となった。そしてSOS団を作るきっかけを与えた彼が所属する文芸部の部室はすぐ側にある。  「そろそろ戻らないと。もうすぐコンテストの時間だし、その前に周防さんたちにも会わなきゃ行けないし」  中学時代のクラスメ-ト、谷口君の彼女だというその女生徒と京子が友人だと言うのも、因縁めいている。  「それじゃ、一樹さん。頑張ってきてね」  そう言って笑った後、京子は言葉を続ける。 「昨日も言ったけど、あなたを涼宮さんに渡すつもりはないから。だけど、今日だけは目をつぶるわ」  その言葉におもわず、ため息をついた。    --------------------------------------------------------------------------------------------------------  「結構参加者がいるね」  ああ。商品に釣られたのかね。  「部の予算が増える可能性があるから、そっち絡みじゃないのかね。つくづく思うのだが、うちの学校の生徒会は、 やる気を起こさせることに関してはけっこう優秀なような気がするんだ」  上手い金の使い方を心得ているのだろう。  「まあ、人間のやる気を引き出すコツは、人の持つ欲望を上手に生かすことだからね」    コンテスト会場にはかなり多くの参加者がいた。  こんなに多いと、目立たなくなって俺達が優勝する見込みはないんじゃないかね。涼宮と古泉、あるいは鶴屋さんと 国木田コンビだったら、目立って優勝の可能性はありそうだが。  「まあ、キョン。当たって砕けろだ。お祭りなんだから楽しんでやればいい。商品何か関係ないよ、僕には。君と 出られるだけでも嬉しいからね。それに、僕自身は、いつも君と組むと負ける気はしないんでね」  自信たっぷりにそう言って、佐々木はくっくっくっと笑った。  ペアコンテストの出場者は合計40組。一分間という短い間に、自分たちの紹介を行い、観客にアピ-ルする。  そのペアのなかで、誰がベストペアなのか、観客は投票を行う。  生徒全員参加ではないし、けっこう時間がかかるので、俺はそこまで参加する奴はいないと思っていたが、何故か 異様に盛り上がり、会場となった講堂は熱気に包まれた。  正直、舞台の上に立ち、俺達がなにをしゃべったか、覚えていない。気がついたら、あっつと言う間に時間は過ぎ ていた。  「大丈夫だよ。キョン。うまくできたよ」  佐々木はそう言ってくれたが本当かね。  俺たちの後に、涼宮&古泉、国木田&鶴屋さん、そして最後に谷口と九曜がアピ-ルした。  なお、何故か長門と朝倉の先輩、喜緑先輩と生徒会長も出ていたが、これはありなのか?  『投票受付は只今をもちまして終了します。なお、結果が出るのは二時半頃になると思います。優勝者は校内放送で お知らせします』  「キョン、とりあえず、昼食を食べよう」  そうだな。少し疲れたからな。気分転換に何か食べようぜ。  「そうだね。出店で何か買って部室で食べよう」  それがいいな。そうしよう。  俺は頷いて、佐々木と一緒に、各クラスが出している屋台を見て回ることにした。 ----  学園祭の出店であるから、まあ、メニューは決まりきったものが中心だが、こういう時は不思議とそう言うものが美味く思える。  「縁日や夏祭りの時と同じだよ。普段は買いそうにないものを何故か買ってしまう。雰囲気に乗せられるんだね」  成程な。佐々木の言うとおりだろう。  文芸部の部室へいくと、長門の姿があった。  「どうだ、占いの客足は」  「うん。かなり盛況。昨日のキョン君と佐々木さんの数字が話題になって、クチコミで広まったみたい。クラスのみんな、喜んでいた」  それは何よりだ。  長門もいくつか買い物をしてきたらしく、俺たち三人は買ってきたものをテ-ブルに広げて、少しずつ交換しながら、みんなで味わった。  「そういえば、朝倉さんはまだ、中河君を案内しているのかな?」  「朝倉さんは一年九組に行く、て言ってたよ。中河君、て人も一緒だった」  あの二人が涼宮たちのクラスでどんなコスプレをするのやら。  コンテストの結果発表まで、まだしばらく時間があった。俺と佐々木、それに長門の三人は視聴覚室へ行くことにした。  ここで、原作・俺、超監督・涼宮ハルヒによる映画『SOS探偵団』が上映されている。それにはSOS団員のみならず、佐々木や文芸部の部員 たちも出演している(結局俺は出ていないが)ので、是非とも見に行かなくては、と思っていた。  「はたしてどんな映画になっているか楽しみだね」  撮影現場を見ていた俺としては不安だらけだが、古泉がうまく調整していたみたいだから、何とかモノになっているんじゃないかね。  視聴覚室は結構観客がいた。映画研究部作品と入れ替え二本立になっているのだが、ちょうどこの時間は『SOS探偵団』の上映時間だった。  俺の右に佐々木、左に長門が座ると、視聴各室の照明が消され、室内は真っ暗になる。  スクリーンに映像が映し出される。映画の始まりだ。  『ようこそ、皆様。初めまして。世の中の不思議なことを捜すSOS団です』  ・・・・・・何故かメイド姿の朝比奈さんが映し出された。  『私たちSOS団は私たちの日常のすぐ側にある不思議なものを随時募集しています。連絡はこちらまで』  画面下にURLが表示される。どうやらSOS団のホ-ムペ-ジのアドレスらしい。いつの間にそんなものを作ったんだ?  『それでは超監督・涼宮ハルヒ作品、原作・文芸部部員キョン君、『SOS探偵団』お楽しみください』  朝比奈さんがウインクして、画面が切り替わった。今度こそ映画が始まるらしい。    上映が終わり、室内が明るくなった。  「いや、なかなかよくできていたよ。悪くないと思うね」  現物を見るまで不安だったが、観たあとの感想は、出来栄えとしてはかなり良い物だったと思う。古泉の苦労の跡が感じられるが、涼宮も一応 真面目に撮影していたんだな。俺の原作の世界をかなりうまく捉えていた。  「僕と長門さんの演技はどうだった?」  いや、お世辞抜きで上手だった。二人とも画面によく映えていたな。  「君にそう言ってもらうと、僕としても涼宮さんたちに協力した甲斐があったというものだ。まあ、結構面白かったしね。そうだ、今度は長門 さんの小説を原作に撮影してもらおうか?」  それはいいかもな。  「え、え?私の小説を?」  そんなことを話しながら歩いていると、校内放送を告げるチャイムが鳴り響く。  『ペアコンテストの集計が終わりました。只今より結果を発表します。ベストペアコンテスト、優勝者は――――』

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