68-944「佐々木さんのキョンな日常 体育祭」

 夏休みも終わり、まず、新学期が始まり、最初に学校で行われた事は、テストである。夏休みの間、勉強していたか
どうかの学校側の確認作業みたいなものだ。
 「今の君なら、大丈夫だよ、キョン」
 佐々木の言葉通り、中学時代の俺とは違う。落ち着いて、試験は受けられた。まあ、これも佐々木がいてくれるから
こそ言えるセリフだが。

 試験の結果は、満足のいくものだった。俺は、学年上位十番内に入っていた。
 「大したものだね、キョン。君と一緒に塾に行っている僕としては、実に嬉しいことだ。君の御母堂も、さぞ喜ばれ
ているだろう」
 佐々木の言うとおりで、母親は非常に喜んでいる。そして、例の口癖。「佐々木さんと同じ大学に」が、最近では「
絶対同じ大学に行きなさい」に変わってきた。
 俺自身も、最近では努力すれば、佐々木と同じ大学に行けるのではないかと考えるようになった。まあ、どんな進路
を選ぶかで行く先も変わるだろうし、そこに佐々木が学びたい物と俺が学びたい物が存在するかどうか、保証の限りで
はないが。
 ちなみに、成績一位は佐々木、二位は国木田、三位は長門、四位は涼宮、五位が俺と古泉(合計点数が同じだった)
で、六位が朝倉と、文芸部とSOS団で成績上位を独占する結果になった。

 試験が終われば、次は体育祭がある。秋は何かと忙しい。体育祭の後には、すぐに学園祭もあるのだ。
 学校側も過密日程を考慮して、来年からは体育祭を五月に移す方向で検討しているらしい。まあ、受験とか考えたら
妥当な判断だとは思う。
 我らが文芸部も、学園祭に向けての準備は着々と進んでいた。文芸部の部誌の原稿も大分書き上がっている。先日長
門が書いた恋愛小説を読んだが、素晴らしい出来栄えだった。頭もいいが、文才もあるようだ。

 「それじゃ、みんな、今からペアを組んで」
 クラス委員長の朝倉の指示に従い、男同士、女同士でペアを組む。
 これはクラス対抗騎馬戦のペアであり、男女入り乱れてハチマキを取りあう競技だ(ただし、暗黙の了解で、男は男、
女は女で取り合う用になっているが)
 さて、ここで、一つ問題が発生する。うちのクラスは、男女とも生徒の数は奇数である。するとどういうことになるか。
 「まあ、ここはキョン君と佐々木さんが組むのが一番いいわね」
 どうしても、男女とも一人ずつ余るわけで、朝倉はさも当然と言う様に、俺と佐々木のペアを決めた。
 「さすがだな、キョン」
 国木田とペアを組んだ、谷口がニヤニヤと笑っていたが、一発殴っておいた方がよさそうだ。
 「君となら、誰にも負ける気はしないよ」
 佐々木はそう言って笑った。

 クラス対抗と言うからには、当然相手がいるわけで、それは委員長同士がくじを引いてくることにより決まる。
 体育祭実行委員会の会合の席に各クラスの委員長が集合して、くじを引く。その結果は……

 「我がクラスの対戦相手は、一年九組に決まりました!」
 朝倉の報告に、少しばかり頭が痛くなった。
 言うまでもなく、涼宮と古泉がいるクラスだ。
 「やれやれ」
 あいつらと対戦することになるとはね。


 学校の帰り道、俺の後ろから声をかけてきた奴がいて、振り向いて確認すると、それは古泉だった。
 「今、お帰りですか」
 ああ。今日は文芸部も早めに切り上げたんでな。
 「佐々木さんは一緒じゃないんですか?」
 佐々木は今日塾があるから、先に帰ったよ。お前こそ涼宮と一緒じゃないのか?
 「涼宮さんは今日は用事があるそうで、授業が終わって早々と帰られました」
 なるほどな。
 俺と古泉はそんなことを話しながら、まだ少し夏の名残が残る街中を歩いていった。

 「今日は僕がおごりましょう」
 何故か俺と古泉は喫茶店にいた。
 歩きながら話しているうちに、ゆっくり腰を据えて話したいと古泉が言いだして、俺達は喫茶店に
入ったのだ。
 「最近どうだ、涼宮とうまくやっているか?」
 夏休みの合同旅行で、古泉と涼宮が一緒にいる姿は実にお似合いのカップルに見えた。常々俺は思う
のだが、涼宮には古泉のような男がふさわしい。冷静さと、うまいこと涼宮と付き合える心の広さを
持つのは古泉以外いないだろう。
 「どうなんでしょうかね。一番涼宮さんといる時間が多いのは僕ですが、あなたと佐々木さんのような
信頼関係はまだまだですよ」
 中学時代から友人であるというのは、俺と佐々木と一緒なんだがな。
 「なぜなんでしょうね。ただ、信頼関係を築くというのは、接触時間が多いだけでは出来上がるものでは
ありませんから」
 確かにお前の言うとおりだよな。

 「ところで、話は変わりますが、体育祭のクラス対抗騎馬戦、僕とあなたのクラスとの対戦になりましたね」
 ああ。お前たちと対戦することになるとは思わなかったよ。
 「僕のクラスは男女とも奇数なんで、男も女も一人づつ余りましてね。それで僕と涼宮さんがペアを組むこと
になりました」
 ・・・・・・ちょっと待て。お前たちのクラスも?おまけに古泉と涼宮のペアだと?
 「ええ、そうですが」
 俺はかなり妙な顔をしていたようだ。
 「どうかしました?」
 いや、うちのクラスもお前のところと一緒でな。男女が一人づつ余ったんで、俺と佐々木がペアを組むことに
なったんだ。
 「それはそれは。すごい偶然があったものですね」
 全くだ。何者かによる陰謀でもあるのかね。
 「まあ、でも、涼宮さん、かなり張り切っていましたよ。あなたのクラスと対戦が出来ると聞いて、喜んでまし
たが」
 その言葉に、俺は一抹の不安を感じた。涼宮が張り切ると、ろくでもないことになりそうな気がしたからだ。

 「そういえば、体育祭ではクラブ対抗リレーというのもあるそうですよ。こちらは参加希望のクラブだけですが」
 まさかそれにSOS団もエントリーしているんじゃないだろうな。
 「していますよ。鶴屋さんから話を聞いて、すぐに申し込みに行かれました。SOS団の宣伝になる、ということで」
 ・・・・・・古泉、つくづくお前も苦労するな。

 後日。
 佐々木よ、今、何と言った?
 「キョン。僕らもクラブ対抗リレーに出場しよう」
 放課後、文芸部室で、佐々木が俺にそう言った。
 「涼宮さんに申し込まれたんだよ。『私たちが出るから、文芸部も出なさいよ』ってね」
 ・・・・・・いらんことに人を巻き込むな、涼宮め。
 「で、どうする、キョン?」

 結局俺たち文芸部も、クラブ対抗リレーに出ることになった。意外に長門と朝倉が乗り気だったからだ。
 国木田にも話して、五人一組のりレ―で俺達は走ることになった。
 今年の体育祭、忙しくなりそうである。

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最終更新:2013年02月03日 17:44
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