夏の景色。潮風の匂い。ここで過ごす、三日間だけの夢物語。
「キョン、散歩に行かないか。夢路ヶ原の向日葵が綺麗だよ」
「そうだな。帽子をかぶって行ったほうがいいな」
「君が買ってくれたものだからね。ありがたく使わせてもらうよ」
キョンと手をつなぎ、二人で止まっている宿を出る。
「なんか不思議だな。お前とこんなふうに出かけるなんて。中学時代には思ってもなかったから」
「あの頃の僕等は”親友”だったから。でも、高校二年生になった今は違う。僕等は”恋人”だろう?」
「・・・・・・何か改めて言われると、ちょっと恥ずかしいな」
「くっくっくっ。僕も同じ気持ちだよ」
偽りの世界。夢幻(ゆめまぼろし)の虚構。私が作り出した、私とキョンの世界。
”三日間”
現実の世界には、もうひとりの私――力を持った存在にして、キョンの恋人――涼宮さんがいる。
”あなたの力は、もうすぐ消滅する。その前に、あなたの願いを――”
周防さんに相対する存在――長門さんは、私にそう告げた。
なにゆえ彼女はそんなことを私に告げたのか?気まぐれ?同情?
彼女の意図はどうでもよかった。私が願うことを、心の奥底に沈めた思いを――
太陽に向かって誇らしげに咲き誇る向日葵の花畑。少し強く感じられる夏の日差しの下、私はキョンと二人で歩く。
この一瞬を、思い出を胸に刻むために。
三日間という、恋人としての時間はあっという間に過ぎた。そして、夢から目覚め、現実に戻り、キョンは涼宮さん
の元へ帰る。
力は消滅していく。それで、すべてが終わる。キョンの記憶から、想い出も消え去るのだ。
”そんなこと・・・・・・そんなこと・・・・・・”
「絶対にいや!!」
”時空改変能力発動――ル-プタイム――次元環界成現・・・・・・エラ―?”
薄れていく私の意識の中で、周防さんと長門さんの声を聞いたような気がした。
「キョン、勉強済ませたら、出かけようか」
「あーずるい、キョン君だけ。佐々木のお姉ちゃん、あたしも一緒にいいでしょう?」
「ダメよ、二人の邪魔しちゃ」
キョンの家はとても賑やかだ。妹さんとお母さんが、キョンと私の様子を覗きに来る。
「キョン、今日は妹さんも一緒でいいんじゃないか?」
「まあ、おまえがそういうんだったら、いいけどな」
しばらくはこの楽しい時間は続きそうだ。
最終更新:2013年09月09日 02:24