71-776「向日葵~終わらない、君との夏の夢~」

 夏の景色。潮風の匂い。ここで過ごす、三日間だけの夢物語。

 「キョン、散歩に行かないか。夢路ヶ原の向日葵が綺麗だよ」
 「そうだな。帽子をかぶって行ったほうがいいな」
 「君が買ってくれたものだからね。ありがたく使わせてもらうよ」
 キョンと手をつなぎ、二人で止まっている宿を出る。

 「なんか不思議だな。お前とこんなふうに出かけるなんて。中学時代には思ってもなかったから」
 「あの頃の僕等は”親友”だったから。でも、高校二年生になった今は違う。僕等は”恋人”だろう?」
 「・・・・・・何か改めて言われると、ちょっと恥ずかしいな」
 「くっくっくっ。僕も同じ気持ちだよ」

 偽りの世界。夢幻(ゆめまぼろし)の虚構。私が作り出した、私とキョンの世界。

                ”三日間”

 現実の世界には、もうひとりの私――力を持った存在にして、キョンの恋人――涼宮さんがいる。

 ”あなたの力は、もうすぐ消滅する。その前に、あなたの願いを――”
 周防さんに相対する存在――長門さんは、私にそう告げた。
 なにゆえ彼女はそんなことを私に告げたのか?気まぐれ?同情?
 彼女の意図はどうでもよかった。私が願うことを、心の奥底に沈めた思いを――

 太陽に向かって誇らしげに咲き誇る向日葵の花畑。少し強く感じられる夏の日差しの下、私はキョンと二人で歩く。
 この一瞬を、思い出を胸に刻むために。

 三日間という、恋人としての時間はあっという間に過ぎた。そして、夢から目覚め、現実に戻り、キョンは涼宮さん
の元へ帰る。
 力は消滅していく。それで、すべてが終わる。キョンの記憶から、想い出も消え去るのだ。

 ”そんなこと・・・・・・そんなこと・・・・・・”

        「絶対にいや!!」

 ”時空改変能力発動――ル-プタイム――次元環界成現・・・・・・エラ―?”
 薄れていく私の意識の中で、周防さんと長門さんの声を聞いたような気がした。

 「キョン、勉強済ませたら、出かけようか」
 「あーずるい、キョン君だけ。佐々木のお姉ちゃん、あたしも一緒にいいでしょう?」
 「ダメよ、二人の邪魔しちゃ」

 キョンの家はとても賑やかだ。妹さんとお母さんが、キョンと私の様子を覗きに来る。
 「キョン、今日は妹さんも一緒でいいんじゃないか?」
 「まあ、おまえがそういうんだったら、いいけどな」

 しばらくはこの楽しい時間は続きそうだ。

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最終更新:2013年09月09日 02:24
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