不闘不屈(闘わず屈せず)

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 拓けた道路に程よい月明かり、目を凝らさずとも相手の一挙手一投足が見渡せるいい夜だ。これならば公正なる『果たし合い』に支障は出ないだろう。
 最善の環境といってもいい。月に顔があるとか現在地が判らないとかは『果たし合い』には関係の無い事だ、はっきり言うとどうでもいい。
 更に素晴らしい事は『あの方』からこんなにも広大な『修行をする為だけの空間』を報酬として戴けた事だ。

「よろしくお願いいたします」

 何の変哲も無い道路の上で深々と礼をする。決闘前の儀式としての礼……。顔を上げれば周囲の景色は消えて無くなる。ただオレだけの『道』、「光」の中へ消えていく。

「自己紹介させていただく……名は……リンゴォ・ロードアゲイン。まずここで『公正(フェア)』になる話をしよう。『卑怯』さは『弱さ』だ。これはそれを取り除くための説明だと考えていたただきたい」

 顔を上げて相手を見据えた時、不意に震えが起こった。これが恐怖によるものか、日本人の言うところの武者震いというものなのかは判らない。無駄に多い銃と1本のナイフを取り出し、スタンドを見せる。

「使う得物はSAAが3丁とアサシンダガー、銃の弾数は既に装填してある物も含めて36発。
 此方のダガーには即効性の毒が塗ってあり当たり所が悪ければ死に至るらしい。
 スタンド能力は『マンダム』そう認識していただきたい。きっかり6秒だけ、それ以上でも以下でもなく、時を巻き戻すことができる。そして『6秒間何かをし終わった』という記憶だけが残る。
 そして何度でも……時を戻すのに6秒以上感覚を開ければ、時を巻き戻すことができる」

 相手は仮面を付けた赤毛の東洋人だった。仮面というのは素顔を隠す為の物だが、この男に素顔を隠す意味があるのか?そう考えざるを得ない程ポーカーフェイスの上手い男だと思った。
 まぁこれ程の熟練した殺し屋ならその程度ワケないのだろう。臭い1つとってもそう。どんなに洗い上げても血の臭いというものは
 僅かに残るものだ、その為に殺し屋や質の悪いゴロツキなんかはすぐに判る。
 だがこの男からは錯覚でなく明確な、血じゃあなく最早死臭すら感じられる程の『何か』を感じる……………

「君を足止めしたのは『マンダム』の能力によるものだ。オレを殺さない限り、ここから出て行く事はできない。それが進むべき道、いずれ決断しなくてはならない事柄……」
「………………」

 こう言うと大抵の人間は首を傾げたり意味を聞いてきたりするものだが、やはりこの男も例外では無いようだ。
黙って腕を組んで、不満げに姿勢を替えている。ならばこれも『公正』に説明するべきだろう。

「疑問か?何故こんな事をするのか…………。このオレを『殺し』にかかってほしいからだ。公正なる果たし合いは、自分自身を人間的に成長させてくれる。 
卑劣さはどこにもなく……漆黒の意志による殺人は、人として未熟なこのオレを聖なる領域へと高めてくれる。
これが『男の世界』。反社会的と言いたいか?確かに世間は甘ったれた方向へと変わってきてはいるようだがな……」

 この仮面の男を越えた時、どれ程『男の世界』へ近付く事が出来るか?
 この殺気、動作一つ一つからひしひしと伝わってくるぞッ!これは漆黒の殺意を持たなければ出せぬ『凄み』ッ!乗り越えるべき壁の巨大さが見えてくる!!
 この獲物は左鎖骨を破壊されかけた時と同等か、それ以上の成長を約束してくれるはずだ。

「不名乗。という訳にもこの場合、いかないのだろうな…………私は尾張幕府直轄内部監察所総監督補佐、名を左右田右衛門左衛門」

名乗り返す事は気高い精神の表れだと感じ、感動すら覚える。しかし、仮面の男はその期待を裏切り、吐き気がする要求を突きつけてきた。

「そちらがそういう態度に出るならば、こちらにも考えがある。刀の在りかを書いた紙を渡し
 私をここから遠ざけない限り、『男の世界』とやら、全力をもって邪魔をさせてもらう。貴様がこの先決闘をする事は無いと思え」
「…………君が何をしようと、選ぶべき正しい道はひとつだ。心を決めてオレに掛かってくる以外には無い」
「私は貴様の呼び止めた人間を見つけ次第殺す。
 貴様が時を戻すならば、戦意も、悪意も、害意も、意志も、相手の全てが無くなるまで殺しきる。
 そうすれば貴様が闘う価値がある者と判断したものだろうと闘う価値の無い物に変える事が出来る。違うか?」
「………………」

 オレとしては驚愕するしかない。10代で『男の世界』を目指し始めてからこれまで様々な相手を見てきた。
 その経験から、まさか間違えるとは思えなかった。

「今の発言、君が対応者だということは理解した………。だが何故だ、おまえの殺意は本物の筈…………何故そんな事をする必要がある?
 意図が見えてこないぞ、何故『男の世界』を阻もうとする」

 動作と心理の食い違いに動揺してヤツに理由を聞いてしまったのは、後々考えると冷静さを欠いた行動をしていたのかもしれない。
ヤツにとってこの質問は意外だったのか無表情が一瞬崩れた。

「殺意……か、成る程、鑢七花との戦い、柄にもなく少しはしゃぎ過ぎたのかもしれんな…………」
「……………」

 どうやら直前まで誰かと闘っていたらしく、殺気はそのせいらしい。つまりオレに向けられているものではないというわけだ。

「だが我が主、否定姫様の意図が見えない限り殺しを肯定するものを安易に殺す事はできない。
 かといって、課せられた任務を放棄する訳にもいかないのでな。よって早急に『刀集め』をする為、貴様の言う『男の世界』を盾に取らせて貰おうと考えた訳だ」

 話を聞き終えたオレの心にあるのは、主人の為とはいえ他人の『世界』を易々と踏みにじるゲス野郎に接触してしまった後悔と
 それを裏付ける発言をされたことによって膿んだ屈辱だけだった。
 とはいえ、激昂する事は精神の成長には繋がらない。ゆっくりと気持ちを落ち着かせ、失望した気持ちで
 半ば投げ捨てるように紙を譲渡。内容を確認させる。

「成る程、確かにランダムに支給されているようだな。4-Bでは遠すぎる。無駄骨か……」
「確かに渡したぞ。さっさと立ち去れ、お前のような無粋な輩など二度と見たくない」

 こいつはゲス者だが、このまま背を向けて場所を移すのは何か惜しい事をしてしまうような気がする。
 多少言葉を交わした今なら、この男の本質がはっきりと見えるからな。

「お前は……死体だ、対応者ですらない…………。昔の癖で殺意を向け、肉体の反応で敵を倒している魂の脱け殻………。
 自分に芯が無いと言い換えてもいい。オレもあの方に命令を受けていたが、しかしそれはあくまで修行の為。
 お前の場合は違う、否定姫とかいう女の一部になってしまっている…………お前はそれでいいとでも思っているのか?」

 仮面の男は微笑んで言った。

「不違、この身は既に2度殺されている。死体と呼ばれるに相応しい身の上だろうな。それにこの私が姫様の一部に見えるというのなら、それはそれで悪くはない」
「………おまえが光輝く道を見る事は決してないだろう………。
 この『マンダム』の能力の外へ出してやる、勝手に何処へでも行くがいい」

 全く不愉快で不機嫌にさせられる男だった。ヤツに背を向け、オレも歩き出すとしよう。
 しかし、あの男何かが引っ掛かる。何か目当てのものが見つかったのに気付かず放り投げた時のような…………
 やはり気になるな、奴の目的は何だったか?『否定姫』から命じられた『刀集め』を『早急に』…………『早急に』?

「あいつ…………いや、既に6秒経過してしまったか」

 やられた、と感じた時には既に遅かった。
 『刀集め』のみに焦点を当てれば、どんな事をしてでも紙を手に入れるというのは間違っていない。
 しかし『早急に』というのであれば、オレの闘いに手を出している暇もないということになるのではないのか?
 もしそうだったなら、やはりあの場で行く道は1つだっただろう。まんまと手の平の上で踊らされたというわけだ。
 もう一度挑めば十中八九、頭だけでなく腕の技巧も尽くして来るだろう。が、かといって追いかける気は起こらなかった。
 いかに漆黒の意思を持っていようと、あいつは果たし合いを放棄した対応者なのだ。



【5-E道路/1日目/深夜】

【左右田右衛門左衛門@刀語】
 [状態]: 健康
 [装備]: 不明
 [道具]:ランダム支給品(1~3)、基本支給品一式、刀の在りかを書いた紙(4-E・不明、不明)
 [思考・状況]:否定姫の指示に従う。
1:刀を探す、まずは………
2:基本的には他の参加者に危害を加えるつもりはない
3:戦ってもよかったのだが、つまらん傷は追わぬ方が無難だ。

※参戦時期は本編死亡後です。

 【リンゴォ・ロードアゲイン@ジョジョの奇妙な冒険】
 [状態]: 健康、少し失望
 [装備]:SAA(シングルアクションアーミー)×3(装弾数6:6:6)@METALGEARSOLID3、アサシンダガー@ドラゴンクエストⅦ
 [道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品一式、SAA付属弾薬(残り18発)
 [思考・状況]:『男の世界』を目指す。
1:場所を変えて時を巻き戻す。
2:参加者を見つけて決闘を申し込む。
3:受け身の対応者は見逃す。

※参戦時期は不明です。
※左右田右衛門左衛門とは逆方向へ向かいました。


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最終更新:2013年06月29日 18:20