藍×ゆっくり系1 ゆっくりマスター

「いっけーゆっくり橙!しっぽアタックよ!」
「わかるよー」
「ゆっ、いたいよ!ゆっくりやめてね!」
ネコマタ妖怪の指示を受けてゆっくりちぇんがゆっくりれいむに飛び掛りクルリターンして尻尾を叩き付けた。
「よーしその調子でやっちゃえー!」
「わかるよー、このままいけばかてるよー」
「ゆぐっ、もうやめて…」
バシバシと尻尾を叩きつけられて弱っていくゆっくりれいむに後ろから氷精が声を荒げて言った。
「ちょっとーちゃんとやりなさいよー!
でないとこっちのゆっくりまりさをガシャーンとやっちゃうからね!」
「ゆ!」
氷精の言葉を聴いてゆっくりれいむがはっとした表情をした。
氷精の手には完全に氷付けにされた親友のゆっくりまりさが握られていた。
湖の近くで二匹でゆっくり遊んでいたところをこの氷精に捕まえられてゆっくり同士で殺し合いをさせられているのだ。
「どうじで…どうじでこんなことに…」
「わかるよー!わたしがかてるよー!」
頭に何度も尻尾を叩きつけられ、皮を裂かれながられいむは俯いて涙を流した。
「れいむは…れいむはゆっくりしたかっただけなのにぃー!!!」
れいむの、心の底からの叫びであった。
その叫びと共にれいむは頭に叩きつけられようとするだった尻尾に噛み付き思い切り引きちぎった。
「ぎゃああああああああああああ!?」
「ゆっぐりごべんね゛ええええええええ!!!」
引き千切った尻尾を吐き出すと今度はさっきまでの優勢が一瞬で消え混乱の最中にあるゆっくりちぇんの耳に噛み付いた。
「わからない!わからないよおおおおおお!!!!」
「ああああ!わ、わからなかったら人に聞くのよゆっくり橙!」
「わからないいいいいい!どうすればいいのおおおおおおおお!?」
「えーっと、どうしよう」
ゆっくり、トレーナー共に激しく混乱するネコマタ陣営。
「ごべんね゛ええ!ゆっくり…死んでね!」
「あ゛に゛ゃあああああ!!!」
遂に耳も食いちぎられ、れいむはそこに口を付けると力いっぱい中の餡子を吸った。
「ずっずぢゅううううう!ずぼっぉ!ずっちゅううう!」
「わからないいいいいい!なにもわからないよおおおおおお!!!」
「ゆ、ゆっくりちぇえええええん!」
こうなればもう捕食する側と捕食される側に分かれた一方的な狩りであった。


「やっぱりあたいったら最強ね!」
餡子を半分ほど吸われ完全に動かなくなったゆっくりちぇんを見て勝ち誇る氷精。
その足元には暗いものを宿した目で必死にすがりつくれいむが居た。
「はやく、はやくまりさを元に戻してね!」
「わかってるってば、そらっ!」

      ガシャン

「あ」
「ま゛り゛さ゛あああああああああ!!!」
凍らせたゆっくりを元に戻すのは高等技術なのである。
れいむは同属殺しまでしたにも関わらず結局親友を救えなかったことに絶望して
白目を剥いて餡子を吐いて果てた。



「うにゃー、また負けたー…」
「ま、あたいに勝とうなんて三光年早いのよ」
「古典的なネタにわざわざ突っ込むのも何なんだが光年は距離だ」
さて、今の戦いは何かと言うと最近人里の子ども達の間で流行り出したゆっくりバトルという遊びなのだ。
子どもがトレーナーとなってその辺で捕まえてきたゆっくりに指示を出して戦わせる遊びなのだそうだ。
ゆっくり側には指示に従う謂れは無いので如何にゆっくりを指示に従わせてモチベーションをあげて戦わせるのかが重要な勝負の鍵になってくるらしい。
ゆっくりを闘わせる賭博が人里にて行われているのだがそれを子ども達が真似し出したのだろうと思う。
だが紫様曰く『あれが半端な形で幻想入りしちゃったみたいね
本格的にこちらに境界を越えて入ってくるのは少し先かしら、まだまだ現役ですものね』とのことだ。
紫様のおっしゃることは中々意味がわからない。
「うーん、餡子吸わせちゃったからあんまりおいしくないわね
大ちゃんこれあげるよ、あたいこっちの氷ゆっくり食べるから」
「え、うんありがとうチルノちゃん」
ちなみに負けたゆっくりは勝者がおいしく頂くようだ。
食べかけの上にほとんど餡子の残っていない饅頭を渡されて緑髪の妖精は愛想笑いを浮かべた。
「藍さま~全然勝てないよ~」
「うーん、とにかくもっと精進することだな」
今私の尻尾に腰掛けてゆっくりを食べているのが氷精のチルノ。
そのチルノからゆっくりを貰った緑髪の妖精が大妖精、名前はよく知らないので割愛。
そしてしっぽに包まって泣き言を言っているのが妖怪の式をやっている私の式である橙だ。
「へっへーんだ、あんたがいくら頑張ったってあたいには勝てないよ
だってあたいが最強だもん!」
「うにゃー!腹が立つー!」
橙が尻尾のなかでじたんだを踏む代わりにじたばたともがいた。
このくらいで怒っているようではまだまだ修行が足りないかなとも思うが
友達と遊んでいる時に小言を言うのもなんだし尻尾の中で動かれるのが軽くくすぐったくて心地よいので放置する。
「くやしいー!藍さまー!敵をとってー!」
そうやって私を頼っているようでは修行が足りないと言わざるを得ない。
小言を言うのもなんだがせめて自分でなんとかするように言わないといけないか。
大体子ども同士の遊びに保護者がでしゃばるのは流石に大人気ない。
「橙、人に頼ってばかりいずに自分で」
「馬鹿ねー、そんな油揚げにごはん詰めたの食べるのが生きがいの妖怪の下っ端狐に頼ったってあたいに勝てるわけないでしょ!
なんたってあたいは最きょ」

「よかろう受けて立とう」

「やったー!藍さま頑張って!」
私はすっと立ち上がると氷精の宣戦布告を受けた。
橙が万歳して歓声を上げる。
「えーと、あのぉ子どもの遊びに大人が出てくるのは流石に大人気ないんじゃ…」
大妖精が控えめに抗議をしてきた。
「私はゆっくりバトルに関しては全くの素人だ
経験的にはそちらの氷精が圧倒的に有利、だから私も一週間時間を貰いたい
その間にゆっくりを調教してここに持ってきてそちらのゆっくりと戦わせる
それなら充分対等な勝負になるはずだ」
「えー、でも…」
「上等じゃない!受けて立ってやるわ!」
「うむ、それでは一週間後に会おう」

おいなりさんを馬鹿にした奴は例え子どもと言えど許すわけにはいかん。
一週間後徹底的に叩き潰してくれる。


「とは言ったものの」
マヨヒガに戻り、勢いで勝負を受けてしまったもののノウもハウも無い状態からゆっくりを調教して戦わせるというのは中々難しい。
やはり受けるべきではなかったか、いやしかし油揚げの中に入れるものを酢飯ではなくごはんと言うような輩を許すわけにはいかん。
さてどうしたものかと頭を悩ませているとぴょこんぴょこんと橙がこちらに走り寄ってきた。
「藍さまー、どうやってチルノちゃんのゆっくりに勝つか決めた?」
「いや、どうしたらいいか皆目見当もつかない
どういうゆっくりを捕まえればいいのかわからないしどうやればゆっくりを戦わせられるのかもまだわからないし
あの子のゆっくりも息絶えてたからまた別のゆっくりで来るだろうから対策の立てようもない、はっきり言って八方塞だよ」
そういって私はハァ、とため息をついた。
「藍さま、そういうときはね」
私が何もわからないと聞いて橙が何やら嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ん?どうした橙」
「藍さまが私に言ったことだよ」
「あ、なるほど」
私はぽん、と手を打った。
『わからなかったら人に聞く!』
二人の声が重なった。
経験者がすぐ近くに居ることをすっかり忘れていた。
「それでは橙先生、ゆっくりをどう戦わせればいいのか教えてくれるかな?」
「ふにゃ、先生なんてなんだか照れる
うーんとねまずは…」
それから橙先生によるゆっくりについての講義が始まった。

まずゆっくりを戦わせる方法はいくつかあること。
ゆっくりは三大欲求に弱いのでそれを餌に戦わせる方法。
これはどんなゆっくりにも通用する、特に食べ物をちらつかせるのがオーソドックスだ。
おなかを空かせておくことでさらに効果は上がるがその分体力が低下するので難しい。
性的欲求不満にさせる方法は戦闘に集中しづらく戦闘中に交尾しようとしてしまうこともあって難しい。
しかしゆっくりアリス種はこの方法で戦わせるとかなりの強さを誇るらしい。
ただ子どもがゆっくりアリスを捕まえて、育てるのは中々難しいので中々出てこないらしい。
睡眠不足にしておく方法は徹夜ハイとうまくタイミングが合えば悪くない戦法だがやはりこれも体力の低下が懸念される。

次に情に訴える方法。
所謂人質による脅しである程度知性の育ったゆっくりは意外と情に厚くこの方法は中々有効なようだ。
橙を下したチルノのゆっくりもこの方法で戦わさせられていたようだ。
他にも母ゆっくりに対して子ゆっくりを人質に取るなどといった戦法もあるようだ。

次に恐怖に物を言わせる方法。
所謂体に覚えさせるという方法なのだが
普通に教えられればいいのだがゆっくりの知性だとどうしても肉体的精神的苦痛を必要とする。
これは調教がきっかりはまればかなりの戦闘意欲が期待出来、他にも戦闘技術を教えこみやすく強力だが
常にやりすぎてストレスや肉体的損傷で死亡する可能性が付きまとい、恐怖の余り錯乱状態に陥る可能性もある。

次に純粋な戦闘種を戦わせる方法でこれを使えばほぼ勝ちは決まったようなものだが
これはゆっくりれみりゃなどの戦闘種は子どもの手には手に入りづらく
大人の財力に物を言わせて買うのも大人気ないので除外する。

最後に純粋にゆっくりと友情を結んで戦ってもらう方法。
この方法は食べ物などで釣りつつ少しずつ信頼関係を培う必要があり今回の二週間という制限時間の中では難しいだろう。

次にゆっくりの種類について
まず基本となるのがれいむ種とまりさ種
オーソドックスな種類で強さはどちらも似たり寄ったりだが
戦闘意欲に関してはまりさの方が高いらしいが基本スペックはれいむの方が若干強く
特に母れいむの強さは一目置かれているようだ。
自分の手でれいむに子どもを作らせてそれを人質にする場合もあるとか。

それからゆっくりみょん
れいむ種より若干強いらしいが、語彙が極端に少ないので意思の疎通が難しい。
モデルとちがって刀は使わないらしい。
そしてゆっくりちぇん
指示に従わせやすいらしいが戦闘力に関しては若干他の種に劣る。
マタタビを使えば簡単に従わせられるらしい。
他にもアリス種やみすちー種など色々な種類が居るが主に使われているのはこの四種のようだ。

「ふむ、かなり勉強になったよ」
「でも私もチルノちゃんには全然勝てないから勝つためにどうすればいいのかまではわからないの…
あんまり役に立てなくてごめんね藍さま」
「いや、作戦を考える取っ掛かりができただけでも大きな前進だよ
ありがとう橙」
「ふにゃっ、えへへぇ…!」
私は橙の頭を帽子越しにそっと撫でた。

私は縁側に座りおいなりさんをお茶請けにお茶を飲みながら思索にふけった。
「まずどのゆっくりをどういう方針で戦わせるか考えないとな」
恐らくこの四種の内のどれかから選んで戦うことになるだろう。
相手がどんなゆっくりを出してくるかわからない以上なるべく臨機応変に戦えるゆっくりがいいのだが。
時間が余りないことを考えれば意思の疎通が難しいみょん種は除外した方がいいだろうか。
母れいむを子どもを人質に戦わせる方法が一番ストレートでやりやすそうだがゆっくり一家は中々見つけるのが難しい。
適齢期のれいむならすぐに見つかるだろうが交尾させてから死亡されると時間的にあまり後が無い。
それに無理やり作らされた子どもが人質としてどこまで通じるかどうか。
「なるほど、これはなかなか難しいな」
子どもの遊びというのは意外と奥が深い、参った参ったと頭を抱えた。
「テンコー!」
「ん?」
縁側に九本の尻尾を付けたゆっくりがこちらを見ていた。


「テンコー!」
「テンコー…ゆっくり天弧といったところか」
そのゆっくりは九本の尻尾に私に似た狐耳を付けて、帽子をかぶったゆっくりだった。
「ちがうよ!ゆっくりてんこは最近出てきたにせものだよ!
らんはゆっくりてんこーだよ!にせものはゆっくりしね!」
「うわぁ」
ゆっくりは今確かにらんと言った。
よりによって私の姿を模したゆっくりまで現れるとは、紫様や橙の姿を模したものだけでも割と苦手だというのになんということだ。
それにしても一人称はらんなのに名前はゆっくりてんこーとはどういうことだ。
らんはどこから来たのだ、どちらで呼べばいいのかよくわからない。

「えーっと、ゆっくりてんこーと言ったか」
「らんでいいよ!」
自分の名前で呼ぶのが嫌だからわざわざ長いほうを選んだというのにこの饅頭頭ときたら、空気を読んでくれ。
「それじゃあらん、一体ここに何をしにきたのか教えてもらってもいいかな?」
「いいにおいがしたからゆっくり来たよ!それゆっくりらんに頂戴ね!」
よりによって私のおいなりさんを狙ってきたとは、運の無い奴だ。
「他の食べ物なら分けてやらんことも無いがこれは駄目だ」
最後通告である、これを断ればこいつはもう二度とおいなりさんを拝むことは無い。
「いやああああああ!それたべたい!それたべたい!」
そう言って私のおいなりさんに向かってぴょんぴょんとジャンプを始めた。
仕方ない、殺すか。
「ぞれ゛え゛え゛え゛え゛!!!ぞれ゛だべだいどお゛お゛お゛!!!
おでがい゛!いっごだげ!いっごだげえええええ!!!」
「……」
なんというおいなりさんへの執着心であろうか。
その切ないまでにおいなりさんへ想い焦がれる姿をみて私はふと気づいた。
おいなりさんを馬鹿にしたものを倒すのはおいなりさんを愛するものでなくてはならないということに。
「…いいだろう」
私はおいなりさんを半分に千切り半分は自分の口に、半分はゆっくりてんこーに渡した。
ゆっくりてんこーは夢中でそのおいなりさんを貪った。
「うっめええええええ!めっちゃうっめえええええええ!!!!
こんなおいしいものたべたことないよおおおおおおおお!!!」
てんこーはべちゃべちゃ言いながらひたすら初めてのおいなりさんの味をかみ締めていた。
「もっと!これもっとちょうだい!ねえ!」
てんこーは私においなりさんを要求して体当たりを繰り返した。
――重い
おいなりさんを想って繰り出す体当たりとはここまで重いものなのか。
私はすっと立ち上がったがまだ足に対して体当たりを繰り返している。
「おいなりさんが食べたければ私の言うことを聞いてもらおう
…どうしても倒さなければならない相手がいるんだ」
「ゆ!ゆっくりわかったよ!すぐゆっくりやっつけにいくよ!だからはやくおいなりさん持ってきてね!」
もう倒しに行く気満々でいる。
「ふっ、頼もしい奴だ、だが今日はもう遅い
ゆっくり眠って英気を養うといい」
「ゆっくりやすむから明日はちゃんとおいなりさんよういしてね!」

よし、少々もったいないがおいなりさんを餌に明日からビシバシ鍛えよう。

「きょうからゆっくりしようね!」
次の日、小鳥の囀りと差し込んでくる朝日、そしてゆっくりてんこーの泣き声で目を覚ました。
「ん…ああおはよう」
とりあえず寝床から出て今は紫様が冬眠時期なので橙と私の分だけ朝ごはんを作り
その中から油揚げを一枚、ゆっくりの方にほうってやるとピラニア並の獰猛さで噛み付いていて少し驚く。
その後私が食べようとしていた厚揚げに飛び掛って来たのでその跳躍力に感心しつつ尻尾を一本引きちぎって壁の方に投げつけた。
私はテーブルマナーには厳しいのだ。
それはそれとして千切った尻尾をよく見るとおいなりさんだった。
食べてみると油抜きが充分ではないのか油くさくてしつこい。
体が鈍っているのかもしれない、もっと運動させる必要があるようだ。

とりあえず体を動かさせ、同時にてんこーの身体能力を見るために散歩をしつつ手ごろな野生のゆっくりを探す。
10分ほど歩くともう息を切らせて「も、もっとゆっくりしようね!」などとほざいたので
ここで甘やかしては強くなれないと思い蹴り転がしながら進むとすぐに
「じぶんであるぎまずう゛う゛う゛!」と目から涙を流し口からは餡子を吐きながら懇願してきたので
「ちゃんと歩かなくちゃだめだぞ」と言って歩かせる。
そのまま歩き続けているとゆっくりれいむの一家と遭遇した。
捕まえて決戦用に育てることも考えたが今はこのてんこーが居るので予定通りてんこーの強さを見るために
子ゆっくりを二匹取り上げ、その内一匹を捻り潰して残り一匹を返してほしくばてんこーと戦えと挑発すると
涙ながらに母ゆっくりが襲い掛かってきた。
勝ったらおいなりさんとてんこーを激励したものの母ゆっくりは強く、てんこーは防戦一方となった。
母ゆっくりが上に乗っかりそのまま押しつぶそうとしたのでこれは危ないと手に持っていた子ゆっくりを
母ゆっくりがよく見えるよう握りつぶして餡子を顔の辺りに投げつけてやった。
そして「れ゛い゛む゛のあがぢゃん゛ん゛んん゛んん!!!」と絶叫してコテン、と転がって逆さまになった隙にてんこーが逆に
母ゆっくりの上に圧し掛かってそのまま餡子が完全に出来るまで踏みつけ続けて事なきを得た。
体力はまだまだだが与えたチャンスを物にするくらいのことは出来るようだ。
てんこーは「はやくおいなりさん頂戴ね!ゆっくりしてるとおこるよ!」などと調子にのったことをぬかしたので
「ごはんの時間まで待ちなさい」と言ってからサッカーボールの様にドリブルしてそのまま家に帰った。
それからお昼ごはんにしたがてんこーは餡子を吐き続けていたので橙と二人だけで食卓を囲んだ。
午後は雑務を片付け晩御飯時にてんこーにはおいなりさんを一つ与えた。
ふと、もともと尻尾としておいなりさんが生えていたところにおいなりさんをくっつけたらどうなるのか気になって
もう一つおいなりさんを取って朝千切った傷口の辺りにくっつけて押さえておくと
五分ほどでてんこー自身で動かせるようになっていた。

だいぶ疲れたのでその日はそのまま橙と一緒にお風呂に入ってから床に就いた。
てんこーはとりあえず箱詰にして棚にしまっておいた。

三日目、四日目、五日目もそんな感じで過ぎていき六日目
「らんってよんでね!らんってよんでね!」などとうるさかったので尻尾を引き千切ったり
「おいなりさんがたりないよ!もっとちょうだいね!」とほざいたので尻尾を引き千切ったり
あの後母ゆっくりと再び出会うことはなかったものの普通のゆっくり相手ならばてんこーは危うげなく勝てる程度には戦えるようになっていた。
こちらの指示にもしっかりと応えているし戦意もおいなりさんを餌にすれば充分。
尻尾のおいなりさんの味も充分に引き締まっておいしくなっており最初に出会った時とは違う、そう確信できる。
あまりにおいしいのでついつい残り二本まで尻尾を食べてしまった。
4本目を食べた辺りで目に光がなくなってきたのでそろそろやめなくてはと思ったのだがやめられないとまらない。
寝る前に尻尾を付け足しておき、決戦の日に備えた。


そして運命の日。
「逃げずに来たことはほめてあげるよ」
「子ども相手に誰が逃げる大人は居ないさ」
「へっへーんだ、そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだよ!
あたいは超レアなゆっくりを見つけたから絶対に負けないよ!」
「希少さなら私のゆっくりとて負けては居ないさ
来い、てんこー!」
「テンコー!」
九本の尻尾を器用に使っててんこーが大きくジャンプして私の横に着地した。
「そんな奴あたいのゆっくりでけちょんけちょんにしてやるわ!
来な、てんこ!」
「お前らは一級ゆっくりのてんこの足元にも及ばない貧弱ゆっくり
そのゆっくりが一級ゆっくりのてんこの名前を騙ることでてんこの怒りが有頂天になった
この怒りはしばらくおさまる事を知らない」
チルノの後ろから悠然とした態度でゆっくりと歩みを進めて出てきたのはゆっくりてんこだ。
一級ゆっくりを名乗るその戦闘力は伊達ではなくゆっくりれいむやまりさを寄せ付けない強さを誇るのだが
相当な希少種で普通子どもの手に捕まえられることは無いゆっくりなのだが。
「あ、私がチルノちゃんと一緒に頑張って探して来たんです
大人の人が出てくるんだからちょっとくらい手を貸してあげてもいいですよね」
大妖精、恐ろしい子――…!
「藍さま、あのゆっくり強いよ…!」
「大丈夫、心配要らないよ橙
もちろん構わないわ大妖精」

「ゆ!てんこーはらんが元祖だよ!偽者はゆっくり死ね!」
「てんこは私の方が初出なのは確定的に明らか
だというのに勝手に名乗るとは…汚いさすがてんこー汚い」
きしくも真てんこ決定戦の様相になりバチバチと火花を飛ばす二匹のゆっくり。
戦意はお互いに充分、ならば勝負を分けるのは個体の能力と戦術、そしてトレーナーとゆっくりの信頼関係だ。
「それじゃ、私が審判やるから」
そう言って前に出てきたのは緑髪で少年風のいでたちの少女、リグル・ナイトバグだった。
「永夜の異変の時に会った蛍の妖怪か、フェアなジャッジを期待するわ」
「頼まれたからにはしっかりやるよ
えーっとそろそろ始めちゃっていい?」
「無論、いつでも大丈夫だ」
「はやくしなさいよ!あたいがこてんぱんにのしてやるんだから!」
「チルノちゃん、戦うのはゆっくりだよ」
「藍さまー!頑張ってー!!」
全員の合意を確認し、リグルはそれじゃあと腕を挙げた。
「ゆっくりバトル…スタート!」
その言葉を聞くと同時に相手に飛び掛る二匹のゆっくり。
「ゆぅぅぅっ!偽者を倒してらんはゆっくりおいなりさんをたべるんだからはやくゆっくり死んでね!」
「同じ時代を生きただけの事はあるな、だがその程度ではゆっくりてんこに淘汰されるのが目に見えている」
「てんこー!がんばれー!」
「てんこちゃん、しっかりー」
二匹ががっちりと組合全力で押し合うがお互いにびくともしない。
てんこの方は表情ひとつ変えないがそれは個体の特性らしいので個体能力はほぼ互角と見ていいようだ。
「よし、力比べはもういい!離れろてんこー!」
「テンコー!」
「!逃げる気!?」
「ほう、経験が生きたな」
てんこーがカカっとバックステップし、一気に二匹の距離が離れる。
「てんこー、アルティメットブディストだ!」
「ゆっくりまわるよ!」
私の指示を聞くやいなやてんこーが回転しぶんぶんと尻尾を振り回す。
その姿を目を細めて警戒するゆっくりてんこ。
「虚仮脅しだよ!そんなの気にせずやっちゃえてんこ!」
「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」
「むっきー!誰に向かって言ってるのよ!」
「チルノちゃん落ち着いて!」
てんこーは回転しつつ器用にもそのまま体当たりを繰り出した。
敵も横に跳んで避けようとするも尻尾を完全に避けきれないゆっくりてんこにべしべしと当ててダメージを与えていった。
「よし、そのまま攻めるんだてんこー!」
「もっとゆっくりまわるよ!」
敵がこちらの出方を伺っている今がチャンス、私はさらに攻める様指示を出し
てんこーもそれに応えて強烈な尻尾攻撃を繰り出していく。
ゆっくりにとって高速で振り回されるおいなりさん九個のパワーはかなり脅威となる。
私がこの一週間でてんこーに覚えさせた唯一の技である。
まあ技といっても回るだけなのでそれほど教え込むのは難しくなかった。
「お前それで良いのか?」
再び距離を取ってこちらの攻撃を見ていたゆっくりてんこがこちらに声をかけてきた。
まさかもうこの技の弱点に気がついたというのか、敵ながら恐るべきゆっくりである。
「偽者は話しかけないではやく死んでね!」
「お前要石でボコるわ…」
そういうとゆっくりてんこはその場に落ちている石を口に含むとてんこーの顔に向かってぺっ!と吐き出した。
「ゆ!?いたい!いたい!」

「ちょっと!石使うなんて卑怯だよ!」
橙が審判のリグルに抗議しに駆け寄った。
「どうなんですか、別に武器を隠し持っていたわけじゃないし構わないと思いますけど…」
それに続いて大妖精がすぐさまフォローに走る。
「うーん、その辺に落ちてるものだからセーフで」
「ええー!そんな~!」
橙の審判への抗議は失敗に終わった。

「耐えろてんこー!」
次々と小石がてんこーの顔にぶつかり、顔の皮が少し破れてちらりと中身を見せた。
「自由自在の破壊力ばつ牛ンの要石を決めれるばもうてんこーは早くもは終了ですね」
止めとばかりにゆっくりてんこが少し大きめの小石を口に含んでてんこーに狙いを付け発射した。
その一撃を待っていたのだ。
「てんこー!逆回転!」
「ゆ!さらにゆっくりまわるよ!」
てんこーが即座に逆回転し、飛んで来た小石を尻尾ではじき返してゆっくりてんこに直撃させた。
こんなこともあろうかと仕込んでおいた奥の手である。
「やったー!藍さますごい!」
「ああ!何やってんのよこの馬鹿!ちゃんと避けなさいよ!」
「これあてたの絶対てんこーだろ・・汚いなさすがてんこーきたない」
ゆっくりてんこの顔の皮がむけて辺りに桃の香りが漂ってくる。
「そのまま攻めまくれ!」
「テンコー!」
「お前天地開闢プレスでボコるは…」
私と橙が完全に勝利を確信した瞬間、予想外の事態が起きた。
ゆっくりてんこがジャンプをして空中から小石を吐き出して来たのだ。
上からの攻撃では尻尾で跳ね返すことも出来ないではないか。
それにしてもゆっくりにはあるまじきなんという跳躍力と滞空時間であろうか。
「くっ、天人を模したのは伊達ではないということか…!」
私は歯噛みをして拳を握り締めた。
「やっぱりあたいったら最強ね!」
「いだいいだいいだいいいいいいいいいい!!!!ごべんなざいも゛う゛やべでええええええええ!!!」
「てんこの名前にしがみついた結果がこれ一足早く言うべきだったな?てんこー調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?」
勝ち誇るてんこ陣営、完全に戦意喪失したてんこー。
「ここまでか…」
私は地に膝をついた。
「あっがががががががががががががが!!!」
「もはやてんこの勝利は確定的に明らか
やはりてんことてんこーの信頼度は違いすぎた」
その時、信じられないことが起こった。
「ス ッ パ ッ テ ン コ ー ! ! ! !」
小石に曝されるままだったてんこーが叫び
なんと尻尾が外れゆっくりの命より大事と言われる頭飾りを脱ぎ去ったのだ。
「ゲェー!スッパテンコーですってー!?」
「知っているの、リグルさん!?」
「いや知らないけど」
リアクションをキン肉マンか男塾かどちらかに統一してほしい。
「お前ら目の前でスッパされる奴の気持ち考えたことありますか?
マジでぶん殴りたくなるほどむかつくんで止めてもらえませんかねえ・・?」
ゆっくりの命より大事な飾りを捨て去ったことに対して嫌悪感をあらわにしてゆっくりてんこがてんこーを睨み付けた。
「もうゆっくりなんてしてられるか!」
てんこーが一瞬にして視界から消失した。
私は思わず立ち上がる。
「な!?」
「てんこーちゃんが消えた!?」
「な、何よ!逃げるつもり!?」
チルノと橙が驚愕の声を上げる。
「いいえ違います、あれを!」
大妖精が指刺した先には高速で動く何かに切り裂かれていくゆっくりてんこが居た。
「てんこの命がダメージでマッハなんだが」
「まさか…てんこー!?」
てんこーがゆっくりてんこの周りで現れては消え、現れてはまた消える。
そう、てんこーが視認できないほどの超高速で体当たりをしてゆっくりてんこをずたずたにしているのだ。

いや実はみんな突然のことで面食らっただけで普通に目で追えるスピードなのだがそれでもゆっくりとは思えないほど素早い。
「こ、これはまさにプリンセスてんこー -Illusion-」!!」
お前は何ギリギリ過ぎることを言っているんだこの虫けら。
「てんこーちゃんいっけー!」
「ああああああどうしよう大ちゃん!?」
「これはもうあきらめた方がいいと思うな」
呆気に取られる私を尻目に橙がてんこーに声援を送りチルノは狼狽し大妖精はひたすら冷静に戦況を分析した。

「よ、よし、止めだてんこー!!」
「スッパー!!!」
てんこーが真正面からズタズタに切り裂かれたてんこに襲い掛かった。
「想像を絶する痛みがてんこを襲った」
強烈な体当たりを喰らって遂にゆっくりてんこは桃風味の餡子を撒き散らして弾けとんだ。

「最強のあたいがぁ~~!!!」
「元気出して、チルノちゃんはよく頑張ったよ」
「やったね藍さま!てんこーちゃん!」
チルノが頭を抱えて絶叫しているのを尻目に橙が私に駆け寄ってくる。
「ああ、だが危ないところだった、よく頑張ったなてんこー
…てんこー?」
橙を抱き寄せてにおいを嗅ぎながらてんこーを呼んだのだが返事がない。
「おい、どうしたてんこー、帰ったらおいなりさんを…」
私は橙と一緒にてんこーの様子を見に歩み寄った。
「死んでる…」
尻尾を自ら引き千切り、頭飾りを捨て去ったてんこーは出産に耐えられなかったゆっくりのように白目を剥いて果てていた。
違いは黒ずむのではなく真っ白になっていたことくらいか。


「結局スッパってなんだったんだろうね」
私の尻尾に腰掛けててんこーの形見のおいなりさんを食べながら橙が私に問いかけた。
「うーん、恐らく死に直面したストレスから来た一種の逃避行動だったんだろう」
私はそう言って空を見上げててんこーとの一週間を思い出していた。
中々いい息抜きになったし悪くない一週間だった。
ただ惜しむべくは最後にもう一度てんこーにおいなりさんを食べさせてやりたかった。
「どっちも死んだんだから引き分けよね!やっぱりあたいって最強!」
「ええー何よそれ、ちゃんと負けを認めなきゃだめだよ」
「審判としては時間差から考えててんこーの勝ちを宣言させてもらうわ」
「チルノちゃんがそれでいいんだったらまあそれでいいんじゃないかな」
四人は私の尻尾に腰掛けながら今回の勝負に関して思い思いの意見を述べ合っていた。
「それにしてもおいなりさんって意外とおいしいわね
油揚げにご飯つめるなんて変なのって馬鹿にしてたけど」
チルノがてんこーの尻尾をむしゃむしゃ頬張りながら言った。
食べながら言ったので私の尻尾にご飯粒がついたが気分がいいから許してやろう。
「それさえわかってくれればもう私から言うことは何もないよ
まあ好き嫌いせずに色々食べてみるといいわ」
それにしてもてんこー、最初に食べた時はあんなにしつこかったのに本当においしくなった。
ちなみにさっき拾ってきた帽子は生姜で出来ていた。
子ども達は要らないというので私だけおいなりさんの付け合せにいただくことにしたのだ。

それは幻想郷のこの青空のように清清しい味のおいなりさんだった。
                                           Fin

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最終更新:2008年09月14日 11:40
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