「むーしゃ、むーしゃ、ちあわちぇ~!」
ある日の夕方、俺の育てている大根のうち1本から聞こえてくる声だ。
雑草を抜く作業を一時止め、声の聞こえた大根を見ると一匹のゆっくりが大根に齧りついていた。
喋り方と大きさからまだ赤ちゃんゆっくりということと黒い帽子からまりさ種だと分かる。
どうやら大根に夢中でこちらに気づいていないらしい。
俺はゆっくりの後ろに手を回し、大根に齧りつく赤ちゃんまりさを摘みあげた。
「ゆゆっ!なにちゅるの!」
「おい、ここは俺の畑で、それは俺の育てた大根だ。」
「ゆ?」
赤ちゃんまりさはなぜ俺が怒っているのか分かってないようだ。
片手でまりさを掴み顔の前まで持って行き、すごみながらもう一度言う。
「こいつは俺が育てた大根だ!」
「おにいさんなにいっちぇるの!これはまりしゃがみつけたんだよ!」
「育てたって言ってるだろうが。」
「そだちぇる?」
「種からここまで大きくするってことだ。」
「たね?ゆぅ~、このたべものはかってにはえてくりゅんだよ!わからないこといわにゃいでね!」
「・・・」
こいつは野菜は勝手に生えてくると思っているのか。
まぁ野菜を育てたことないだろうから仕方ないか。
しかし、勝手に食べることは悪い事である。
それを分からせないとな。
「お前は自分が悪い事をしたことが分かってないようだな。」
「まりちゃはわるいことしてにゃいよ!」
「そんな悪いゆっくりにはお仕置きが必要だな。」
「ゆゆっ・・・」
お仕置きという言葉にまりさの体が強張る。
「ゆっくちにげりゅよ!」
「ゆーちょ!ゆーちょ!」
「ゆぐぐぐぐ・・・にげりぇないいいいいいい!」
俺の片手にがっちりと掴まれたまりさは逃げようと体を揺さぶったり手に噛み付いたりして逃げようとする。
素手で噛み付かれたら歯型が付いていただろうが今の俺は軍手をしていた。
まだ赤ちゃんのまりさは軍手を噛み切ることは出来ず、それでも逃げようと必死に噛み付いていた。
俺はそんなまりさから帽子を奪う。
噛み付くのに必死なまりさはそれに気づかなかったようだ。
「おい。」
「ゆぐぐぐぐ・・・」
「おい。これなーんだ?」
「うりゅちゃいよ・・・ゆゆっ!まりしゃのぼうち!」
慌てて頭を見るまりさ、そしてやっと帽子が無いことに気づく。
「おにーしゃん、しょれかえちてね!」
「お仕置きだって言っただろ。」
そういって俺は片手にまりさ、もう片方に帽子を持って畑を歩く。
俺が帽子をまりさに近づけると、まりさは目をきらきらさせて帽子が来るのを待ち構える。
もちろん帰すわけがないのでまりさが届くか届かないかの絶妙な位置で帽子を止める。
「もうちょっとこっちにきちぇね!」
まりさは帽子に無理なお願いをし、まりさ自信も体と舌を伸ばして帽子を取ろうと動く。
そんなまりさを見た後、帽子をゆっくりと離していくと、
「ゆうううう、もっちょゆっくりちていっちぇねえええええええ!」
と、泣き叫ぶまりさ。そうしてまた帽子を近づける。
まりさは律儀に反応をしてくれるので、危うく目的の場所を通り過ぎてしまうところだった。
やってきたのは水やり用に持ってきていた取っ手付き桶の前だ。
先ほどまで水をやっていた道具はまだ湿っており、底に少しだけ水が残っていた。
その取っ手の部分に帽子をかける。
そしてまりさを地面に離してやった。
「まりしゃのぼうち!」
手を離すとすぐに帽子を取ろうと桶に向かって体当たりをするまりさ。
しかし、桶は大きく、まりさの体ではびくともしない。
「ゆぎゅ!」
「ゆびゅ!」
「どどがないいいいいいいいいいい!」
体当たりするたびに奇妙な叫び声を上げたまりさは、体当たりをやめて桶を登ろうとした。
しかし、ほぼ垂直な桶をゆっくりが登れるはずはなく、桶に体を摺り寄せているようにしか見えなかった。
やがて、自分では取れないと思ったのか、
「おにーさん、おねがいだよ!まりしゃのぼうちとっちぇええええええ!」
ぼうしを置いた人が誰だったかも忘れているのか。
それほど帽子が大事なのか。
「おまえ、自分がなんで帽子取られたか分かるか?」
「ゆゆ?・・・わかりゃないよ!」
「じゃあしばらくそこで反省してろ!」
そう言って俺は雑草抜きに戻った。
「おにーしゃんのばがああああああああああ!」
帽子を取らなかった俺に文句をいうまりさを無視して雑草を抜き始める。
俺が雑草を抜き始めても文句を言っていたまりさは、俺に帽子を取る気がないことに気づくとまた桶に向かって体当たりしだした。
このままだと畑仕事が終わっても帽子を返せないなと笑いながら、俺は桶からだんだんとは慣れて行った。
お兄さんがいなくなった後、まりさは帽子を落とそうと桶に体当たりを繰り返していた。
「ゆっくち!ゆっくち!」
「ぼうししゃんはやくおちてきちぇね!」
2回、3回、4回と体当たりを繰り返すまりさ。
桶はまりさの体当たりなんてなかったかのようにその場から動かず、帽子はまりさのことなど忘れたかのようにゆっくりしていた。
「ゆ゙ううううううう!ま゙り゙ざの゙ぼゔじいいいいいいいいいいいい!」
「ぼうしさんそこでゆっくちしないではやくおりてきちぇね!」
いくら待っていても取っ手に引っかかった帽子は落ちてこない。
困っていたまりさは背後に誰かいる気配を感じ後ろを振向いた。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくちしちぇいっちぇね!」
後ろにいたのは赤ちゃんまりさより大きいゆっくりまりさだった。
まりさはこれで帽子を取ってもらえると喜び、そのまりさに事情を説明する。
「あのね、あのぼうしとっちぇほしいの!」
「ゆゆっ?かぜにとばされちゃった?」
「ちがうよ!まりさのぼうしをあそこのおにーしゃんがとっておいちゃんだよ!」
「ゆ!」
赤まりさの説明を聞いてすこし離れたところで雑草を抜いている俺に敵意を表す大きいまりさ。
赤ちゃんまりさはそれを見て調子にのってぺらぺらと喋り続ける。
「あのおにーしゃんへんなこというんだよ!」
「へんなこと?」
「しょうだよ!ここにあるのはおにいさんのやさいだって!まりちゃがさきにみちゅけちゃのに!」
「・・・」
まりさのこの発言から大きいまりさの表情が変わった。
しかし、赤ちゃんまりさはそれに気づかないで話し続ける。
「これはまりしゃがさきにみちゅけちゃのにっていったらいきないおこりだしたんだよ!」
「そでれぼうしをあのうえに・・・ゆびゅ!」
赤まりさは喋っている途中で大まりさに桶に叩きつけられた。
といっても死ぬほど強くではなかったので、桶にへばりつきずるずると地面に着地する赤ちゃんまりさ。
大まりさは赤まりさに言い放つ。
「ひとのものをかってにとるゆっくりはそこでしね!」
そうして森の方に跳ねていってしまった。森の近くでは同じように赤まりさを心配していたのであろうまりさたちが様子を伺っていた。
しかし、大まりさに赤まりさの事情を聞くとそろって赤まりさを睨み付け、森に入っていってしまった。
同じ種族のゆっくりに咎められたことで赤まりさは自分の間違いにうすうす気づき始めた。
それでも、まだ赤ちゃんのまりさは自分の否を認めない。
「ふんだ!まりさはひとりでもとれりゅよ!」
そう呟き、何度も何度も帽子に向かって飛び跳ねる赤まりさ。
桶が置いてある場所は畑と森に挟まれた道の畑側なので、道を通る人やゆっくり、森にいる生き物から丸見えであった。
先ほどまでは余り人やゆっくりがいなかったが、そろそろ家に帰る時間なので家に帰る人やゆっくりがちらほら見え始めた。
先ほどのことなどすっぽり忘れたまりさは今度こそ助けてもらおうと通りかかる人とゆっくりに助けを求める。
しかし、人は俺の方に顔を向け、俺もその人と簡単に話をして分かれる。
ゆっくりは先ほどのまりさのようにまりさの話を聞く前にやってくる赤まりさを突き飛ばしたり、無視したり、あるいは嘲笑したりした。
「どうしてまりさをたちゅけちぇくれないのおおおおおおお!」
「うるさいよ!それはまりさがゆっくりしなかったからだよ!」
「そうだよ!まりさはそこでずっとはんせいしてるといいわ!」
「わかるよー。まりさがわるいってっわかるよー!」
「ちーんぽっぽ!」
先ほどのまりさが言いふらしたのか、通りかかるゆっくりは赤ゆっくりのことを聴いてくれることはなかった。
赤まりさは最初の元気はどこへやら、今はもう目元に涙が見え隠れしていた。
「ゆぅぅぅ・・・」
人にも無視され、ゆっくりには馬鹿にされるまりさはどこかに隠れたかった。
しかし、帽子がないことにはゆっくり出来ない。
まりさは周りの声を無視するようにぴょんぴょんと飛び跳ねるしかなかった。
とうとう跳ねることもやめ、帽子の下で泣き始めるまりさ。
まりさは自分がどんなに悪い事をしたかわかった。
お兄さんが戻ってきたら謝ろう。
まりさは早くお兄さんが戻ってくることを願いながら帽子の下で潰れていた。
「ゆゆ、おかーしゃんあちょこでまりしゃがないちぇるよ!」
「ゆゆゆ!ほんとだね!おかーさんきづかなかったよ!」
「いもーとはめがいいんだよ!」
「そうだね!おかーさんもはながたかいよ!」
泣き潰れているまりさを、赤ちゃんれいむが見つけて親れいむがやってきた。
「どーちてないちぇるんだろうね!」
「ゆっ!あのぼうしがとれないんだよ!」
「あれならおかあさんならとれそうだね!」
そういってまりさの帽子を取ろうと桶によじ登ろうとする。
まりさが帽子の下にいるので、裏からよじ登ろうとする親れいむを子れいむ達はがんばってねーと応援していた。
そんな様子を見て不思議に思いながらも俺はまりさに声をかけた。
「よう、どうだ反省したか?」
「ゆぅ・・・」
まりさはゆっくりとこちらを振向いた。
その顔は涙でぐしょぐしょで自分の涙で溶けるんじゃないかと思えるほどだ。
「ま゙り゙じゃ゙がわ゙る゙がっだでずゔううううううううううう!」
「ま、まぁその顔を見れば反省してるようだな。」
ぐしょぐしょな顔でこっちに気ながら謝ってくる姿はなかなか迫力があった。
道端で周りに笑われながら耐えるのはさぞ辛かったのだろう。
泣きじゃくるまりさをよしよしと撫でてやった。
桶をみるとでかいれいむが桶によじ登ろうと桶に噛み付いている。
その下では二匹の赤れいむが応援してる姿はなかなかほほえましい。
桶が倒れることは考えてないのだろうが、底に水の溜まった桶は親れいむの重さにも耐えていた。
何とか登りきったれいむはあと少しでまりさの帽子が届きそうだ。
このままではまりさの帽子が取られてしまう。
ちゃんと反省し謝ってきたまりさの帽子を持っていかれては困るので、れいむの口が届くぎりぎりのところで桶から取り上げた。
「ゆゆゆゆ!?」
帽子を取ろうと口を前に伸ばしていたれいむはバランスを崩し、桶にすっぽりとはまってしまった。
「ゆ゙ゔううううううう!ぬげないいいい!」
「おかあああああさあああああああん!」
「ぢゃああああああん!」
水まで届いていないだろうが首だけのれいむは桶から逃げれない。
水が蒸発していけばやがて倒せただろうが、すっぽりと嵌った親れいむが蒸発をなかなか許さなかった。
そんなれいむを無視し、帽子をまりさに被せてやる。
「ほらよ。」
「ゆうううう・・・う?」
「ゆゆっ!まりしゃのぼうちだ!」
「反省したからな。ちゃんと返してやるよ。」
「おにーしゃんありがと!」
「もうこんなことするなよ。わかったか?」
「ゆっくりりかいしちゃよ!」
自信満々に言うまりさに満足して、俺はまりさを地面にもどしてやった。
「おら、親のもとに帰るんだな。」
「まりしゃはおやなんていないよ!」
「なんだ、なら今まで一人で生きていたのか?」
「そうだよ!まりちゃはひちょりでがんばってきちゃよ!」
「親はどうしたんだ?」
「まりちゃをたすけるためにありすにむかっていっちゃよ!かならずかえっちぇくるからずっとまっちぇるよ!」
「じゃあ今日の晩飯とかは・・・」
「だいじょうびゅだよ!いちにちぐらいたべないのはふちゅうだもん!」
「・・・」
一人で生きてきた赤ちゃんまりさは餌を取るのも難しいのだろう。
今まで何日も食べなかった日もあるはずだ。
今回の大根もやっと見つけたご飯だったのかもしれない。
「さっきの大根は久しぶりのご飯だったのか。」
「うーんちょね!おちゅきさまが4かいまわったよ!」
このまま返してしまうとまた一匹で必死に餌を探しまわるのだろう。
今回のことで人里の野菜を食べることもしなくなるはずだ。
俺は、このまままりさを返すことが出来なくなってしまっていた。
「あー、さっき食べた大根な。もう売り物にならねぇから全部やるよ。」
「ほんちょ!?」
「ああ、そのかわり。」
「そのかわり?」
「俺のところでしばらく働いてもらおう。先ほどの発言はなかったことに。」
「ゆゆっ!」
「勝手に食べたんだからその分は働いてもらわないとな。」
「ゆぅ・・・しょうだね!ちゃんとはちゃらくよ!」
「そうか。それじゃこれから俺の家で住むようにしろ。」
「ゆゆゆ、でもおかーしゃんとおとーしゃんが・・・」
「毎日巣を見に行っていいから。親が帰ってきてたら返してやるよ。」
「ほんちょ!おにーしゃんありがと!」
「その代わり、親が帰ってくるまで働いてもらうからな。」
「まりしゃがんばりゅよ!」
俺はまりさを肩に乗せてやった。
まりさは何とかバランスを取ろうとするが難しいらしく俺の髪の毛を咥えて引っ張った。
すこし痛いが、高いところから周りを見て喜ぶまりさに何も言えず、俺は両手に収穫した野菜を持って家に帰っていった。
あたりも暗くなり、人通りもゆっくり通りもなくなった道端で子れいむの泣き声が響く。
「だれがおがあああああああざんをだずげでええええええええ!」
「お゙がああああああじゃあああああああん゙!」
二匹の子れいむの泣き声を聞きつけ森はざわめき出す。
いつもなら親れいむが注意するところだが、桶に嵌ったれいむは何も見えず、ただ子れいむのために必死に桶を揺らしていた。
「れいむのこどもたちまっててね!すぐにゆっくりさせてあげるからね!」
親れいむは子れいむの泣き声に返事をしながら必死に頬を膨らます。
後少し、あと少しで抜け出せそうだ。
しかし、
「ゆぎゅ!」
「ゆぶびぇ!」
「ゆ!どーしたの!なにがあったの!」
親れいむの問いに答える者は誰もいなくなっていた。
裏の発言に乗って書いた結果がこれだよ!
最終更新:2008年09月17日 22:24