その他 辻斬り妖夢譚 ディレクターズカット版 (後編)


  • fuku2664.txt 辻斬り妖夢譚の加筆修正版です。
  • Ex Stageという名の蛇足を追加。


  • この物語は、幻想郷の日常を淡々と描写したものです。過度な期待はしないでください。
  • 原作キャラ崩壊、独自設定、パロディーなどなんでもあり。
  • 良いゆっくりは食べられたゆっくりだけだ。
  • 以上に留意した上でどうぞ。










           辻斬り妖夢譚 ディレクターズカット版 (後編)






Stage5. 道中2




八雲家でおやつをご馳走になった妖夢は、礼を言うと博麗神社に向けて飛び立つ。
萃香の居そうな所といえば、ここで間違いないだろうと意見が全員一致している。

「あの子鬼、神社にいてくれると良いのだが…」

季節はもう秋、3時を回った日差しは西に傾いている。
暗くなる前には帰らなければならないな…と妖夢は神社への飛行速度を上げた。
その時、はるか遠くから近づいてくる人影があった。
妖夢はそれに気付くと、警戒のため目を細めてそちらを凝視する。速い。
みるみる近づいてきた人影は、背中の黒い羽をはばたかせた黒髪の少女、射命丸文…
と良く似ているのだが、実物より小さいし、どうにも全体のバランスがおかしい。
頭が大きく、胴体は小さく、手足はひょろっとしている。
目や口などは顔の上の方に固まっていて、人を見下した様な表情がうざい。
尤も、本人はにこやかに営業スマイルを浮かべているつもりなのだろうが。

「どうも、清く正しいきめぇ丸です」

平行して飛びながら、大きな頭を文々と左右に振る得意のきめぇ丸シェイクを決めると、それは挨拶してきた。
妖夢は警戒を解くと、挨拶を返す。

「お前は天狗の新聞屋の所の記者か?今日も取材ご苦労様」

きめぇ丸は首からカメラを下げている。“文々。新聞”の編集者、射命丸文が使役しているゆっくりだろう。
特に、きめぇ丸が取材しているゆっくりの動向についての記事は、里でも防災などに役に立っていると聞く。

「実は妖夢さんが、幻のゆっくりを捜し求めていると噂で聞きまして」

「はややっ!」

思わずびっくりしてしまった。
いけないいけない、武道家は何事にも平常心であらねば。
しかしもう情報を掴んでいるとは。
誰から?と考えたが、情報を漏らしそうなのは魔理沙ぐらいのものか。
別にばれて困るようなことはないのだが…
取り乱してしまった気恥ずかしさで、妖夢は眼光を鋭くし、ちょっと怖い顔を作って答えてみる。

「確かに、珍しいゆっくりの中身に、たとえば、きめぇ丸の餡子は何色か?とか興味あるな」

「おお、こわいこわい」

「まあそれは冗談で、今から神社に行って、ゆっくり衣玖の所在について確認するつもりだが」

「それはそれは、といいますか、実はそのゆっくり衣玖が一匹、萃香さんの所から逃げ出したらしくて、
私も取材がてら探してるんですよ」

「何と!そうか…」

流石、天狗のネットワークは情報が速い。
大方、神社で取材していた文あたりから伝わってきたのだろう。

「おや、あれは?」

きめぇ丸が下を指差すと、そこには木々の間を神社の方角からふわふわと漂ってくる黒いものが見えた。
黒いのは帽子だろう、赤い触覚のような2本のリボンが見える。
後ろにたなびくのは桃色の羽衣らしきもの。
あの竜宮の使いの特徴に似ている。間違いなくあれがゆっくり衣玖だろう。
丁度良い所で会った、捕まえて神社に持っていこう。
上手くすれば、ゆっくり衣玖をそのまま譲ってもらえるかもしれない。
そう考えると、妖夢は急降下した。

「おお、はやいはやい」

きめぇ丸も付いてくる。
妖夢はゆっくり衣玖の行く手を塞ぐように降り立つと、声をかける。

「私は魂魄妖夢。お前は神社から逃げ出したゆっくり衣玖だな?神妙にお縄につけ!」

きめぇ丸も反対側に降り立ち、退路を塞ぐ。

「いかにも、私が衣玖です。やはり逃げ切れませんでしたか…」

地上1mほどのところに浮いていたゆっくり衣玖は、背後を確認すると、観念したようにこちらを見た。
流石天界から来た種だけのことはある。
その辺のゆっくりよりは大分賢いようだ。

「仕方がありません、私と勝負してもらえませんか?」

「勝負?」

急にゆっくり衣玖が言い出した。
妖夢は思わず聞き返す。

「そうです。もちろん真剣勝負です。どちらか先に悲鳴をあげた方の負け。
私が勝ったら、天界に帰れるよう協力してもらいます。
負けた時は、お望みどおりお酒のつまみになりましょう」

酒のつまみ云々は萃香の望みだろう。
まあそれはいいとして、このゆっくり衣玖、秘策でもあるのだろうか?油断は出来ない…

「おお、りっぱりっぱ。分かりました。妖夢さんVSゆっくり衣玖の1本勝負ですね?
審判と取材は、清く正しいきめぇ丸にお任せください」

勝手にOKしているし…妖夢はいい所を持っていかれた気分だった。
まあ、格好つけるつもりも、負けるつもりも無いが。
妖夢は楼観剣を抜いて構える。峰打ちで勝負をつけるつもりだった。
真剣では威力が強すぎる。悲鳴をあげさせず粉砕してしまっては、勝負以前につまみにすらならない。
衣玖は一瞬の隙を伺おうと、真剣な眼差しでこちらを見据えている。
周りの空気がぴんと張り詰めていく。
流石空気の読める饅頭だ、と妖夢は感心すると同時に心が冴えていくのを感じた。
きめぇ丸は対峙する2人を写真に撮ると、中央で手をかざす。
そして手を振り下ろすと、さっと後ろに下がる。

「勝負始め!」

きめぇ丸の声と同時に、妖夢は一瞬にして踏み込むと、衣玖に楼観剣を振り下ろした。
と同時に、衣玖も間合いをとり、自身の纏っていた羽衣をドリル状に丸めると楼観剣を受け止める。
当然、衣玖の衣はふにゃっと潰れて、楼観剣にまとわり付いてしまう。
その時、衣玖が叫んだ!

「ふぃーばーーーーー!」

「チッ!!」

瞬間、妖夢の手に電流が走り、思わず出そうになった悲鳴を飲み込む。
衣玖の必殺技は、体内で発電する電撃だったのだ!
威力自体は大したことは無い。せいぜい冬に良くある静電気の放電を、ちょっと強力にした程度だろう。
だが、妖夢の剣を握る手は一瞬硬直し、思うように動かない。
衣玖は間合いを詰めると、第2撃を放とうと妖夢の胸元に突っ込んできた!
白楼剣を抜くか?いや、また電撃で痺れさせられてしまうかもしれない。





妖夢は一瞬で飛び退ると、反対の手で後ろに居た半霊のしっぽを掴み、衣玖に向かって振り下ろした。
半霊はプラズマではない。絶縁体なのだ。

「イクっ!」

悲鳴を上げ、衣玖は地面に叩きつけられた。
と、写真を撮っていたきめぇ丸が手を上げる。

「勝負あり!…ええと、今の悲鳴はゆっくり衣玖ですか?半霊ですか?」

妖夢はこけそうになるのを堪える。

「いや、半霊は喋れないし」

妖夢の説明で納得がいったようだ。

「勝者、魂魄妖夢!」

また写真を撮っているきめぇ丸を置いて、妖夢はゆっくり衣玖を助け起こしてやる。

「負けました…煮るなり焼くなり、好きなようにしてください」

半霊を見つめながら、頬を染めた衣玖が言う。

「またお前か!」

妖夢はちょっと眩暈を感じた。





とりあえず、博麗神社に向かう。
面倒な話はそれからだ。
そう思い飛んでいる妖夢に、ゆっくり衣玖はおとなしく抱えられている。
電撃を放って逃げ出そうとしたりはしない。
妖夢には敵わないと悟ったのだろう。
きめぇ丸は妖怪の山へと帰っていった。

「特ダネ特ダネ、良い記事になりそうです」

と、ホクホク顔できめぇ丸シェイクを決めながら。きめぇ。
おそらく記事を書くのは文の仕事だろう。
変な尾ひれが付かなければ良いが。フカヒレだけに。

「禁断の愛、発覚!とか書かれたらどうしよう…」

妖夢はちょっと心配した。





Stage6. 博麗神社




神社に着くと、萃香が出迎えてくれる。

「おっ、衣玖さん捕まえてくれたんだね、ありがとー妖夢」

「いや、たまたま通りがかったきめぇ丸と一緒に見つけたので」

「衣玖は妖夢さんに食べられると決めました!どうかとめないで下さい」

この饅頭は何だか打ちどころが悪かったようだ。

「ほぉー」

萃香はにやっと笑うと、

「じゃあそいつは妖夢にあげるよ、お土産に持って帰るといいよ」

「かたじけない」

あっさりと譲ってもらえることになった。
これで一安心だ、と思っていると、

「じゃあ、宴会始めるから中に入ってよ、みんなお待ちかねだよ」

「え?」

萃香は妖夢を強引に家の中へ連れてゆく。
そこには、神社の主、腋巫女の博麗霊夢の他に、魔理沙、八雲家の紫、藍、橙、鴉天狗の射命丸文、そして
守矢神社の腋風祝、東風谷早苗と、八坂神奈子、洩矢諏訪子の神二柱までいる。
極めつけは、白玉楼にいるはずの幽々子様まで居るではないか。

「なっ、何故幽々子様がここに?」

びっくりして聞くと、

「妖夢を送り出した後、ミニ萃香ちゃんが来て、今日は博麗神社でフカヒレまんを肴に飲むって言うのよ?
もう来るしかないじゃない」

萃香の能力である分離したミニ萃香が、皆に宴会のお知らせをしたようだ。

「遅かったわね、妖夢」

「紫様はスキマ経由ですね…」

八雲家も、藍がおでん、橙がカレーまんを持参で一緒に来たらしい。

「どうも、清く正しい射命丸文です。うちの部下がお世話になったそうで」

「流石情報が早いですね…くれぐれも変な記事は書かないで下さい」

天狗のネットワークはどうなっているんだ、と妖夢は改めて思った。
そして、守矢神社のメンバーも、フカヒレまんの味見に呼ばれたようだ。
早苗さんが挨拶してくる。

「こんばんは、妖夢さん」

「フカヒレなんて、懐かしいねえ」

「外でも中々食べられなかったからね、楽しみだよ」

守矢の神々は最近まで外界にいたからなと、妖夢は挨拶しながら納得した。

「悪いわね妖夢、皆の話を聞くと妖夢もすぐここに来るんじゃないかと思って、幽々子にも待って
貰ってたのよ」

これは霊夢。
まあ、宴会は日常茶飯事なので慣れたものだ。

「こーりんは店閉めてから来るって言ってたぜ。待っててもしょうがないから、そろそろ始めるか」

魔理沙が言うと、萃香が立ち上がって挨拶する。

「えー、本日はゆっくり衣玖さんが手に入ったので、フカヒレまんが沢山出来ました。
最後の一匹は妖夢とラブラブになってしまったので、お土産に持って帰ってもらいます。
残りはみんなで食べましょう、乾杯!」

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」

皆、様々な料理や、大皿に盛られたフカヒレまん、カレーまんを思い思いに食べている。
他にも、揚げ饅頭や桃饅頭、ピザまんなど、様々な料理が並べられている。

幽々子様も、フカヒレまんに舌鼓を打っていた。
妖夢もフカヒレまんを食べ、麦酒を飲みながら文句を言う。

「酷いじゃないですか、幽々子様。最初からこうなるって分かってたんじゃないですか?」

「まあ、元々フカヒレは紫から聞いた話だし、ここに来て萃香ちゃんに頼むのが一番早いとは思ったわ。
でも、紫が自慢するから悔しくなって、本物のフカヒレが無いかなぁって、妖夢に探してもらったの」

「残念ですが、本物は手に入りませんでした…」

結局自分のやっていたことは徒労に終わったのか。
妖夢は脱力感を覚えながら、腕の中のゆっくり衣玖を見る。
でも、このゆっくりは白玉楼の庭で飼ってみるのも良いかも知れない。ゆっくりと…
疲れたのか、腕の中で眠っているゆっくり衣玖を撫でながら、妖夢は思った。
その日食べたフカヒレまんはとても美味しかった。





Ex Stage. 饗宴




パシャッ。
酔っ払ったゆっくり衣玖と妖夢の半霊を、文が写真に撮る。
何故かゆっくり衣玖も、起きたと同時に萃香につかまり、酒を飲まされていた。

「なかなか良い感じのツーショットが撮れましたよ」

「だから、変なゴシップ記事にするのはやめてくださいよ?」

酔った妖夢が白楼剣を抜き、文を牽制する。

「この剣は人の迷いを断ちます…血迷ったことをするとあなたも斬りますよ?」

「いや、酒の席は無礼講ってことでひとつ良しなに」

血迷っているのはどっちだとツッコミたくなるのを抑え、文は営業スマイルで対応する。
天狗の文や、鬼である萃香は酒に滅法強いが、妖夢は半人半霊、すでに良い感じに出来上がっていた。

「さあ、お食べなさい!衣玖は、衣玖は妖夢さんと一つになりたいんです!」

妖夢が文とやり合っている間、酔っ払ったゆっくり衣玖は半霊に迫っていた。
半霊はたじたじである。

「お前も誤解を招く物言いはよさんか!未来永劫斬!」

妖夢はゆっくり衣玖にチョップを叩き込む。

「やっぱり、女は拳で語り合うって奴だねえ」

今日のメンバーの中では抜群のカリスマを漂わせている神奈子が、騒ぎを見てやってきた。

「いやいや、衣玖さんは一途だね。半霊も満更でもなさそうだし、お姉さんは応援しちゃうよ?」

守矢神社のもう一柱の神、諏訪子も便乗する。

「お二人とも、妖夢さんが可愛そうですよ?」

自身もゆっくり霊夢を飼っている早苗さんが、神二柱を叱る。

「おや、早苗は飲みが足りないねえ」

萃香が瓢箪を手にして、背後から早苗さんに迫る。
どたばたを繰り広げるゆっくり衣玖と半霊を中心として、宴会は盛り上がっていた。





じゃれる衣玖さんと半霊、その宴会の様子を、神社の外の茂みから伺う緑色の2つの目があった。

「ねたましいねたましいねたましいねたましい…」

下膨れの饅頭のような物体、ゆっくりであるが、金髪からのぞくとがった耳が珍しい。

「何かひっかかったわね…」

めんどくさそうに呟いたのは霊夢。
神社に張ってある結界が、何者かが来たことを告げていた。
開けっ放しの縁側から外の暗闇を見ると、こちらを見ている緑色の目がある。
霊夢に気づくと、境内にぴょんと飛び出してきた。

「ゆっくりねたんでいってね!」

飛び出してきたのは水橋パルスィの特徴を備えた外見、ゆっくりぱるすぃだろうと霊夢は思った。

「うちの神社は丑の刻参りは受け付けてないわよ」

実際に受け付けると、お賽銭いくら位になるだろうかと考えながら言った。

「しっと~、しっと~」

どうやら、ゆっくり衣玖と半霊がじゃれているのに嫉妬しているようだ。

「妖夢、出番よ、珍しいのがいるわ」

霊夢に呼ばれた妖夢は外を見る。
そこには珍種のゆっくりが。

「あれは水橋パルスィのゆっくりね、多分洞窟から迷い出てきたんじゃない?」

「迷い饅頭なら斬らねば」

なるほど、珍しいゆっくりだ、中身を検めよう。と酔った妖夢は白楼剣を抜く。
それを見たぱるすぃは憤怒の表情である。
こいつ、ゆっくり出来てないな…と、妖夢はちょっと哀れに思う。

「ゆっくりねたんでね!ゆっくりねたんでね!ゆっく…」

「修羅剣!現世妄執!」

「しっと!!」

妖夢が一歩踏み込んで剣を振るうと、ゆっくりぱるすぃの頭部は、すぱっと真横に切断される。

「お前の餡子は何色だ?」

白目を剥いて痙攣するぱるすぃの切り落とされた頭部からは、意外なことに真っ白な粉状のものが見える。

「元が元だから、危ないクスリとかかもしれないわね」

霊夢は以前戦った相手を思い出し、酷いことを言う。

「うががっ!」

妖夢はぱるすぃの頭に指を入れ、白い粉をちょっと手に付けて舐めてみる。

「あまっ!」

と、そのあまりの甘さにびっくりする。

「うぎぎっ!」

霊夢もぱるすぃの頭に指を突っ込む。

「どれどれ、うわっ、ぺっぺっ、この世のものとは思えないほどの甘さね」

霊夢も一口舐めてみるが、ほんの一口だったのに後悔するほどの甘さだ。

「流石の嫉妬パワーね、半端じゃないわ」

口を拭いながら霊夢が言う。
霊夢はぱるすぃの嫉妬パワーが、この甘みの原因だと推測しているようだ。

「皆さん、なんて事をするんですか!」

早苗さんが騒ぎを聞きつけて来てすぐ、頭部を切り取られて痙攣しているぱるすぃを見て叫ぶ。
ぱるすぃを抱えると、必死で声をかける。

「しっかり、気を確かに!私の奇跡であなたを助けます!」

慌てふためく早苗さんをよそに、諏訪子がぱるすぃの中身を指につけ、ぺろっと舐めてみる。

「おや、この甘味は…早苗の好きなアレじゃない?」

神奈子もぱるすぃの中身を指に付け、ちょっと匂いをかぐ。

「ああ、これはアレだな、早苗の大好きな奴だよ多分」

「え?」

我に返った早苗さんは、ぱるすぃの中身の白い粉を恐る恐る指につけると、そのまま口に入れて舐めてみる。

「これは!パルスィートじゃないですか!?」

泣きそうだった早苗さんの表情が、ぱあっと明るくなる。

「…パルスィートって、何ですか?」

質問する妖夢に、諏訪子が答える。

「パルスィートっていうのは、外界の人口甘味料だよ。
アスパルテームっていうアミノ酸の化合物が主成分で、砂糖の200倍甘いって言われてるね。
でも、砂糖のように肥満の原因にならない、要するに食べても太らない甘味なんだよ。
えーりんに分析してもらえばはっきりするけど、この子の中身はこのパルスィートじゃないかな?」

「ふむふむ?」

妖夢は思った。これは凄いものらしい。

諏訪子はこう見えて意外と博識である。
自身のいる世界の科学技術、産業、風俗なども、神の力できちんと把握していた。
以前から、新しいものを取り入れるのにやぶさかでない。

神奈子はこの手の人口甘味料が好きではなかった。
外界に居た時から自然食派で、実を言えば化学文明そのものに興味がなく、疎かった。
昔ながらの変わらぬ神だったのだ。
神奈子が幻想郷に惹かれたのは、その自然豊かなところにもあった。

だが、早苗さんは文明社会から隔離されることに不安を抱いていたし、何より幻想郷には愛用していた
パルスィートが無いのがショックだった。
甘いものは食べたいが、太りたくない。二律背反の乙女の悩みは海よりも深かったのだ。スィーツ(笑)

「海が割れる日です!これはモーゼの奇跡です!」

酔った勢いで早苗さんが叫んだ。

「神様が私に与えてくださった福音に違いありません!」

早苗さんは涙を流して感極まっている。

「いや、神様は関係ないし」

神奈子はげんなりしながらツッコんだ。
諏訪子はビクンビクンと痙攣しているぱるすぃを見ながら言う。

「まあ、この子を貰って帰って飼育すれば、早苗の憂いも一つ減るってもんだよ」

妖夢はぱるすぃの頭部に切り離した頭頂部を蓋のようにぱかっと乗せると、早苗に言う。

「早苗さん、じゃあその子は早苗さん専用の砂糖つぼ代わりにしてください」

「え、持って帰っていいんですか?妖夢さんありがとうございます!
餌は残飯とか餡子でいいのかな?
今度、パルスィートを使ったお菓子のレシピを教えますね」

早苗さんは大喜びだ。
妖夢も、食べても太らないという甘味に興味があった。何しろ半人半霊の身。
いくら食べても全く太らない亡霊の幽々子様と違って、乙女の悩みは人類共通である。(笑)

「うぎぎ、ねたましぃねたましぃ…」

ゆっくりぱるすぃは、何故だか自分の中身で大喜びする人間達が妬ましかった。
中身を減らされ、動かなくなった体と消え入りそうな意識で嫉妬した。





食べるものも少なくなり、そろそろ宴会もお開きの雰囲気になって来た頃、ようやく香霖堂店主が到着した。

「遅いぜこーりん!どこで道草食ってたんだよ?」

待ちくたびれた魔理沙が文句を言う。

「いや遅れてすまない。途中で道の草を食っているこいつらを見つけて、ついでに洗ってから持ってきたんだ」

手土産のつもりか、香霖堂店主が両手に持っているのはゆっくりみょんと、同じく銀髪のゆっくり。

「あら?この子眼鏡かけてるわよ?霖之助さんに良く似てるわね」

霊夢が銀髪のゆっくりを受け取る。これは希少種、ゆっくりこーりんだろう。

「うほっ、ゆっくりー!」

ゆっくりこーりんの鳴き声は、ちょっと妙だ。
妖夢は近くに居たので、なんとなくゆっくりみょんを受け取ると、机の上に置いた。
すると、

「ちちち、ちーんp」

「人神剣!俗諦常住!!」

ゆっくりみょんが全てを言い終わる前に、妖夢の剣がそれを真っ二つにしていた。
妖夢はゆっくりみょんを見た瞬間から、何か鳴き声をあげたら斬るつもりだった。危ない危ない。

「あらあら、妖夢はせっかちね」

幽々子様が笑いながら、ゆっくりみょんの中身を確認すると、嬉しそうに言った。

「今日のデザートは、レアチーズケーキね」

ゆっくりみょんの中身はクリームチーズだ。
真っ二つにされたそれは、かすかな甘いチーズ臭を漂わせる。
妖夢はなんとなく恥ずかしくなった。

「半分は釜で焼いて、ベイクドチーズケーキにしませんか?」

料理の得意な藍殿が提案する。

「賛成!あと半分はそれまで冷やしておきましょうよ」

橙が賛成する。

「霊夢、冷蔵庫使える?」

質問する紫様に、霊夢が返す。

「チルノフが寝てるから、よく冷えるわよ」

チルノフというのは、ゆっくりの亜種だ。殆ど寝ていて起きているのを見たことが無い。
その体は冷気を放出するので、霊夢は冷蔵庫の中に入れていた。
たまに冷蔵庫の貯蔵物を少し食べてしまうが、そうやって飼育すれば便利なものだ。
藍と橙は食後のデザート作りのため、ゆっくりみょんを持って台所に行った。

「僕はね、ゆっくりみょんの鳴き声が破廉恥なのは、ゆっくりみょんの精神年齢と関係があるんじゃないか
と思うんだ。
人間の子供もシモネタが好きだろう?
同様に、ゆっくりみょんも精神年齢が子供だから、あのような恥ずかしい鳴き声なんじゃないだろうか!?」

香霖堂店主が、誰も聞いていないのにまた得意のトンデモ空想理論をぶち上げ始めた。
それを聞いた妖夢は、思わず白楼剣に手をかける。
が、霊夢の御札の方が早かった。

「ちょっと、霖之助さんそれセクハラよ!」

ばしっと顔に御札を叩きつけられる香霖堂店主。
魔理沙もあきれたように言う。

「全く、こーりんはデリカシーってもんが無いぜ」

その時、萃香が待ちきれなくなったように言った。

「まあ、酒の席は無礼講だよ。ところで、そのゆっくりこーりんの中身はなんだろ?」

霊夢はゆっくりこーりんを机の上に置くと、妖夢に言った。

「妖夢、やっちゃって」

「よっ!」

妖夢の剣が、ゆっくりこーりんをすぱっと半分にする。

「うぽっ!」

そこに入っていたものは、ご飯にとろりと何かがかかっているように見える。
香霖堂店主が、中身をスプーンですくって一口食べて言った。

「ああん?あんかけチャーハン!?」

「やっぱり宴会のシメはご飯だぜ。それとデザートはチーズケーキ!こーりんGJ!」

魔理沙が言う。
その日の酒宴は、夜遅くまで続いた。















あとがき:

カレーまんとフカヒレまんネタはスレでも既出ですが、どうしてもやってみたかった。
あと、妖夢の半霊ネタも。
最初ぞわぞわするだけのはずが、何故か途中からラブラブですがw
最後なんか全然虐めっぽくなくてほのぼのしてますが、この衣玖さん後日幽々子様に食われます。
ええ間違いなく。
食い物ネタは他にも幾つかあるので、続くかも。

ディレクターズカット版で、Ex Stageという名の蛇足を追加。
全部ネタになってしまいましたw
ゆっくり衣玖の設定は、ゆっくりいくさんはフカヒレまんだと思う人 改め ゆいふ人さんリスペクト。
ゆっくりこーりんがガチムチっぽいのは、( ゚д゚ )の人の影響かもしれませぬw

でわでわ。





by 神父

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最終更新:2008年10月17日 20:10
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